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都市伝説「メアリの家~追憶の契り」

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都市伝説「メアリの家~追憶の契り」

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第1章 黒喜館と北の霊園
 
 譲葉とラキシスは空飛ぶ箒で黒喜館の前に降り立った。
 譲葉は店主不在では開いてないだろうと思いながら、ゆっくりドアを開けようとすると、
ギギィィー
 耳障りな音ともにゆっくり扉が開いていく。
「あれ? 大和ちゃん! 開いてるね!」
 譲葉の後ろにいたラキシスが驚きの声を上げる。
「……戻ってきたのでしょうか?」
 譲葉は警戒しながら店の中に入ると、黒いロッキングチェアに十歳くらいの少年が座っていた。少年は眉がなく、丸い大きな黒い目におかっぱの黒髪をしていた。中性的な容貌だが、
「いらっしゃい」
 静かに出した声は低く、子供らしくない中年の男のようだった。
 譲葉とラキシスは店主の姿を探してあたりを見回したが見当たらない。少年は譲葉たちの様子に気づいて言う。
「店主だったら、今日は不在ですよ。私が店主代理としていますが、店主に御用ですか?」
 譲葉とラキシスは顔を見合せ、この少年に訊いてわかるか疑問に思いながら訊く。
「ああ……指輪について訊きたいんですが。昔、この街の近くの森にいた盗賊団が、光零で指輪を売り払ったりしてなかったか訊きたかったんですけど……わかりますか?」
 少年は首を横に振る。
「そうですか……そうですよね。すみません。お邪魔しました」
 譲葉は落胆して帰ろうとするが、ラキシスは高崎に頼まれたことを思い出す。
「あっ! そうだ! 呪いの話!」
 ラキシスは出て行こうとする譲葉の服を引っ張り、もう一度店の中に戻る。
「ねえっ、呪いの指輪って知らない?」
「呪いの指輪ですか……呪い呪い……」
 少年は何かを思い出すようにぶつぶつ呟く。譲葉はラキシスに言う。
「ラキシス、そんな呪いの指輪なんて、もっとわからないでしょう」
 しかし、少年は思い出したように答えた。
「指輪はわかりませんが、呪いに関してでしたら、街の北にある霊園の墓守りを訪ねると何かわかるかもしれません。彼の家は代々墓守りで、色々不可思議な出来事に遭遇したり、相談もされるそうですから」
 譲葉とラキシスは少年に礼を言って、慌ただしく空飛ぶ箒に乗って北へと飛び立った。
 
 譲葉たちが飛び立った後、入れ違いでソルジャーの永夷零(ながい・ぜろ)とパートナーで機晶姫のルナ・テュリン(るな・てゅりん)が店に入ってくる。
 永夷たちも店主の姿を探すがいるわけがなく、
「いらっしゃい」
 少年が出迎える。少年はすぐにルナの持っている小さなペットのキャリーバックに目を止める。
「そのブチ柄のうさぎは、この店で買った物ですね?」
「はい! 『ぜりょ』って名前でございます」
「……嫌がらせみたいな名前をつけるなよ」
 元気よく答えるルナの後ろで、永夷は小声で呟く。
「ああ、本当に来たんですね。店主から預かり物をしていまして……どうぞ」
 少年は椅子から立ち上がる。ポケットから小さな黒い巾着を取り出し、ルナに手渡した。ルナが巾着の中を確かめると、そこには小さいが、赤いブチ柄に紫の人参が入っていた。
「これは! 『ぜりょ』のおやつでございます!」
 ルナは嬉しそうにキャリーバックの中に入れる。少年は椅子に戻りながら言う。
「前回、店主が付属品を渡し忘れてしまったとかで、来たら渡すように頼まれていました」
 永夷は『ぜりょ』の口あたりに人参を押し当てるルナから視線を逸らし、少年に訊く。
「店主はどこに行ったか知らないか?」
 少年は首を傾げる。
「さあ? 彼は毎月一日だけ出掛けるんですよ。どこに行っているのか、どんな用事なのかは誰も知りません」
「月に一度だけ……か。邪魔したな。行くぞ、ルナ」
 永夷に連れられて、ルナは一礼して店を後にした。
 
 北の霊園は、街から少し高台に存在した。ナイトのヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)は、青楽亭の主人から霊園の場所を聞いてやってきていた。昼間だと言うのに霊園の空気は重々しく、かなり古い墓石の中には朽ち果て、原型を留めていないものもある。「ごめんなさいです。ボクの為に霊園まで付き合わせちゃって」
 ヴァーナーが頭を下げると、一緒にいた神和綺人とウィザードのルーシー・トランブル(るーしー・とらんぶる)は笑顔で答える。
「いいよ。僕もメアリのことを調べる予定だったし、お墓を調べるっていうのもいいと思うよ」
「そうそう。お墓の関係者の誰かが、メアリの埋葬時のこととか何か知っているかもしれないしねぇ」
 三人で墓地を歩くが、人影はない。前を歩く神和は、墓地の静けさに眉を顰める。
「きっとこの墓地は光零の人たちの先祖代々の墓なんだろうけど、誰もいないね」
「そうだねぇ〜、メアリの墓を自力で見つけるのは難しそうなんだけどねぇ。ヴォネガットは青楽亭の主人からメアリさんのお墓の位置、聞いてる?」
 ルーシーの問いかけに、ビクビクしながら綺人の後ろを歩いていたヴァーナーは首を横に振る。
「墓の位置までは知らないって言ってました。ただ、光零の人たちは、みんな死んだらこの霊園に埋葬されるから、きっとあると思うって。でも、古いと何て彫られているのかわからないですね」
 ヴァーナーが見つめる先の墓石は、長年の風雨によって削られ、ただの石と化していた。
 それでも、神和は草が綺麗に刈られているのを見て、
「草が綺麗に刈られているから、きっと管理をする人がいると思うんだけど……あ」
 神和は前方で草むしりをしている男に気づいた。男も視線を感じて立ち上がる。目深に帽子をかぶり、表情は暗くてよく見えない。だが、何となくまだ若い男だとわかる。
「すみませ〜ん。ちょっとお訊きしたいんですけどぉ、メアリさんのお墓ってわかりますかぁ?」
 ルーシーののんびりした問いかけに、男は無言で頷き歩き出す。
「つ、ついて来いってことでしょうか?」
 ヴァーナーは不安げに言う。神和とルーシーも不安げだが、少し距離を置いてついていく。
 男は一つの墓石の前で立ち止まる。そして、墓石を指差して言った。
「ここがメアリの墓だ」
 そこには長年の風雨に浸食され、デコボコとなった墓石があった。もちろん表面も削られ、何が書いてあったかなどわからない。
 三人とも嫌な予感が的中して、重い空気が流れる。
 案内をした男は首を傾げ、作業の続きをしようと離れようとするが、そこへ譲葉とラキシスが空飛ぶ箒に乗ってやってくる。
 ヴァーナーたちも譲葉たちに気づき、軽く挨拶を交わす。
 譲葉はヴァーナーたちに呪いについて、墓守りが詳しいと言うので来た事を説明する。
「墓守りの人を探してるんですが……」
「俺が墓守りだ。代々ここで墓を守っている」
 男は無愛想に横から答えた。譲葉は予想外にあっさり見つかったのに戸惑いながらも、呪いの指輪について訊く。
「何か光零に伝わる呪いの指輪の話とかってありませんか?」
「呪いの指輪か……指輪の関係で似たような話は知っているが。昔、『死霊の指輪』というものが存在したと祖父から聞いたことがある。その指輪をつければ魔法力に関係なく、死霊を自由自在に操ることができたらしい。ただし、指輪は生きている人間がつけてもただの指輪。指輪を装着した状態で死ねば、不老不死と死霊使いの能力の両方を得ることができる。しかし、死んでアンデッドと化してから装着することはできない……という言い伝えだ」
 ヴァーナーは困った顔で呟いた。
「不老不死って言っても、一度死んじゃってますし……ちょっと不老不死と違うって思っちゃうんですけど」
 ヴァーナーの言葉に、他の人たちも無言で頷いた。