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第2章・キィちゃんの一番好きな人


 店に、シャンバラ教導団の生徒を中心としたグループが入ってきた。
「ミリア嬢はこちらかな?」
 カウンターにいたミリアに声を掛けて来たのは、先頭にいた赤い瞳の、いかにも教導団生という風情のレオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)だ。
「はい〜、私がミリアですけど〜」
「ペットが逃げだしたと聞いたのだが」
「ええ〜、そうなの〜。もしかして、あなた達も協力してくれるのかしら〜?」
「いや、苦言を呈しに来た。ミリア嬢、敢えてこんな事を言うのは心苦しいが、ペットの世話は飼い主の責。これは分かるな?」
「……はい〜」
「我らは貴女とそのペットとの絆を真実知る事は出来ない。だがな、ミリア嬢。子が家出をすれば、親は必死に探すものでは無いのかね?」
「そう…ですね〜。でも私、お店が〜…」
「お店が心配なら、僕が協力します」
 レオンハルトのパートナーのシルヴァ・アンスウェラー(しるば・あんすうぇらー)が目を輝かせた。
「料理の腕は確かですよ。ちょっと厨房をお借りします。すぐに証明して見せますから」
 ミリアの返事を待たず、シルヴァは厨房へと向かった。
「あ、あの〜…」
「なんだ、先を越されてしまいましたか。挨拶代わりに持ってきたんですけどね」
 髭面のルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)が明るい色の花束をミリアに差し出す。
「まぁ〜、ありがとう〜」
「やっぱり、笑顔がよく似合います」
 口説き文句にも聞こえるその台詞に、恋人のヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)が彼とミリアの間に割り込んだ。
「ねぇ、やっぱり自分で連れ戻しに行くのがスジってもんでしょ♪ 看板娘は、あたしが代わりになっててあげるわよ♪」
「ですけど〜…」
 尚も渋るミリアに、レオンハルトの後ろにいたイリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)が口を開く。
「ミリアはキィとお風呂に一緒に入るほど仲が良いのだろう? ぬいぐるみも好きだろうが、キィは、ミリアが一番好きなのではないか?」
 イリーナの言葉に、ミリアは彼女の顔をじっと見つめた。
「私は、自分に何かあったら、一番信頼する人に迎えに来てほしい。その人が迎えに来てくれるのが一番、嬉しい」
「僕もそう思います」
 厨房から出てきたシルヴァが、ミリアの前にプレーンオムレツを置いた。ミリアは、渡されたスプーンでその料理をひと口食べてみる。
「おいしいわ〜」
 目を閉じて何かを考えていた様子のミリアは、レオンハルトを真っ直ぐに見つめた。
「わかりました〜。私もキィちゃんを捜しに行きます〜」
「ならば我らも同行しよう。剣となり盾となり、その身に降りかかる全ての災厄から護り抜こう」
「ありがとうございます〜」
「ルース」
「店は任せて下さい」
 レオンハルトの呼び掛けに、ルースが頼もしく応える。
「あ、あの…っ。お店…私も、頑張りますから…」
 皆の一番後ろで控え目に佇んでいた如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)が、勇気を振り絞ってミリアに声を掛けた。
「あたしがついてるんだから、大丈夫だよ! お店の事は心配しないで!」
 隣にいたパートナーの冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)が日奈々の肩を抱き寄せながら、ミリアに笑顔を向けた。
 シルフェノワール・ヴィント・ローレント(しるふぇのわーる・びんとろーれんと)と、クリスフォーリル・リ・ゼルベウォント(くりすふぉーりる・りぜるべるうぉんと)は護衛班にまわるようで、さっそく森に入る準備を始めている。
 こうして、ミリアはレオンハルト達と共に、森へ向かう事となった。

 そんなやりとりの中、崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)はそっと店を出た。彼女は、すぐに仲間の作った小型無線機のスイッチを入れる。試作品だが、なかなか感度は良好だ。
「私よ。少し予定外な事があるようですけど、計画は実行しますわ。準備を初めてちょうだい」
 亜璃珠は無線機の向こうから望み通りの返えを聞くと、優雅な仕草でそれを仕舞った。
「おーい、アリス!」
 亜璃珠に呼び出されていたレイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)は、ようやく店に辿り着いたところで、出てきた亜璃珠を見つけた。
「遅刻ですわよ。どうせ道に迷っていたのでしょうけど」
 図星をさされたレイディスが、ごまかすように笑う。
「まあ、今回は見逃してさしあげますわ。あなたに手伝っていただきたい事がありますの」
「俺に? 何を?」
「とても楽しいお話ですわ」
 亜璃珠は歩きながら話すと言って、レイディスを森へ誘った。

 その頃、店の裏手にあるミリアの家の前には、ジャージの上下にヘルメットを被り、フーセンガムを膨らませている怪しげな男、一色 仁(いっしき・じん)と、そのパートナーのミラ・アシュフォーヂ(みら・あしゅふぉーぢ)がいた。
「仁、やっぱり、不法侵入はまずいですわ」ミラが不安げに言う。
「大丈夫だって、ちょっと見るだけだから。それに、調べなきゃわかんないだろ。なんでキィちゃんが逃げ出したか、とかさ」
「そんなの、ミリアさんに聞けばよろしいじゃありませんか」
「近くにいるからこそ、気付かない事だってあるだろ?」
 ミラの恋心にもまるで気が付いていない仁の台詞に、ミラは怒りの籠った赤い瞳で彼を睨んだ。
「ええ、まったくもってその通りですわねっ!」
「なんだよ、何いきなり怒ってんだ?」
「知りませんっ!」
 ミラの癇癪をいつもの事だと受け流し、仁はまず、外から家の様子をうかがった。
「俺が思うに、多分、キィちゃんはたてがみが円形脱毛症になったとかで、ストレスを解消するために森林浴にいったんじゃないかな」
 大きな風呂場を覗き込みながら、仁は自説を語る。
「そんな事で、解消出来ますの?」
 ミラが痛いところをついて来た。
「ん? なんだ、これ」
 別の部屋を覗いた仁は、綺麗に片づけられた部屋の机の上に置かれたボロボロの本を見つけた。そばには道具箱があり、中のテープはズタズタに切り裂かれている。
「仁、これって、爪の跡じゃありませんの?」
 背伸びして仁と一緒に窓を覗き込んだミラが、本とテープに残る大きな亀裂に眉をしかめた。
 次に2人はキィちゃんの小屋へと向かう。餌皿にはパラミタヒツジの肉が盛られ、手がつけられた様子はない。2人は周りに人がいないのを確かめて、そっと小屋の扉を開けた。
「きゃっ!」
 ミラは悲鳴を上げて仁にしがみついた。
「これは、一体っ!?」
 そこには、無残に引き裂かれたパラミタヒツジのぬいぐるみが、いくつも転がっていた。