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リアクション
●ハロウィンのパレード
宴もたけなわ、その只中を、輝ける行進がつききってゆく。
パレードだ。ハロウィンのパレードである。
紙吹雪が散った。クラッカーが鳴った。パーティに興じていた仮装の参加者たちも、わっと声をあげてパレードを迎えた。
それは、過剰な光は抑えつつも、心に残る行進だった。
電飾を灯した山車がゆく。仮装を凝らした人々が、電飾の前方や側方、あるいは山車そのものに乗って手を振る。
参加は自由、パーティで食事を楽しんでいた者たちも、我も我もとパレードに加わった。かくてハロウィンのパレードは、進む度に人を増していくのだった。
その先頭をゆくのは、空京大学の前学長アクリト・シーカー(あくりと・しーかー)、そして姫神 司(ひめがみ・つかさ)だ。
「アクリト……教授」
ようやく彼を『学長』と呼ばないことにも慣れてきた司である。
「なにかな」
アクリトは普段と変わらぬ口調である。
「その……わたくしワガママに付き合わせたようで申し訳ない……ですわ」
彼女は妖精の女王ティターニアに扮していた。なので口調も上品になるよう心がけていた。
前髪を上げて額を出し、ティアラでくっきりと留めている。黒髪全体に緩くウェーブをかけ、毛先三十センチほどに軽やかな縦ロールをかけてみた。
この髪型、試行錯誤もあってセットするのに軽く二時間はかかってしまったが、司は時間の無駄とは思わなかった。晴れの舞台だ。これくらい気合いを入れてもおかしくはない。
ひらひらとした司のドレスは、派手すぎないが可憐、背中に妖精の羽根を模した飾りがあり、手にはワンドを握っている。妖精の女王らしい立派な錫であった。
「いや、私も楽しんでいるよ」
アクリトの口元には自然な笑みがあった。
運命という言葉を司は信じたくなる。
なぜならアクリトは、事前に合わせたわけでもないのに、妖精王オーベロンに扮していたからだ。
本人はそこまで意図したわけではないそうだが、「特にモチーフもなく幻想的な扮装を選んでみただけだが、確かにオーベロンと言われるとそうかもしれない」と言った。
まるで司と対になるよう、彼は薄い素材をトーガのように流し、半身を晒している。夢見るようなその色使いは、妖精王と称するにふさわしい。凛然たる彼の物腰も、王に似合いのものだった。
(「そもそも、今日は教授とご一緒できるなどと思っていなかったのに……」)
司は目を閉じた。己の幸せを思う。
グレッグたちを誘ってみたが、どうも今はアーヴィンの仕事の関係で忙しいとのことで、司は単身でこのパーティに参加していた。
宴半ばまでは仮装している人々に話しかけ、デジカメで撮影したりしていたものの、渋井誠治とシャーロット・マウザー、あるいは御神楽夫妻らを見るにつけ、司が寂しい気持ちになっていたのは事実だった。
そのとき彼女は、ふと、呼びかけられたのだ。
「司君じゃないか」
彼女のオーベロン――アクリトに。
勢いでアクリトをパレードに誘ったら、彼はうなずいてくれたのだ。
寂しげに沈んだあのときの表情を、彼に見られなかったかどうか、すこし気になる司である。
光が降り注ぐ中、二人は並んで歩く。いつしか距離が狭まり、肩を寄せ合うようにして歩く。
「姿を変え一時の夢に身を任せる、それもまた、良いものだよ」
観客にカメラを手渡すとオーベロンは言った。
「すまないが、君。私たちを写してはくれないか。いいかな? 司君」
「それこそわたくしが望んでいたことですわ」
ティターニアは微笑んだ。
同じく先頭集団に、冬蔦 日奈々(ふゆつた・ひなな)、久世 沙幸(くぜ・さゆき)の姿もあった。
日奈々も王族の仮装、それも、『ふしぎの国のアリス』に出てくるハートの女王の仮装だ。
もちろん、本物のあの人のように太っているわけではないため、小さな『ハートの王女様』とでもいうような姿となっていた。桃色の髪に乗せられたティアラが可愛らしい。スカートの短いワンピース、ドロワーズによるデコレートも完璧だ。立派な錫杖も手にしていた。
「不思議の国のアリスの……ハートの女王のつもりですけど……見えますかねぇ……? まぁ……見えなくても、いいですかねぇ〜」
楽しめればそれでいい、日奈々はそう思っているから、自然、笑顔がこぼれそうにまばゆいものとなっていた。
彼女は自身の姿を見ることはできないが、その分、人々から投げられる称賛の声に耳をくすぐられていた。喜ばれているようで嬉しい。
手を振る日奈々はまるで、パレードの先頭をゆくマスコットのようではないか。
その日奈々のすぐ前をいく沙幸は魔女ッ子仮装。お菓子の籠からお菓子を振りまき、手を振って笑顔も振りまく。
「トリック・オア・トリート! いたずらする気ならお菓子くばっちゃうぞ♪ ……って逆?」
呼びかける沙幸は、魔女を意識したコスチュームをまとっている。
ノースリーブ、肩や胸元を大胆に露出しており、なんともセクシーないでたちだ。とりわけ危険なのはそのスカートだろうか、ギリギリまで短く、太股がくっきり現れていた。片手にはカボチャのランタン、ここから洩れる淡い光が、彼女の肌をなまめかしく照らしている。
「沙幸の仮装が……わからないのが……残念、ですねぇ……」
光宿さぬ瞳で日奈々が言った。
「うーん、まあ私の服装は……ちょっと大胆すぎて恥ずかしいから」
照れ気味に沙幸は応える。
「あまり過剰だと……逆に、いたずら……されちゃう……かもしれませんねぇ」
「ハロウィンなんだしそれはそれで楽しんじゃえば……って、なにねーさまみたいなこと言ってるんだもん!!」
思わず自爆気味に言ってしまう沙幸なのだった。
実は知らないうちに、日奈々の錫杖が沙幸のスカートをまくり上げているのだが、不幸(?)にして日奈々も沙幸も、まだそのことに気づいていないのであった。
スカートのその下は……。
と、ここで場面転換。残念!
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