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街道づくりの事前調査

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街道づくりの事前調査

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森の調査その1

「村と街の最短距離は3km程度……その間を分け隔てるように横長の森が広がってる……これは確かに街道が必要ですね。あるとないとでは3〜4倍は道のりが変わりそうです」
 空飛ぶ箒ファルケに乗り、森を眼下に収めながら非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)はそう確認して呟く。
「仮に最短距離で街道を作るなら、2kmないくらいで済みそうですね」
 実際に作るとなると地質やなにやらを考えないといけず、また森の自然への配慮もするならさらに考えていかないといけないだろう。それでもできうる限り最短距離に近づけるのは街道作りの基本であり前提であるからと、近遠は概算と上から見た森の概要を紙にまとめる。
「ユーリカさん、何か気づいたことはありますか?」
 ひとまずをまとめ終えた所で近遠は自分と同じように空を飛んでいるユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)にそう声をかけた。
「んー……森という割には木の生えていない所が随分とありますわね。……更地というわけではないようですが」
 ユーリカの言うとおり森のあちこちに木の生えてない所が点在していた。地肌が覗いていないため何かが生えているのは確かだが木がないため上から見ると空白地帯のようになっている。
「少し見てきますわ」
 と、ユーリカはそう言い返事も待たずその空白地帯へと箒をはしらせる。
「あれはコボルトですわね……って……わわっ」
 地上まで後少しという所でコボルト達が矢を構えているのにユーリカは気づく。急停止し反転しようとした所で矢が放たれユーリカの体に向かってくる。
「やらやれ……貴公にはもう少し慎重に行動して欲しいのだよ。護衛するこちらの身にもなって欲しい物だ」
 水雷龍ハイドロルクスブレードドラゴンを駆り、矢を剣でたたき落としたイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)は腕の中に箒ごと回収したユーリカにそう苦言する。
「ふふっ……もしもの時はイグナちゃんが助けてくれるってあたし信じてましたわ」
「はぁ……次に下へ向かう時は我も一緒だ。貴公らを護る。それが我の役目のだから」
「分かりましたわ」

「良かった……無事みたいですね」
 ユーリカが飛び出してすぐ護衛役のイグナが後を追っていたから心配こそしていなかったが、それでも近遠はひとまずの安堵を感じずにはいられなかった。
「近遠さん……どうするのでございますか? あそこに何かあるのは確実だと思われますが」
 ぷかぷかと空飛ぶ箒ファルケに乗り近遠に近づいてそう言うのはアルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)だ。
「そうですね……ボクたちが無理して調べなくても下で調査をしている人たちが気づくでしょう。ボクたちは上から見た森の概要をまとめて簡単な地図を作ることにししましょう」
「了解したのでございます」
 そう言ってアルティアはまたぷかぷかと近遠を離れ地図をまとめる作業に入る。そのなんだか地に足がついてないような(実際についていないのは置いておいて)様子に少しだけ不安を感じながら近遠は自分も作業に入った。
(こうして一緒にいられる『今』を大切にしてあげたいですね)
 そう契約したものたちの事を思いながら。


「うん……地盤もしっかりしてるしここなら街道作っても安定しそうだねぇ」
 地面を手でたたき地質も確認しながらのんびりとした口調で清泉 北都(いずみ・ほくと)でそう言った。
「昶はどうだい? 何か気づいた?」
 北都は隣で鼻をすんすんさせているパートナーの白銀 昶(しろがね・あきら)にそう聞く。
「人形態だから微妙だけどここは動物たちが住んでないな。コボルト達の縄張りっぽい」
 匂いをもとに昶はそう判断し北都に伝える。
「じゃあ狼に変身しなよ……って、コボルトの縄張りに入ってるのかい?」
「近くにいるわけじゃないみたいだが間違いないぜ。狼にならなくてもはっきり分かるくらい匂いがするぜ」
 超感覚と殺気看破を使い辺りに敵の気配がないのを確認しながら昶はそういった。
「話だと間違って縄張りに入った村人は大怪我したって話だけど……運がいいだけなのかなぁ?」
 村長の話や注意書きを見た感じだと縄張りに入った瞬間に囲まれる展開があってもおかしくはないと北都は予想していた。
「さぁな。オレたちが知らない情報があるだけかもしれないし……エースだっけ? おまえの方は何か気づいたことあるか?」
 北都たちの近くで植物を調べていたエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が昶の呼びかけに反応し振り向く。
「特に珍しい植物はないな。それに繁殖力や適応力の高い植物ばかりだ」
 ほんの少しだけ残念そうな表情をしながらエースはそう言う。
「つまりどういうことだ?」
「もしここに街道を作ったとしても生態系に影響はほとんどないだろう。数年もあれば完全に元通りだ」
「動物たちもここでとれる食料は当てにしてないみたいね。コボルトの縄張りだというなら納得だわ」
 エースの言葉に補足をするのはリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)だ。人の心、草の心を使い、食物連鎖にここの植物たちが深く関わってないことを確認していた。
「じゃあ、ここは街道作る場所の候補地になるねぇ」
 北都は自分が歩いてきた場所をマッピングしている紙に印をつける。森全体の地図と示し合わせれば街道作りの際に大きな助けになるだろう。
「しかし、森の入口付近で見たあの薬草は素晴らしかった。村で重宝しているという話だったがそれも当然だろう。森に住む動物たちのほとんどがあの薬草を頼りにしていた――」
「ん? 森の動物達だけか? ゴブリンやコボルトは?」
 エースの話の中で気になることが出来た昶はそう質問する。言われてみれば森の入口付近では動物達の匂いはしてもゴブリンやコボルトの匂いはほとんどしなかった事を昶は思い出していた。
「――あれぞ植物の神秘だ。僕がパラミタに来て良かったと思う瞬間だよ。ああいった貴重な植物を保護するために僕は――」
「……人の話を聞けよ」
 話すことに夢中になってるのか昶の質問に気づくことなくエースはうんちく話だか身の上話を続けていた。
「ごめんなさいね。エースが植物大好きでその保護には情熱を燃やしているのよ。そういう人だから、契約したんだけれど」
 うふと上品にまた嬉しそうにリリアは笑う。
「あなたの質問だけど森の入口付近に生えていた薬草ならゴブリンやコボルト達は利用していないみたいね」
「ふーん……そんなにすごい薬草なのにゴブリンやコボルトが利用してないってのは変だねぇ」
 北都が投じた疑問を昶やエースたちも感じながら4人はまた調査を再開した。