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みんなで楽しく? 果実狩り!

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みんなで楽しく? 果実狩り!

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●これが、イルミンスールの採り方ですぅ!

「エリザベート、おまえ一体どんな仕掛けを施しおったのじゃ!」
 その現場では、突如爆発したゴーレムを指差して、アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)が抗議の声をあげていた。
「あれぇ? おかしいですねぇ……」
 エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)が、自らが生み出したゴーレムの一体に近寄って、身体に刻まれた文様を読み上げていく。
「……あ! 『こけたら爆発』って書いてあるですぅ。そんなことを前に書いた気がしたのを思い出したですぅ。そのままにしちゃってたんですねぇ」
「ですねぇ、じゃないわこのたわけ! そのような設定を付与してどんな需要があるというんじゃ!」
「可愛くないですかぁ?」
「可愛くないわ! そんな危険なゴーレム、さっさと消してしまえ!」
「ぶー、超ババ様はいちいちうるさいですぅ」
 文句を言いながら、エリザベートがゴーレムに刻まれた文字の一部を消せば、途端にゴーレムが土に還る。
「だいだいおまえは何を考えておるのじゃ。人間が精魂籠めて大切に育て上げた果実、人間の手で摘み取るのが当然じゃろうに、おまえとくればそのような……」
「そんな面倒っちぃことしてたらカンナに勝てないですぅ。……こうなったらあなたたち、ゴーレムの様にキリキリ働くですぅ!」
 アーデルハイトの説教を無視して、エリザベートが近くで作業をしている生徒へハッパをかける。
(やれやれ……ミーミルが来て少しは成長したかと思った私が間違いじゃったかのう……はて、ミーミルはどこに行ったのかの?)
 アーデルハイトが辺りを見渡しても、ミーミルの姿はなかった。
(……ま、ええじゃろ。ミーミル、色んな者たちと触れ合って、色々学ぶがよい。今頃どこかを巡っておるおまえの『姉妹』たちのようにな……)
 心にぽつり、と呟いて、アーデルハイトが作業を再開する。

「よし、採れた。……にしても、これだけ実っているなんて見たことがないな」
 果実を手にして台から降りた高月 芳樹(たかつき・よしき)が、アメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)に採った果実を手渡しながら呟く。彼の視界には日本の秋を代表する果実に加えて、諸外国の果実、さらにはまるで見たことのないような果実までもがたわわに実っていた。
「そうですね。……これも、ミーミルがもたらした影響、なのでしょうか」
 果実を受け取ったアメリアがそれを籠にしまいながら呟く。
「ミーミルは果実の収穫なんて、初めてでしょうね。楽しんでいるでしょうか」
「さっき、何人かと一緒に歩いていたみたいだから、問題ないと思うぞ? ……しかし些細なことで張り合うなんて、エリザベート校長もまだまだ子供なところが――」
「だぁれが、子供なんですかぁ?」
 その声に芳樹がびくっとして振り返ると、そこには不敵な笑みを浮かべたエリザベートの姿があった。
「こ、校長! ああいやそのええと、これはですね――」
「言い訳は聞きたくありませぇん。キリキリ働くかここの養分になるか、選ばせてあげるですぅ」
 何の予備動作もなく掌に炎を生み出したエリザベートからただならぬ気を感じた芳樹が、戦慄と少しばかりの尊敬を胸に静かに頭を下げる。
「誠心誠意働かせていただきます」
「よろしいですぅ。では、私はこれで失礼するですぅ」
 言い残してその場を後にするエリザベートが完全に見えなくなってから、芳樹がまだ警戒するように小声で呟く。
「蒼空の校長はなかなかのやり手と聞くが……エリザベート校長もこれはこれで、生徒を掌握しているのだろうか?」
「……どうなのかしら。アーデルハイト様やミーミルに、期待したいところね」
 お互いに顔を見合わせて一息ついて、二人が作業を再開する。

「こうやって、割れ目の両側を踏んでちょっと力を入れると……」
 そう言ったはるかぜ らいむ(はるかぜ・らいむ)の両足の間には、イガに包まれた栗の実が挟まっていた。そして、らいむが言葉通りに足でイガを押さえつけるように踏めば、中の実がぽん、と飛び出してくる。
「ほら、穫れたっ! こうすれば痛い思いしないで簡単に取れるんだよ」
「すごいですぅ〜。私もやってみるですぅ」
 その光景を目の当たりにしたエリザベートが、私もとばかりに落ちていた栗を踏みつけるが、その度に栗の実はころころ、と地面を転がってしまう。
「大人しくするですぅ」
 エリザベートが踏んでは追いかけ、踏んでは追いかけを繰り返す様は、まるで毛玉を追いかける子猫のようで、それだけなら可愛くもあったのだが。
「ちょこまかと小賢しいですぅ。これで焼き払ってやるですぅ!」
「わー、待って、待ってったら!」
 苛立ちを募らせながら掌に炎を具現させたエリザベートを、らいむが慌てて止める。
「あなたに出来て私に出来ないはずがありませぇん! 私が出来るようになるまで、あなたには付き合ってもらうですぅ!」
(つ、付き合うって、ボクは何をすればいいの? とりあえず、コツを教えればいいのかな?)
 そうしてしばらくの間、エリザベートにイガの剥き方を実践するらいむなのであった。

「エリザベート校長、御神楽校長と勝負なさっているそうですけど、何か罰ゲームなど決めていたりするんですか?」
「罰ゲームですかぁ? そういえば何も決めていませんねぇ。カンナを勝負で打ち負かすことしか考えてなかったですぅ」
 四つん這いの姿勢になった城定 英希(じょうじょう・えいき)の背中にエリザベートが足を乗せ、木の枝に成った果実を採っている。見ようによっては、ごく一部の層に「ちくしょう! ちくしょう!」と血涙を流されそうな光景であった。……本人にしてみれば、「あなた、ちょっと台になるですぅ」というエリザベートの発言に半ば強制的に従わされただけなのであるが。
「甘いですね校長。打ち負かすのでしたらとことんまでやらないと。……そうですね、もしイルミンスールが勝ったら、蒼空学園の校旗を一週間、校長の肖像画に変えるなんてのはどうでしょう?」
 英希の提案に、エリザベートがとても愉快そうな笑みを浮かべる。
「いいですねぇ! ……見てるですぅカンナ、あなたの学校は私が乗っ取ってやるですぅ」
「……ま、もし蒼空が勝ったら、イルミンスールの校旗が御神楽校長の肖像画に変えられてしまうことになるでしょうけど」
「そ、それは絶対に嫌ですぅ! あのお凸がイルミンスールに掲げられでもしたら、みんな眩しくて干上がってしまうですぅ!! あなた、キリキリ働くですぅ!」
 ハッパをかけるエリザベートに頷きながら英希は、してやったりといった表情を見せる。……その表情がまるで踏まれて悦んでいるように見えてしまったのが、幸か不幸かは今の段階では定かではない。

(……よし、これでこの辺りの果実は一通り収穫したな)
 背負っていた籠を地面に置いて、レオナーズ・アーズナック(れおなーず・あーずなっく)がふぅ、と息をつく。もう冬も近い季節ながら、日差しの温もりは未だ健在であり、レオナーズの額にもじんわりと汗が浮かんでいた。
「おお、ご苦労じゃのう。ほれ、これで汗でも拭くがよい」
「あ、ありがとうございます」
 現れたアーデルハイトがタオルを差し出すのを、レオナーズが有難く受け取る。
「すまんのう、エリザベートのワガママに付き合わせてしもうて」
「いえ……果実の収穫なんて経験、そうそう出来ませんから。これはこれでいいかなって思ってます」
「ほう、なかなかよい姿勢じゃの。その気持ちを忘れずにおれば、おまえもやがては一流の魔法使いになれるじゃろうて」
 アーデルハイトの言葉に、思うところがあったのかレオナーズが視線を落として呟く。
「……努力をすれば、俺でも立派な魔法使いになれるでしょうか」
「うむ……非情な話じゃが、魔法は才能あってこそという面もある。エリザベートはその最たるものじゃが、いかんせん性格に難アリじゃからの。心を鍛えねば、いくら強大な力とて使い方を誤る。心が強ければ、力を何倍にも出来る。……おまえの言う『立派な魔法使い』とはどういう姿なのか、もう一度よく考えてみるがよい。そうすれば、おのずと為すべきことが見えてくるじゃろうて」
 言ってアーデルハイトが、手を振ってその場を後にする。その後ろ姿を見送りながら、レオナーズはアーデルハイトの言葉を心に思い浮かべていた。

(……この果実は何だ? それに、こっちの果実は何なんだ?)
 果実の成る木々の間を、リア・リム(りあ・りむ)があっちこっちと動き回りながらその実や木々を興味深く眺めている。
(初めての果実狩り……うん、来れてよかったな)
 熟した果実に微笑を浮かべながら、リアがそれを籠にしまう。
「リアちゃん、随分とゴキゲンですね。楽しんでいるようで何よりです」
 そこへルイ・フリード(るい・ふりーど)が、顔面に暑苦しいくらいの満面の笑みを浮かべてやってくる。
「ソ、ソンナコトナイヨ? ボクハイタッテフツウダヨ?」
「またまたそんなこと言っちゃって、嬉しいのが丸分かりですよ」
「……黙れこの筋肉スマイル!!」
 ルイの顔面に、リアのストレートが炸裂する。
「リアちゃん、怒るのはよくないですよ。さあ一緒に笑いましょう、はい! スマイル!」
「……怒らせたのは誰だと思ってるのかなあ!?」
 なおも二発、三発とパンチが叩き込まれるが、ルイは変わらず笑顔を浮かべるばかり。
「こらー、ケンカはだめですよー。言うこと聞かないと眠ってもらいますよー」
 リアの背後から七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が、二人の仲裁に入る。リアも本気というわけではないので、すぐに手を引っ込める。
「す、すまなかった。つい自身を見失ってしまった」
「いつものスキンシップのつもりでしたが、勘違いさせてしまったようですね」
 ルイの言葉にリアが険しい視線を向けるが、ルイはやはり笑顔を浮かべたままであった。
「そうでしたかー。でも、せっかく呼んでもらったんだから、収穫を楽しみましょうねー」
「そうですぅ。口を動かす前に手を動かすですぅ」
 歩の後ろには、エリザベートが見事なまでに偉そうな態度で、見事なまでに話の流れを断ち切って立ち尽くしていた。もちろん自分のことは棚どころか遥か高くに上げている。
「あっ、エリザベートちゃん、初めまして! あたし、七瀬歩です! よろしくお願いしますねー」
 エリザベートに振り返った歩が頭を下げる。エリザベートは歩を見て、持っていた籠の中にかなりの量の梨が詰まっていたのを確認して、切り出す。
「いい心がけですぅ。私、あなたのこと気に入りましたぁ。一緒に付いてくるですぅ」
 にっこり微笑んだエリザベートに付いていくように、歩が歩き去っていく。
「あそこに成ってる梨、私には届かないですぅ。代わりに採ってほしいですぅ」
「分かった、ちょっと待っててね!」
 エリザベートが歩に頼み、歩がそれを実行する。その光景は傍から見れば、とても微笑ましい光景に映っていた。
(あ、あかん! このままじゃ歩ちゃんが校長に日が暮れるまで働かされてまう! そうならんように助けんと! ……んで、その後で楽しく果実狩りができたらええな♪)
 その光景に危機感を感じたか、日下部 社(くさかべ・やしろ)が向かっていく。もっとも本人は、ちょっと気になっていた歩を追いかけていた途中であったのだが。
「校長! 手伝わせるのはええんですけど、他学校の生徒を誘うのはどうかと思うんですよ」
「社さん、こんにちは! あたしは別に構いませんよ? エリザベートちゃんのお手伝いができるなら」
「そう言ってくれてるからいいのですぅ。来たついでですからぁ、あなたも手伝っていくですぅ」
「え、お、俺もかぁ?」
 エリザベートに言われてキョトンとする社に、歩の柔らかな笑顔が向けられる。
「一緒にお手伝いしましょう、社さん」
「……お、おう! 俺に任せとけ!」(歩ちゃんと一緒に果実狩りできるし、ま、これはこれでえっか!)
 言って社と歩がエリザベートに連れて行かれる。その光景は傍から見れば、エリザベートが策を弄して二人を丸め込んだかのように見えなくもない。
「さあ、ワタシたちは一旦引き上げますよ。リアちゃん、これを持ってください」
「ん? これは何だ?」
 ルイから調理器具の入った入れ物を渡され、リアが首を傾げる。
「せっかくですから、ここで採れた果実を調理して振る舞おうと思うのです。今から準備しておけば、一通り収穫が終わる頃には出来上がっていることでしょう。さあ、行きますよ」
 そう言って歩き出すルイの背中を見つめて、リアは先程去っていった女の子のことを気にしつつも、その後を追いかけていった。

「はふぅ……よく働いたらお腹が空いたですぅ……」
 一人農園を歩いていたエリザベートのお腹が、きゅう、と鳴る。そこに、何故かとても香ばしそうな匂いが漂い、エリザベートの鼻腔をくすぐる。
「いい匂いですぅ〜。こっちですかねぇ……」
 ふらふらと歩いてきたエリザベートが辿り着いたそこには、まるで見たことのない果実が山と盛られていた。
「ヒャッハァ〜! 俺様愉快な果実見つけちまったぜぇ〜! ……ふんふん、焼き芋の匂いがするぜぇ〜。林檎も柿も栗も梨も危なくて採れねぇが、これなら俺様いくらでも採ってやるぜぇ〜!」
 南 鮪(みなみ・まぐろ)がゴキゲンな口調で、成っていた果実を次々と籠へ放っていく。確かにその果実からは、どうしてか焼き芋の匂いがするのであった。ミーミルの力、恐るべし、である。
「美味しそうですぅ……これ、食べていいですかねぇ?」
「んぁ? よく分かんねぇけど、いいんじゃねぇか? まさかこんなものまで成ってるなんて思わねぇだろうし、食っちまえば証拠隠滅よぉ〜!」
「……そうですよねぇ。じゃあ、いただきますですぅ!」
 言うが早いか、エリザベートが果実の一つにかぶりつく。
「はむはむ……美味しいですぅ〜。何個でも食べられそうですぅ〜」
 微笑ましい表情で、エリザベートが次々と果実を平らげていく。……流石のエリザベートも、焼き芋の魔力には抗えないようである。
「ふわぁ……たくさん食べたら眠くなってきたですぅ……すぅ、すぅ……」
 ぱたん、と仰向けに伏せたエリザベートから、早くも寝息が聞こえてくる。
「ヒャッハァ〜! これは願ってもないチャンスだぜぇ〜! 『青い果実』は俺様のモノだぁ〜!」
 邪悪そうな笑みを浮かべた鮪が、種モミ袋を手にエリザベートへ近付いていく――。

「ジュレ、こっちは準備オッケーだよ! 折っちゃわない程度に派手にやっちゃってね!」
 果実がたわわに実った木の下で、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が周囲に敷いたシートの一枚を持って意気込む。
「……難しいことを言ってくれる。そもそも、ここまでする必要あるのか?」
 ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)の嘆きに、カレンが「もちろんだよ!」と頷いて続ける。
「向こうはきっと、あっという間に果物を取っちゃうすごい機械を持ってきてるんだよ! 魔法が使えないボクたちに出来ることは、これしかないんだよ!」
「魔法がこと収穫に際して意味を為さないのは我も頷けるが、蒼空学園がそのような代物を持っているなどとは聞いていないぞ。……まったく、果実狩りなぞ、皆で仲良くやればいいものを……」
 嘆息するジュレールだが、カレンが「早く早く!」と急かすので、仕方なく拳を握り、幹を適度な力で殴りつける!

 どかどかどかっ! ぽかっ!

「痛い! 痛いよジュレ、頭に当たったよ!」
 落ちてきた果実が思いの他広範囲からだったため、一部がカレンの頭を直撃する。
「……振動の影響が予想以上に広がるようだ。次に同じことをしても、カレンと我だけではカバーしきれん可能性があるぞ」
 ジュレールの発言に、カレンが打った箇所をさすりながら呟く。
「むー……派手にやればもしかしたらトヨミちゃんが来て『お仕置き』してくれるかもって思ったけど……その前にダウンしちゃいそうな痛さだよ」
(カレン……そんなことまで考えておったのか……)
 また一つ、悩みの種が増えたジュレールであった。

 その頃、八坂 トメ(やさか・とめ)はというと。
「ふふ〜ん、デ校長の様子はどうかな〜っと♪」
 そんなことを呟きながら、農園を見回りしていた。……環菜とその取り巻きが聞いたら、問答無用で射殺されてもおかしくないであろう。それにしても『お凸』といい『デ校長』といい、御神楽環菜、哀れでもある。
「あれぇ? こんなところにパラ実の生徒、珍しいねぇ〜」
 ふと視線を向けた先に、スパイクバイクを乗り回すパラ実の生徒を見つけて、トメが声を上げる。これだけ蒼空とイルミンスールの生徒で溢れかえっている農場に、パラ実の生徒は非常に浮いて見えた。……運転している生徒が、人一人がすっぽり入っているかのような大きさの種モミ袋を抱えているとあれば、なおさらである。
「ん〜、蒼空以外の生徒の邪魔はしないようにって思ってたけど、流石に気になるなぁ〜。とりあえずカレンちゃんとジュレちゃんに報告して、エリザベートちゃんに知らせに行こっと!」
 うん、と頷いて、トメがカレンとジュレールのところへ戻っていく。

 ……『エリザベートが行方不明になった』という事実が周知のものとなるには、それからいくばくの時間もかからなかった。