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第四章 ケンカは両成敗
「クレープ!」
「さ、さすがマーガレット、です」
 盾を構えつつ青い旗を真っ直ぐ目指すマーガレットの後ろ、リースは息切れしながら必死についていった。
「ここから先へはいかせないよ!」
「相手になります」
「ええぃっ、当たって下さい〜!」
 守護するティナと瑠璃へと、用意しておいた雪玉を投げるリース。
 へろっとしながらも当たる雪玉、地味に痛い。
 何より、相手に集中させないのにも有効だ。
 空を見上げれば、佳奈子とエレノアが雪の女王をブロックしている、今しかなかった。
 マーガレットとリース、隆元が青い旗へと近づき。
「かかった!」
 【インビジブルトラップ】を仕掛けていたティナは内心、歓声を上げた。
 上手くすれば敵全てを足止め出来るかもしれない。
 だが、まるでそれを読んでいたかのように。
「罠を無効化する一番の方法は、罠に掛かる事じゃよ」
 目を細めた隆元の目の前で、壁役としてリース達に並走させていた【野良英霊:赤川元保】と【野良英霊:国司元相】が吹き飛んだ。
「赤川、国司、お主たちの尊い犠牲は忘れぬ」
「うわっ清々しいまでの嘘泣きね」
 苦笑しつつ、盾で爆発を防ぎつつリースと隆元の為に道を作るマーガレット。
「おっと、邪魔はさせぬよ」
「きゃうっ!?」
 何やらアクションしようとした瑠璃に向け、隆元は芭蕉扇を一扇ぎした。
 地面から巻き上げられた雪が、瑠璃の視界を埋める。
「え? あ、あの、その……取っちゃいました?」
 雪玉投げながら走ってただけなんですけど、と小首を傾げたリースの右手には、まぎれもなく青い旗が握られており。
「小娘一人の手柄ではないのだが……まぁ、中々に良い気分なのだよ」
 上空、悔しげな顔をした後、自軍の最後の旗へと向かう雪の女王に、隆元は満足そうに口の端を釣り上げたのだった。


 赤と青、両チームとも旗は残り一本となった。
 つまり、先に手にした方の勝ちである。
『中々良い眺めだな』
「お褒めいただき、光栄だわ」
 最後の赤い旗を奪おうとするセレンフィリティとセレアナ、翠の前に立ち塞がったのは、冬将軍だった。
 だがしかし、何度か攻防を繰り広げセレンフィリティとセレアナは妙な違和感を感じていた。
 やがて。
「そう言う事、ね」
「セレアナも分かった? なら、やる事は一つ、ね」
 『勝つ』為に、セレンフィリティとセレアナは頷き合い。
「今よ、突っ込んで!」
 セレアナからの合図を受けたセレンフィリティは、翠にGOサインを出した。
「行って!、道は私が作るわ!」
 ロングコートをはためかせたセレンフィリティが冬将軍を牽制する。
 故に、冬将軍の攻撃は身体を掠めるものの、翠がその進みを止める事はなく。
 振りかざしたミョルニルで、凍える風を振り払いながら、息を弾ませ翠はただ一点を目指した。
 白き世界にポツリと滲む、赤に。
 そして、手を伸ばした。

 一方。
「そろそろ決めちゃっても、いいよね」
 梢もまた残り一つの青い旗へとダッシュを掛けた。
 その距離後わずか、という所でした、ミリアの声。
「トラップ発動!」
「ッ!?……っ、しまった!?」
 反射的に素早く横に飛んだ梢は、気づいた。
 トラップは通常、音声では発動しない。
 故に、先ほどの言葉自体が、罠。
 だとしたら梢が飛んだ先こそが、本当の……。
「正解だよ」
 【インビジブルトラップ】、見えない魔法の罠に耐える、梢。
「【空飛ぶ魔法↑↑】」
 更に追い打ちを掛けたのは、必死に駆けてきたティナだ。
 浮遊の魔法が、梢の身体を空へと浮き上がらせ。
「……まだまだぁ!」
「わ、頑張るわね」
 それでも、必死に青い旗へと手を伸ばす梢に、ミリアが思わず感心した、その時。
「……佳奈子さんっ!」
「りょ〜かい! ラストスパぁぁぁぁぁぁぁト!」
 ジェニファの合図と共に猛然と佳奈子が突っ込んできた。
「いい? 終盤、最後の一本になったら二段構えで行くから」
 勿論、取れたらさっさと旗、取っちゃっていいから、とゲームスタート前に作戦を立てたのは今回の参謀・ジェニファだった。
『させぬ!』
「あなたの相手は、私よ」
 気づき動こうとした雪の女王、エレノアは凛と声を響かせ、雪の女王の視界から佳奈子を守るように立ち塞がった。
 佳奈子はただ、空飛ぶ箒の制御にのみ意識を集中させた。
 それこそ一本の矢のように、飛ぶ。
 信じていた、己が背中を守るエレノアを。
 感じていた、己を信じる梢やジェニファ、チームメイト達の眼差しを。
「だから、私は失敗しない!」
 雪の女王チームが魔法を使うより速く。
 通り過ぎざま、佳奈子の手が青い旗をかっさらうように掴み。
「「取った!!!」」
 宣言は両の端。
 佳奈子とそして、翠の口から出た。
 と同時に、ゲームは終了したのだった。



『これはどうするべきかのぅ』
「何をわざとらしい。完全に仕組んでおったじゃろうが」
 ポツリと漏れた隆元の突っ込みを冬将軍はスルーした。
 幸い、察しが良い隆元他数人しか気づいていない事だし。
「これはケンカ両成敗だよ! ね、アイン先生」
 得意げに言ったルルナに、アインと朱里は首肯し。
『『「「ごめんなさい」」』』
 精霊達と奈夏とエンジュは、同時に頭を下げたのだった。