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攻城戦・あの棒を倒せ!

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第3章 勝敗の行方

 黄軍が紅軍陣地の固い守りに苦戦していた頃、紅軍のオフェンスは反撃に転じつつあった。
 「……来たな」
 競技開始からずっと、紅黄両軍の陣地の中間地点に光学迷彩を使って潜んでいた黄軍の甲賀 三郎(こうが・さぶろう)は、紅軍の生徒の一団が近付いて来るのを見て呟いた。
 しかし、光学迷彩は、姿は隠せても気配まで隠せるものではなかった。
 「……危険が迫っているような気がします」
 三郎が潜んでいる場所の近くまで来たハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)は、パートナーのクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)に囁いた。
 「私も感じる。近くに敵が潜んでいるのではないかな」
 クレアは、周囲の生徒たちに注意を促した。が、
 「ふん、そんなもの度胸と根性があれば恐れるに足らず!」
 松平 岩造(まつだいら・がんぞう)は、逆に闘志を掻き立てられたようで、他の生徒たちが警戒しながら慎重に進んでいる中、一人で敵陣に向かって駆け出した。味方の生徒たちが止めている暇もない。
 「もらったっ!」
 三郎は茂みから飛び出し、岩造の背中に斬りつけた。黒いペイントが防具から噴き出す。しかし、同時に、クレアの広角射撃が三郎をとらえた。
 「はい、そこの二人アウト」
 審判をしている教官が、安置所の方を指差す。
 「我もですか? 防具に弾は当たっていませんが」
 三郎は抗議したが、
 「盾なら防御として認めるが、光学迷彩はもし当たったのが実弾なら素通しだからアウト。はい、二人とも行った行った」
 と、安置所へ追い立てられてしまった。
 「こっちはオフェンスの人数が少ないんだから、大事に行かないといけないのに……」
 小走りに安置所へ向かう岩造の背中を見送って、クレアはため息をついた。

 三郎が安置所送りになったことを知らず、三郎のパートナーロザリオ・パーシー(ろざりお・ぱーしー)は、黄軍陣地のバリケードの中で、慎重に近付いて来る紅軍の生徒たちを待ち構えていた。
 「そろそろ射程圏内に入るかな……かもーん、お肉ちゃん……」
 やっと攻撃できるとうきうき射撃の機会を待つ。引金に指をかけようとしたその時、ぺちゃ、と何かが頭に当たった感触がした。
 「うわーっ、鳥のフン当たった!?」
 「いや、お前それ、ペイント弾……」
 隣にいた生徒が言う。慌てて頭に手をやると、黒いものがべったりついた。
 「はい、アウト!」
 教官が親指を立てた手をロザリオに向けて突き出す。近付いて来る敵を見るために、バリケードから頭を出していたところを狙撃されたのだ。
 「しまった、光学迷彩使うの忘れてたよ!」
 悔やんでもあとのまつりである。

 「命中確認。移動するであります。今度は左へ前進であります」
 紅軍の金住 健勝(かなずみ・けんしょう)は、ロザリオの頭にペイント弾が当たったのを見て、自分の前で盾を構えていたパートナーのレジーナ・アラトリウス(れじーな・あらとりうす)に言った。
 「はいっ」
 レジーナはうなずく。二人は歩調をあわせて、レジーナが構える盾の後ろに隠れて移動した。
 「もう少し前へ……うん、このあたりで良いであります」
 健勝の合図で、レジーナは盾を掲げたまま素早くしゃがんだ。その後ろで、健勝は銃を構える。
 「……そこであります!」
 バリケードから頭を出していた昴 コウジ(すばる・こうじ)のヘルメットを精密射撃で狙い撃つ。
 「うわ、どこから!?」
 コウジが撃った相手を探す頃には、二人はもう別の場所に移動している。
 そんな調子で、一発撃ったら移動、を繰り返し、健勝とレジーナは確実に黄軍ディフェンスの数を減らして行った。
 「うわ……銃眼作らなかったのは失敗だったわ」
 黄軍の陣地構築のリーダーだった宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は、それを見て頭を抱えた。しかも、
 「女将はん、氷が溶けてますえ!」
 パートナーの山城 樹(やましろ・いつき)が叫んだ。外側のバリケードのさらに外に浅く水を張り、そこを競技開始直前に氷術で凍らせてあったのだが、いくら氷術で作ったとしても氷は氷、紅軍のオフェンスが黄軍のオフェンスを挟撃後に黄軍の陣地を攻撃するという作戦を取ったため、その間に氷が溶けてしまったのだ。
 「かけ直す余力はないよ……」
 祥子はがっくりとうなだれた。