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海上大決戦!

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海上大決戦!

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 第3章 海上の攻防

「さあ、戦いも佳境に入ってきたよ! ここからはボク、はるかぜ らいむ(はるかぜ・らいむ)がお送りするね!」
 パラミタ内海の空に、らいむの元気な声が響く。
 彼女も、最初は他の仲間たちと一緒に海賊を倒したいと思っていた。しかし、自分が頑張っているアイドルとしての仕事が遅れ、準備が間に合わなかった。
 途方に暮れていたとき、パートナーのみなつき みんと(みなつき・みんと)に、「外から応援してあげることも、一緒に戦うことと同じだ」と言われ、らいむは応援を兼ねてレポーターとして一緒に戦うことにした。今日はみんとの箒に乗り、少し離れたところから愛用のマイクで仲間を鼓舞する。
 実は、レポーターやナレーターの経験のあるみんととしては、海賊に襲われている村があることや、海賊を全力で迎え撃とうとする学生たちがいることを伝えずにはいられなかったのだ。そのため、仲間を助けに行きたくてしかたがなかったらいむをけしかけたのである。だがもちろん、レポーターの経験を経て、らいむがアイドルとして成功して欲しいという思いももっている。
「おや、らいむ。あれはどなたですの?」
 ボートに乗ったひときわ大きな機晶姫を指さし、みんとが言う。
「あれはマリオン・キッス(まりおん・きっす)さんだよ。身長3メートル。隣に座っている魔楔 テッカ(まくさび・てっか)さんのパートナーだね」
「あら、よく知っていますのね」
「もちろん、下調べはバッチリだよ」
 マリオンは大きくて目立つ為、周りと合わせて一斉に海賊船に乗り込むのでは標的になりやすい。そこでテッカは、周りより早めに出発して大きく迂回し、沖の方から回りこむ作戦をとっていた。船上で戦闘が始まった今が乗船のチャンスとみて、テッカは一気に海賊船に近づく。
「さあマリオン、あたいを放り込むんですな」
「お姉さまを投げ込む!?」
 当たり前のように命じるテッカに、マリオンは驚きの表情を見せる。
「止めた方がいいと思いますよぅ。そういう安直な手段は」
「いいからやるんですな」
「わ、分かりましたよぅ」
 マリオンはしぶしぶテッカを抱えると、
「えいあぁっ!」
 テッカを船の中に投げ入れた。テッカの姿は海賊船の中に消え、同時にヤバ気な音がする。
「お、お姉様?」
 テッカのことが心配になったマリオンは、持ってきた鉤付きロープで船側を登る。しかし、彼女の体は震えていて、なかなか進まない。
「うう、海賊恐いですぅ」
 そう、彼女はその体に似合わず、超弩級の腰抜けなのだ。
 一方、大砲にしこたま頭をぶつけたテッカは、魔法で海賊を攻撃しながらマリオンが登ってくるのを待っている――つもりだった。
「おお、星がいくつも見えますな。これはあたい今覚醒してますな。きっと、さっき食べたバナナが早速効いてるんですな。さすが完全栄養食ですな」
 ふらふらになったテッカの攻撃は、最早敵も味方も人も物も関係なく、あらゆるものに襲いかかる。そこにようやくマリオンが顔を出した。
「お、お姉様!? が、合体です!」
 その一言でテッカが正気に戻る。
「テッカセッタァァァ!!」
 テッカのかけ声と共に、二人が飛び上がる。そしてマリオンの体の前面が上方に開き、中にテッカを格納した。BGMでもほしいところだ。
「テッカマリオン参上!」
 テッカでもない、マリオンでもない。テッカマリオンが甲板に降り立った。
「え、ちょっと、何ですの、あれは!?」
 みんとが驚愕した顔でらいむを見る。
「説明しよう! マリオンさんはテッカさんに中から応援してもらうことで勇気百倍。普段前髪で隠れている目が現れ、普通の機晶姫に勝るとも劣らない能力が発揮できるようになるのだ!」
「な、なんと。そんな必殺技があったんですのね」
 テッカマリオンは海賊たちをちぎっては投げ、ちぎっては投げする。投げられた海賊の一人がらいむたちにぶつかりそうになった。
「うわ、ここは危険です! はるかぜらいむ、遺憾ながら撤退します!」
「ちょっとらいむ、お待ちなさい! 職場放棄ですわよ。そんなことでは立派なアイドルにはなれませんわ!」
 こうして船上は一層騒がしくなり、らいむのいなくなった空はちょっぴり静かになった。

 今回の戦闘において、まず一番の驚異になるのは大砲だ。当然その無力化を目標にする生徒は多い。
 九弓・フゥ・リュィソー(くゅみ・ )もその一人だ。九弓は、非常に小柄ながらかなり体重が重いという自身の特異な体質を生かして、水中から海賊船に接近するという作戦を計画した。従って、今日は白のワンピースにスカートつきの水着とゴーグルという格好だ。
 引き連れるパートナーはマネット・エェル( ・ )九鳥・メモワール(ことり・めもわぁる)。どちらも人形サイズの剣の花嫁だ。それぞれシンプルな白いワンピース水着と夜色のセパレート水着を着ている。
「さ、こんな格好してるけど遊びにわけじゃないし、早速いくわよ」
 九弓はボートの中からフロートマットを海面に浮かべ、その上に乗る。このマットの栓には3本のチューブを挿し、元の口から空気が漏れないよう再度密封してある。水中ではチューブを利用して呼吸しようというわけだ
「はい、ますたあ☆」
 マネットは九弓にパワーブレスを使用してから、チューブにつかまる。
「ヘマしないように頼むわよ」
 九鳥もマネットに続いた。
「それじゃあ、出発!」
 九弓がボートの縁を蹴る。進み出したマットは、九弓の重みで徐々に沈んでいった。
 九弓たちは順調に水中を進み、予定通り海賊船の下までやってくる。
(よし、そろそろ海面に上がろう)
 九弓はマットの浮力を借りて浮上しようとする。が、
(あ、あれ?)
 思うように体が浮かばない。必死に足をバタつかせるが、マットは沈む一方だ。マネットと九鳥も異変に気がついて動揺し始める。
(このままじゃ二人まで巻き込んじゃう。――――仕方ない、か)
 九弓がそっとマットから手を離す。マネットと九鳥が大慌てしているのが見えた。
(ごめんね、二人とも。あーあ、泳げないのにこんな作戦考えるんじゃなかったな……)
 九弓は目を閉じた。
 九弓の体重を失ったマットは勢いよく浮上していく。マネットと九鳥はあっという間に海面に出た。
「ますたあ! ますたあああ!」
「誰か!」
 二人が叫び声を上げる。
「ん?」
 その声に偶然飛空挺で通りかかったティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)が気がつく。彼女はボートが転覆したりして溺れている人がいないか見て回っていたのだ。
「どうしたの?」
 ティアは二人に近づいていき、事情を聞く。
「そ、それは大変! えーっと、えーっと……あ、あれだ!」
 ティアは【子分相手班ボートA】が乗ってきたボートを見つけ、そこからロープを拝借する。そしてロープの片端をしっかりと海賊船に固定すると、もう一方の端をもって、飛空挺の上から海に飛び込んだ。
(んー! んー!)
 ティアは必死で九弓に呼びかける。その声が、ゆっくりと沈んでいく九弓の耳に、かすかに届いた。
(何?)
 九弓が目を開ける。すると、ティアが自分に向かって泳いでくるのが見えた。
(!)
 ティアは手にロープをもって九弓の近くまでやってくる。しかし、ロープの長さが限界でそれ以上進めない。
(お願い、届いて!)
 九弓は最後の力を振り絞って氷術を放った。周りの水が凍っていく。やがて氷はロープの端に達した。
「ぷはっ! はあっ! はあっ! 死ぬかと思った……」
「ヒーロー大原則ひとーつっ! 最後まで絶対に諦めない事! だよ」
 ティアが、氷をつたってロープをつかみ、なんとか海面まで上がってきた九弓に声をかける。
「うわああああん! ますたあー!」
 マネットが九弓の胸に飛びついた。
「ごめんね、ごめんね」
「全く、心配させるんだから」
 そう言う九鳥の目にもうっすらと涙がにじんでいる。
「他にも困ってる人がいるかもしれないから、ボクはもう行くね。気をつけて」
 ティアはずぶ濡れになったまま飛空挺にまたがる。九弓たちは礼を言って彼女を見送った。
「さあ、休んでいる暇はないわよ。本番はこれからなんだから」
 九鳥が感傷に浸っている九弓とマネットに活を入れる。九弓は氷術で足場を作りながら、海賊船の側面を登っていった。マネットは九弓の髪をつかんで肩の上に乗っている。やがて三人は乗船に成功した。
「九弓、マネット、周囲の警戒だけはしてあげるから、あとは任せたわよ」
 船上ではマネットが大活躍だった。海賊たちは自分の足下をちょこちょこと歩いてくるかわいらしい彼女に油断して武器を下ろす。
「ふふ、油断大敵ですわよ」
 そこでマネットは武器に体当たりし、打撃接触を斬撃に変換する光条兵器でそれを破壊するのだ。
「相変わらずたちの悪い光条兵器だわ」
 海賊たちの武器を次々と破壊していくマネットを見て、九鳥が呟く。
「まあ、今回は人相手に使わないよう言ってあるけど」
 近場にいる海賊をあらかた武装解除すると、最後に九弓がアシッドミストを大砲に浴びせる。途中思わぬ危機があったものの、三人はなんとか目標を達成することができた。