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第1章 実験施設へ

 波羅蜜多実業高等学校から、南東に5キロほど離れた場所。
 深い森の中に、校庭ほどの広さの空間がある。
 その空間を覆いつくすように、瓦礫の山が佇んでいた。
 いつもであれば、誰も近寄らないだろうこの空間に、生徒たちがなにやらガヤガヤと集まっていた。
 その瓦礫の山を見上げている、ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)がつぶやく。
「ここがそうなんですか?」
「そうじゃ。あれがパラ実で最も謎が多いとされる学科、改造科の施設じゃけん」
 ガートルードの横に並んで立っているシルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)が答える。
「シャンバラ開発機構……」
「戦闘用に強化された生物の開発しとるって噂じゃね」
「……」
「にしても、ドージェで施設が崩壊したとは聞いとったが、こりゃひでぇ」
「それで、あの人が……」
 ガートルードが目を向けたのは、生徒たちと向かい合わせに立っている一人の男だった。
 眼鏡をかけて白衣を着た、30代半ばの男はニコニコと生徒たちを見ていた。
「今回、調査を依頼した棚畑じゃな」
「波羅蜜多の技術を盗もうなんて……ゆるせません」
「じゃけん、抹殺しないとのう」
「……はい!」


「へえ、結構集まったねぇ……」
 眼鏡を指でクイッと上げながら、棚畑が気の抜けたような声で呟く。
 ザッと見渡しても、70人以上は生徒が集まっている。
「何人、生き残るかなぁ?」
「棚畑さん、そろそろ」
 棚畑の横にいる研究員らしき人がそっと耳打ちする。
「そうだね。じゃあ、始めようか」
 棚畑がぼさぼさの頭を掻きながら、生徒達に向かって話しかける。
「いやいや。わざわざ、こんな所まで来てもらってありがとう。今は、こんな状態だけど以前は立派な研究施設だったんだよ」
 棚畑が瓦礫の山を指差す。
「ドージェのせいで、外観は崩れちゃったんだけど、施設自体は地下にあるから問題はないんだよね」
 そんなやる気のなさそうな説明を、やる気のなさそうに聞いている高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)
「研究施設ね……」
 欠伸をしながら、説明する棚畑を見る。
「で、それらの調査をお願いしたいんだよね。その階層にいるボスを倒せばあとは自由に調査してもらってもかまわないよ」
「へぇ……」
 悠司の目に、わずかにやる気の光が点る。
「階層は5つ。5階層にあるものは、結構期待してもらっても良いと思う」
「……悪くないね。面白そうだ」
「ああ。あと、これだけは言っておくね」
 棚畑がニコニコとした顔で言う。
「自信のない人は、ここで帰った方がいいよ。負傷したからって立ち止まらないし、死んじゃってもしらないかね」
 お祭り気分だった生徒達に、緊張の色が浮かび上がる。その中で、悠司が笑みを浮かべている。
「ま、お宝を手に入れるんだから、危険は当然でしょ」
「それじゃ、行こうかぁ」
 棚畑が歩き出し、それに続く生徒たち。
「さーて、どうなることやら……」
 悠司が口笛混じりに、頭の後ろに手を組んで歩き出す。


 そんな生徒たちの最後尾にぼんやりとした眠たげな顔をした少年、白菊 珂慧(しらぎく・かけい)が立っている。
 その手には、この場には不似合いなスケッチブックを持っている。
「……パラ実に関係ありそうだから、来てみたけど」
 虚ろな目で呟く珂慧。
「棚畑さんは改造科の施設調べてどうするんだろう……?」
 珂慧は歩き出す生徒達に遅れているのに気づき、ハッとして歩き出す。
 だが、その表情はあくまで眠たげだった。
「ちょっと、聞いときたいかも」