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リアクション
第4章 誰にも譲れないもの・・・それは・・・・・・
「ねぇねぇ、あおいママ〜。地球のひな祭りもこんな感じなの?」
秋月 カレン(あきづき・かれん)は窓にべたっと張り付いて観戦している。
外の光景を珍しそうに銀色の瞳を丸くした。
一緒に来た秋月 葵(あきづき・あおい)とお揃いの格好で参加し、白百合をあしらったパーティドレスを着ている。
「私が知ってるひな祭りと、かなり違うね・・・」
窓の凄まじい光景を見ながら葵は小さな声音で呟く。
「ねぇ、誰が勝つと思う?」
近くにいる静香校長とエリザベートに声をかける。
「まったく分からないなぁ・・・」
「そうですねぇ・・・水神さんあたりかと思っていますけど。蒼空学園の生徒のかがみって子の根性が侮れないですぅ・・・」
エリザベートは外の様子を見て誰か勝つか予想してみた。
「後頭部から流血しているのに、それでもおひな様を目指している恐ろしい執念ですぅ・・・」
案の定、自分の生徒に勝手ほしいようだが、他の学校の生徒が勝つかもしれないと思っているようだ。
「エリザベートちゃんてカレンと同じくらい年なのに、イルミンスールの校長さんなんだね。すごいなぁ〜」
ほとんど年の変わらないエリザベートの方を見て、カレンは尊敬の眼差しを向ける。
「えぇ〜そうですかぁ?」
凄いと言われた彼女は機嫌を良くし笑顔になる。
「ねぇねぇ、かがみちゃんだっけ・・・段を登る前は大人しくって優しそうな子だと思ったのに。ずいぶん雰囲気が変わったよ?」
「年に1度のことだもん。皆必死なんだよ」
翡翠が作ったイチゴのムースをスプーンですくい取り、葵も食べながら観戦する。
「あおいママ〜っ、チェリー欲しい」
「しょうがないね。取りに行こうにも混んでるし」
葵は器に残したチェリーをカレンに食べさせてやった。
「ちらし寿司を作ってみたんだが、どうかな?」
皿に盛ったケーキのようなお寿司を涼介が勧める。
「すごい、すごーい綺麗!ケーキみたい。ちょうだい〜」
カレンは涼介からちらし寿司を受け取り、さっそく箸を使って食べる。
「美味しい♪」
もぐもぐと食べるカレンを見て、作りがいがあったと涼介は笑顔になる。
「いつも、本当にお世話になってますっ」
先輩のアルカリリィに宇佐木 みらび(うさぎ・みらび)が丁寧にお辞儀をする。
「いつも孫がお世話になってるらしいね、サンキュね」
初対面の宇佐木煌著 煌星の書(うさぎきらびちょ・きらぼしのしょ)はアルカリリィに軽く挨拶をした。
「雛あられ作ってみたんです!よかったら・・・食べてくださいっ」
手作りアップリケを縫いつけたハンカチで包んだ雛あられを1人ずつ手渡す。
作り方が分からないみらびは、イルミン大図書室で本を借りて作ったのだが、おいしいお菓子ではなくおかしいお菓子の本だった。
「宇佐木がコレ作るために借りてきた本、絶対料理の本じゃなかったぜ。何か怪しい雰囲気だったし魔道書かなんかだったんじゃねえか・・・」
みらびに聞こえないように小声でセイ・グランドル(せい・ぐらんどる)は、アルカリリィと煌に耳打ちをする。
「―・・・。(そんなことを聞いてしまっては、食べづらいじゃろうが。しかし、せっかく作ってくれたのだし・・・さてどうしたものか)」
そのことを聞いたアルカリリィは食べようか迷ってしまう。
一方、共犯者の煌はにひひっと笑う。
「それ絶対雛あられじゃねえ、寧ろ食い物じゃねえ!」
セイは細長く捩れた形のあられを指差して食べようとしない。
目に涙を溜めて泣き出しそうになる彼女に、セイは思わずたじろぐ。
「(2人の視線が痛い・・・。そんな目で俺を見ないでくれぇえ!)」
みらびを泣かせたという視線に、食べる覚悟を決める。
「分かった、分かった!食べればいいんだろ?食べれば・・・」
指で1つ摘み口の中に入れる。
「(くはぁあっ、まずっ・・・不味い!パラミタ中の不味さが競い合うように、口の中でデスパレードが!!)」
納豆と牧草、そして古い牛乳を混ぜたような味に悲鳴を上げそうになる。
なかなか飲み込めないセイは悶絶する。
「水、水をくれぇえ」
「よく味わって食べるのに、水なんてなんじゃない?」
煌はセイの手からコップを取り上げた。
なんとか飲み込んだセイは口から魂が出てしまいそうな沈んだ表情になる。
薬入りのあられを食べたのを確認し、どうなるかにひひっと笑いながら様子を見る。
「どう・・・ですか?」
みらびは不安そうな顔でセイに味の感想を聞く。
「不味い」
優しく言う様子もなくセイは直球で感想を言う。
あられ作りを失敗してしまったみらびは泣きそうな顔をする。
「まぁ・・・・・・もっと上手く作れたら、その時はいくらでも食ってやるよ」
「え・・・えぇ、頑張りますっ!」
みらびは泣きそうになった顔を笑顔に変え、セイに沢山食べてもらえるように頑張ると宣言した。
「(薬が効いたようじゃん)」
その様子を見て煌はにひひっと笑う。
「食べたようじゃな。(我も食べるしかないか)」
セイが食べたことでアルカリリィを食べてみる。
「リリィ先輩・・・お味どうですか?」
「あぁ、美味かった」
みらびに見られる前に、白兎の作ったデザートを口に入れた。
「本当ですか?よかったですっ」
「(泣かせるわけにはいかないからのぅ。なんとかごまかせたようじゃ)」
アルカリリィはみらびを泣かせないために、デザートを食べてごまかした。
「エリザベートちゃん、外へ見に行きませんかぁ?」
一緒に外で観戦しようと、神代 明日香(かみしろ・あすか)がエリザベートを誘う。
「いいですよぉ」
「よく見えるように、これで観戦しましょう〜」
明日香は至れり尽くせりでカフェの外に、望遠鏡とイスを用意した。
「これならよく見えますねぇ」
さっそくエリザベートは望遠鏡を覗き込む。
「何か食べたい料理あります〜?」
「ひなあられと桜餅を食べたいですぅ」
「じゃーん、ご用意しましたぁ!」
明日香はカフェから至れり尽くせりにより、樹が作ったひなあられと、クレアとエイボンが作った桜餅を皿に乗せたやつを用意する。
「ちらし寿司も欲しいですぅ〜」
「どうぞー」
さらに弥十郎が作ったちらし寿司を目の前に用意した。
「綺麗で美味しそうですねぇ。ありがとうございますぅ〜、これでゆっくり観戦出来ますね」
イスに座りエリザベートは桜餅を美味しそうに食べ始める。
桜井校長とひな祭りを楽しもうとカフェにやってきたロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)は、赤系の色をベースに黄色の花柄の振袖を着ていて、唇にはルージュを塗っている。
「どこにいるんでしょう、桜井校長・・・」
カフェ内を見回して静香を探す。
「あっ・・・、見つけました!」
料理を置いているテーブルにいる校長を見つけて駆け寄る。
「振袖着てきたんだね。とても似合ってるね、綺麗だよ」
「そ・・・そうですか?」
静香に褒められたロザリンドは照れ笑いをする。
「桜井校長、一緒にのんびりとお食事しませんか?」
「うん、いいよ」
「どれを食べますか?私がとってあげます」
「ちらし寿司がいいかな」
「分かりました。じゃあここで待っていてくださいね」
静香のために取ってこようとロザリンドは、ちらし寿司があるテーブルへ向かった。
「みんな美味しそうですね。どれにしましょう」
「よかったら食べてみない?」
ミルディアに自分が作ったちらし寿司を食べてみないか勧められる。
「それじゃあいただきます」
「中央の方にマグロの切り身を花びらみたいにしてみたのよ。誰かと食べるの?」
「えぇ桜井校長と」
「あたしがお皿にとってあげるね」
ちらし寿司をミルディアは綺麗にお皿へ盛り付けてあげた。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます。さっそく桜井校長のところに持っていって食べますね」
受け取ったロザリンドはすぐさま静香が待っているテーブルへ戻る。
「持ってきました桜井校長」
「うん、ありがとう。わぁ・・・美味しそうだね」
静香は箸でちら寿司を摘む。
「そっちにあまりエビがないですね、私のをあげます。校長、はい、あーんしてください」
ロザリンドはエビを箸で摘み、静香の口に入れてやる。
「じゃあ、こっちのヒラメをあげるよ」
もらったお返しに静香はロザリンドに食べさせた。
「お屠蘇どうですか?」
「うーん・・・せっかくだけど、ボクはお茶にしとくよ」
「そうですか・・・」
差し出したお屠蘇を断られ、注いでしまったからとロザリンドが飲んだ。
「ふぅ・・・ちょっと飲みすぎたかもしれません」
「大丈夫?ひな祭りだから、お屠蘇と甘酒なら少しくらい飲もいいけど・・・飲みすぎはいけないよ」
酔った彼女に静香が水を差し出す。
「―・・・あ・・・、ありがとうございます」
ロザリンドは受け取ったグラスに口をつけた。
「静香さまどこにいるんでしょう・・・。あっ・・・!」
イルミンスールのカフェ内にいる静香の姿を探していた真口 悠希(まぐち・ゆき)は、ロザリンドと校長が一緒にいるところを見てしまった。
「楽しく話しているみたいですし、どうしたらいいんでしょう・・・」
会話している2人を見た悠希は、どうやって静香を誘うかと考え込んでしまう。
「やっぱりここは遠慮したほうが・・・・・・。ううん・・・いつも遠慮ばっかりしてたら、一緒にお祭りを楽しむことなんで出来ません」
意を決して静香に話しかけに行く。
「悠希さんも一緒に食べませんか?」
静香に喋りかけるよりも先に、ロザリンドに声をかけられる。
皿にある桜餅を差し出す。
「あ・・・ありがとうございます」
上手く話しだせず、悠希はもらった桜餅を食べる。
「―・・・あ、あの静香さま・・・」
なんとか話しかけようと小声で言う。
「どうしたの?」
「よかったら・・・ボクと一緒にひな段を登りませんか?」
「うーん・・・争いごとは苦手だからどうしようかな・・・。おひな様やおだいり様になりたい生徒さんもいるし」
「そう・・・ですよね、やっぱり・・・」
「もしかしたら他の生徒さんに席を譲っちゃうかもしれないけど、それでもいいなら」
断られたと思って落ち込む悠希に、静香が優しく喋りかける。
「は・・・はい!」
悠希の落ち込んでいた表情がとたんに笑顔になった。
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