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うそ

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うそ

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3.むかしのうそ
 
 
「だから、気になるんだもん。教えてよ」
 世界樹にいくつかあるオープンカフェのテーブルで、皆川 陽(みなかわ・よう)テディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)を質問攻めにしていた。
「そうは言われてもなあ。復活する前の記憶は、もの凄く曖昧でよく分からないんだよ。いくらかわいい陽の頼みでも、こればっかりはなあ」
 困ったようにテディ・アルタヴィスタが額に手をやった。
 一生懸命思い出そうとしているのはよく分かるが、皆川陽としてはどうしても知りたいのであった。
「ねえ、古王国の女王も、ミルザム・ツァンダ(みるざむ・つぁんだ)さんみたいに過激な衣装でいたのかなあ。昔だからありだったのかなあ。教えてよー」
 駄々っ子のように、皆川陽が食い下がった。
 そこへ、ひょっこりと小さな鷽がテーブルの中央に舞い降りた。
「うそでござる」
「思い出したよ。なぜだか、急にはっきりと思い出した……ような気がする。凄くする」
「わーい。それでどうだったの?」
 テディ・アルタヴィスタの言葉に、皆川陽が歓声をあげた。
「そりゃ、もうエロエロよー。あっちこっちスケスケでさー。特に昔のことだろ、当時は下着なんてさー……」
 思いっきり事細かにテディ・アルタヴィスタはアムリアナ・シュヴァーラのことを語り始めた。ただ、その言葉が、鷽が語らせた嘘であるのか、本当の記憶であるのか、そのときはまだ確かめる術がなかった。
「うそでござる」
「こんにちは」
 二人が話し込んでいるところへ、ふらりとコトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)ルオシン・アルカナロード(るおしん・あるかなろーど)を連れてやってきた。
 なんだろうと皆川陽たちが戸惑うところへ、すっとコトノハ・リナファが身を低くして腰の方に手をやる。
 次の瞬間、電光石火の早業で、コトノハ・リナファが鷽をつかんでいた。あまりの速さに、誰もその瞬間を見ることができなかったほどだ。
「捕まえました!」
 コトノハ・リナファが嬉しそうに、つかんだ鷽を掲げた。さすがの鷽も、居合い斬りのスピードには対応できなかったようだ。
「ちっちゃい鷽ですけれど、しかたないですね。いいですか、あなたは私のペットなんかじゃないんですよ。赤の他人ですからね」
 言い聞かせるようなコトノハ・リナファの言葉に、鷽が彼女の手にすりすりと胸をこすりつけた。
「やりました、うまく言霊で手なずけました」
 嬉しそうに、コトノハ・リナファが、ルオシン・アルカナロードにささやいた。
「すばらしい。今巷を騒がしている鷽をこうも簡単に捕まえるとは。君も、正義の味方を名乗るにふさわしい」
 いきなりやってきた神代 正義(かみしろ・まさよし)が、遠慮もなくコトノハ・リナファに握手を求めてきた。
「いきなり、失礼であろう」
 ルオシン・アルカナロードが、ナイト然として神代正義を排除する。
「はははは、よくぞ私のために鷽を確保してくださいました。これで、私の夢が一つ叶います」
 いきなり高笑いが聞こえたかと思うと、イレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)が、その場に乱入してきた。
「実は、私は未来戦士だったのです。さあ、旅立ちましょう。いざ、タイムワーァーップ!」
「ちょ、ちょっと。いったい何を……」
 何を言いだすのかと一同が驚く間もあらばこそ、テーブルの周囲の空間が歪んで光につつまれた。
 
    ★    ★    ★
 
「うーん、ここはいったい……」
 皆川陽は、ふらふらと立ちあがった。
「えーっと、メガネ、メガネ……」
 視界がぼやけて何も見えないのに気づいて、あわててなくなったメガネを探す。
「ほれ」
「あ、ありがとう」
 手渡されたメガネをかけて、皆川陽はメガネを拾ってくれた親切な人の顔を見た。
「どうやら、バラバラに飛ばされたみたいだね。それにしても、ここはどこなんだろう」
 皆川陽を助け起こしながら、テディ・アルタヴィスタが言った。
 あらためて周囲を見回してみると、石造りの大きな建物の二階か三階の回廊部分にいるようだ。
「体育館か何かかなあ」
 愛用のメガネ越しに目を凝らしながら、皆川陽が言った。
 たしかに、現代建築ふうに言うと、体育館に近いかもしれない。吹き抜けの中央は広間となっていて、明るい陽射しのさし込むそこには、大きな長テーブルがあって、数人の女性が座っていた。どうやら、優雅にお茶会か何かをしているらしい。とはいえ、この高さからでは、あまりはっきり顔とかを確認することができない。
「ここは、五千年前のシャンバラ宮殿ですよ」
 ふいに、二人の後ろに現れたイレブン・オーヴィルが言った。
「まさか、だとすると、あれはアムリアナ・シュヴァーラ女王様か!?」
 テディ・アルタヴィスタが驚きの声をあげた。
「確かめますか。さすがの私でも、女王様の顔は分かりませんから」
 イレブン・オーヴィルが、テディ・アルタヴィスタにオフペラグラスを渡した。
 恐る恐るテディ・アルタヴィスタが、オペラグラスをのぞいてみる。
 テーブルには、全部で十三人の女性が座って、楽しくお茶を飲んでいた。テーブルの左右に六人ずつ、そして、端に一人。
 微かにだが、会話らしき物も耳をそばだてればかろうじて聞くことができそうだ。
 
「それで、そのときのセイニィと言ったら……」
「もう、いいでしょ。そういう話は……」
 楽しそうに話すティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)に、勘弁してよとセイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)がぷいと横をむく。それがまたかわいいと、ティセラ・リーブラが屈託のない笑い声をあげた。
「パッフェルからも、何か言ってやってよ」
「私を巻き込むなよ」
 薔薇の香りのする紅茶を飲みながら、パッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)が素っ気なく言った。その後、影に隠れて忍び笑いを漏らす。
「それにしても、我ら十二星華が勢揃いするとはひさしぶりのことですね」
 ジャレイラ・シェルタン(じゃれいら・しぇるたん)が、場を見回して言った。
「はい、とっても楽しいですぅ」
 エメネア・ゴアドー(えめねあ・ごあどー)がぽよぽよと答えた。
「そうだよね。私たちがのんびりできるということは、平和だっていうことだもん」
 紅茶のお代わりを頼みながら、ホイップ・ノーン(ほいっぷ・のーん)が同意する。
「暇をもてあますというのも、どうかとは思うけどね。パワーランチャーを錆びつかせないためにも、たまには生きた標的を撃たないとねー」
「そういう話は、アムリアナ様の前では、あまりふさわしくありませんよ」
 アルディミアク・ミトゥナ(あるでぃみあく・みとぅな)に注意されて、パッフェル・シャウラがぷいと横をむく。
「リフルさん、お代わりはいかがですか?」
 リフル・シルヴェリア(りふる・しるう゛ぇりあ)のカップがほぼ空なのを見て、テティス・レジャ(ててぃす・れじゃ)が訊ねた。
「いえ、私はもう」
 言葉少なに、リフル・シルヴェリアが遠慮する。
「いずれにしろ、表舞台には無縁のあたしたちだからね。こうして仲間内で集まるのは、悪くないものさ」
 不知火太夫でパタパタと仰ぎながら、ザクロが言った。
「そうですね。いつもは、誰かがお仕事でいらっしゃいませんから。みんなに会えて、私も嬉しいです」
 胸の前で軽く両手を組んで、アレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)が嬉しそうに言った。
「そうだぜ。俺もみんなに会えて、こんなに嬉しいことはない。これからも、社会の裏で悪を成敗していこうぜ」
 むんとポーズをつけて、ひらひらとしたドレスを着たシャンバランが言った。
 
「ちょっと待てー、なんでシャンバランが十二星華の中に混じってる。蟹座か、あいつ、蟹座のつもりなのか!」
 思わず、テディ・アルタヴィスタが叫んだ。
「まさか、アムリアナ様も……」
 不安に駆られて、テディ・アルタヴィスタは、女王らしき人物を見た。
 ところが、あまりに神々しいオーラにつつまれていて、その姿がよく見えない。せめて御尊顔だけでもと目を凝らしてみると、なぜか顔の位置に黒ベタがある。
 【まだ見せてあげられないよ(運営)】
 顔の位置の黒ベタには、そうはっきりと書いてあった。
「おかしいだろ、ここは本当に五千年前なのか、おい!」
 テディ・アルタヴィスタは、イレブン・オーヴィルの胸倉をつかんで怒鳴った。
「せめて、超絶美形の女王様のお顔だけでも見せてくれよ。もう一度、もう一度だけでも見たかったんだ」
 イレブン・オーヴィルの胸倉をつかんだまま、テディ・アルタヴィスタがちょっとむせび泣いた。皆川陽が、その背中にそっと手をおく。
「噂の蛇遣い座は、ここにはいないのか? 全員揃っているという話のようだったが。それにしても、鷽はどこに行ってしまったんだ」
 イレブン・オーヴィルは、困ったように周囲を見回した。
 
「ふっ、ここがシャンバラ国女王の茶室か。邪魔をさせてもらうぞ」
 突然の乱入者に、十二星華が全員一斉に席を立った。即座に、ティセラ・リーブラとアルディミアク・ミトゥナが女王の前に立って防御態勢を取る。
「パッフェル!」
「もう撃ってる」
 ティセラ・リーブラの命令に対して、すでにパワーランチャーを構えたパッフェル・シャウラが答えた。
「問答無用とは、無粋な」
「賊にかける言葉が必要か?」
 光弾を素手で弾いたルオシン・アルカナロードに、パッフェル・シャウラが言った。どうやら、過去に戻ったときに、魔王としての記憶を取り戻してそれに囚われてしまったらしい。どうも、そういう設定のようだ。
「あなた、何者ですか。何故に、わたくしのアムリアナ様のお茶の時間を騒がすのです。返答によっては、生かしては帰しませんよ!」
 女王の誘導をホイップたちに任せて、ティセラ・リーブラが威圧するように言った。
「我は、ただお茶を飲み、そしてお話に来ただけであるのだがな。このシャンバラをゆずっていただくためのお話を」
「それはまた大胆な。では、こちらとしても、その言葉の責は、死を持って払っていただきましょうかねぇ」
 光条兵器を赤くひらめかせながら、ザクロが言った。
「みんな、下がっていてくれ。悪は、このシャンバランが成敗してくれる!!」
 神代正義が、十二星華たちの前に出て言った。いや、今はなぜか彼もまた十二星華の一員であったか。
「分かった。ここは任せましょう」
 ティセラ・リーブラが、あっさりと神代正義に任せて引き下がった。
「体のいい捨て駒のつもり?」
 セイニィ・アルギエバが、ティセラ・リーブラにささやいた。
「そうとは限らないでしょう。それよりも、他に賊が侵入している可能性もあります。わたくしたちはアムリアナ様の警護を」
 ティセラ・リーブラはそう言うと、渋る他の十二星華たちをいったん下がらせた。
「どけ。貴様では相手にならん」
 ルオシン・アルカナロードが神代正義を威圧した。
「ええ。屡王神、あなたの相手は私です」
 今までどこにいたのか、コトノハ・リナファが、パートナーであるはずのルオシン・アルカナロードの前に現れた。
「この展開はまずいよね」
 回廊から状況を見下ろしながら、皆川陽が言った。
「だが、どうすればいいんだか」
 さすがに、超展開についていけずにテディ・アルタヴィスタも困惑する。
「屡王神としてのあなたは、一度滅んで。今、私の前にいるあなたは、ただのルオシン・アルカナロード、私のルオシンだと思っていたのに……」
 コトノハ・リナファが、虹色に輝く瞳で、悲しそうに言った。
「我が、滅ぶ? 戯れ言を」
 ルオシン・アルカナロードが苦笑する。
「でしたら、私も、前世の名を取り戻すしかありません。プリンス・オブ・セイバーとして、忘れていたかった名を……」
 コトノハ・リナファが、エターナルディバイダーを取り出して構えた。かつて、前世で二人は敵同士であり、英雄であるコトノハ・リナファが魔王であるルオシン・アルカナロードを倒したということらしかった。
「この我を斬るというのか。我、すなわち、ルオシン・アルカナロード――コトノハ、君の大切な人を……」
 ささやくような優しい声に、一瞬コトノハ・リナファの動きが止まる。それを見逃してくれるほど、敵は甘くはなかった。
「俺を忘れるな!」
 放たれた光弾を、神代正義がシャンバランブレードで切り払った。
「戦えないのなら、下がっていてくれ!」
 神代正義が、コトノハ・リナファに下がるように言う。
「いいえ、私は……」
 言葉が出てこない。
「鷽だ。どこかにいる鷽を斬れ!」
 イレブン・オーヴィルが叫んだ。
「しかけるぞ!」
 すべてを察した神代正義が、ルオシン・アルカナロードに突っ込む。
「愚かしい!」
「ぐわっ、やるじゃないかぁ!」(V)
 ルオシン・アルカナロードが、圧倒的な力で神代正義を払い飛ばした。だが、その陰から、コトノハ・リナファが飛び出してルオシン・アルカナロードに肉薄する。
 ――鷽は、どこ?
 虹色の瞳が輝く。わずかに、ルオシン・アルカナロードの左肩に影が見えた。
「鷽だけを!」
 目映い光を放つエターナルディバイダーが鞘走った。
「まさか……また……」
 ルオシン・アルカナロードがゆっくりと倒れていく。
「うそでござるぅ〜!!」
 ルオシン・アルカナロードの肩から飛び出した鷽が、ボンという音をたてて消し飛んだ。
「時を戻るぞ!」
 イレブン・オーヴィルが叫ぶ。
 そして、光が満ちた。