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のぞき部だよん。

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のぞき部だよん。

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第8章 戦闘 【放課後】

 静かだ。

 女子更衣室が集団倒錯状態に陥っている間、男子更衣室はまったく平穏だった。
 まだ穴は開いてないし、壁は厚くて声も聞こえてなかった。
 新しくキリン隊に加入した六本木優希のパートナーアレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)がのぞき部を見張っていた。
「どうもわからねえ。あいつらが怪しいが、確証が持てねえ」
「そうですね。君は話しかけてみてもらえませんか?」
 同じくキリン隊橘恭司の提案に、アレクセイが乗った。
 のぞき部らしき連中に、
「よお。ドリル先生。穴開け快調かい? 俺様も一緒にやりてえんだがなあ……」
 のぞき部のクライス・クリンプトは、耳を疑った。バレている……。
 クライスは壁によっかかりながら、さりげなく背中の壁に穴を開けていたのだ。
「穴開け? なんのことだかさっぱり。なあ!」
 一緒にやっていた椿薫に助けを求めた。
「アレクセイ殿。拙者のパートナーイリス・カンター(いりす・かんたー)はキリン隊への参加も考えているほど正義感が強いオナゴでござる。イリスがいる限り、拙者がのぞきなどという破廉恥な行為はとてもとても……」
 と首を振る。
 アレクセイは迷う。じゃあ、こいつらじゃねえのか?
 その頃イリスは教室にいた。
 そこに椿が忘れていった鞄がある。
「あれ? たしか、水着はこの鞄にあるはずでしたわ。それなのにプールに行ったきり取りに戻らないなんて、おかしいですね」
 心配になって鞄を開けると……!
 それは、のぞき部の計画書。
『のぞき部 真・計画書 (立案者クライス・クリンプト)』
 ぶるぶる震えるイリス!
「ゆ、ゆ、ゆ、許せません!」

 プールサイドには、スクール水着姿の小谷愛美が佇んでいた。
 倒錯状態からなんとか抜けることはできたが、まだ少しボーッとしていた。
「私、どうしちゃったんだろう……」
 そこへ、六本木優希が話しかけてくる。
「大変でしたね」
「うん。でも……のぞき部なんて、本当にあるのかな」
「今、私のパートナーのアレクが男子更衣室で探してるんだけど、まだ見つからないみたいです」
「そうなんだあ……」
「愛美さんは怪しい人にジロジロ見られたりとか、何かおかしいことありませんでした?」
「うーん……」
 愛美は何か言いたそうだったが、周囲の耳が気になるようだ。
「愛美さん。あっちで話、聞かせてくれませんか?」
 優希は『エロンの園』へ通じる出口に愛美を連れて行く。
 しかし、出口にはのぞき部員の鈴木周が立っていた。
「はーい。愛美ちゃん。元気?」
「あ。うん……」
「元気ないじゃん。俺の愛情で癒されてみないっ?」
 優希は周がのぞき部員だとは気がついてない。
「悪いけど、そこをどいてくれますか」
 周は扉に寄りかかって、話し続ける。
「俺よお、愛美の心の視線を感じたぜ。もしかして俺……愛美にとって“運命の人”なのかもしれねえな」
 周を見つめる愛美。
「……違うと思う」
 愛美と優希は、別の場所へ去っていった。
 周は落胆を隠して自分に言い聞かせる。
「これでいいんだ。俺は、自分の仕事をしたんだ。ピエロじゃねえ。ピエロじゃねえぜ……」
 
 イリスは『真・計画書』を握りしめて、椿に詰め寄っていた。
「これはどういうことですか! あなたがのぞき部なんて! 男として恥を知りなさい!」
 緊急招集されたキリン隊が駆けつけ、のぞき部を拘束していく。
 このとき拘束されたのは、椿、クライス、影野、坂下。
 橘が、計画書を読む。
「男子更衣室に注意を向けてる間に、『エロンの園』から外壁に穴を開ける。……やはり、『エロンの園』ですか」
 橘は余裕の笑みを浮かべた。

『エロンの園』の木陰から、ひそひそと話す声がする。
 桜月 舞香(さくらづき・まいか)と、キリン隊の武神牙竜が隠れていた。
「キリン隊って牙竜だけなの?」
「俺の相棒、リリィも来てるぜ」
 武神の背後からリリィ・シャーロックが顔を出す。
「あたしたちの勝ちだね」
『エロンの園』が怪しいと予想した舞香がキリン隊を呼んだのだが、この2人だけではどこか不安だ。
「うーん。勝てるかな……」
 舞香の心配をよそに、武神は自信満々だ。
「何言ってんだ。俺たちの勝ちだぜ。あいつら倒せばいいんだろ」
 指差した先には、のぞき部の面々が集まっていた。
 姫宮と弥涼が穴を開けるべく道具を準備。麻野がその手伝い。百鬼那由多は偉そうに見学。那由多のパートナー、アティナ・テイワズも見ていた。
 麻野のパートナー雷堂 光司(らいどう・こうじ)は、見学しながら首を傾げていた。女の裸なんか見て何が楽しいのかねぇ? そもそも、樹は何しに来たんだ? あいつにそんな趣味があるとは思えんが……。
 姫宮は壁に狙いをつけ、いよいよ穴を開ける。
 それを見て、舞香が仕込み竹箒をギュッと握る。
「そろそろ、行く?」
 振り向くと、武神は木陰に入って何やらゴソゴソしている。
「ちょっと! キリン隊でしょ。先に言ってよ」
「オーケー。舞香。後は俺たちにまかせとけ」
「げっ。なにそれ……」
 木陰から飛び出した武神とリリィは、ヒーロー戦隊風のコスプレ姿だ。
 のぞき部を前にして、ポーズを取る2人。
「学園にはびこる邪悪の芽!」(武神)
「根こそぎ掘らせていただきます!」(リリィ)
「仮面剣士ケンリュウガー!!!」
「同じく仮面乙女マジカル・リリィ!!!」
 しーん。
「あちゃー。イヤな予感はこれか……」
 頭を抱える舞香。
 しかし、このノリでいいならのぞき部だって負けてない。弥涼が指示を出す。
「ベア。頼むぞ」
 虎のマスクをかぶったベア・ヘルロットが、ポーズを取っているケンリュウガーの前に出る。
「なんたることだ……。のぞかれる対象である女子ならいざ知らず、ナゼ! ナゼ野郎までが!」
 ベアのパートナーのマナ・ファクトリは、マジカル・リリィの前に。
「ベア。いや、タイガー。いつも通りにいくの?」
「当たり前だ! 我らが仲間を守るぞ!」
 と一瞬にして服を脱ぎ去り、赤ふんどしに虎マスクという出で立ちに。
 これにはケンリュウガーも敬意を表す。
「やるな……。相手にとって不足はない。行くぞー!!!」
 ケンリュウガー&マジカル・リリィ VS ベア・ヘルロット&マナ・ファクトリ。
 壮絶なる泥仕合が繰り広げられていく。

 誰もが泥仕合から目を逸らしていた、そのとき――
 ドガーン!!!!!
 待機していた美羽のパートナー、ベアトリーチェ・アイブリンガーの飛空挺が、別の飛空挺と激突した!
 乗っていたのは、ヘイト・ハーディーだ。
 プスン、プスン、プスン……。
 エンジンが壊れたのか、わざとなのか、ヘイトは女子更衣室の壁に向かって落ちてくる。
「恨むなよ、のぞき部。このまま壁をぶちこわして俺だけたっぷり女体を見学させてもらうぜ」
「ヤバい! あたしの力だけじゃ無理だわ」
 仕込み竹箒を握りしめ、舞香が叫んだ――
 そのとき、どこからともなく声が聞こえてくる。
「俺たちに任せときな!」
 振り向けば、またコスプレのバカップル。神代 正義(かみしろ・まさよし)と、パートナーの大神 愛(おおかみ・あい)だ。
 舞香が仕方なく尋ねてみる。
「お、お名前は?」
 神代がビシッとポーズをつけて、
「神に代わってただ今参上。正義の男、神代正義……またの名を、パラミタ刑事シャンバラン!」
 隣で愛も恥ずかしそうにポーズをつける。
「太陽戦士、ラブリーあいちゃん! うぅ……恥ずかしいです……」
 引っ込むラブリーあいちゃんの前で、シャンバランがマジになる。
 壁に向かって落ちてくるヘイトの飛空挺に対峙し、ツインスラッシュをぶちかます。
「シャンバランダイナミィィィック!!!!」
 その剣圧は飛空挺を斬り刻み、軌道を逸らした。壁は守られた。
「……悪は滅びろ」
 飛空挺は『エロンの園』に広がる、通称『股の池』に落ちた。
 池の水が飛び散り、一帯は水浸し。
 飛空挺を捨てて飛び降りていたヘイトは、シャンバランに尻から激突した。
 ヘイトはそのまま逃げ、シャンバランはぶっ倒れた。
「悪は……ほろ……び……ろ……」
「シャンバラン! しっかりして!」
 ヒールでシャンバランを助けるラブリーあいちゃん。
 舞香は逃げるヘイトを追った。
 このドタバタ騒ぎの間に、のぞき部は『エロンの園』からの脱出を計ったが、甘かった。
 キリン隊とパンダ隊がのぞき部を囲むように迫っている。
「万事休すか……」
 諦めかけたそのとき!
「のぞき部のみんな、逃げて!」
 空から緋桜ケイがやってきた。
 氷術で地面の水を凍らせていく。
 キリン隊とパンダ隊はツルツル滑って、コケる。
 あいつもこいつも、コケる。
 そんなとき、スカート付きの緑のビキニを着たアリア・セレスティがプールから出てきた。
「何やってんの? キャー!」
 アリアは、氷に足を滑らせ、
 つーーーーーーーーーーーーーーーーッ。氷上を滑っていく。
「大丈夫か!」
 葉月ショウが助けようとするが、やっぱり滑って……
 激突!
 ショウはアリアの上に覆い被さって、その胸をむんぎゅ! 両手で掴んだ!
「え? きゃっ!? 何を、あぁん……」
「あ、いや、ごめん……」
 ショウは体勢を立て直そうとするが、足が滑る。
 もがけばもがく程、アリアの胸をもみしだくことになって、
「や、やめ……んっ、はぁん……いや、いやぁ……」
 どっかーん!
 今度は麻野がショウに激突。ショウと一緒に滑っていく。
 ようやく解放されたアリアは、自分の胸を抱き、涙。
「はぁはぁ……どうして、こんな……」
 麻野とショウは上になり下になりながら、滑っていく。
「ショウく〜ん……」
 麻野はショウの身体を撫で回しながら滑って、
 ドンッ!!!
 何かにぶつかって止まった。
 それは、怒り心頭の雷堂だった。
「樹ー! てめぇ! 俺というものがありながら! 何してやがるー! いっぺん死んでこーい!!」
 ズバズバズバーッ!
 稲妻を模した光条兵器が、麻野の脳天に直撃した。

 逃げきったと思って足を止めたヘイトの背後には、舞香がきっちり追いついていた。
「女の子の身体をのぞくなんて、男のくせに生意気ね」
 ヘイトが気がついて振り向く――
 瞬間! バシドガーン!
 舞香の踵落とし、光条兵器のバトルハイヒールが脳天に直撃!
「うぐあああああ!」
「生身の女の子に触れた感想はいかが? のぞくことしか出来ない変態さん♪」
 ヘイトは舞香のミニスカートを見て、思った。その中が見たい。スカートの中は、男子のロマンだ……!
 ヘイトはバトルハイヒールを間一髪かわしていたが、あえて倒れた。
「ちっ。煮るなり焼くなり好きにしろぃ……う! それは!」
「おあいにく様。ブルマを履いといたのよ」
「そ、そんな……」
 エロパワーを失ったヘイトに、戦う力は残されていなかった。
 顔から股間から、全身ハイヒールで蹴りまくる舞香。
「女の敵には情け無用。地獄の鬼でものぞいてくるのね!」

 ピー! ピピピーッ!

 ここで水原ゆかりの笛が鳴り、争いは終わった。
 のぞき部は全員、キリン隊の名の下に拘束された。
 のぞき部に正式に加盟していない者も、同罪だ。
 正門前に縛られ、下校していく全校生徒の前にその姿を晒される。
 だが、その中に御槻沙耶の姿はなかった。
「あれ? 沙耶は?」
 沙耶は、バスタオルを羽織った天瀬悠斗を連れてやってきた。
「あたし……参上。悪いけど、あたしはのぞき部ちゃうで」
 弥涼がガックリ肩を落とす。
「なんかおかしいと思ったんだ……ところで、天瀬さんはのぞき部じゃねえぞ」
 天瀬も迷惑そうだ。
「やれやれ……これ以上、面倒ごとは嫌なんですけど」
「重要参考人として来てもらったんや」
 沙耶は悠斗の他にも、数人の生徒を連れてきていた。
「小谷愛美。朝野未沙。朝野未羅。青空 幸兔(あおぞら・ゆきと)。そして……」
 そしてもう一人、のぞき部員を指差して、
「坂下鹿次郎」
「拙者でござるか?」
 戸惑う坂下に、ざわつく生徒たち。
 沙耶が続ける。
「本当の首謀者は、悠斗に『昼休み、プール前におったな』って言うたんや。つまり、そこにおったもんが真相を知っとるはずや」
 彼らがプール前で何をして、何を見て、何を聞いたのか。
 キリン隊による事情聴取が始まった。
 どんなことでもいい。思い出して話してもらおう。昼休みの1時間で何があったのか……