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黒羊郷探訪(第1回/全3回)

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黒羊郷探訪(第1回/全3回)

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第7章 谷間の宿場

 草原地方を抜けて、山が迫ってくると、夜ならばちかちかと、幾つかの明かりが見え始める。
 昼であったならば、わからないだろう。
 何故ならばそれらは、山間のほんの小さな隙間に建てられた宿であったり、あるいは山そのものをくり貫いて作られた家であったり、そういった山の民の住処からもれ出す明かりであるからだ。
 ここは谷間の宿場。
 ヒラニプラ山奥の辺境へ至る入り口とされている場所。
 どこからとなくやって来る旅人達が、ひと時の静かな安らぎに浸る場所、でもある。
 そして一歩間違えれば、谷間の恐ろしい住人の餌食とされるとも知らず、その巣穴へと迷い込んでしまう場所でも……


7-01 山鬼の家

 プリモ温泉を発った霧島 玖朔(きりしま・くざく)
 彼は真っ直ぐに、谷間の宿場を目指した。
 もっとも彼は、谷間の宿場も越えて、さっさと目的地の三日月湖に合流しようとしたのだが……
 今日、同行するのは、パートナーの一人である伊吹 九十九(いぶき・つくも)
 平安時代に存在したと言う鬼の王・酒呑童子。
 英霊として甦ったその姿は、美しい女性。しかし確かに、角がある。(むむむ胸)
 彼女が、谷間にあるという山鬼の宿に行きたい、と言ってきたのだ。
「この世界にやって来て自分以外の鬼を見た事が無いのだが……」というのが、九十九の心情。
 山鬼は、旅人と襲って女や財宝を持ち去っている、との噂もある。
 だが、彼らと打ち解けるために、日本酒まで持参。あとは、霧島にこき使われるのが宜しくないが……と思いつつ、共に目的地へと向かう。
 一度、草原狼の群れに遭遇したが、霧島と九十九の敵ではなかった。
 それ以外に変事はなく、日がとっぷり暮れる頃、二人は谷間の宿場へ達した。

「色々と、あちこち明かりが見えるわ。山鬼の家は、どれだろうね?」
「うむ……話に聞いていたのは三つだが、実際には十、二十、……いやもっとあるだろうか。
 どれに泊まってもいいだろうが、危ない宿もありそうだな」
「私は、山鬼のところがいいわよ。そのために来たんだから」
「山鬼の家も、命の保障などはしてくれそうにないがな……」
 二人は話しつつ、暫し歩く。
 先程は、ちらちらと小さな明かりばかりが多かったが、明かりの数はもっと増え、ばかでかいホテルのようにそびえる影もある。
「あれは、ラブホテルだろうか」
「けばけばしい明かりだね……とりあえず、遠慮しとくけど」
「……。
 あの、いちばん数の多い明かり。山の影にそって規則正しく並んでいる。あれがおそらく、鬼の牢獄亭だろう」
 鬼の牢獄亭を経営するのは、鬼……のゆる族、だ。
「反対側の、随分高いところにあるあれは……窓が六角形をしている」
「魔女バルババの家、ね?」
「おそらく」
 道は、暗い。
「いてっ」
「なんだ。看板あるんだわ」
「……」
左(西)三〇〇メートル:鬼の牢獄亭
右(東)五〇〇メートル:山鬼の家
右(東)一キロ:魔女バルババの家 ロープウェイお一人20G
「ここから東。行くとしましょうか」
「ああ」



 入り口では、山鬼達がうやうやしく、二人を出迎えた。
「イラッシャイオニィィ」
「二名様。オニィィィ」
 山鬼は、人のおとなと変わらない背丈だが、随分顔が大きく、長細く、黄色い真ん丸い目が張り付いている。
 和風だか洋風だかわからないような(やっぱりパラミタ風なのだろうが)一枚の着物を着て、体は一様に赤茶けている。
 うな垂れたような髪がべったりくっついて、その上には、二本の角。
「こいつらが、鬼……山鬼か」
「まあ、角はあるじゃないか」
 一応、仲間じゃないのか? と言ったふうに聞こえたが、九十九は少々落胆した様子でもある。
 ともあれ、奥の座敷部屋へ案内された二人。
 他にも幾つも座敷部屋があり、この部屋の先にもずうっと通路が続いていた。岩場をくり貫いた中に建てられた木造建築らしかった。
 ほのかに温かく、泊まるにはよさそうだ。
 他に、客がいる気配はない。注意深く耳を澄ましても、誰かの声が聞こえてくることもないし……。
 気のよさそうな鬼達で、今のところ怪しい様子はない。
「食事ダゾ。オニィィ」
「食べ、食べロヤオニィィィ」
 山の幸だ。
「肉。何の肉だ?」
「ヒ、ヒラニプラデカ鳥之肉オニ。旨ェゾ。オニィィ」
「うむ。……美味だ」
「ところで山鬼? 一体この世界で鬼というのはどれ位居るのか」
 九十九が尋ねる。
 今回、彼女が山鬼に会ったら聞いてみたかった質問だ。
「ヌオォ。鬼之定義ッテモノヲ考エテミテ欲シイオニ」
「……随分と難しいことを聞くのね」
「オマ、オマエハ何処出身ダオニ」
「私は、平安時代の日本。諸々の説があって……」
「ニホ、ニホンデモ外国デモ同ジオニ。一ツ言エルコトダガオニ、鬼トハ元々、ヒトデアッタトイウコトオニ」
「ヒト……人間?」
「オオ、オークヲ知ッテルオニ? ア、アレモ鬼之一種ト言ワレルコトアルオニ。
 アア、アレハ元々、ニンゲンヤニンゲン近イ種族カラ生ミ出サレタ言ワレテルオニ。
 マァ、ソウイウコトダケジャナイオニ。コレ、突キ詰メルト哲学的ナ問題ニナルオニ……」
「まあ、……飲もうか」
 九十九は、日本酒を取り出した。
「美味いのを、持ってきたわ」
「イイネ! オニィィ。俺達山之地酒モ、ノノ飲メオニ」
「ありがとうね。話、聞かせてくれて」
「ナァニ。オマエモ角アルオニ。仲間オニ。トリアエズ、ソウイウコトデイイオニ難シイ話要ランオニ」

 それから夜も遅くなって、新しい客が来た。
「やっぱり、あれだけ寄ってると、随分遅くなっちまったな」
 あんまり遅いと、マトモな宿には泊まれそうにないから、一番怪しげな宿にしよう。
 ということで。
 ……経営者の評判が怪しいが、怪しさならパラ実のオレ達の方が上だぜ。
 そう、もちろんこの男、国頭 武尊(くにがみ・たける)だ。
「今晩は……こんな遅くに、すみません」
 丁寧に挨拶する、シーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)。内心は……ちょっと、怖い。「(正直なところ、もう少し普通のところに泊まりたかったです。)」
「イイオニ。山鬼之家何時デモ空イテルオニ。
 ンン? オマエモカオニィィ」
「あったりめーだ。又吉様を舐めんじゃねーぞ」
 又吉なりに挨拶する、猫井 又吉(ねこい・またきち)
「三名様。オニィィ」
 霧島達のとなりの部屋に案内され、パラ実らしくどんちゃん騒ぎ出す国頭達。

「……ん? となりも客か。少し騒がしくなったな」
「もう酔ってるみたいだね」
「オマエラ酒強イオニ。山鬼カナワナイオニィィ」
「九十九がいちばんだな。俺は、さすがにそろそろ眠くなってきたか」
 山鬼の目が一瞬、ぎらりと光った。
「寝床、行クオニカ? 風呂モ用意シテアルオニ」
「いいねえ。九十九、行くか?」
「……私はもう少しお酒でも。
 ところで、山鬼。もう一つ聞いてみたかったんだけど、ここで悪事や人食いをしてるとは本当なの?」
「……」
 山鬼は、それには何も答えずに、行ってしまった。
「気を悪くしたかな」
「……そんなふうには見えないものな」
 静かに、酒を飲む、霧島と九十九。
 となりで騒ぐ国頭達の声だけが、響いていた。



 山鬼の台所。
 暗がりで、包丁を研ぐ山鬼。
「オイ……アイツラ、知ッテタオニ。殺ッタルシカナイオニ」
「危険ヲ承知デ来タオニ。アイツラ強イカモ知レナイオニ。今、若衆皆、戦イニ出テルオニ。俺達ダケデ勝テルカオニ?」
「眠ッテイル間。眠ッテイル間ニ殺ルオニ」
 暗がりで、山鬼の黄色い目が光った。



「ナニ? アイツラ、イナイオニ……」
「アイツラ、逃ゲタオニカ? 探スオニ、絶対ニ逃ガスナオニィィ」
 だが、霧島達のが、一枚上手だった。
 霧島は鬼の目が光ったのを見逃さず、台所での会話に聞き耳を立てていた。
 捜索に乗り出した霧島は、座敷部屋の延々と続く通路を突っ切ったところに、扉の施錠された怪しい扉を見つけていた。
 一方、国頭もトレジャーセンスを発揮し、酔いつぶれて眠り込んだふりをすると、夜中、抜け出し、通路の奥へ……。
 霧島と、はち合わせた。

 この奥だな……
 この奥に……
 霧島の頭に、女が浮かぶ。ハーレム……たくさんの女に埋もれる、霧島。
 国頭の頭には、財宝が浮かぶ。宝の山に埋もれる、国頭。

 ピッキングを使い、施錠された扉を開錠する霧島。
 扉の向こうにまた扉。
「……」
 国頭もピッキングを使用。
 さすが山鬼の家に堂々泊まりに来た漢達だ。
 だが、扉の向こうにまた扉。
「……」

 ひた……ひた……山鬼達がこっちへ来る。
 通路は一本、迫り来る山鬼。逃げ道は、……ない。



7-02 魔女バルババ

 プリモ・リボルテック(ぷりも・りぼるてっく)ジョーカー・オルジナ(じょーかー・おるじな)、目指すは魔女バルババの家。
 バルババの家……
 旅行ガイドにもある通り、切り立つ谷間にぶら下がった巨大アシナガバチの古巣を利用して作られた宿だ。
 谷間の宿場では、最も高所に位置する。
 おんぼろロープウェイが谷の下から伸びており、これに乗って上へあがる。
 ロープウェイは、蜂の巣に直通。
 巣穴は谷の下を向いているわけだが、六角形の窓が取り付けられてそこが客室になっているらしい。
 その中で、窓のないがらんどうの一つの穴にがらがらとロープウェイが入ると、巣の内部に作られている上階に達した。
 腰の曲がった、頭部の大きな老婆が出迎える。
「おうやおや。よく来たねえええ。
 可愛いお嬢ちゃんだこと。さああおいでな」
「こんばんはー」
「こんばんは……(大丈夫であろうか)」
 中は温かい。古い灰色の壁、床。ところどころ青みが入って見える。かさかさしている。
 無造作に、暗い灯かりや、意味不明な抽象画やら絵葉書やらが掛けられている。
 生きものの気配はなかった。
 上階は一続きの広間になっており、さほど奥行きはない。
 真ん中にテーブルがあった。
「まあ座りな。疲れたじゃろう?
 まずは蜂蜜ジュースでも飲んで、くつろげや。
 下がぜんぶ、宿泊部屋になっとるで、あとでどの部屋に泊まりたいか、選べばいいに」
「蜂蜜?」
「そうだよ。あらゆる蜂はわしに従ごうとるでな。
 ほっほほ。ここにはおらんで心配しんでええよ。わしが呼べば、すぐに飛んどくるのじゃわい」
 そう言うと魔女も腰を下ろし、蜂蜜をずず、と啜った。
「お嬢ちゃん。わしん宿来てくれてありがとね。
 山鬼の方に客をとられての、潰れかかっとるんじゃき。ほほ。客室から見渡す景色は絶景ぞ。窓は開けちゃいけんよ? 落っこちちゃうからにゃ。ほっほほ」
「えーと、その山鬼のことで何か知らない? おばあさん」
「あすこには泊まらん方がええよ? きゃつら、人を食うで」
「じゃあ、潰してしまわない? おばあさん、協力してくれないかな」
「ほっほほ。お嬢ちゃん、可愛い外見に似合わず、言うね。言うね。
 まああ、蜂蜜のんで、今夜は休め休めや」
 プリモとオルジナは、下の階へ下り、巣穴を一つ一つ覗いてみる。
 天井がドア、底が窓になっており、ふとんが詰め込まれている。一室に一人泊まれるシステムだ。
「なんだこれ? カプセルホテルを縦にしたようなもの?」
「これじゃ人来ないであろうな……」
「寝返り打って窓割ったら、落ちて死んじゃうよ」
「……プリモ」
 見ると、部屋の底に人骨らしきものが転がっている。
「この部屋もだ」
 バルババが下りてきた。
「うまそうな餌が来たでな。食べさせてあげるからな。
 ……お前ら何してる。はやく部屋に入らんか」
 魔女は、人のおとな二人分くらいの大きさの巨大な白い幼虫を引き入れてきていた。
「……てい」
 プリモはスパナを投げつけた。
「いてっ。こら、何処行くね? 戻りいな。可愛い餌子ちゃん!」
 プリモとオルジナはロープウェイに乗り込むと、素早く逃げ出す。
 遠ざかっていく巣穴の中から魔女の口笛が響いて、谷間の夜空に羽音を響かせ、巨大な蜂が舞い降りてきた。
「ひえー」
「これじゃ人来ないであろうな……」



 その頃、山鬼の家では……
「やむを得ないか」
 霧島。装備一式のメンテナンスはすでに整っている。
 国頭は、アーミーショットガンを取り出した。
 外が、何やら騒がしくなる。ぶんぶん唸る羽音。
「蜂ダオニ。蜂ガ来タオニ!」
「キャァァァ! イデ! 刺サレタオニ、オニィィィ…………」
 霧島と国頭は顔を見合わせる。
 霧島と九十九、国頭と又吉も。シーリルは、不安そうだが……。
 だっ。
 武器を手に、一斉に踊り出す。
 発砲する二人。
「何が山鬼だ。又吉様を舐めんじゃねーぞ」
 又吉の木刀が山鬼を叩きのめす。



7-03 敗残兵

 時は少し遡り、夕刻のこと。
 本営を出て、遅れて到着するノイエ・シュテルンのため、現地での情報収集にあたっていた香取 翔子(かとり・しょうこ)
「ほんと、やることが山積みね」
 今回は、ノイエ・シュテルンの一員として機晶姫クレア・セイクリッド(くれあ・せいくりっど)を連れてきている(香取とクレアは主人とペットの関係)。
 ウルレミラでは、物珍しさに辺りをウロチョロ、羽目を外し過ぎる彼女を殴り、
「うう……痛いのだ……」
「任務中」
「だーって、他の教導団の皆は、ほら、デートとかお買い物とか、カフェでくつろいだり、etc...」
 そんな彼女にもう一発食らわし、
「……」
「うう……(涙)」
 無言で引き摺り。
 香取はその後、ロンデハイネ部隊長への挨拶や、宿の手配を取るため、谷間の宿場方面へ向かったのだった。
 そして彼女はここで思うわぬ隊と遭遇することになる。
 前日、教導団本隊が谷間を抜ける際に交戦した山鬼の追っ手に対し、殿(しんがり)を務めていたロンデハイネの部隊。その後、連絡が取れていなかった。
 彼女が見たものは……
「香取さん! 香取さんだ……」
「我々は、ロンデハイネの部隊の者です!」
 違いなかったが、彼らの身に付けている服はぼろぼろで、肩の鎧や、馬にも、矢が突き立っている。
 そして、ロンデハイネの姿はなかった。
 彼らが言うには、続々出てくる山鬼の追っ手をあらかた蹴散らしたところに、同じ山鬼の新手が現れ、散らばった兵を収拾したという。
 この新手は非常に統率が取れており、戦闘を続けて疲れが見え始めていたロンデハイネの部隊に猛然と襲いかかり、ロンデハイネは円陣を組み戦ったが、その勢いや凄まじくたちまち崩され隊はばらばらになってしまったのだと。
「で、隊長と連絡は?」
「取れておりません……」
「携帯とかないの?」
「はっ。ロンデハイネ部隊長以下我々は、携帯の使い方をよくわかりません」
「あのなーっ」
「ひえっ」
 ……ロンデハイネ部隊長に携帯の使い方を教えておくんだった。それは最優先任務だった。香取は思ったが、ひとまずは部隊をまとめた。
 間もなく日が暮れる。
 山鬼の姿はない。
 山鬼の家……に行ってみるか、と思ったが、香取には何となく嫌な予感がした。兵の数は、二十に満たない。本営に行けば、ソフソとゾルバルゲラの隊が無傷で残っている。
 山鬼の家、と言ってみて香取は、宿の手配のことも思い出した。
 クレーメックの携帯にかけても、電波の届かないところにある、と出るばかり。香取はこれにもまた、嫌な予感。
「何だか、状況がまずくなってきてる気がするわね……」
「ねえ、翔子さん?」
 クレアが心配そうに語りかける。
「ワタシ、ノイエ・シュテルンのために頑張る翔子さんのために、特製シャケおにぎりを作って」
「任務ちゅ……」
 香取は拳をふりあげそうになったが、自分を励まそうとしてくれているクレア・セイクリッドの眼差しを見て、取りやめた。
 それに……
「香取さん……ごくり」
 シャケおにぎりを見つめるロンデハイネ兵。
 ……えーい男どもは。
「ロンデハイネ隊長は今頃……」
「は、はっ! その通りであります! 我々、夜を徹して隊長を探し出し、憎き敵兵に遭遇しましたら最後の一兵まで戦うつもり……」
「……そうね。えらいわ」
(だけど……)
 辺りの山間の其処此処に、宿場の明かりがともり始めている。日は暮れたのだ。仮に山鬼の家に行ったとしても、先の戦いを聞く限り、この人数では勝てない。
 香取は状況から判断し、兵を一旦本営まで引き揚げることにした。



7-04 囚われた男

 混乱に乗じて宿の山鬼を討ち果たした霧島、国頭、プリモ。蜂は、山鬼をひとしきり刺すと、谷山の暗闇へと去った。
 と、どうも外が騒がしい。
 こんな夜更けに、大勢? 客だろうか?
 いや、しかしいずれにしても……
 外で倒れている山鬼を見つけたらしく、何らや声が聞こえてくる。
 それはすぐに怒声に変わり、外は騒然となる。「探シ出セィ!」「オニィィィ!!」
 中にも、入ってくる音。
 山鬼の、おそらく何らかの事情で外へ出ていた者達が、帰ってきたのだ。
 どたどたどた。
「ココ、ココニモ沢山沢山倒レテイルオニィィ」
「オオ、オイ蜂オニ。デカ蜂乃死骸ガ落チテルオニ!
 バルババノ仕業オニカ?!」
 奥の部屋の押し入れに隠れた霧島、国頭、プリモ達。
「……どうする?」
「討ってしまうか」
「しかし、一体どれだけの数が外へ出ていたんだ?」
「こまけぇことはいんだよ」
 国頭は、アーミーショットガンを出した。
「……待て」
 山鬼達が、近くの通路まで来ている。
「オオ、オ頭、ドウスルバルババ之家攻メ込ムオニィィ? 仲間之カタキトッタルオニィィ」
 山鬼達がしんとなる。
「……お頭?」
 ひときわ、大きな足音が聞こえてくる。
「オイオマエラ、ヨク見ロヤ。ウチン中ン山鬼之死体、蜂ン刺サレタンジャネダ。
 ゴレ、皆鉄砲傷ダ。オイァ、アイツ連レデゴイダァァ!」
 そっと、押し入れから覗く、霧島と国頭。戸口の向こう暗がりの中に、真っ赤な、巨大な鬼の足が見えている。
「ねえ、皆。押し入れの天井から、屋根裏に出れるよ?」プリモが、何か押し入れの中でごそごそやっている。「よっと……」
 どたどたどた。
 外へ行った山鬼達が、再び中へ戻ってくる。誰か連れてきたようだ。「あれは確か……」「ん?」
「オイゴルァ、答エヤ。偉ゾナ髭之野郎。ゴレ、オマノ仲間ガヤッタデネガ?」
 どんっ。山鬼のボスらしき足元に転がったのは、ロープでぐるぐる巻きにされた、部隊長ロンデハイネであった。