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【2019修学旅行】舞妓姿で京都を学ぶ

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【2019修学旅行】舞妓姿で京都を学ぶ

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 その「もうすぐ」がやってきた。
 1人残された神倶鎚 エレンが前に出る。扇の準備をしているところを見ると、披露するのは、投扇興なのだろう。
 お相手はもちろん、ラズィーヤだ。
 少し遅れてやってきた。
「静香さんを探していたのよ、どこにいったのかしら。ほんとうに困った子ですわ」
 1人座っているエレンに気が付き、傍らに座る。
 ラズィーヤがエレンの膝をセンスでポンッと叩く。
「曲がってますわよ」
 住まいを正すエレンに、
「わたくしと勝負をしたいのでしたわね。戻ってきましたわよ。少し大変だったけど。」
 庭先に車夫が座っている。
「お座敷芸を習って、お花を生けて、踊りも出来たし、こうやってお披露目会にも間に合ったわ。ありがとう、あなたのおかげですわ」
 お礼を言われた車夫は汗だくのまま、頭を下げると足を引きずってどこかに消えていった。
「さて、始めましょうか。わたくしはまだ静香さんを探しに行きますから、一回勝負よ」
 ラズィーヤは口元を扇で隠して笑っている。
「何もかけない勝負は寂しいですね」
 エレンは思い切っていってみる。
「そうね、そういわれればそうですわ。勝ったほうが負けたほうのお願いを叶えてあげるってどうかしら」
 ラズィーヤが提案する。
「えっ、ありがとうございます。」
 エレンは、ことの成り行きが自分の思い描いていた通りだったので、ちょっと薄気味悪い。
「では私から」
 エレンが少し浮かした腰で投げた扇は、桐箱の上に置かれた枕を倒し、落ちてゆく。
 扇の上に枕が載っている。
 その様子を見て、京都育ちの燕が判定する。
「朝顔と思いますわ、7点どす」
 次にラズィーヤが投げる。作法など気にしなさい、サッとした投げだ。
 枕だけ落ちで、扇はそのまま桐箱に残った。
 皆が顔を見合わせる。
「澪標(みおつくし)、11点どす」
「私の勝ちね。エレンさん、何にしようかしら。今は急ぎから考えておきますね、ほほッ、楽しみね。」
 ラズィーヤは立ち上がると、先ほどの車夫が戻ってきた。
「わたくし参りますわ、ごきげんようみなさま」

 ラズィーヤが立ち去ると、その場の空気が一気にゆるんだ。
 三味線のお姐さんも膝を崩す。
「よう頑張りましたなぁ、お稽古からあんな調子どすもんなぁ。みなはんッよく辛抱しましたなぁ」
 姐さんがポンポンッと手を叩くと、京の料理や飲み物が出てきた。
「これは私らからですわ、お酒は、20過ぎた方だけどすえ。あとは無礼講で」
 お姐さんがいなくなった。
 さて、これからがお座敷遊びの本番だ。

10・無礼講

「無礼講といわれても・・・」
 津波は困った顔で続ける。
「もう習った芸は披露してしまいましたし・・・」

 ミルディアがいう。
「もう一度、お披露目会をしようよ。今度は楽しくっ!何事も楽しむべきっだよ!」
「そうですわ、今度は、もっとお座敷っぽくしてみましょう」
 真奈の一言で、『お座敷ごっこ』が始まった。

 お客様を挟むように舞妓が座る。

 一乗谷燕の隣に、岩河 麻紀とアディアノ・セレマが座る。
 麻紀はもう十分やったので、実際には買い物にでもいきたかったが、帰れる雰囲気ではない。
 宮本 紫織の隣にミルディア・ディスティンと和泉 真奈が座る。
 倉田 由香の隣にジュリエット・デスリンクとジュスティーヌ・デスリンクが座る。
 こちらは少々、物足りなさを感じている。
「せっかくの機会なのに。なんだかつまらないですわ」
 ジュリエットは、不満顔だ。
 永夷 零の隣に高潮 津波とナトレア・アトレアが座る。
 「今度は楽しくやろうぜ」
 零の言葉に頷く津波。
 長船 長光の隣に、清良川 エリスとティア・イエーガーが座る。
 真里谷 円紫郎の隣にロザリィヌ・フォン・メルローゼとヴェロニカ・ヴィリオーネが座る。
 ルナ・テュリンの隣には、神倶鎚エレンと、邪馬壹之 壹與比売とアンドレ・マッセナが座る。
 
 さあ、始まりだ。
 
 セレマが燕の腕をとって、座敷中央に出る。
 「とらとらとら〜」、セレマが唄いだすと、他の舞妓さんも合わせて唄う。
 「ちょっと、お座敷芸っぽくなってきましたわ」
 トラ!
 大きな声で燕がいう。
 セレマの勝ち。

 「よし、お客側が負けたら、私が飲もう。なんといっても276才だ。誰にも文句はいわせぬ」
 円紫郎は、目の前の徳利を一気に飲む。
「単に呑みたいだけじゃ」
 零が呟く。

「では、次は、私が」
 津波が前にでる。
「槍!」
 今度は燕の勝ち。

 アンドレ・マッセナが手を上げる。
 「今度はあたしが飲むよ〜。261才だし」
 一気にビールを飲み干す。
 「まて、あたいが呑む。酒をよこせ!」
 叫んだのは、やはり英霊の長船 長光だ。

 英霊はお酒に強いのか、幾らでも呑めるようだ。

 そわそわしていたロザリィヌ・フォン・メルローゼが口を開く。
「わたくし、あれをやってみたいのですわ。紙・・あの、トイレットペーパーを使うゲームですのよ」
 急いで部屋を出ると、2本のトイレットペーパーを持って戻ってくる。
「早く、お客様の体に巻いたほうが勝ちですの」
 ナトレア・アトレアが手を上げる。
「わたくし、やりますわ」
「なんだか楽しそうですわ」
 ヴェロニカ・ヴィリオーネもいつのまにかトイレットペーパーを手にしている。
「それでは始めましましょう
 ティア・イエーガーまでもが、手にトイレットペーパーを持っている。
 巻かれるのは男性・・・・そう、この場には男性は二名しかいないのだ。

 零が津波とナトレアの腕を引っ張る。
「逃げようっ・・・」
 ずる、ずる、っと後ずさりする三人。


 他にも、ずる、ずるっと後ずさりするものもいる。
 紫織は扇をもって、隣室に避難する。枕を持った由香もいっしょだ。後ろから桐箱を持った壹與比売もくる。
「えっと、少しお尻を浮かせて、鉄砲を持つ形で・・・」
 しゅっと扇を投げる。
 由香も真似してみる。
「舞妓さん綺麗だね、って言いたかったのに」
 しゅっと投げた扇は、枕と共にポトンと下に落ちる。
 「花散里1点でございます」
 壹與比売は、さすが1784才だ。
「わたくしは、疲れました。何か甘いものを所望いたします」
 壹與の言葉に、紫織と由香が頷く。
 「京菓子でも買いに行こうか」

「キャー!」
 悲鳴が聞こえる。
 欲望を抑えきれず、ティアが始めてしまったのだ。
「あ、あああああ、ああっ。引っ張りたいですわ。エリスの背中でゆらゆら揺れるアレを引っ張りたくてもうあたしどうにかなってしまいそうですわよ」
 トイレットペーパーとの格闘でふらふらのヴェロニカの手に、エリスのだらりの帯を握らせる。
 反射的に帯をひっぱるヴェロニカ。
 エリスがくるくる回る。
 「よいではないか!ですわ。やっと見れましたわ」
 ティアはすっきりとした顔で、くるくる回るエリスを見ている。


 京都育ちの一乗谷燕は、どこかで見聞きした舞妓遊びを披露している。
「桜さくらって遊びがあるんどすぅ」
 琴に見立てて横たわるお客さんを、さくらさくらの曲に合わせて、触るあそび。
 くすぐったいやら、恥ずかしいやら。

 そんな遊びを始めたらどうなるか分からない。

 実際、度を越えて、遊びが佳境に入ったころ、誰かが叫んだ。
「ラズィーヤさんが戻ってきますよっ!」