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第三章 勝手にいい雰囲気になる人たち

「んーさすが卜部ね。いいセンスだわ」
「ねえ、こんなところで油を売ってていいのかしら。曲がりなりにも私たちはデートのお手伝いをしてるのよ?」
「構わないわよ。あれだけの人数が尾行したら却ってばれるわよ」
「そうかしら……」
 先ほど泪と唯斗が立ち寄った雑貨店に足を踏み入れるセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)。堂々としているセレンフィリティとは対照的にセレアナはきょろきょろと店内を見回し落ち着かない様子だ。
「いいじゃない。せっかく空京に来たんだから楽しまなくちゃ損だわ」
「でも……」
「……まったくもう!」
「きゃっ」
 セレンフィリティはセレアナの頬を両手で挟み、無理矢理顔を向かい合わせた。
「卜部ばかり見てないで……私のことを見てなさいよ」
「……いつも見てるわよ」
「ホント?」
「ええ」
 セレアナの言葉に顔を赤くするセレンフィリティ。いとおしそうに目を瞑ると、セレアナに唇を突き出した。
「やらないわよ」
「なによケチ」
 その願望が叶うことはなかったが。
「見てみて。このアクセサリー綺麗だわ」
「そうね。まるでセレンフィリティのように輝いているわ」
「もう、上手なんだから」
「買ってあげるわ」
「え?」
「買ってあげるわよ。二度も言わせないで」
「ふふ……ありがとう。愛してるわ」
「私もよ」
 セレアナはセレンフィリティからアクセサリーを摘み取ると、チェーンを外しセレンフィリティの首にかけた。
「やっぱり、似合ってるわ、セレンフィリティ」
 セレアナの笑みに再び赤面するセレンフィリティであった。


 ところ変わってオープンカフェ。
 仲睦まじいカップルが日差しの暖かい席に腰掛けて談笑していた。
「こんな幸せでいいのかしら」
「どうやら作戦から離脱しているのは俺たちだけじゃないらしい。それならデートを楽しんでも罰は当たらないだろう」
「はい……。健闘様とのデートは久々ですものね。今日はとても楽しみですわ」
「ああ、楽しませてやる。そうだ、頼むものは決まったか?」
「はい、決まりましたわ」
「よし。すみません、オーダーを頼む」
 右手を挙げて店員を呼び寄せたのは健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)。速やかに注文を済ませると、セレア・ファリンクス(せれあ・ふぁりんくす)の方へ向き直る。
「カフェの雰囲気はどうだ? 気になっていたんだろ?」
「ええ、とてもよろしいですわ。気取りすぎずカジュアルすぎず、常連さんが多いというのにも納得ですわ」
「そうか。気に入ったようだな」
「はい。これからも一緒に来ましょうね」
「もちろんだ」
 お待たせしました、との声と共に運ばれてきた品々。カプチーノと抹茶ケーキは勇刃の前に、カフェラテとティラミスはセレアの前に置かれた。
「うまそうだな」
「はい!」
 健闘様と一緒だからなおさらおいしそうです、とセレアは付け足した。
「いただきま……」
「ちょっと待ちなさい!」
「だ、誰ですの?!」
「あら、忘れたの? 私は御東 綺羅(みあずま・きら)! 勇刃様の婚約者よ!」
「忘れるわけありませんの……。そ、それと! 健闘様はあなたの婚約者ではありません! そもそもわたくしの運命の人ですのよ! あなたの入る隙間はどこにもありませんわ!」
「こほん。わたくしもおりますよ」
「あなたは……?」
ヴィシャス・ブラスフェミー(びしゃす・ぶらすふぇみー)。いわゆる綺羅様のパートナーですな」
 会話に割って入ってきてテーブルの脇に仁王立ちした綺羅とセレアはいがみ合い一触即発の様相を呈する。勇刃は取り成そうと立ち上がったのだが、
「健闘様、待ってくださいますかな」
 ヴィシャスに制せられてしまった。
「しばらく高みの見物といきませんか」
「いや、このままでは他の客に迷惑になる。止めないと」
「ほう。健闘様でも他人を思いやる気持ちを盛っているのですなぁ」
「……どういうことだ」
「まあまあ、そんな怖い顔をせず」
 勇刃の耳元に口を寄せるヴィシャス。勇刃を巡って諍いを行っているセレナと綺羅はそのことに気づいていない。
「……二股をかけているそうで」
「っ!」
「おや、噂は本当だったようですな」
「……どこまで知っている」
「どこまでと聞かれれば……、全部としか答えようがありませんな」
「くっ……」
 勇刃は眉をひそめた。この状況下で二股がセレナに露見しようものなら、暴走して何をしでかすか分かったものではない。
「ちなみに独り言ですが、うちの綺羅様も相当おめでたい性格をしてましてなぁ」
「何が目的だ」
「さあ。わたくしは少々人の不幸を喜ぶ単なるフェルブレイド。それ以上でもそれ以下でもありませんぞ」
 にやりと口角を上げるヴィシャスに勇刃は観念を覚えた。
 ところで、いよいよセレナと綺羅の言い争いはヒートアップしてくる。
「セレア・ファリンクス! たるんだ乳とパンツ丸出しの格好で勇刃様をたぶらかすお邪魔虫!」
「な、なんですって?! は、はんっ! それでも健闘様はわたくしを選んだのですわ! 己の魅力のなさを棚に上げてわたくしを愚弄するとはいい度胸ですこと!」
「み、魅力がないとは聞き捨てならないですわ……」
「それに引き換え健闘様は私の魅力にメロメロになってますのよ? ねえ健闘様」
「あ、ああ」
「くく……」
「笑うなよヴィシャス」
「きいぃぃー! 勇刃様! この乳だけ女と別れて私とお付き合いしてください!」
「え、それはちょっと」
「おーほほほ、わたくしの勝利ですわ!」
「また典型的な高笑いを……。それならば!」
 綺羅は勇刃を体で押し込むと、椅子を分け合うようにして座った。
「な、なああぁぁぁ!」
「これでどうかしら勇刃様?」
「お、おい、ちょっと……」
「それならわたくしの方が!」
 セレナのたわわな果実が勇刃の腕に押し当てられる。
「た、助けてくれ」
「おや。ひょっとしてわたくしへの要望ですかな」
「ヴィシャス以外に誰がいるんだよ」
「おっと、失敬。ですがわたくしは綺羅様の味方。綺羅様の望むがまま仰せのまま……」
「……面白がってやがるな」
「こんな下品な女より、私の方が上ですわ!」
「あら、それは先ほど健闘様からじきじきに否定されたのではなくて?」
「……うええぇぇぇ」
「き、きゃあ! 暴力を振るうんですの?! 泣きながら暴力を振るうんですの?!」
「誰か助けてくれ〜!」
「くくく……」
 オープンカフェでのオープン修羅場は大層人目を集めたそうな。


「なぁんだ。痴話喧嘩なんて起こってないじゃないか」
「噂を立ち聞いたのが30分ほど前でございます。すでに収束したのではないでしょうか」
「なるほどねぇ。あーあ。せっかく恋について勉強できると思ったのになぁ」
「いささか応用問題すぎると思うのですが……」
「実践が一番だって言ったのはクナイなんだけどねぇ」
「少々私の思惑とは異なるのでございますが……」
「何か言ったぁ?」
「いえ」
 勇刃らの喧々囂々なとんちき騒ぎが収まったカフェに清泉 北都(いずみ・ほくと)クナイ・アヤシ(くない・あやし)が訪れていた。
 泪の行く先を見送るや早々にアーケード街へと繰り出したのである。
「でも卜部先生もねんねちゃんみたいにぎこちないんだよねぇ。基礎を学ぼうにも初歩的すぎるというか……」
「……まあ、何事も順序があるものでございます」
「あと尾行なんて面倒な真似はしたくないしねぇ。『超感覚』を発動させておけばどうにかなるんじゃないかなぁ」
 北都は自らに生えた尾っぽを指先でなでる。超感覚使用時に発現するものだ。
 カフェは修羅場の直後だからだろうか、休日とは思えないほどに空席が目立っていた。
「ちょうどいい時間だし、お茶……していかない?」
「それもそうでございますね!」
 急に語気を強めたクナイに数度首肯しながら、2人はメニューの注文をした。
 目の前には行き交う人々、時折視線が明らかにこちらに向いていることがあるほど、落ち着かない場所ではあった。
 しかし、運ばれてきたケーキに視線が釘付けとなっていた彼らにとっては些細なことなのかもしれない。
「わぁ。おいしそうだねぇ」
「はい。さすがに空京一のアーケード街でございますね。並み居るライバル店を押しのけてはじめて出店できるのでしょう。味も最上級でございましょう」
「さっそく、いただきまぁす」
「いただきます」
 北都はガトーショコラにフォークを突き立てひと掬い分を口へ運ぶ。
「おいしい。今まで食べた中で一番おいしい」
「それはようございました。では私も……」
「…………」
 クナイの持つフォークをちらちらと見る北都。その尻尾は激しく左右に振られている。クナイが頼んだのはイチゴのショートケーキ。この店一番の人気メニューだ。
(食べたいのでございますね)
 しょうがない、といった風を見せながら、クナイはフォークを北都の口元へと向ける。
「私が頼んだケーキも良かったら食べますか?」
「よくわかったねぇ」
「ええ、まあ。では、口を開けてください。あーん……」
「あーん……。うん、思ったとおりおいしいなぁ。クナイ、ありがとう」
「どういたしまして」
 途端に顔を赤くしてうつむいた北都。
「自然にやっちゃたけどよく考えたら人前じゃん!」
「たまにはよろしいではございませんか」
「……たまに、なら」
 ここでもまた、ひとつの愛のストーリーが刻まれていくのであった……のだが、不穏な気配に北都の耳が反応した。
「先生の後をつけているやつがいるねぇ」
 緊迫した表情で取り急ぎ警護班に連絡を行う。
「聞こえるかなぁ。人数は2人。片方はゆる族みたいだねぇ」
 その北都の様子を下唇をかみながらクナイがにらむ。北都との貴重なデートを妨害され実に憎憎しいのだろう。
「じゃあよろしくねぇ」
「私たちも行きましょう」
 しかしクナイの言葉を北都は遮る。
「ううん、僕らはこのままお茶を楽しもう」
「北都様……」
「ほらほら、クナイ。僕はもっとショートケーキを食べたいんだけど。あーん」
「……あーん」
 どうやら泪のデートの行く末がどうなろうともあまり関係がないようだった。


 数多のショップが立ち並ぶアーケード街での定番と言えばウィンドウショッピングである。金はない、だが時間と妄想力はある! というカップル、殊に女性には打ってつけだ。
「私に似合いそうな服はあったか?」
 ところが、とあるショーウィンドウの前に立っている斎藤 邦彦(さいとう・くにひこ)は、若干くたびれたスーツに身を包んでおり、場違いの感は否めなかった。
 それもそのはず。
 ファッションに無頓着な彼に服を見繕うためにパートナーのネル・マイヤーズ(ねる・まいやーず)がわざわざ邦彦を連れ出したのだった。
「大体スーツさえありゃ他の服は家着位で充分だと思うんだが……スーツの汎用性の高さは異常。万能洋服だぞ」
「でも邦彦にはもっと似合う服があるはずよ」
「根拠は」
「……ないわ」
「……曲りなりにも俺のために悩んでくれているんだ。最後まで付き合うさ」
「せっかくだから格好いい服を見つけたいな」
「ところで、卜部先生の話を聞いたか?」
「ええ、もちろん。あれだけ綺麗なひとなんだから、浮いた話がなかった方が不思議だね」
「どうやらデートの妨害を企てている輩が後をつけているらしいぞ。しかも光学迷彩を使っているのか姿が見えないようだ」
「それはけしからない……って詳しいんだね。へぇ……。邦彦も恋とか興味あったんだね」
「恋か……。そういうつもりではないが」
「そう」
 特に好奇心を働かせるわけでもなくネルは答えた。邦彦は鞄をごそごそと漁っている。
「何をしてるの?」
「ああ、最近これを手に入れたんだ」
「アクリトもビックリの超激辛パン? いかにも辛そうね」
「赤いしな。どれほどのもんか私も知らんが、こいつを試食とでも偽ってお見舞いしてやろう。ダメもとだが、食い意地の張っているやつならあるいは……」
「いいわね。私はとにかく買い物の続きをしたいわ」
 数分後。
 目の前を泪が通った。警護班からの情報通りなら例の尾行者はすぐ近くにいるはずだ。
「いたっ」
「大丈夫ですか泪ちゃん」
「え、ええ……。誰かに押されたような……」
「そうな……あ! すみません! 変なところ触ってしまって!」
「あ、いえ、お気遣い無く、というか、何か……すみません……」
「い、いえ! 泪ちゃんが誤る必要なんてありません!」
「やつらの接触があったのか?」
 邦彦は頭を掻いた。
「おいしいカレーパンはいかがですか! ただ今試食を行っております! ぜひお立ち寄りください!」
 ネルが声を張り上げる。客寄せには男より女の方がずっと効果がある。
「おいしいカレー……。あなたは?」
「プーちゃんなんだよ」
「あっ、バカ……!」
「プーちゃん?」
「プーちゃんを知らないなんて時代遅れなんだよ!」
 突然姿を現したプーチンと杏に驚きつつも、
「じゃあ、はい、これ。食べてよ」
 ネルは激辛パンをプーチンに手渡した。
「わーい! いただきますなんだよ、あむ……おいしい! でもこれカレーパンじゃぎゃああああああああああ!」
「時間差タイプだったんだね。はい、牛乳。少しは痛みも和らぐでしょ」
「からひからひからひ……」
「まったくプーチンは……」
 杏がやれやれと額に手を当てる。
 子供向け番組きってのTVスターに、後日バラエティ番組のオファーが届いたのはまた別の話である。