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【チュートリアル】モンスターに襲われている村を救え! 前編・2

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【チュートリアル】モンスターに襲われている村を救え! 前編・2

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第一章

 冷えた空気に吐息を落とし――
 神薙 潤(かんなぎ・じゅん)は抜き放ったカルスノゥトと共にゴブリンの懐へと潜り込んだ。
 振り下ろされたゴブリンの剣を弾く。
 頭上に固い音が爆ぜ、ゴブリンの正面が開く。
 潤は刃を返すと同時に、もう一歩、踏み込んでゴブリンに切っ先を滑らせた。
「先は長ぇな」
 呟く。
 その声はすぐに音に呑み込まれた。
 周囲を支配していた怪物たちの唸り声や銃声や金属の叩き合う音へと。
 森に囲まれた長閑な村の一部は、多くの怪物たちと仲間たちが戦う剣呑な戦場となっていた。


■□■

 ヴァイシャリー、イコンドック。
 パイロットたちや整備班が硬質な床部を忙しく駆けていた。
 頭上やすぐ背後を巨大なイコンの武装が運ばれていく。
「アルマ! テスト値は!?」
 柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)はイコン・エイヴの動力部から顔を抜き出し、周囲の喧騒に負けぬように声を張り上げた。
「数値は全て正常範囲です。問題ありません」
 パートナーであるアルマ・ライラック(あるま・らいらっく)の声が返る。
 桂輔は工具を腰元に戻してから身を離した。
 装甲を閉じ、ロックを掛ける。
「指差し確認を」
 と、アルマから聞こえ、桂輔は「分かってる」と言うように片手を振ってみせてから、ピッ、ピッと必要箇所に指先を走らせる。
 その間、アルマは冷静に調整したデータを再確認し、整備教官に送っているようだった。
 アルマは、まだイコン整備に未熟な桂輔をサポートするために、必要以上に確認作業を行なってくれていた。
 加えて、彼女が比較的効率良く作業タスクを管理してくれるから動きやすい。
 それに甘えるというわけではないが、桂輔は彼女と二人三脚でエイヴの出撃準備に当たっていた。
「天学整備科の名にかけて、万が一なんか出す訳にはいかないからな」
 アルマの方を見やってから、下げていたインカムマイクを口元へと上げる。
「メイン動力を起動させていいぜ?」
『了解』
 既にコックピットで待機していた大島 彬(おおしま・あきら)の声がスピーカーより返り、エイヴが起動する。
「コックピット周りに問題は?」
『異常は無い』
「よし、後は……」
『俺の腕次第ってところかな』
「あんたのそれが十分に発揮できる様には仕上げたつもりだ」
『信用するよ、桂輔』
「少しくらいなら壊したっていいぜ? 俺とアルマで直してやるから」
 陽気な調子で笑み、桂輔はコンっと拳で装甲を軽く叩いた。
 アルマから声が飛ぶ。
「桂輔、エイヴに出撃許可が出ました」
「よし、気張って行ってこい!」
 カタパルトへ運ばれていくエイヴを見送りながら、ビッと親指を立ててやる。
『了解!』
 エイブの片腕が上がり、その親指が立てられるのが見えた。


■□■

「――神よ」
 とロレンツォ・バルトーリ(ろれんつぉ・ばるとーり)は、村の上空に空飛ぶ箒を旋回させながら呟いた。
 下方には、木々と家々の屋根。
 小さな村ながら、建物の間には木々が茂り、死角は多い。
 また、村を囲う深い森や東側にあるちょっとした崖がそれを手伝っている。
 彼は上空から把握出来るモンスターの動きを仲間たちに伝えつつ、そういった死角を利用されぬよう警戒に当たっていた。
 と――木々の間を縫うように仲間たちの背後へ回りこもうとしているホブゴブリンの一団を見つけ、ロレンツォは口元を強めた。
 携帯電話でパートナーのアリアンナ・コッソット(ありあんな・こっそっと)へ連絡を取る。

「了解、すぐに向かうわ」
 ロレンツォからの連絡を受け、アリアンナはスパイクバイクを駆った。
 戦闘で巻き起こっていた土埃の匂いの中を突っ切ってモンスターたちが回り込んで来ている方へと向かう。
「……出来るなら、威嚇で済んでくれれば良いのだけれど」
 かつて信仰していた地球の神を捨て切れないロレンツォ。
 彼が今、何を想い、この空を飛んでいるのかを知っているから、なるべくモンスターを倒さずに済ませたい。
 車体を思い切り取り回し、牧歌的な村の風景から森の方へと馳せた。

 村の東側。
 神薙 潤(かんなぎ・じゅん)真成寺 花子(しんじょうじ・はなこ)は村へ入り込もうとするゴブリンたちの対処に追われていた。
「次から次へと、数が多過ぎますわね!」
 花子は吐き捨てながら、タンッと地を蹴って軽やかにゴブリンをエペで貫いた。
「確かにな」
 潤がゴブリンの槍をカルスノゥトで受け、もう一方から突き出された剣先を、体勢低くかわしながら、身を翻し、ツインスラッシュで二体を斬り捨てる。
 その向こうで、ゴブリンにアルティマ・トゥーレを叩き込んだ高円寺 海(こうえんじ・かい)が、片目を細めながら零した。
「ここが一番人数が少ないって事に気づかれたか……?」
 モンスターが攻めてきたのは北東部からだった。
 村には北から南へと抜ける少し大きめの通りがあり、北側には民家が多い。
 モンスターの数も多かったため、フェンリル・ランドール(ふぇんりる・らんどーる)を始めとした多くの生徒がそこの守りに当たっている。
 そして、敵の侵攻元である北東部にも金元 ななな(かねもと・ななな)などの生徒が村の防衛に向かっている。
 ここ、村の東側の守りを疎かにしたというわけではないが、どうしても人員は限られてしまうものだった。
 潤が言う。
「まあ、とどのつまりが、ここを守り切れば何とかなるってわけだ。分かりやすくて結構じゃねぇか」
「しばらくは我慢の子ですわね」
 潤と背中合わせで互いの死角をカヴァーしながら、花子は軽く笑み捨てた。
 片手の手の甲で頬を拭う。
 ヌルリとした感触は、ゴブリンの返り血だか自身の血だかは良く分からない。
「キツかったら下がってろよ? お前、ちっこいんだから」
 潤の言葉に、花子は軽く目尻を釣り上げた。
「あなたが多き過ぎるのですわ!」
 言ってから、ふいに花子は口を噤んだ。
 ゴブリンたちの中に、一際身体の大きなオークが姿を表したからだ。
「骨のありそうなヤツが出てきやがった」
「わたくしたちでやるしかありませんわね」
 そして、二人はオークへと駆けた。

 と――。
「それじゃ、モルル。邪魔をされないように援護をお願いね?」
 ゆったりとした動作ながら確実に魔法を組み上げていく秋沢 向日葵(あきさわ・ひまわり)の言った先で――
「はいはーい、ちゃんとお手伝いするよ~!」
 モルル・エルスティ(もるる・えるすてぃ)がひょろろっと空中を踊るように舞って、タンバリンを打ち鳴らした。
 モンスターたちの意識と凶悪な目付きが自分に集まる。
「モルルのオンステージだよ! モンスターちゃん達! モルルの歌を聴いてー♪ こわーいこわーい歌をね!」
 モルルの歌がモンスターたちに恐れの感情を呼び起こしていく。
「いい感じですね」
「やりやすいね」
 向日葵とアゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)が、動きの鈍った巨大なオークへと氷術を放つ。
 二つの氷術によって足元を凍らされたオークを――
 ほぼ同時に踏み込んだ潤のカルスノゥトと花子のエペが、一閃し、その巨体を斬り伏せた。
「タイミングばっちりだな」
「ナイスフォローですわ」
 地を鳴らして身を沈めたオークを後ろに、潤と花子が向日葵たちの方を見やって笑む。
 アゾートは無表情のまま、ひららっと二人の方に軽く手を振っていた。
「お見事ね、二人とも。それにモルルとアゾートも。
 さあ、この調子でしっかりとここを守りきりましょう?」
 向日葵は自身の魔術の威力を確かめられたことにも満足しながら、柔らかに微笑んだ。
 と、その側方に伸びていた小高い崖の上から数匹のホブゴブリンたちが飛び降りてくる。
「回りこまれましたのッ!?」
 すぐにフォローに向かおうと身を返した花子をゴブリンの棍棒が襲った。
 それを潤がカルスノゥトで弾き返し、叫ぶ。
「間に合わねぇ! 逃げろ!!」
「――大丈夫、こっちは私が押さえるわ」
 と、家々の間から飛び出して来たのはアリアンナのスパイクバイクだった。
 向日葵を襲おうとしたホブゴブリンたちの進行を遮るようにバイクを走らせ、彼女の光条兵器が、その力を誇示するが如くホブゴブリンの鼻先に光の軌跡を描く。
 ホブゴブリンたちが慄いて、たたらを踏む。
 しかし、躊躇いを生じさせられたのは、その一瞬で、相手がそのまま引いてくれる気配は無かった。
 地面にタイヤを滑らせながらバイクの先を巡らせたアリアンナがそれを確認するように視線を強める。
 その次の瞬間、先頭のホブゴブリンを上空から叩き込まれた雷術が襲った。
 反射的に見上げた上空にはロレンツォが居た。
「神はお許し下さる……神はお許し下さる……」
 彼は罪悪感を噛み殺すように、呻きながら火術を構成し――
「このように、私のように、罪深いものでも!」
 振った手の先より火球を産み放った。
「ロレンツォ……あなたは覚悟を決めたのね」
 アリアンナが呟き、上空からの奇襲に慌てるホブゴブリンへと視線を強め、今度は、“敵を倒すために”バイクを唸らせた。
 光条兵器を手にホブゴブリンたちの方へ向かっていく。
 アリアンナが光輝く剣で翻弄し、モルルの歌が踊り、向日葵とロレンツォの魔法がホブゴブリンを襲う。
 そうしている内に、ゴブリンたちを片付けた潤と花子が加わり――
 彼らは北東部の守りを無事にやり通したのだった。




 森の上空。

「大丈夫か!?」
 大島 彬(おおしま・あきら)エイヴはビームアサルトライフルを撃ち放ち、山葉 聡(やまは・さとし)のイコンを狙っていた鏖殺寺院のイコン・シュメッターリングを牽制した。
『――わりぃ、助かった』
 たははは、と聡が返してくる。
 そして、聡の機は、エイヴの援護射撃を受けながら数機のシュメッターリングの包囲網から脱した。
「油断したらマズイんじゃなかったのか?」
 彬の問いに、聡が十分な間を持ってから。
『せっかくだから、格好つけようと思って』
 と言う。
 彬は軽い頭痛を覚えつつ、小さく息を付き、気を取り直すようにモニターを強く見やった。
「俺も前線に出るよ。
 後ろで援護なんて性に合わないんだ」
『彬……だって、お前はまだイコンで戦うの初めてだろうし――』
「関係ない。それに、迷ってる時間だって無いぜ」
 聡の機を追って、こちらへ向かってくる二機のシュメッターリングの姿。
『ッ、あー、えっと、好きにしろ! だけど、マジで無理は勘弁だからな!』
「分かってる!」
 仲間の援護射撃に合わせて、聡の機と共に彬はエイヴを馳せた。
 二機のシュメッターリングの内の一機は聡が押さえ、空中に激しい光と音を巻き散らしながら近接戦を繰り広げ始める。
 彬のエイヴもアサルトライフルの先に付いた刃でシュメッターリングと斬り結んだ。
 鈍く重い金属音を爆ぜながら火花が散らされる。
「この!」
 訓練通り、とはいかないまでも、それなりの機体捌きだったように思える。
 二撃、三撃、斬り結ぶ内に相手をわずかに押し返すようになっていた。
 敵の後衛機からの射撃をまともに受けないよう、相手の機体を盾に上手く取り回そうという所にも気が回ってくる。
 そして――
 ズンッ、とエイヴの切っ先は相手の装甲を貫いた。
 そのまま、シュメッターリングが地上へとフラフラ不時着していく。
「……やったか?」
『上出来だろ?』
 見れば、聡の方もシュメッターリングを仕留めた後だった。
 彼の機体が親指を立てていたので、彬は小さく笑ってから、エイヴの親指を立てみせた。

 そうして、彼らは鏖殺寺院のイコン部隊を迎撃することに成功したのだった。