天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

【海を支配する水竜王】侵入者に向ける刃

リアクション公開中!

【海を支配する水竜王】侵入者に向ける刃
【海を支配する水竜王】侵入者に向ける刃 【海を支配する水竜王】侵入者に向ける刃

リアクション


第4章 陽動・・・生徒たちのために

「資材置き場へ行こうと進んできましたが、階段付近をゴースト兵どもが見張っていますね」
 3階に通じる階段付近に待機している兵たちの姿を目にした緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)は、どう突破しようか考え込む。
「どうしますか遙遠・・・」
 ゴーストに聞こえないように、紫桜 遥遠(しざくら・ようえん)が小さな声音で言う。
「そうですね・・・上の階に着くまであまり騒動を起こしたくありませんから。使い魔を使ってやつらの注意を引きつけさせましょう」
 階段の傍から兵を引き離そうと、遙遠はカラスを彼ら方へ飛ばす。
「上手くいきましたね、階段側から離れましたよ」
 遥遠は飛び回るカラスを捕らえようと、持ち場から離れていく兵を見る。
「今のうちに3階へ行きましょう」
 やつらが戻ってくる前に向かおうと遙遠たちは階段を駆け上がった。
「やっと資材置き場につきましたね」
「えぇ・・・。とりあえず目的の情報がないか探しましょう。まずはこのドアから・・・」
 ドアノブに手をかけ、遥遠はそっと開けて中の様子を覗く。
「何もいないようですけど、たいしたものはなさそうですね」
 そこには鉄板や予備のテーブルしかなかった。
「こっちも兵の情報はなにもなかったですね」
「そんなのを置いておくほど間抜けじゃないってことですか」
 見取り図も見つけられず、どうやって情報を手に入れようか遥遠は口元に片手を当てて考える。
「十天君にとって彼らは道具でしかないんですよね。その道具となる者たち、つまり死体をどこかで調達したのでしょう。便利な操り人形として適当に番号をつけたりする程度の者の、経歴などは一切不要・・・。むしろ誰かに見つけられて知られると厄介だから、彼らの資料がないのかもしれません」
「身元を一切分からなくするために・・・ですね」
「彼らに必要経費の渡すにしても、手渡しのほうが安全でしょうから」
「そうやって証拠を残さないようにしているんですね」
 遙遠の説明に遥遠は、なるほどと納得したように頷く。
「得られるものはなさそうですか、ゴーストたちを引き寄せるために暴れますか」
 生徒たちが行動しやすいように引き寄せようと、遙遠は資材にファイアストームを放った。



「ここが4階かしら?」
 一方、銀の鍵合成用の道具を探しに来た遠野 歌菜(とおの・かな)は、周囲をキョロキョロと見回す。
「今のところ、ゴーストたちはいないみたいね」
「どこかに潜んでいるかもしれないからな」
 ブラッドレイ・チェンバース(ぶらっどれい・ちぇんばーす)が歌菜たちに油断しないように注意した。
「じゃあ僕たちは3階で待っているよ」
 道具を取りに行っている間、リヒャルト・ラムゼー(りひゃると・らむぜー)たち待機組は3階へ向かう。
「大和、歌菜殿に怪我を負わせたら・・・分かっているんじゃろうな?」
 九ノ尾 忍(ここのび・しのぶ)は振り返り様に、譲葉 大和(ゆずりは・やまと)に向かって釘を刺すように言う。
「わ・・・・・・分かっていますって」
 ギロッと睨む忍に大和は思わずたじろいでしまった。
「ならいいんじゃがのぅ」
 階段の方へ向き直ると忍はラキシス・ファナティック(らきしす・ふぁなてぃっく)と手をつなぎ3階へ降りた。
「行こう、大和」
「えぇ、行きましょう」
 大和は差し出された歌菜の手を握る。
「きゃぁっ、床が!?」
 廊下を進むと床が傾き、滑り落ちそうになった歌菜は大和の腕にしがみつく。
 ドスンッと3階の廊下に落下してしまった。
「―・・・だ、大丈夫ですか・・・歌菜」
「なんとかね・・・。あぁっごめん!」
 落下した時に大和を下敷きにしてしまった歌菜は慌てて退いた。
「これくらい平気ですよ」
 大和は試作型星槍を支えの代わりにして床から立ち上がる。
「もう一度チャレンジしてみましょう!」
 上の階へ駆け上がり、傾く廊下の前へ戻る。
「しっかり俺の手を握っていてください」
「落ちる前に走り抜けるのね」
「そいうことです、行きますよ!」
 2人は全速力で走り、廊下を渡ろうとする。
「バランスをとって真ん中を進めば行けるはずです・・・」
 ぐらぐらと左右に揺れる廊下を慎重に進む。
「後もう少しよ・・・。―・・・あぁっ、ゆ・・・・・・床がぁあっ」
 床が傾いてしまい、歌菜たちは再び3階へ滑り落ちてしまった。
 大和は忍たちに連絡をとり、落下地点まで来てもらう。
「大丈夫?」
 彼らの位置をラキシスは使い魔の紙ドラゴンに探してもらいやってきた。
「早くも落ちたのかのぅ・・・」
 眉間に皺を寄せた忍がため息をつく。
「どうしよう、ゴーストたちが近づいてきてるよっ」
 禍々しい殺意を感じ取ったラキシスが忍に知らせる。
「行くぞ、ラキ!歌菜殿のためにチャンスを作るのじゃ!」
「レイちゃん、リックちゃん・・・ボクも皆を守りたいよ!」
 迫り来るキラーパペットに向かってラキシスが氷術を放つ。
 グレートソードでゴーストに向かっていくリヒャルトを援護しようと、ブラッドレイがバニッシュを放った。
「俺たちに任せて早く行ってくれ」
 ゴーストをブラッドレイたちに任せ、歌菜と大和は階段を目指す。
「バランスを取るのが難しすぎるわ・・・。あの廊下を渡るには、他の人たちと協力した方がいいかもしれないわね」
 一緒に進む相手を探そうと歌菜たちは4階へ戻った。



「3階に落ちるのをどうにかしたいが、使えそうなものがないですな」
 2階から3階にやってきた道明寺 玲(どうみょうじ・れい)は4階からの転落防止に、何かないか3階の資材置き場で探している。
「このロープとかはどうどすか?」
 ダンボール箱からイルマ・スターリング(いるま・すたーりんぐ)がロープを取り出す。
「長さ的に無理ですな・・・」
 彼女が見つけたロープの長さを見た玲は、首を左右に振った。
「何か見つかりましたか?」
 影野 陽太(かげの・ようた)が玲に声をかける。
「いや、何も・・・」
「命綱に使えるロープはないね」
 資材の中にないか探していた清泉 北都(いずみ・ほくと)は残念そうな顔をした。
「たいした高さじゃなから、何とかなるか?」
 白銀 昶(しろがね・あきら)は天井を見上げて言う。
「覚悟を決めて渡るしかないですな」
 ロープを探していた玲も諦めた。
「皆で協力し合えば、きっと渡りますわ!」
 4階へ進もうとエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)たちは階段を駆け上がる。
「この廊下ですわね・・・」
 エリシアは踏み入れたとたんに傾く廊下を睨みつけた。
「正直この廊下は厄介だよ」
「落っこちたら、怪我しないように抱えてやるから安心しろ」
 不安そうな顔をする北都の肩を、昶がぽんっと軽く叩いた。
「行きますわよ!」
 落ちる前に走り抜けようと、いっせいに廊下の上を駆けていく。
「うわぁああーっ、床がー!」
 渡りきれなかった陽太たちは3階へ落下してしまう。
「イッたた・・・落ちてしまいましたね・・・」
 陽太は痛む片足をさすりながら立ち上がる。
「斜めになった床にぶつかってしまいましたわ・・・」
 空飛ぶ箒で通ろうとしたエリシアは、斜めになった床に激突してしまい、彼らと一緒に落ちてしまった。
「ねぇ・・・何か聞こえない・・・?」
 ギリギリと壁を引っ掻く音を聞いた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が周囲を見回す。
「―・・・み・・・美羽さん。天井に・・・」
「えっ・・・?」
 ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が指差す方を見ると、キラーパペットの鋭く尖った爪が美羽の首を狙っている。
 ブバァアアッ。
 床が血の色に染まっていく。
「危なかったですね。こいつはどこから来るか分かりませんから、気をつけたほうがいいですよ」
 美羽はもう駄目だと閉ざした目を開けると、血糊のついたヘキサハンマーを遙遠の姿があった。
 ボタタッと赤黒い血が壁や天井にも飛び散っている。
 彼に助けられた美羽の身体は外傷がなく無傷だ。
「あなたが私を助けてくれたのね、ありがとう」
「探索中に偶然通りがかったんですが、無事でよかったです」
「遙遠・・・あっちから何か来ます」
 遥遠の声に遙遠は彼女の視線の先へ顔を向けた。
 白い煙を裂けた心臓から発生させながら、男女とも区別のつかないゴーストが迫っている。
「あれを接近戦で相手するのは危険ですね・・・。ここは遥遠たちに任せて、4階へ急いでください」
「分かったわ、気をつけてね」
 美羽たちは急ぎ4階へ走っていった。
「狙う標的が欲しければ、遙遠たちがお相手しますよ」
 4階へ向かう生徒たちを追おうとするゴーストの前に遙遠が立ちはだかり、ターゲットをファイアストームの炎の嵐で包む。
「援護します!」
 反撃の隙を与えまいと遥遠は漆黒に輝く刀身の剣、ルーンの剣で轟雷閃の一閃を亡者に向かって放つ。
「さぁこっちですよ」
 遙遠は資材を炎で焼き払い、ゴーストを引き寄せる。
「ドールばかり来るとは・・・運がいいのか悪いのか・・・」
 数体のゴーストを目の前に、眉を潜めてハンマーを構える。
「グゲェエ・・・グベッァアアッ」
 奇声を上げながらゴーストが白い煙を発生させる。
「ぅっ・・・!いつもながら、この酸の煙は最悪ですね・・・」
 氷術で凍らせようとするが、もう片方の手で煙を吸い込まないように口を押さえるのでせいいっぱいだ。
「それ以上の手出しは許しません!」
 雷の気を纏った刃でゴーストを斬り伏せた遥遠が、遙遠の右腕を掴み亡者たちから引き離す。
「ごほっ、げほっ」
「大丈夫ですか遙遠」
 左手で口を押さえながら咳き込む彼を心配そうに見つめる。
「えぇ・・・なんとか・・・。(少し中をやられてしまったようですね)」
 手の平についた血を見ながら、油断したと遙遠は悔しそうに顔を顰める。
「長期戦を強いられるとこっちがやられてしまいます。適度に資材破壊をしながらゴーストと距離をとって戦いましょう」
 遙遠たちは3階にある他の資材も破壊しようと走り出した。