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楽しい休日の奇妙な一時

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楽しい休日の奇妙な一時

リアクション

 ちょっとしたノイズの後に、ショッピングモールオリジナルの音楽が流れる。

『これより、相撲大会の控室を開放いたします。大会に出場の選手は……』

 相撲大会出場者用のアナウンスを聞いたキルラス・ケイ(きるらす・けい)は、食べおわったハンバーガーの紙をゴミ箱へ捨てると、面白そうな表情を浮かべた。

「へぇ、相撲なんて言葉、久しぶりに聞いたなぁ。もう少し食べ歩こうかと思ったけど、見学してみるのも面白そうだねぇ」

 独り言に合わせて、腰から伸びた猫の尻尾が揺れる。
 美味しそうな匂いが見つからないかと超感覚を発動しているのだ。
 だがそれは、別のものを捉えた。

「ん、なんか向こうの方からすっげー足音が聞こえて……っ!」

 綺麗に清掃されているはずなのに、遠くから砂煙をあげて向かってくる大群。

「大量に猫が来たうわあああ!」

 たちまちの内に猫に囲まれて、もみくちゃにされてしまった。

「おおっ、これは何事でありますかっ!?」

 相撲大会の控室へ向かっていた大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)大洞 藤右衛門(おおほら・とうえもん)が、突然現れてもこもこ状態となった猫たちに驚く。
 もこもこの中心には人影が見えており、猫は(単体で見れば)じゃれている感じだ。

「随分と人懐っこい猫たちじゃのう」

 あははと笑う藤右衛門に対し、剛太郎はうろたえている。

「た、助けなくていいのでありますか?」

 もこもこに手を出そうとしては躊躇して引っ込めるを繰り返す剛太郎に、藤右衛門は気にするでない、と言った。

「ほら見てみぃ、中の人の幸せそうな顔を。意外と楽しんでおるようじゃぞ」

 剛太郎が冷静に観察すると、藤右衛門の言うとおりキルラスは至福の表情を浮かべている。
 しばらくすると、猫たちはまた砂煙をあげてどこかへ行ってしまった。

「なんだったのでありましょうか?」
「さあのぅ、それより相撲大会に行かんと間に合わんぞ」

 はっとした剛太郎が時計で時間を確認する。
 着替える手間も考えると、ぎりぎりの時間だった。
 そこに再び館内アナウンスが流れてくる。

『予定されていた相撲大会ですが、猫ちゃんたちのキュートな妨害により、延期となりました。出場を予定されていた選手は……』
「なにっ……わしの酒があああ」

 ◇


 平然とした様子で箪笥を担いでいるドロ試験体 一号(どろしけんたい・いちごう)の後ろで、アキラ・アキラ(あきら・あきら)は顔を青くしていた。
 アキラの目の前には、国民的長寿アニメにそのまま出てきそうな恰好の泥棒、の幽霊が立っているのである。
 アキラが動くと、泥棒の視線も動く。
 狙いは軍服につけている、箪笥のおまけでもらった可愛いキーホルダーらしい。
 じわりじわりと寄ってくる幽霊に対して、アキラは一号を盾に抵抗をしているのである。

「い、一号、なんとかしてくれええ」
「俺、今日は荷物持ちですから」

 幽霊との必死の攻防を繰り広げるアキラに、物理的な危険性が無いと判断した一号は取り合わない。
 犬猫を追い払うように手を振るが、幽霊は徐々に近づいてくる。

「そんなキーホルダーぐらい、くれてやったらどうですか?」
「これは有名な某芸術家がデザインしたものなんだ。そのためにわざわざあのお店に買いに行ったんだよ! 絶対にやらないぞおおお」

 そう叫ぶと、アキラが走り出した。遅れることなく一号も後をついていく。
 さらには幽霊までもが追いかけてくる。
 アキラと一号の一日を費やすマラソンが今、始まったのだった。

 ◇


 アルクラント・ジェニアス(あるくらんと・じぇにあす)は困り果てていた。
 足元を見れば、卵型の顔にくりくりとした目の可愛い男の子がアルクラントを見上げている。
 大きな目には涙を浮かべ、口をへの字にして必死に泣くのを堪えている様子だ。

(たぶん、迷子……なんだろうなあ)

 アルクラントはそう思うが、問題は別のところにあった。
 キャラクタープリントの靴も、アルクラントのズボンをぎゅっと握る手も、身体全体も軽く透けているのである。

(幽霊の迷子って、どこへ連れて行けば良いんだろう?)

「坊や、とりあえずショッピングモールに行ってみるか?」
「うん、ありがとうおじさん」
「……おじさんじゃなくて、お兄さんな」

 アルクラントは幽霊の小さな手を取ると、ショッピングモールへ歩き出した。

「お兄さン、じゃアこレどうデすカー?」
「ええと、それも俺には持てないんじゃないかな」

 目の前に存在している中年の幽霊がしきりに売りつけてくるのは、微妙に透けたおもちゃだった。
 先ほどからずっとこのやり取りをしている五百蔵 東雲(いよろい・しののめ)は、半分力尽きた様子で答える。
 確かに東雲はお子様ランチ用の旗を買いにショッピングモールまでやってきた。
 だからといって、触れられるかも怪しい幽霊のおもちゃを売られても困るのだ。

「先ほどからおもちゃばかりだけど、ひょっとして幽霊になった理由と関係が……?」

 ふと気付いた東雲が問うと、今までうるさかった幽霊が突然寂しげな表情になる。

「あ……ごめんなさい」
「いエ、ありガとウござイまス。そンな風に言っテくれタノは貴方が初めテでス」

 しんみりとした状況で話していると、遠くから声が聞こえてきた。

「おとうさーん」
「む、むスこジゃなイか!」

 アルクラントに連れられてきた子供の幽霊が駆けてくる。
 二人の幽霊は泣きながら抱き合うと、東雲とアルクラントに頭を下げてから静かに消えていった。

「ん、それは……」

 アルクラントが東雲の胸ポケットを見ると、そこには幽霊の印が付いた小さな旗が刺さっていた。