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エルデの町の豊穣祭!

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第2章 エメネアのちゅーを求めて

 以前のジャイアント・アントの襲撃の際にもこの町を訪れたカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)は、祭りが開かれると聞き、早々に足を運んだ。
「食い倒れ祭り、ね。賞品は……ええええっ!?」
 町の入り口にて賞品のことが書かれた看板に、『エメネア嬢ちゃんからのちゅー』という文字を見つけたカレンは、ずっこけた。
(星槍騒動のとき、あれほど、無闇にちゅーの約束はしないように言ったよね!?)
 エメネアと以前出逢ったとき、彼女が星槍を取り戻してくれた人に『ちゅー』を贈ると約束したことに対して、させないように諭したのだ。
 それなのに、また約束したというのか。
 同名の別人、ということも考えたけれど、辺りを見回してみれば、幾人かの知り合いらしき人たちと共に、祭りの喧騒の中に出かけていこうとする彼女の姿がある。
「もう!!」
 一応は叱っておこうと、そちらへ向かう。
「エメネア、君って子は!!」
 声をかけると、エメネアと共に、周りに居たラグランツ兄弟やフィル、セラも振り向いた。
「カレンさんじゃないですかー!」
 エメネアは思わぬ再会に嬉しそうな声を上げる。
「あれほど、無闇にちゅーの約束をしないで、って言ったよね? もう忘れたっていうの!?」
「いえ、忘れてはないんです……けれど、つい口から出てしまいましてー……」
 約束してしまったときのことを思い出しエメネアは「すみませんー」と頭を下げた。
「まあ、一度約束してしまったからには、仕方ない。けれど、三度、こんなことがないように、気をつけてよ?」
 心配そうにカレンは告げて、エメネアと別れる。
 エメネアがちゅーを約束してしまった以上、自分が優勝して、他の人にさせることは阻止するしかない、と。
 改めて決意したカレンは、広場に向かった。
 カレンの予想通り、広場では子どもたちが遊んでいる。
 懐が痛むのはしょうがないと諦めて、子どもたちにお菓子や甘味などの屋台で奢るとカレンは声をかけていく。
 スタンプのために買っても食べなければ勿体ないものがあるが、量を食べれない。そうなれば、人数で攻めてみようと。
 幸い、受付でカードを貰う際に人数の上限を聞いてみれば、そもそも制限などがなかった。縁結びの鐘のジンクスのために恋人同士2人で来ることが多いから、それ以上で来るとは考えていないのだろう。
 子どもたちに奢って回れば、スタンプはあっという間に貯まっていく。
 昼過ぎ頃、周りが食べ過ぎて、休憩しつつスタンプを集める中、カレンはスタンプの貯まったカードを手に、受付へと向かうのであった。

 ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)の好きな人は、今頃、百合園女学院の校長室で仕事を頑張っていることだろう。けれど、エメネアにちゅーしてもらえると聞きつけた彼女は、パートナーのテレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)と共に、町を訪れた。
「よっしゃー!! 食いまくるでー」
「テレサ、お金は渡しますから先回りして代金の支払いお願いします」
 意気込むテレサにそう言って、ロザリンドはお金を渡す。
「……はい? ラリー優勝するために手伝い?」
 食べまくる気満々であったテレサであるが、ロザリンドに手伝いを頼まれれば、無碍にすることも出来ない。
 先回りするからには小型飛空挺に乗って回ろうとしたけれど、あまりに人が多すぎて、低空飛行は出来そうにないため、足で回ることにした。
「あ、おっちゃーん、それは2つね」
 自分も食べたいものは2つ、そうでないものは1つだけ頼みながら、テレサは店を回っていく。代金の支払いをしていれば、左腕に食べ物を抱えたロザリンドが追いついて来る。そして、ロザリンドが持つスタンプカードへスタンプを押してもらう。
 それを繰り返しながら、昼を過ぎた頃、漸くカードに用意された枠が半分ほど埋まった。
 広場に設けられた食事スペースでそれまでに買い求めた食べ物を消費すべく食べていく。それと共に、周りの話し声に耳を傾ければ、何処も似たようなもので漸く半分、といったところのようであった。
「少し苦しいです……でも、お昼からも頑張りましょう」
「ロザリー、大丈夫か?」
 既に食べ過ぎている気がするけれど、エメネアからちゅーしてもらうためには音を上げるわけにはいかない。
 テレサに心配されつつ、ロザリンドはまた動き始めた。

「エメネアおねえちゃんのちゅーは景品になるくらいのスゴイちゅーなんですね! どんなちゅーかしりたいです!」
 受付で優勝者への賞品を知ったヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)はそう意気込んだ。
 彼女の出身はデンマーク。ほっぺちゅーは挨拶に、家族や友人でも口ちゅーを普通に行うのだ。
 賞品になるようなちゅーは一体、どれほどすごいものなのか。きっとすごくしあわせになれるちゅーに違いない。
 そう思い、参加を決めたヴァーナーは受付で、カードを貰うと、早速1つ目の店へと近付く。焼き鳥の店のようだ。
「おにいちゃん、ここのお店の商品でいちばん小さいものはなんですか?」
「特に小さいものは用意してないよ。5本セットで1つだ」
 ヴァーナーの問いかけに、店主の男が答える。
「5本も……」
 そんなに食べては、他のものが食べきれない。
「お値段、いっしょでいいので、1本売ってもらえますか?」
「流石に1本を5本と一緒の値段で売るなんて、あくどいことはしないさ! 1本だな。こんだけでいいよ!」
 スタンプカードを見せつつ訊ねてみれば、男は笑い、1本差し出しながら、通常の4分の1ほどの値段で譲ってくれた。
「ありがとうございます!」
 代金を支払い、スタンプを貰う。
 それを食べながら歩いて、ヴァーナーは次の店へと向かい、また少量のものを頼む。
 そうして、彼女は着々とスタンプを集めていった。

 エメネアと共に回っているフィルとセラ、そしてラグランツ兄弟はというと、こちらもスタンプを着々と集めていた。
 と言っても、ラグランツ兄弟はエメネアの護衛であるため、食い倒れ祭りには参加していない。食べ歩いているのはエメネアを含む女性陣3人だ。
「美味しそうですねー……」
 優勝するからには量を食べなければならない。そのために軽食を中心に食べ歩いていたのだが、ホカホカの焼き芋を食べている祭り客を見つけたエメネアは、彼らの持つ焼き芋へと視線を投げかけていた。
「どうぞ」
 空かさず、エースが1つ購入してきて、エメネアへと渡す。
「わ、ありがとうございますー」
 焼き芋を手にして「あちあち」と慌てながら、早速噛り付く。
 その様子を見ながら、エースは立場に縛られない自由なひと時をかみ締めた。
「買ってくるなら、カード持っていってくれると嬉しいのですけれど」
 既に買い終わった後だから無理かな、とフィルは諦めながら、そう告げる。
「聞いてくるぜ」
 フィルからカードを受け取って、エースは再度、屋台へと向かった。
 そう時間が経っていないため、屋台の店主もエースの顔を覚えていたようで、快くスタンプを押してくれたようだ。スタンプが1つ増えたカードを持って、エースが戻ってくる。
「じきに日が暮れるよ。折角ここまでスタンプを貯めたんだ。あと一息、頑張ろう」
 セラが告げると、一行は再び歩き出した。
「島を出て、今、幸せかい?」
 歩きながらエルシュがエメネアへと訊ねた。
「はい! 見たこと、聞いたことのないものばかりで、楽しくって。それに皆さんともこうして出会うことができて、幸せだと思っていますー!」
 エメネアは顔中笑顔で答えた。
「そう。先の騒動のことは聞いているよ。だからこそ、君には幸せになってほしいんだよ」
「はい、ありがとうございます、エルシュさん」
 エルシュがそう告げれば、エメネアは改めて彼へと笑みを向ける。
「でも、すぐにすぐ、幸せにはなれないものですよねー。星槍はなくなりましたけどぉ、私にはやるべきことがあるのですー」
 呟くエメネアに、4人は不思議そうな顔を向けるけれど、「気にしないで、今は食べまくりましょう!」と微笑んだ。
 日暮れまであと少し。スタンプが貯まるのもあと少しだ。
 5人は次の食べ物を求めて、歩を進めるのであった。

 いまいち乗り気ではないパートナー、燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)を連れて町を訪れた神野 永太(じんの・えいた)は、早速受付に行くと、スタンプカードを貰ってきた。
「そのカードは、なに?」
 問いかけてくるザイエンデに、永太は大まかに食い倒れ祭りというイベントがあることを説明した。
「スタンプを貰って、それに何の意味が?」
 聞いても内容にピンと来ないザイエンデは更に問いかけてくる。
「だから、今日スタンプを一番いっぱい押してもらった人が、優勝」
 永太がそう言えば、『優勝』の言葉にザイエンデが反応した。
「優勝? そのカードにスタンプを押してもらうことが、勝ち負けに繋がっているの?」
 先ほどとは打って変わって、真剣な眼差し、面持ちでもう一度問いかけてくる。
「まあ……、スタンプの多い少ないで勝ち負けを決してるともいえるが……」
 勝ち負けといえばそうなのであろうか。
 考えながら永太が口にする答えは曖昧なもの、それでもザイエンデは益々やる気が出たのか。
「わかった。やりましょう。そして勝ちましょう」
 永太が手にしたスタンプカードを奪うと、早速、並ぶ屋台へ駆けていく。人ごみも手伝って、あっという間に見失ってしまった。
「ええっ!? ザイエンデッ!?」
 彼女の思わぬ行動に、永太は慌てて、追いかけ始める。
 見失ってしまったこともあり、永太はなかなかザイエンデを見つけることが出来ずに居た。
 漸く見つけたと思えば、彼女の手にはイカ焼きが、カードには19個ものスタンプが既に押されていた。
「は、早ッ!」
 逸れて1時間といったところか。
 この調子で食べ続ければ、優勝も夢ではない、と20個目からは2人で手分けして食べ始めるのであった。