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リアクション
第3章 ブラッディーホワイトデー
「バレンタインデーなんてあったんだね。僕はユーノからもらってないけど!」
そんな日があることを知らなかったニコ・オールドワンド(にこ・おーるどわんど)は、ムスッと怒り顔をする。
彼からチョコをもらえなかったと、顰め面をしている。
ニコが地球にいた頃は、ずっと地下に閉じ込められていた。
他者と接触したことといえば、扉越しに与えられる粗末な食事を与えられる時か、注文した本の受け渡し程度だった。
そのことに対して、ニコが恨むことはなかったが、身内が彼を望むことはなかった。
ユーノとの契約後は地球を捨てた。
わがままで子供っぽい態度だが本当はとても寂しがり屋なのだ。
誰かが自分を構ってくれないと不安になってしまう。
それなのにあの日、ユーノすらニコを構ってやらなかった。
あの日とはバレンタインデーの日のことだ。
自分の周りで沢山の人々が、バレンタインデーを楽しんでいるのに、ニコだけ1人ぼっち。
ユーノまでニコに構おうとせず、彼は皆が楽しんでいる様子を1人寂しく見ているだけ。
「仮にもパートナーなんだから僕にもチョコくれたっていいじゃないかぁ!ユーノのばぁ〜〜か!!罰としていろいろ思い知らせてやるんだ♪くふふっ」
普段から仲のいい兄弟のような存在のユーノ・アルクィン(ゆーの・あるくぃん)にもらえなかったニコは、黒いオーラを纏いながら彼宛に手紙を書く。
「(ホワイトデーにまさかのデレ!ああ女王様、私の日ごろの祈りが通じたのでしょうか!)」
下駄箱に置かれたニコからの手紙を見たユーノは大喜びする。
「バレンタインデーにはもらえませんでしたから、ちょっとしょんぼりしていたんですよね」
普段強気な分そんな所も可愛い彼からもらい、歓喜のあまり今にも踊りそうだ。
手紙を見ていない他者から見れば、いい内容が書いてあるのだろうと見えるのかもしれない。
その文章はこう書かれている。
― ユーノへ
今すぐ校舎の屋上へ来てよ。
バレンタインデーの日、僕に寂しい思いをさせたお礼にをしてあげる。
身も凍る甘いプレゼントをあげるから必ず来て。
もし来なかったら、それ以上のお返しをしてあげるから!
byニコ ―
「ニコさんったら直接言うのが恥ずかしいから、手紙で呼び出したんでしょうか?」
嬉しそうに脅迫めいた手紙を読み、ユーノは指定された場所へ向かう。
「何だかんだ言ってニコさんはやっぱり良い子なんですよね〜♪」
スキップしながら階段を登る。
「遅いなー、まだかなぁー・・・」
ニコは人差し指で手摺をトントン叩きながら、屋上でユーノを待っている。
「お待たせしましたニコさん!」
ようやくユーノが屋上のドアを開けてやってきた。
「もうっ、遅いじゃないかぁっ」
「すみません、待たせちゃいましたか。それでニコさん、私に何か渡したいものがあるんですよね?」
「うん、それはね・・・」
隠し持っている飴玉銃のトリガーに指をかけようとした瞬間、ドアが勢い良くバタァアンッと開く。
「本命?思いを伝えたい?ふざけるな爆発しろ!」
バレンタインの恨みを発散すべく、東條 カガチ(とうじょう・かがち)が飴玉銃の銃口をニコへ向ける。
「あぁっ、いいシーンで邪魔が入ってしまうなんて!ニコさんは私が必ず守って見せるっ。ニコさんには飴玉一粒させ、ぶつけさせません!」
パートナーを守ろうとディフェンスシフトの要領で、ユーノは親ばかパワーを炸裂させ、目にも止まらぬ速さでニコの前に立ちシールドを構える。
「ちくしょぉおっ!」
飴玉がシールドに弾かれてしまったカガチは悔しそうに地団駄を踏む。
「大丈夫ですかニコさん」
狂犬からニコを守りきったユーノは、笑顔で彼の方へ振り返る。
振り返った瞬間、笑顔から表情が一変し、顔を強張らせる。
「約束通りプレゼントをあげる。ありがたく受け取りなよ」
「うあぁああ、何するんですかニコさんっ」
ニコが放つ飴玉銃の飴をとっさに避ける。
「冗談ですよね?私にくれるプレゼントって・・・それじゃないですよね?」
屋上の隅っこに追い詰められたユーノは、がくがくと怯えながら手摺を掴む。
「僕、ちゃんと手紙に書いたよね?身も凍る甘いプレゼントをあげるってさ」
「たったしかに飴は甘いですけど。それは食べ物であってぶつける物じゃないですよ!?ほらっ、食べ物を粗末にしてはいけませんってよく言うじゃないですか」
ユーノは飴玉から逃れるための言葉を必死に並べる。
「粗末にしていいんじゃない?イベントだし」
「そ・・・そんなぁあ〜。やっ、やめてくださいニコさん。痛い・・・んぎゃっ、げぁあっ」
簡単に言葉を返されたユーノは涙声になり、問答無用で撃たれ続ける。
「あんな仕打ちをして、いったい飴に何の文字を書いているんだろ」
文章によっては邪魔してやろうと、カガチは転がっている飴玉を拾い集めると五文字の言葉になった。
「どんな思いが詰まっているんだこれに!?」
感謝の欠片もない文字に仰天する。
や・く・た・た・ずという言葉の中には悪意しか存在しない。
そんな彼らのやりとりを見てカガチは、“相手がもうじき葬られるんだから、わざわざぶっ壊すまでもない”と言い、屋上から去っていった。
「―・・・う、うわぁああーーっ!!」
追い詰められたユーノは、ついに屋上から落ちてしまった。