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闇世界の廃病棟(第1回/全3回)

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闇世界の廃病棟(第1回/全3回)

リアクション


第3章 呟く怪しき声音

「カルテはどこにあるのかな・・・?もしかしてここかな」
 カラーボックスの中からラキシス・ファナティック(らきしす・ふぁなてぃっく)が、カルテを取り出した。
「余命宣告されて亡くなったような人もいるみたいですね。臓器の病よりも先天性の病の患者が多いようですが・・・その後の臓器提供の記録とかが書かれていませんね」
 デジカメでカルテの写真を取りながら、譲葉 大和(ゆずりは・やまと)は事件について疑問を抱く。
「心無い家族による臓器密売という線も考えていましたが、普通の治療では治せない病・・・末期ガン・・・。その他にマラリアとかの血清が足りなくて駆け込んできた・・・ということも考えられますね」
「大和ちゃん、そろそろ時間だよ」
「おや・・・集中するあまり帰り時間が過ぎてしまいそうになりました。帰りましょうか」
 2人は病棟の外へ出てトンネルの方へ向かう。
「まったくゴーストに会いませんでしたね」
「運が良かっただけなのかな」
 トンネルの外を出て学園へと戻っていった。



「誰かの声が聞こえたようだが・・・。何だ?あの女は・・・どうも様子がおかしいな」
 ナースステーションの近くでウロついている女の方へ、国頭 武尊(くにがみ・たける)が近づいていく。
「やっぱりゴーストか!」
 女は開いた口の中から細長い触手を出し、武尊を捕まえようとする。
「古人曰く、汝、右の足を砕いたら左の足も砕け」
 武尊がショットガンでゴーストの頭部を打ち抜き、シーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)は標的の四肢をハンマーで叩き潰す。
 ガンッベキッと骨が砕け、赤黒い血がドロリと床の上に流れる。
「やっと棚から出られましたよ・・・ありがとう!」
 棚の扉を少し開けて安全を確認した環生と響夜は、待合室の戸棚の外へ出ると病棟から出てトンネルの方へ駆けていき逃げ帰っていった。
「どうやらあのゴーストに襲われていたようだな」
「そのようね。目的の場所の通り道だったから、偶然助けちゃった感じだけどね」
「さて・・・俺たちはナースステーション方へ行くぜ」
 武尊たちは電力室のカードキーを探しに、ナースステーションへ向かう。
「あぁーくそっ!カードキー見つからねぇぞ。壁際にある鍵保管のポケットに何もねぇし」
 武尊はナースステーション内を漁り、どこかにカードキーがないか探していた。
「こっちにもないわよ」
 棚の引き出しを開けてシーリルも、武尊と一緒に探している。
「なかなか見つからないわね・・・」
 10人がけのテーブルの下を覗いてみるが、特に目ぼしい物もなかった。
「これだけ探してもないってことは、ここにはないのか?」
「そうかもしれないわね・・・あっ!」
「何か見つけたか?」
 武尊は何かを発見したように小さく声を上げたシーリルの方へ寄る。
「備品返却について書いてあるノートがあったわ」
「なるほど・・・それにカードキーがある場所が書いてあるかもな」
「病院の医者が持ち出した後、1階の受付カウンターの人に渡したみたい。どうやらナースステーションにはないみたいね」
「何で自分から返しに行かないんだ?」
「ノートに書かれているルールによるとカードキーに限らず、返す所は受付の方になっているみたいよ。受付の人が時間になるとまとめてここへ返しにくるらしいけど・・・」
「たしかにな・・・もしここが忙しくても、まず受付にいってそこにあればすぐ受け取れるだろうしな。なかったらここに電話かければ受付の方に持ってきてもらえそうだな」
「えぇ、そういうルールになっているみたいよ」
 2人が受付カウンターの方へ探しに行こうかと考えていると、近くでブツブツと低い声音で呟く声が聞こえてきた。
「シーリル・・・何かいったか?」
「何も言ってないわよ」
「じゃあ・・・一体誰が・・・」
 武尊は目を閉じて耳を澄ませてみると、不思議な歌声が聞こえてきた。
 お庭ーお庭ー・・・お庭で遊ぶ童たち・・・。遊びふけった夜明けの晩にー・・・影を追って彷徨う子・・・後ろの正面ー・・・だぁあれぇ・・・。
 ぱっと背後を振り返るとそこには誰もいない。
「なんだ・・・気のせいか」
 前に向き直ると耳元で、囁くような声が聞こえてきた。
「もう・・・じ・・・き・・・道が・・・なくな・・・る。帰れない・・・帰れない・・・連れてっいってやる・・・一緒に連れっていってやる」
「誰だ!誰かそこにいるのか!?」
 声が聞こえた方へ銃口を向けるが、やはりそこには誰もいなかった。
 病棟の外を出ると、黒ネコがニャァアアと鳴き声を上げる。
「―・・・そろそろ5時になる頃だよな・・・」
「たぶんね。時計の時刻が4時からずっと動いてないけど」
 床にしゃがみ込んでいたシーリルはノートを持ったまま立ち上がり、その拍子にノートから数枚の紙が床へ抜け落ちたが、それに彼女は気づかなかった。
「出られなくなったら厄介だ。そろそろ行くぞ」
 バイクに乗ると武尊たちはトンネルの外へ出て行く。
「あぁっ!病棟から持ってきたノートが・・・」
 トンネルの外へ出たとたんに、ノートは灰化して風に乗って空へ飛んでいってしまう。
「ちっ、収穫なしか」
 2人は残念そうに、深いため息をついた。



 受付カウンターであーる華野 筐子(あーるはなの・こばこ)たちは、患者のカルテを探していた。
「見つけましたわ!でも・・・外来の患者だからなのか・・・カルテに写真が貼られませんわ。名前の部分も摺り減ってて見えないですわね」
 アイリス・ウォーカー(あいりす・うぉーかー)はカルテを見ながら名前を確認しようとする。
「名前が分かれば名前を呼んで弔ってあげたいのでござるが・・・」
 カルテに書かれた名前を読もうと、一瞬 防師(いっしゅん・ぼうし)が眼を凝らして見る。
「うーん・・・他の所も見にいってみよう」
「そうですわね」
 他の患者のカルテも見てみようとアイリスたちはナースステーションへ向かった。



「ど・・・どうしましょぅ。帰り道を間違えてしまって迷いながら出口を探していたら、帰れる時間が過ぎてしまって戻れなくなってしまったですぅ」
 迷子になってしまった如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)は、1人きりで怯えながら電力室を探していた。
「―・・・ひぇっ!?・・・い・・・今の音は・・・」
 何か出たのかと思い、日奈々はキョロキョロと周りを見回す。
「ネズミちゃんだったですかぁ・・・」
 音の正体は床を走るネズミたちの足音だった。
「どこか人が集まってそうなところに行くですぅ。そうですねぇ・・・たぶん電力室辺りとかなら人がいそうですから行ってみるですぅ」
 日奈々はブルブルと震えながら、人が集まっているかもしれないと思ったそこへ行ってみることにした。



「探索してたら5時過ぎてトンネルの外に帰れなくなったぜ・・・」
 誠治は震えながら鉄パイプを握り、廊下を歩いていた。
「やっぱり怖いんですか?」
 腰を屈めて歩く彼の後姿を見て、からかうようにハティがボソッと呟く。
「こ・・・怖くねぇよ!これくらい・・・」
 だんだんと声を小さくする誠治に対して彼女は面白そうにクスッと笑う。
「―・・・ここは・・・ナースステーションか・・・」
 入り口付近の壁にかけられたプレートを見て、場所を確認する。
「なんだこりゃっ!誰かに荒らされたのか・・・それとも元々こういう状態だったのか?」
 武尊たちがカードキーを探して引っ掻き回し、荒れたナーステーション内を見た誠治は、驚きのあまり目を丸くした。
「とにかく・・・探索してみましょう」
 ナーステーションに入ると、2人は探索を始めた。
「酷いな・・・カルテとかその辺の床に落ちているぜ」
「これじゃあ、どこに何があるか見辛いですよね」
「そうだな・・・。だ・・・誰だ!?」
 捜索していると、近くから少女の声が聞こえてきた。
 慌ててアサルトカービンを握り、机の下からゴーストがきたのかと警戒する。
「何やってるの?そんなところで」
 アリアは机の下を覗き込み、誠治を見下ろす。
「ゴーストが来たかと思って警戒してたんだよ」
「一体誰の仕業でしょうか・・・カルテを床に放り投げたようにばら撒くなんて・・・」
「オレじゃないぞ!オレが来たときには、すでにこうなっていたし・・・」
 眉を潜めてカルテを拾う島村 幸(しまむら・さち)に、彼は荒らしていないと身の潔白を表そうと言葉を並べる。
「どうやら嘘をついているような目ではないようだな」
 ガートナ・トライストル(がーとな・とらいすとる)の言葉に、誠治がコクコクと頷く。
「やっぱり結構な人数が集まってるようだな」
 轟 雷蔵(とどろき・らいぞう)も探索にやってきた。
「カードキーが書類の間とかにカードキーが挟まっていると思ったんですけど・・・ないですね」
 ファイルケースから書類を取り出し、その間に挟まっていないか義純が電力室のカードキーを探す。
「あれ?この棚・・・開かないな・・・」
「ちょっと退いてください。うーん・・・どうやら鍵がかかっているようですね」
 棚の扉を開こうとした佑也の代わりに、志位 大地(しい・だいち)がピッキングで開ける。
「よし・・・開きました」
 開けてみると中にはカルテが入っていた。
「カードキーはなさそうですね・・・ちょっと他の所へ探しにいってきますね」
 そう言うと大地は、別の所へ探しに向かった。
「それじゃあ俺たちはラボの方に行ってみるとするか。ここは人が多いようだから・・・心配もないようだからな」
「えぇ、ここまで連れてきてくれてありがとう」
 アリアは佑也にニコッと微笑む。
「あぁ・・・じゃあ気をつけてな」
 片手を振ると佑也とアルマは2階のラボへ向かった。



 受付カウンターの方から移動してきた筐子は、大地がピンキングで開けた棚の中にあったカルテを手に取った。
「このカルテにも患者の名前が書かれていないね」
「用紙がかなり古いようだから仕方がありませんわ」
 アイリスは茶色く変色した用紙を覗き込む。
「どうやら長い間、放置されているせいもあるようでござるな。(看護婦さんの個人情報を調べようとしたら、名簿に書かれている名前が擦れてまったく見えなかったでござる。あぁ・・・いかんいかん、煩悩を捨てなければ・・・)」
 煩悩を払うように、防師は頭を左右に振った。
「死者の安らぎを奪ってまで実験するなんて・・・科学者の風上にもおけませんよ」
 怒りを含んだ口調で言いながら、幸は開かない引き出しをピッキングで開ける。
「たしかに・・・死者を冒涜する行為は許すべきではありませんぞ」
 彼女の傍でガートナが頷く。
「これは・・・日記・・・?」
 埃で汚れたピンク色の可愛らしい柄の日記帳を見つけ、引き出しの中から取り出す。
「島村嬢ちゃん、何か見つかったか?」
 何かを見つけた様子の幸の傍に、原田 左之助(はらだ・さのすけ)が寄ってきた。
「鍵がかかっていますね。他人の日記帳を見るなんてあまりよくないことでしょうけど・・・何か事件の手がかりがありかもしれませんし、ちょっとだけ・・・」
 ピッキングで開けようとするが、なかなか開かない。
「あれ・・・おかしいですね。なんか・・・急に眠く・・・」
 幸は突然床に倒れ、寝込んでしまった。
「どうしたんだ?」
 バリケードを作りゴーストがこないか見張っていた久多 隆光(くた・たかみつ)が、急に倒れた幸を心配そうに見る。
「さっちゃんだけじゃなくって、ガートナさんも寝ちゃったようだけど?」
 幸の傍で眠っているガートナを見て、東條 カガチ(とうじょう・かがち)は首を傾げた。
「カガチ・・・何か・・・静かすぎますよ・・・」
 ハンマーを握り締め、柳尾 なぎこ(やなお・なぎこ)はカガチの傍へ寄る。
 筐子とアイリスの2人と、看護婦の名簿を握り締めている防師も眠っていた。
「やばいのがこっちに近づいてるのかもしれないな」
 じっとりとした不気味な空気に椎名 真(しいな・まこと)は、頬を流れる汗を片手で拭う。
「どうやら真の感が当たったようだぜ」
 鉄パイプを構え、左之助は亡者たちの気配を感じとる。
「亡者たちが起こす霊障には、危害加える対象じゃないヤツらは眠っちまうことがあるらしいな。この場所も例外じゃないってことか」
「(てことはオレも標的対象なのか!?)」
 異変に気づきテーブルの下に隠れた誠治は隆光たちの会話を聞き、恐怖感が倍増し銃を握る手がガタガタと震えだす。
 その様子を見たハティが、クスッと笑う。
「このゴーストたちの襲撃対象は、戦う気満々のヤツらばかりのようだな。まぁ・・・運が悪かったとしか言いようがないな・・・お互いに」
 顔を青ざめている誠治に、雷蔵が苦笑する。
「来たようだな・・・よし、行くぞー!」
 真たちはバリケードを飛び越え、ゴーストたちに立ち向かう。
 テーブルの下から出ると誠治も援護射撃をしようと、バリケードの中からゴーストたちの頭を狙う。
「(ある意味あいつらも被害者なんだから、あんまり傷つけたくないんだがな)」
 襲いかかろうとするゴーストの足を、雷蔵はランスで足を狙い動けなくする。
「おっと!あんたらの逝く道ゃそっちにゃ無ぇぜ。生者の命を奪う未練に囚われた化け物ども・・・砕けて散ってナラカに降れ!」
 カガチはバリケード内に入り込もうとするゴーストの顔面をハンマーで叩き割り、ひび割れた頭蓋骨を素手でバキィイッと割る。
 脳を丸ごと掴みグシャッと握り潰し、それでも動こうとするゴーストの大腸を引きずり出し標的の口の中へ突っ込む。
「腹いっぱいになれば永遠に眠れるだろ?それでも食ってな!」
「カガチー♪」
 なぎこがゴーストの潰れた脳の上に飛び乗り、ブシャッと踏みつける。
「えへへ、なぎこも叩いて遊んじゃいます♪」
 肋骨を狙いガンガンッとハンマーで叩き割っていく。
 破裂した内臓が飛び散り、赤黒い血がなぎこの白いドレスを真っ赤に染めた。
「ハーッハハハ!まともでいるという贅沢は後で愉しめぇえ!」
 床を這い襲いかかるゴーストを、隆光がハンマーで殴りつける。
「(くっ・・・来るなぁああー!)」
 心の中で叫びながら誠治は、恐ろしい形相で向かってくるゴーストに向かってアサルトカービンのトリガーを引き、銃弾を撃ち込む。
「やぁああっ!」
 ナースステーションに侵入してきた化け物に、ハティがメイスで殴りつける。
「俺の大切な仲間たちは絶対に傷つけさせない・・・!くらぇえっ、左之助兄さん直伝・・・気合の一撃っ!」
 真は鉄甲をはめた全身全霊を込めた拳で、ゴーストにヒロイックアサルトをくらわし、拳が標的の腹を貫通する。
 腕をゴーストの腹から抜こうとすると、化け物の肋骨が彼の腕を突き刺し、大腸を触手のように伸ばし肝臓部分を貫く。
 パタタッと真っ赤な血が地面に落ちた。
 身体の内から食われるようなブチッブチッという音がする。
「ぐぁあーっ!」
 激痛のあまり真は絶叫してしまう。
「僕に出会ったのが不運だったね。悪いけど、僕は人を襲ったゴーストに容赦ないよ。安らかに眠れだとか、迷わず成仏しろだとか・・・そんな優しい言葉は期待しないほうがいいさっ!!」
 タンカーの上に乗って現れたラッキー・スター(らっきー・すたー)が、真を捕らえている化け物を蹴り飛ばした拍子に、標的の肋骨がベキンッと折れて腸がブチブチッと引き千切れる。
 アサルトカービンの銃口をゴーストに向けて、スプレーショットで無数の弾丸を標的に浴びせる。
「喰らいやがれ・・・気合の一撃っ!」
 床に転がった化け物へ目掛けて、左之助が鉄パイプで気合の一撃をくらわす。
「やっぱこっちの方がランスより扱いやすいな」
 鉄パイプをブンブン振り回し、ニヤッと笑う。
「くそっ・・・これくらいの傷で倒れるわけには・・・」
「まことー、ちょっと頭冷やせ」
 傷だらけの身体のままゴーストたちに戦いを挑もうとする真に、左之助がみぞおちにドスッと蹴りを入れる。
「後は俺たちで片付けてやるぜ」
「こんなに怪我しちゃって・・・今なぎこがヒールで治してあげますね」
 真の身体に刺さったままのゴーストの骨を、なぎこがズブッと抜いてやりヒールをかけた。
「これでもう動けないんじゃないか」
 床に倒れている8体のゴーストたちを見下ろし、左之助はふぅっと一息ついた。