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【十二の星の華】悲しみの襲撃者

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【十二の星の華】悲しみの襲撃者

リアクション


2.襲撃犯発覚!?

 事件から一夜。蒼空学園の教室内は騒然としていた。
「おい、昨日も襲撃があったってよ」
「知ってる知ってる。うちのクラスのやつもやられたらしいじゃん」
「マジで? 超アブねー。なんとかなんねーのかよ」
「闇の輝石のおかげで命拾いした人がいるって聞いたわよ」
「ということは、闇黒属性に耐性をつけておけば多少は安全になるのでしょうか?」
「それは楽観的すぎるでしょ」
「ですね。強烈な攻撃は防ぎきれないでしょうし、敵が闇黒属性の技しか使ってこないとは考えにくいです」
 そこに、教師が緊張の面持ちで入ってくる。生徒たちは自然と静まりかえった。
「……おはよう。例のクイーン・ヴァンガード襲撃事件だが、昨日も犯行があり、とうとうこのクラスからも被害者が出た。これから緊急で職員会議が開かれる。よって1,2時間目は自習だ。また、いつまでも犯人の呼び名がないのでは不便だろう。これからは『疾風の斬刃《ゲイルスリッター》』と呼ぶことにする。以上」
 教師はそれだけ告げて足早に教室を出ていく。教室は再び騒がしくなった。
「ゲイルスリッターだかなんだが知らんが、許せんな。リフラさんも気をつけたほうがいいぜ」
 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が、本を読んでいるリフルに近づいて注意を促す。
「ところでリフルさん、名字はなんというのか教えてもらえないか? 名前しか分からないのでは、呼ぼうにも呼びにくいのでな」
 聞こえているのかいないのか、リフルは無心で本に目を走らせる。
「……まあ、無理にとは言わないさ」
「ねえねえ、エヴァルトくん、エヴァルトくん」
 自分の席に戻ろうとしたエヴァルトを、パートナーのロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)が指で突っつく。
「ん、なんだ?」
「あれ」
 ロートラウトがリフルの机の上に視線を送る。そこには一冊のノートがあり、表紙にリフルの名前がフルネームで記されていた。
「リフル・シルヴェリア……シルヴェリアさんか。これからはそう呼ばせてもらうよ」
「ボクはリフルちゃんでいいよね! それじゃまったねー」
 カチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)リーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)はリフルの様子を見て話し合う。
「リフルさん、まだあまりクラスに馴染めていないみたいですね」
「まあ、転校してきてから一日しか経ってないしね。私やカチュアが力になってあげないと」
 そんな二人に、緋山 政敏(ひやま・まさとし)が言った。
「興味本位で近寄る方がよっぽど迷惑だと思うんだが」
「だめですよ、最初が肝心なんですから」
「そうそう、このままずっと一人ぼっちだったらどうするの!」
「わ、分かったって。そんな目で見るなよ……」
 二人に睨まれて政敏はたじたじになる。
「つってもなあ。どうすりゃいいんだ? まずは何に関心があるか観察してみるか……」
 そう言ってリフルの様子を窺い始める政敏。しかしリフルは本を読んでいるだけで、何分経っても微動だにしない。
「あー、かったりい! 埒が明かないぜ。いや、本が好きなのは分かったが、それだけじゃなあ。ここは一つ、暇つぶしついでにかまかけてみっか。カチュア、ちょっと」
 政敏がカチュアを手招きして耳打ちする。カチュアはその内容を聞いて眉をひそめた。
「政敏は相変わらず人を窺ってかかりますよね」
「どうしたの? 私にも教えてよ」
 政敏はリーンにも耳打ちする。
「なにそれ! ひどくない?」
「しーっ! だからただの暇つぶしだって。でも転校してきた時季が時季だから、もしかしたらってこともあるかもしれないぜ?」
 政敏が悪戯な笑みを浮かべる。ちょうどそのとき、リフルが席を立った。三人の後ろを通り過ぎて廊下に出ていく。
「お、トイレに行ったみたいだぜ。チャンスだ。それじゃあ俺は屋上で待ってるから、カチュア頼んだぞ」
 政敏はそう言い残して教室を去ってしまう。
「もう、仕方ないですね……」
 カチュアは自分も席を立って廊下に出ると、リフルに続いてトイレに入る。そうして、他に人がいることに気がついていないという振りをして言った。
「まさか、政敏が襲撃を実行していたなんて。今は屋上だろうから、放課後にでも問い詰めないと。頑張れ、私!」

(クソッ! 僕にとってクイーン・ヴァンガードなんて御神楽環菜に近付く手段にすぎないのに、面倒なことを起こしやがって! こうなったらとことん利用してやるぞ)
 ネット上で環菜にプライドを傷つけられた(と勝手に妄想している)天才プログラマー湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)は、襲撃事件の犯人特定を急ぐべく、自習時間を利用してセラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)と構内を徘徊していた。
「凶司ちゃん、どうするのぉ?」
「全員が至近距離から不意打ちされているということは、恐らく敵もクイーン・ヴァンガードの隊員か学園関係者。そして一撃で契約者を倒せる実力を持ち、全ての事件でアリバイを持たない人間が犯人でしょう」
「そうかもしれないわねぇ」
「既にアリバイのない人間をリストアップし、その中で実力者・実力が分からないものをチェックしてありますので、これから順番に接触しようと思います」
「ふぅん、ちょっと面白そうだし、今回はあたしも協力してあげようかしら」
 二人が女子トイレの前を通りかかる。すると、トイレの中から声が聞こえてきた。
「まさか、政敏が襲撃を実行していたなんて。今は屋上だろうから、放課後にでも問い詰めないと。頑張れ、私!」
 これを聞いて、凶司は持ち歩いていたノートパソコンを思わず取り落としそうになる。
「な、なんだって!?」
「あら、もしかしてあたしたち凄いこと聞いちゃったぁ?」
「政敏、政敏……あった、『緋山 政敏』。これに間違いありません!」
 パソコンの検索結果画面を見て、凶司が興奮した声を上げる。
「行くのぉ?」
「もちろんです。僕は犯人と交渉してきます。セラフは万が一に備えて待機していてください」
「分かったわぁ。携帯をつなぎっぱなしにしておきましょ」
「それじゃ!」
 凶司は急いで走り出すと、全速力で階段を駆け上がり、屋上の扉を開け放つ。屋上には政敏が一人、背を向けて立っていた。
「……来ちまったか。まさかとは思ったんだがな。嫌な予想が当たっちまったぜ」
 政敏はそう言うと、ゆっくり後ろを振り返る。
「今からでも遅くない。馬鹿なことはやめて俺たちと手を組まないかリフ――ってあれえーー?」
 そこにいるのはリフルではなく、凶司。
「何言ってるんですか、あなた? ようやく見つけましたよ、襲撃事件の犯人さん。真相をバラされたくなかったら、僕が御神楽環菜を蹴落とす手伝いをしてください」
「は? そっちこそ何言ってんだ? てかあんた誰よ?」
「この期に及んでしらを切りますか……いいでしょう、僕は本気ですからね。刑務所で後悔してください」
 凶司はくるりと引き返す。
「ちょ、ちょっと待て!」
「わ、放してください!」
「……残念、交渉決裂ねぇ。私の出番だわ」
 二人の会話を携帯電話で聞いていたセラフは、近くの教室に駆け込み大声を出す。
「みなさん、今あたしのパートナーが屋上で襲撃事件の犯人と戦っています。力を貸してくださぁい」
 生徒たちは初め訳が分からないという顔をしていたが、状況を認識するにつれて色めき立ち始める。
「大変、すぐに先生を呼んでこなくっちゃ!」
「そんなの待ってられるか! みんな、俺たちの手で犯人をとっ捕まえるぞ!」
「おお!!」
 こうして生徒たちは屋上へとなだれ込んでいったのだった。