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【十二の星の華】剣の花嫁・抹殺計画!(第2回/全3回)

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【十二の星の華】剣の花嫁・抹殺計画!(第2回/全3回)

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第一章 人質をさらわれて

 並び歩いている。十二星華の一人、パッフェル・シャウラと、ベルバトス・ノーム教諭のパートナーであるアリシア・ルードは隣り並んで歩いていた。盾にされ、人質となったアリシアは、1本のチェーンで両手を縛られていたが、拘束はこのチェーン1本だけだった。
 イルミンスール魔法学校の校舎内を、そしてイルミンスールの森中を歩む今の瞬間でさえも、駆けることも乗り物を使うこともせずに2人はただ、歩いている。アリシアが歩みの速度を緩めると、瞬時にパッフェルも同じに合わせる。そしてアリシアの腕に回したチェーンを引いて、歩む速度を上げさせるのだった。アリシアは1度もパッフェルの背を見ていなかった。
 木々にぶつかり木霊しながら遠くから、ひずめのような音が聞こえてきた。パッフェルは音の先に背を向けるように振り返ると、体内からランチャーを取り出して構えた。
「…… 隠れる気が無いのなら、出てくれば良い」
 パッフェルがランチャーを向けた木の陰から、バトラーの久途 侘助(くず・わびすけ)が姿を見せた。
「尾行がバレるなんて、俺も落ちたもんだな」
「……あれは、尾行とは言えない」
「そう言うなって。気配を消さずに尾行するのも、意外と難しいんだぜ」
 侘助は肩をすくめながらに言ったが、パッフェルはピクリとも表情を変えなかった。
「…… 目的は?」
「その人を返してもらおうか、今すぐに」
 侘助は綾刀を握り締めて構えを見せた。パッフェルはランチャーをアリシアに向けた。
「…… 動けば人質が死ぬ」
「人質が死ねば、女王器は手に入らない」
「…… そうかしら」
「普通はそうだろう? それに、出来るのか? 講堂であれだけブッ放したんだ、そろそろ「弾切れ」なんてオチが付くんじゃねぇか?」
「………… 苦しみが続く毒にしてあげる」
「やってみな。その人を撃ってる間に、眼帯ごと斬ってやるぜ」
 小さな風が木々の葉を揺らす、その音が止んだ瞬間に侘助は飛び出した。パッフェルがランチャーをアリシアから離した瞬間、木々の陰から、ゆる族の強盗 ヘル(ごうとう・へる)とセイバーの御風 黎次(みかぜ・れいじ)が飛び出した。
「頼むぜ、同志たち」
 銃弾が侘助の体を刺すのと同時に、2人はパッフェルに斬りかかかった。
 パッフェルが迎撃の銃弾を放とうとランチャーを向けた時、パッフェルと2人の間には2つの背影が割って入
っていた。
 ローグのマッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)リターニングダガーでヘルの白の剣を受け、同じくローグの鬼崎 朔(きざき・さく)雅刀で黎次のカルスノウトを受け弾いた。
 アニエス・バーゼンリリー(あにえす・ばーぜんりりー)が追撃の火術を放ったが、マッシュのパートナーであるシャノン・マレフィキウム(しゃのん・まれふぃきうむ)火術によって、またルクス・アルトライン(るくす・あるとらいん)ランスによる一撃は尼崎 里也(あまがさき・りや)薙刀によって迎撃されてしまった。
「何をする!」
「なぜ彼女を守るような真似を!」
 予期せぬ迎撃を受けた黎次とヘルは、体勢を整えて着地すると、共に声を荒げた。しかしマッシュの声は至って冷静だった。
「今のやり取りが全てさ、俺は彼女の力になりたいんだ」
「彼女が「剣の花嫁」たちにした事を分かっているのですか?」
「もちろん。水晶化… あぁ… 人が固まっていくのはやっぱりイイね〜、大好きだよ」
「なっ、おまえ、何を言っている」
「まぁまぁ、人が何に魅かれようと自由のはずだよ。ねぇ、あんたもそんな類なんだろ……ぅ?」
 マッシュが朔へ視線を向けた時、共にパッフェルを守ったはずの朔がパッフェルへ雅刀を向けていた。ランチャーを下ろしているパッフェルに朔が問いた。
「… ドージェと繋がっているのか?」
「…… 何のこと?」
「… カリンを水晶化したことは許せない、でも解除法を知る為になら悪魔に心を売っても構わない… なんでもやってやる」
「彼女が本当の悪魔なら喜んで味方するよ、ねぇシャノンさん?」
 答えないパッフェルに代わるように、マッシュがパートナーのシャノン・マレフィキウム(しゃのん・まれふぃきうむ)と顔を合わせた。朔は拳を握り締めて迫った。
「… だが! ドージェと繋がっているなら話は別だ! 今ここで奴の居場所を吐かせる!!」
「…… ようやく殺気が出た…… でも」
 ゆっくりとランチャーを上げてゆくパッフェル。ランチャーが地面と水平になった時、ランチャーから赤い光が放たれた。
 光りは朔の横を、そして黎次とルクスの間を抜け過ぎた。
「ノエルっ!!」
 黎次とルクスの後方、アニエスの声に黎次が振り返ると、剣の花嫁であるノエル・ミゼルドリット(のえる・みぜるどりっと)が、立った姿のままで全身を水晶にされていた。
「ノエルっ!!」
「ノエルっ!!」
 黎次とルクスがノエルに駆け寄った。一同の瞳が見開いている中、パッフェルは小さく笑みながら呟いた。
「知らないわ、ドージェなんて」
「… 本当だな?」
「その女も、全身にする?」
 パッフェルの視線が朔のパートナーで剣の花嫁であるブラッドクロス・カリン(ぶらっどくろす・かりん)へと向いたのを見て、朔と里也はカリンの姿をその身で隠した。カリンの左脇部は昨日より水晶化していた。
「待て! わかった、協力する、だからカリンを助けてくれ!」
「目的は、女王器。そのために…… まずは、」
 パッフェルは言葉を止めたが、それ以上を言わずともにマッシュとシャノンは理解した。
「イイね〜、了解だよ。忠誠の証に、蹴散らすとしよう」
「あぁ、背徳者らしい、実に優れた考えだ。君もやるのだろう? パートナーの為に」
 シャノンに問われた朔は、大きく瞳を閉じてから笑みを浮かべた。
「あぁ、心は売ったんだ、それを証明してやる」
「えぇぇぇぇぇぇとぉ、スカサハも、あの人たちをやっつければ良い、であります?」
 朔のパートナーで機晶姫のスカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)が里也に笑み問いた。里也は何時になく張り切ってロングボウを構えているスカサハに不安を覚えながらも笑み答えた。
「よおぉぉし、張り切って行くでありますよ〜」
「ちょっ、ちょっと待てって、お前ら、落ち着けっ」
 ヘルの言葉に止まる事なく、ロングボウの雨の如き矢と共に、朔とマッシュの一行が飛び出した。
「やるしかないようじゃのう」
 ルクスはヒロイックアサルトを自身に唱えると、スカサハの矢を避けてからランスを構えた。しかしその瞬間にはマッシュが間合いを詰めていて、リターニングダガーランスの刀身を打ちつけていた。
「くっ」
「ほらほらぁ、どんどんイクよ〜」
 柄に近い部分を打たれる度にランスは左右に振られた。そうして、ついにマッシュのダガーがルクスの手を斬りつけた。ランスを握る手をが緩まるのと同時に、マッシュの拳がルクスの腹を撃ち上げた。
「ルクスっ!!」
 ルクスが倒れる様を見たアニエスは、マッシュに向けて火術を放ったが、駆けながら放たれたシャノンの火術がそれを相殺した。空中に飛び出したシャノンが放つ雷術がアニエスに降り落ちた。
「逆上したら負けだ、視界が極端に狭くなる」
「俺はそうは行かないぜ」
 黎次の轟雷閃をダガーで受けたマッシュは吹き飛ばされたが、朔は鬼眼を放ちて黎次に瞬間の隙を生じさせると、その喉元を里也が薙刀の柄尻で叩き突いた。
 倒れこむ黎次を見下ろしていた里也に、光学迷彩の効果で隠れ寄ったヘルが「調子に乗るなよ」と呟いて里也を斬りつけたが、これに反応して雅刀で受けた朔、そしてシャノンの氷術による連撃を避ける事は出来ずに、最後は朔の打撃に倒れ込んだ。
「…… 出ろ」
 パッフェルの声が一同の視線を集めた。パッフェルのランチャーが向いた先に、光学迷彩を解いたザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)の姿が徐々に現れていった。
「待っていました。みなさん離れてしまいましたね」
 パッフェルの前にはザカコが1人。ザカコは煙幕ファンデーションを持った左手を上げて見せた。
「煙幕は学校への合図です。少しお話ししませんか」
「…… 合図が出ても、その前にあなたを消して、去れば良い」
「剣の花嫁を水晶化させた赤い光は見せて貰いました。光は煙幕の中では屈折してしまいます。もっとも、あなたには赤い光以外の弾がある、という事は身を持って実証済みですが」
 ザカコがパッフェルと対峙するのは初めてではなかった。しかし、ザカコの腹部に弾を撃ち込んだパッフェルは、覚えていないようにも見えた。
「…… 目的は?」
「水晶化した仲間を救いたい。彼女と同じ理由です」
「… 自分は追手を倒す事で忠誠を示した…」
「その倒された生徒の中に、自分のパートナーがいます。ユルくのびている彼です」
 ザカコはヘルを指差した。朔の打撃に倒れ込んだヘルは、確かにユルくのびていた。
「パートナーが巻き込まれようとも、目的を達成する事を優先する為に動かなかった。信念と意思の強さを示したつもりなのですが」
「…… 目的は?」
「あなたの目的が達成できるよう協力させていただきます。ただし上手くいったら、水晶化を解除して貰います」
「…… さっき聞いた」
「ですから彼女と同じです。ひょっとしたら彼らも同じかもしれませんよ」
「彼ら? おわっ」
 マッシュが振り向くと、軍用バイクに乗った松平 岩造(まつだいら・がんぞう)ドラニオ・フェイロン(どらにお・ふぇいろん)が、そしてその後ろから、ソルジャーの支倉 遥(はせくら・はるか)とプリーストの御厨 縁(みくりや・えにし)白馬に乗って現れた。
「はぁ、ようやく追いつきました」
「ん? これはまた派手にやったようじゃのう」
 白馬から降りながら言う2人の姿をみて、マッシュはシャノンと顔を見合わせた。
「いるよな、タイミング悪いやつ」
「それで得をする者もいる、ことも事実だ」
「戦闘に参加できなかったんだから、損してると思うけどね」
 岩造とフェイロンは素早く軍用バイクを降りると、跪いて頭を下げた。
「私たちは、あなたに忠誠を誓いに来ました。どうかお供させて下さい」
 パッフェルは瞳だけで辺りを見回した。
「………… 多い」
「同士は多いに越したことはありません。私のように裏切れぬ理由がある者もいます。集団としての機能は果たすと思いますよ」
「おぃおぃ、パートナーを見捨てた奴が参謀気取りか?」
「あなたは話を聞いていなかったのですか? あれは忠誠を示す代わりにですね、」
 ザカコとマッシュが言葉を受け渡している最中、パッフェルは離れて大人しく待っていた漆黒のグリフォンに乗って駆け出していた。
 ついてくるな、とは言われていない。攻撃もされていない。「殿は仕りました」と言った岩造の言葉と共に、一行は各々の手段で森の中を駆け追い始めた。
 しかしそれでもパッフェルの乗った漆黒のグリフォンにだけは、軍用バイクをもってしても追いつく事は出来なかった。
 一行はパッフェルを先頭に、「毒苺のなる巨樹」を目指して森を駆け行った。