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第6章 女王バチを倒せ!

 屋敷の2階、ほぼ中央に位置する大部屋。
 部屋の内壁はすべてハニカム構造の正六角形で覆われており、成虫間際の幼虫たちが今にも飛び立たんと蠢いている。
 その部屋の中央に、女王バチが鎮座していた。
 腹を膨らませた人間大のハチ。働きバチを産み出す元凶である。
 女王バチを倒さんと、この部屋に最初に辿り着いたのは譲葉 大和(ゆずりは・やまと)だ。
 しかし、彼は苦境に立たされていた。
「……やはり、一人ではキツイ……ですね……」
 数多くの働きバチによって、女王バチは守られていた。
 大和はスプレーショットで目の前の働きバチたちを蹴散らすが、女王までの道は開かない。
 逆に、働きバチの反撃によって、大和は無視できないほどの傷を負う。
 パートナーに頼らず、自らの限界を知りたいがための単独行動であったが、それが裏目に出た。
「自分の限界は……ここでしょうか……? ですが……やられるわけには、いきません!」
 光術を使って目くらましの効果を期待するが、あまり効果はない。
 部屋の端に追い込まれた大和に追い討ちをかけようと働きバチたち。
 その動きが、ふいに止まる。
 部屋の入口から足音が聞こえてきたからだ。
 現れたのはクルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)ユニ・ウェスペルタティア(ゆに・うぇすぺるたてぃあ)である。
「……あれが女王バチか……ユニ……これを持っていろ……」
「はい」
 女王バチを認め、クルードが虫除けに持っていた松明をユニに渡す。
「……ユニ……あまり敵に……近付くなよ……」
「わかってます。クルードさんは心配性ですね」
 最近格闘術を使い始めたユニにそう釘を刺し、クルードが腰に差した刀を抜いた。
「頭を倒して、とっとと事件を終わらせるぜ!」
「援護は任せてね!」
 彼らに並び、ディフェンスシフトで防御力を引き上げたウェイル・アクレイン(うぇいる・あくれいん)が突撃をかけた。
 その後方で、フェリシア・レイフェリネ(ふぇりしあ・れいふぇりね)が蒼く輝く長剣状の光条兵器を手にしている。
 クルードの刀がハチを切り裂き、ユニが火術で焼き払う。
 その横でウェイルが殴りつけるようにハルバートを振り回していた。
 毒針による少々のダメージは、フェリシアの回復によってものともしない。
 ハチたちが彼らの対処に追われて動き出すと同時、大和の横の壁が内側に向かって弾け飛んだ。
「さって、たぶんここら辺に……おお、なんだもう始まってるじゃねえか!」
 壁をぶち破って入ってきた巨漢はラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)である。
 一緒に部屋に入ったパートナーのアイン・ディスガイス(あいん・でぃすがいす)が、女王バチを見て驚く。
「いや! でかい! でかすぎるし!」
「ビビッてんなよ! こっからが本番だ!」
 ラルクのアーミーショットガンがハチを撃ち落とす。彼の後方支援を担当するアインが、接近して来たハチを炎で燃やした。
「唸れ火炎の猛追! 爆ぜよ爆炎!」 
 女王バチを倒しに現れた彼らの猛攻によって、女王を守っていた働きバチが一気に蹴散らされていく。
「くらえ!」
 最初に働きバチの群れを抜けたウェイルが、女王バチにハルバートを叩きつける。
 体ごとぶつかっていくような渾身のひと振りだったが、ウェイルの手に手応えはない。
「くそっ!」
 ウェイルが悔しげな声を出す。
 低空を飛び、いち早く退いた女王バチに、
「……閃光の銀狼の爪牙……見せてやろう……その身に刻め!」
 一瞬で間合いを詰めたクルードの追撃。が、軽い切り傷を与えただけで、やはり致命傷には至らない。
 クルードが眉を寄せ、体勢を立て直す。
 巨体とは裏腹に、女王バチの動きはかなり素早かった。
 室内を飛び回り、女王が時間を稼ぐ。
 その間に、どこからともなく働きバチを呼び寄せ、自らを守る壁を再構築する。
 戦況がふりだしに戻りかけたその時、
「ふふふ、吸精幻夜で体力はばっちりですよ」
 今まで目立たないように動いていた大和が強引に突っ込み、至近距離から爆炎波を放った。
 燃え盛る炎に包まれ、女王バチが甲高い悲鳴をあげて上空に逃れる。
 直撃を受けたことで冷静さを失い、女王はなりふり構わず打って出た。
 働きバチの数倍の大きさはある毒針を構え、目に付いた相手に狙いを定める。
「おっと、その針には刺される訳にはいかねぇんだよ!」
 猛スピードで突っこんで来る女王バチに立ち向かうように、ラルクが銃口を向けた。
「雷鳴の弾丸を撃つ! サンダーバレット!」
 轟雷閃。雷を纏った弾丸が、女王バチを貫いた。
 ラルクの一撃によって、女王バチは地に落ちる。まだ息はあったが、女王は両の羽を失っていた。
 素早い動きがなくなれば、あと女王バチが脅威になることはない。
 働きバチとは、ここに来るまでの間にうんざりするほど戦った。
 彼らが女王バチにとどめを刺すまで、そう時間はかからなかった。