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溜池キャンパスの困った先生達~害虫駆除編~

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溜池キャンパスの困った先生達~害虫駆除編~

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●第一章 減りゆく木々の謎

 晴れ渡る青空の下、まばらに並ぶ木々。
 資料を片手に木々を見上げるのは本郷 翔(ほんごう・かける)だ。
「このあたりの木々は溜池キャンパス創立以前からあるようですね……」
 図書館で集めた資料をちらりと見て、頷く。
「肥えた土壌のため植物が繁茂しやすい環境……と。それは変わりないように見えますが……」
 黒い瞳を細め、周囲を見渡す。木々はのびのびと成長し、芝生が広がり、雑草も背高く伸びている。確認したところで【博識】を使用する。
 自然に木々が減る要因がないかを探っていく。
「木々が魔法陣を描いているということはなさそうですね……それとも違う場所にあるのでしょうか?」
 歩きながら木々を観察していると、ポケットが震えた。携帯電話を手に取り相手の名を確認して通話ボタンを押す。
『翔、調子はどうだ?』
 ソール・アンヴィル(そーる・あんう゛ぃる)の明るい声が耳朶に響いた。
「その様子だと、聞きこみは順調のようですね。
『ああ。面白い情報入手したぜ』
 頷いてメモ帳を取り出す。得た情報は一言たりとも逃すわけにはいかない。
『生徒達が木が減り始めたのに気付いたのはだいたい一週間前くらいみたいだな。『木の量がなんとなく減った』って思ったらしい』
「とすると、急激に減ったのではなさそうですね」
『徐々に減ったんだろうな。で、新人教師の評判だけど……』
「! これは……」
 メモ帳を畳んで写真と目の前の木と見比べる。青々と茂っているはずの木が切り株へと変貌を遂げていた。切り株に近づく。
「切り口は新しい……最近切られたのでしょうか」
『おい翔、聞いてるか?』
「はい。私の方は切り株を発見しましたよ。切り株はこのあたりに集中してあるようです。間引きするには不自然な位置ですね」
 言いながら切り株を見遣る。円を描くように木々が切り取られている。
『やっぱり木が減ってるのは人のせいか』
「自然的要因ではなく人為的要因で間違いなさそうです。さすがにここだけまとめて減っていたら気付きますね」
 腕を組む。今度はなぜここに切り株が集中しているのかを調べなければ。
「刃物で切られたような跡があります。これは鋸かもしれませんね」
『おい、俺の話を聞けよ』
 不満げな声に仕方なく応じる。視線は切り株から逸らさない。
『新人教師達の評判は悪くないけど、三人とも放課後に行方がわからなくなるみたいだぜ? 怪しくないか?』
「確かに、それは認めます。しかし、まだ内部犯と決まったわけではありません。外部犯の可能性もまだ残っています」
『……まだ認めないのか。まあいい。俺は聞き込みを続けるぜ」
「了解しました。また新しい情報が入ったら連絡をください」
「ああ。じゃあまた後でな」
 電話が切れる。それを確認して本郷翔は調査を再開した。
「木々が消える。ふむ、人災でなければ、害虫などの影響とも考えられますね」
 資料、虫メガネやスポイト、いくつかの薬品を手に御凪 真人(みなぎ・まこと)が本郷翔の傍にやってきた。
「さてと、始めましょうか」
 しゃがみ込み、眼鏡を光らせ木々の周囲の芝や土を採集。資料と見比べる。
「変化はないですね」
 木を見上げ、まとめた資料をぱらぱらとめくった。
「キャンパス周辺にあるのはパラミタ特有の針葉樹のようですが……」
 地面に落ちている木の葉を手に取る。針に似た葉。先端はギザギザとしていて、手近な芝に擦りつけると芝が切れた。
「やはり『ノコハリギ』で間違いないようですね」
 資料の文章、写真と見比べて頷いた。木と葉の特徴から見ても間違いない。周囲の木々も同じであるか確認する……。
「! あれは?」
 顔を少し先に向けると、地面が濡れていることに気付いた。虫メガネで観察し、触れてみる。液体のりに似た粘着質の液体。
「これは……樹液?」
「そのようですね」
 御凪真人が首を傾げていると、本郷翔が近づいてきた。
「こちらに切り株があります。木を運ぶ際に染み出た樹液が地面に垂れたのでしょう」
『樹液か……そういえばかわいこちゃんが、なんとかっていう樹液が流行ってるって言ってたぜ』
 本郷翔の携帯電話から、ソール・アンヴィルが告げる。
「樹液が流行? どういうことですか?」
『関係ないと思ってたから詳しくは知らないな』
「詳しく訊いてください」
「もしかしたら、それが今回の件に関係あるのかもしれませんね」
 樹液がついた手を拭きつつ御凪真人は呟く。本郷翔も頷いた。
「樹液を使うものというと……滑り止めに使われる松ヤニが浮かびますが……あとはメープルシロップとか」
 言いながら切り株の樹液をスポイトで採取。香りを確かめる。
「うーん……甘いような、辛いような……」
 なんとも言い難い匂い。思い切り嗅いでしまい、むせる。
「大丈夫ですか?」
「……平気です」
 心配顔の本郷翔に微笑んでみせて樹液を見つめる。薄桃色の液体は害あるものには見えない。
「舐めてみたいところですが……樹液に関する情報は何もないし、止めておきましょうか……」
 ふう、と息をつき本郷翔を振り返る。樹液が流行っているのはなぜかという答えはまだ返ってきていないようだ。
「もう少し観察しながら返事を待つとしますか」
 言って御凪真人は木々の観察を再開。そのやや離れた場所に、新たに近づく影があった。

「うーん、これは明らかに伐採されてますね」
 切り株を見つめて唸る影野 陽太(かげの・ようた)。人の手で切られている以上、環境的要因である可能性は低い。
「ということは、誰かが意図的に木を切っているんですね……なぜでしょう」
 首を傾げつつも観察を続ける。切り株の切れ目は一寸の乱れもない。地面とほぼ平行に切られていて抜け目ない。
「刃物で切られているとは思いますが、やけに綺麗な切れ目ですね。得物に慣れた人間の仕業でしょうか」
 予想を立てつつ持ってきた物を取り出す。隠しカメラ、録音機。切り株の傍にとりつける。
 ここに集中して切り株があるということは、犯人は再びここにやってくる可能性が高い。
「しかし、木を切って魔物が出現するというのも妙な話ですね……」
 やはり唸りながら、首を傾げる。答えは出ず、視線を遠くへやる。その茶色い瞳に、やってくる二人の姿が映った。