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けれど愛しき日々よ

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けれど愛しき日々よ

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第12章


「いやぁ、これはヒドいな! ははは!!」
 カメリアは、パーティ会場を歩きながらあちこちの様子を見て回った。
 最後に846プロのステージを見たあと、山のてっぺんにある建物の前にやって来る。


「――まったく、儂はただの地祇じゃというのに、またこんなもの、作りおって……」


 そこには、有志が作ったカメリアの新しい神社がある。今回は簡素ではあるが、神社に加えてカメリアが居住する住居まで建ててしまった。
 口調とは裏腹に、カメリアは神社を眺めて目を細めた。
 少ない日数で立てたものだから神社というには小さいが、いつかの祠よりはだいぶ大きくて、誰が見てもしっかりとした神社だ。


「あ――カメリアさんですね」
 後ろからカメリアに話しかけたのは、董 蓮華。
「うむ……お主は?」
 軽く会釈をして、報告書を示す蓮華。
「はい……教導団の董 蓮華です。
 勝手なこととは思いましたが、この山の瘴気について調べまして、応急処置をとらせてもらいました。これがこの報告書――はい」
 カメリアは、それを受けとってパラパラとめくるが、いまひとつ理解していない顔で、蓮華に尋ねた。
「……どうも難しいことは分からん。結局、どういうことじゃ?」
「ふふ……要点だけ説明すると、瘴気の元である宮殿の残骸は山の麓に埋めました。
 予定では、カメリアさんがいなくとも自然に瘴気を封じ込められるようにしたはずだけど……さきほどの羽根つきでほとんど浄化されてしまったようね。
 おそらく、今後はカメリアさんがいなくてもこの山が瘴気の影響を受けることはないはずよ」
 その説明に、カメリアは驚いた顔を見せた。
「ほう……そんな方法が。すまぬのぅ、儂のためにそのようなことまで……今度改めて礼はするからな」
 しかし、蓮華は微笑んで首を横に振った。

「いいえ……私は特別なことは何も。……しいて言えば……彼らの熱意を見て、私も何かしたかっただけだから」

 蓮華が、神社の後ろにいた七刀 切と小鳥遊 美羽を指し示した。

「切にぃ……それに美羽まで……」

 カメリアはその様子を見て驚いた。
 何しろ、教導団の機材を借りたとはいえ、ほとんど彼らとその従者の働きで神社を建ててしまったのだ。さすがにへとへとになっている彼らを見て、カメリアは駆け寄っていく。

「まったく……馬鹿者どもが……こんなになるまで……」

 切は、そんなカメリアの顔を見てひと言だけ、言った。
 本当は心配だった。無事に帰ってきて本当に良かったと。それでも、ただひと言だけ。


「――おかえり」


 と。


                    ☆


 その後は、カメリアを交えて新しい神社の前で改めて宴が開かれた。
 催したのは博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)である。

「おかえりなさい、カメリアさん」
 と、博季は温かい紅茶とロールキャベツでカメリアを迎えてくれた。
「うむ。ありがとう、博季にぃ」
 カメリアはその紅茶に口をつけ、満足げな笑みを浮かべる。
「――また上達したのぅ。儂もこの数ヶ月であちこち回ったが、やはり博季にぃほどの紅茶を淹れてくれる店はなくてのぅ」
 博季は、カメリアの言葉に相好を崩す。
「――そう言ってもらえると嬉しいな。ねぇ、聞かせてよ、ここ数ヶ月の話」
 博季は、カメリアの旅の話を聞きたがった。

「うむ? まぁ、儂の話などつまらぬものよ――それより、このロールキャベツも旨いのぅ」
 はぐらかすように、カメリアは博季の作ってきたロールキャベツを頬張る。
「そう? それ、中のお肉に少しお米を混ぜてあるんだ……そうすると、ふっくらとして美味しくなるんだよ」

「ほうほう、そうなのか」
 夢中でロールキャベツを食べるカメリアに、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)はくすっと笑った。
「よければこちらもどうぞ……胡麻豆乳鍋です。もう煮えてますよ」
 ベアトリーチェが持ってきた鍋を見て、カメリアはまた笑った。
「ほぅほぅ、これはまた旨そうじゃ」
 さっそくとばかりに箸をつけるカメリア。しかし熱すぎたのか喉を焼いてしまい、目を丸くする。

「もふ、あ、あふあふいっ!! けへっ!!」

 それを見たコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)は、急いで水を差し出した。
「ほら、慌てなくても鍋は逃げないよ、はい」
「おお、すまぬのコハク……ぷは。
 それでどうじゃ、みな変わりないか」
 その言葉に、コハクは笑顔で返した。


「いや、ここ数ヶ月いろいろとあったよ。みんなで話そうよ――今までのこと。
 僕のことも、みんなのことも――カメリアのことも、聞かせて欲しいな」


「ふむ――そうじゃな。博季にぃのリクエストもあったことじゃし……しかし、その前にいくつか聞きたいこともあるのじゃがな」
 と、カメリアの視線の先には博季の左手の薬指がある。
「ああ、これ? ――うんそう、僕、結婚したんだ。紅茶も料理も、前よりもっと上達したのはそのおかげだよ」
 カメリアはにへっと笑って、博季の手を取る。

「やはりそうか、おめでとうじゃな、博季にぃ。それでどうじゃ、コハクは美羽とどこまで行ったんじゃ? お主の指には結婚指輪ははまらぬのか? ん?」
 完全にからかうようなカメリアの言葉に、コハクは真っ赤になって否定した。
「いいいいやややそんなまだそういうわけじゃその」
「ほう。まだということは、つもりはあるんじゃな、いつじゃほれ、早く結婚せい」


 相変わらずのやりとりに、カメリアは心の底から笑った。
 その後、皆はカメリアがいなかった数ヶ月の間のことをたくさん話し合った。
 カメリアも、ここ数ヶ月の旅の話をした。
 荒野を一人でさ迷ったこと。
 街を巡って知り合いを尋ねて回ったこと。
 資金を捻出するためにアルバイトをしたり、自らの椿油で小銭を稼いだりしたこと。
 空京万博を見に行ったこと。
 それから、それから――。


「なぁ――博季にぃ、いいもんじゃな。料理というものは――いや、料理に限らぬことかもしれぬが」
 長い話の中、カメリアは不意にそんなことを口にした。
「……そうですね。自分で食べるだけなら、ある意味食べられればいい……でも、誰かに作るというのは……違うんですよね」
「そうじゃな……」
 カメリアは、ふと新しい自分の神社を見上げた。

 このパーティで作られている料理も、この神社と同じだ。
 誰かが、誰かのためを思って少しだけ頑張った証。
 だから、今夜この山で作られた料理はどれも暖かく、素晴らしい味がした。

「ああ……まったく……こんな風に形に残るように作りおって……神社などあったところで、儂は神ではないというのにな」
 黙って見上げると、次第に視界が歪んでくる。
 あんまりキレイなものだから、眩しくて視られない、とカメリアは呟いた。

 そして。

「おい……ワンパターンじゃぞ、そろそろ出てきたらどうじゃ」
 神社の陰にいたアキラ・セイルーンにカメリアは話しかけた。
 とはいえ、別に隠れていたわけでもないアキラだが、カメリアも皆と積もる話もあるだろうと、その様子をこっそり見守っていたのだ。

「よぉ、元気か?」
 カメリアが聞くまでもなく、神社建設の発案者は誰か分かっていた。一年ほど前に、カメリアの神社をこっそり建ててしまった男。数ヶ月前には魔族の襲撃からカメリアの椿の古木を護った男。
 そして、今回も賛同者があったこととはいえ、より立派な神社を建ててしまった。
 それだけのことをした割には、そっけない挨拶だった。

「あぁ、お主もな」
 カメリアも、あえてそっけない返事を返した。
「――ああ」
 アキラは、へっと口の端で笑う。そのまま続けた。
「まぁ、こっちはこっちでパーティを楽しんでるよ。何しろ、ハロウィンからクリスマス、正月まで一気にやっちまおうってんだ。
 ――あ、そうそう……ついでにバレンタインもやっちまおうぜ。ほれ、三倍返しな」

 アキラは懐から板チョコを取り出して、肩越しにカメリアに示した。

「まったく……お主という奴は……」
 カメリアはそっとアキラに近づいて、その板チョコを受け取る。
「……え……」
 そのままカメリアは、アキラの手を握ったまま、その手を撫でた。
「まったく……こんなになるまで……」
 アキラの手は、神社を建てるために傷つき、荒れていた。必死に土木作業に精を出したのだと、イヤでも分かる。


「……ありがと、な」
 カメリアは、そのままアキラの手の甲にそっと口付けをした。
「……カメリア……」
 アキラの手にあった傷、荒れた手が少しずつ癒えていく。自分の生命力を分け与えることで傷を治癒する能力を、数ヵ月の旅の途中でカメリアは身につけたのであろう。


「おーい、カメリアー」
 遠くから切の呼び声がする。カメリアは、アキラの顔も見ずに走って行ってしまう。
「おお切にぃ、ちょうどいい!! ついでにバレンタインもやってしまおう!! ほれ、他の街で仕入れてきたチョコレートじゃ!!
 なんか限定品らしいぞ!!」
 切の他にもカメリアはパーティで世話になった人々にチョコを配っていく。
 その様子に、アキラは苦笑いをした。
「おいおい、俺にはないのかよ」


「や、やかましい……お主には、さっきので3倍分じゃ」


 つっぱねたカメリアの表情は読み取れない。


 ただ、耳まで真っ赤だったけれど。


                    ☆


「そうか……じゃあ、これからまたここで暮らすんだな」
 ヴァル・ゴライオンはカメリアと共にパーティの後片付けをしながら、笑いかけた。
「うむ……結局、ここが儂の家じゃからな」
 その様子に、ウィンターも笑う。
「それならここも、もう大丈夫でスノー!! それじゃ私はそろそろおいとまするのスノー!!」
 それを、キリカ・キリルクが優しくたしなめた。
「はい、ダメですよウィンターちゃん。来た時よりも美しく、ですからね」

「ど、どうしてみんな私を教育しようとするでスノー!!」

 ウィンターの叫びに、カメリアはまた笑った。


「ところで、この料理どうしよう……」
 ツンデレーションの収録後、未散は大量に余ってしまった料理を前に呆然としていた。
 そこに、カメリアがひと言呟いた。
「……アイドルの手料理を食べさせる、という名目でファンに一口ずつ『あーん』して食べさせたらどうじゃ。一口1000円くらいで」
 さりげなくヒドい提案をするカメリアに、衿栖は激しく噴き出した。
「そ、それはヒドいですね……でも売れるかも……。カメリアさんも、なかなかやりますね……」
 しれっと、カメリアは言った。
「……お金を稼ぐって、こういうことじゃから……」


 神社の裏手には、小さな祠がひとつあることに、カメリアは気付いていた。
「……もし、また復活できたら……一緒にお酒も飲もうね」
 その祠の前でしゃがみこんで、朱里がお供えをしている。
 数ヶ月前にこの山を襲った魔族の王、Dトゥルーの墓だ。
「……墓も、残しておいてくれたのじゃな……」
 そこに、やっと作業から解放されたバルログ リッパーと機晶姫 ウドがやってきた。
「……どこまでも酔狂だな、殺しあった相手の墓までわざわざ建てるとは」
 後ろも振り返らずに、朱里は呟く。
「うん、まあ……いいでしょ。自己満足みたいなものよ」
「ああ、別に悪くはない。それも、嫌いではないからな。だが、Dトゥルー様が復活するとしても、まだ数百年はかかるだろう」
 リッパーの言葉に、朱里は応えた。
「うん、それでもいいよ。どうせここにいるみんなは長生きなんだしね」
 朱里の台詞に、カメリアは笑った。
「はは――そうじゃな。ほんの数百年、じゃ。あやつがここに来たら、どんな顔をするか見ものじゃのぅ」


                    ☆


 こうしてパーティは終わった。朝陽と共に会場の片付けは終わり、みんな帰って行った。
 カメリアは新しい住処に一人残って、今日のことを思い出していた。

 みんなが料理を作っていた。
 みんながおかえりと言ってくれた。
 みんな笑顔だった。

 パーティはめちゃくちゃだった。
 みんなコスプレして、クリスマスケーキを食べて、羽根つきをして、お正月の遊びをした。
 ついでにバレンタインもした。ウィンターもスプリングも友達にチョコをあげたりしたのだろうか。

「だいたい……ハロウィンからバレンタインを一気にやろうとか……無茶すぎるじゃろ……」

 カメリアはおかしくて、一人で笑った。
 旅をしている間は一人だった。街にいる間は知り合いを訪ねたけれど、その間は基本的に一人だった。
 誰にも言わなかったけれど、一人でいる時はずっと心細くて、夜はいつも一人で泣いていた。

 けれど、もう泣かなくていい。明日になればまた誰か遊びに来てくれるかもしれない。
 誰も来なかったら、会いにいけばいい。

 ほんの一年前には、考えられなかった幸せが、ここにあった。
 いつも賑やかで騒がしくて、時にはうるさい時もあるかもしれない。

 けれど、それが日常。
 それが、彼女の選んだ、笑顔の日々。

 めちゃくちゃで、騒がしくて、一人になんかなれない。
 けれど。
 けれど。
 けれど。


 けれど、愛しきこの日々よ。


『けれど愛しき日々よ』<END>


担当マスターより

▼担当マスター

まるよし

▼マスターコメント

 みなさんこんばんは、まるよしです。
 現在、マスター業務を休止中ですが、ギリギリ可能な時間を狙ってイベントシナリオを公開してみました。

 休止中にも関わらず、多数のご参加ありがとうございます。

 とはいえ、やはりブランクが長かったためか、執筆は難航し、イベントシナリオにしては長すぎる文章量になってしまいました。
 皆様には読みにくい部分もあるかと思います、大変申し訳ありません。

 今回も暖かく面白いアクションをありがとうございます。
 個性豊かなメンバーが揃っていて、纏めるのに苦労しましたが、気に入ってくだされば幸いです。

 それでは、また忘れた頃に戻って来たいと思います。

 ご参加いただいた皆様、読んでいただいた皆様、本当にありがとうございました。