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魂の欠片の行方3~銅板娘の5日間~

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魂の欠片の行方3~銅板娘の5日間~

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 そして。
 遂に移植の時が来た。
 綺麗な水色の髪をした、華奢な少女型機晶姫の機体が作業台の上に横たわっている。武装に転換されてしまいそうな部分は何処にもない。隼人の造った攻撃防止プログラムも搭載済みだ。作業台の周りには、修理に携わった面々とルミーナ、環菜、ソルダ、ラスと村長、ルイ・フリード(るい・ふりーど)リア・リム(りあ・りむ)が集まっていた。
「モーナ、一昨日メールで送った資料は、役に立ったかしら」
 環菜が訊くと、モーナは「ああ!」と手を打った。
「非武装の機晶姫の資料だね。文書の方は、元々ファーシーの身体について書いてあっただけに合致する所も多かったよ。修理の参考になった。既にこっちでアレンジしちゃった部分とかもあったから、完全に再現出来たわけじゃないけどね。で、あの本についてだけど……」
「ええ」
「素人が組み立てて機晶姫が作れるようには出来てない。だけど、小さなファーシーの身体の設計を元に大きなもの用として作っただけに、弱い部分の補強をするための方法として役立ったよ。多分、もう少し研究すれば機晶姫用の防具とかも作れるんじゃないかな。攻撃するためのパーツじゃなくて、今まで以上にしっかりした、守る為のパーツがね」
「そう……」
 巨大機晶姫の再現については、環菜は聞かなかった。とりあえずモーナは、それを行うつもりはないらしい。だが、他の技師は本の存在を知った時にどうするだろうか。それは平和への一助となるのか。それとも――
「それじゃあ、移植を始めるよ。ファーシー、覚悟はいい?」
「うん」
「ラズ、未沙、お願い」
 モーナが道具を、未沙が銅板、ラズ・シュバイセン(らず・しゅばいせん)が新しい機晶石を機体に近付ける。ラズは、機晶姫の魂の移し変えを見届ける為に、ファーシーの修理作業に参加した。
 かつて失ってしまった、自分の恋人であった機晶姫「シャルミエラ」を復活させる為に。シャルミエラの壊れた機晶石の中に、まだ魂が残っているのなら――いや、きっと残っている。魂に……寿命は無いのだから。
(リミィ……いや)
 シャルミエラへの想い、アシャンテへの思いを一時的に断ち切る。そうしなければ、失敗してしまうから。ファーシーを復活させる。それが、全てへの第一歩になる。
「少しでもタイミングがずれたら、失敗するよ。機体が、新しい石の方に反応してしまうからね」
 カレンは、いつの間にか両手を組んで祈っていた。
 やるべき事はやった。
 みんなの想いも、一つだろう。
 だから――成功して欲しい。

 どうしても。

「ファーシー……!」
 機体に入っていく2つの最後の鍵。それを見詰めながら、リアは願う。せっかく友達になれたのだから。これから沢山、新しい思い出を作っていくのだ。ここで終わるなんて、そんなことは絶対に――

 絶対に駄目だ。

(ルヴィさま……)
 昨日はありがとう。わたしを大切にしてくれてありがとう。5000年前に気付けなかった分、いっぱい恩返しがしたい。身体に組み込まれた銅板。そこで貴方は、見守ってくれているよね?
 結婚して『さま』っていうのも可笑しいよね。
 だから――
『貴方と、永遠に』

 機体の胸部から光が迸る。
 あの、魔物化しかけた石が壊れた時と酷似した――光。
「ファーシーねぇ!」
「いけません、フィック!」
 機体に近寄ろうとするメタモーフィック・ウイルスデータ(めたもーふぃっく・ういるすでーた)を、島村 幸(しまむら・さち)が押し留める。幸は思った。フィックは今、再生を望んでいる。
 そう、これも、破壊から生まれる新しいもの。
 壊れた機体を元に、生まれ変わったファーシーの身体。
 短期間とはいえ本体として過ごした、銅板からの乖離。新しい本体としての機晶石が――
 光が収まる。
「……………………」
 ラズと、銅板を持った未沙の手、道具を持ったモーナの手が機体から離れた。仕上げとして、蘭華・ラートレア(らんか・らーとれあ)が胸に保護カバーを被せ、固定する。
「ファーシー?」
 ルミーナが機体に話しかける。銅板には何も、誰も居ないと信じているから。

「……みんな……」

 その声は――――作業代の上から聞こえた。
「ファーシー!」
 口々に名前を呼ぶ、仲間達。その声に応えて、ファーシーは起き上がった。ゆっくり、ゆっくりと、未沙に助けられながら、身を起こす。
「わたし……、生きられるの……?」
 ファーシーが助かったという感動。機晶姫の、これからいっぱい見えてくるであろう、新たな可能性への想い。そんな、色々な感情がごちゃ混ぜになって、カレンは泣いた。
 ティエリーティアがファーシーに走り寄って、ぎゅーっと抱きついた。想いが強すぎて――声が出せない。溢れてくるのは、たくさんの涙。
「ティエルさん……」
「よかったね、身体がキレイになって……あたし、不器用だからなんて言っていいかわかんないけど……」
 その光景を見て、ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)も涙ぐんだ。そこで、はたと気付く。
「ファーシー……、とりあえず、着替えよう?」
 最初にやることは、服を着ること。

 青いガーターベルトとリボンを足につけ、ストッキングに留める。ワンピースを被せ、大きな青いリボンで腰を締める。両手には真っ白い手袋をして。首にはお世話になった銅板と、ハートの機晶石ペンダントを2つ。
 頭に――白いヴェール。
「出来た?」
 男共を追い出して死角に下がらせ、覗かせないように見張っていたミルディアが振り返る。それを機に、再び全員が集まる。
「えへへ……」
 作業台に腰掛けたファーシーは、恥ずかしそうにはにかんだ。そして、立ち上がり――歩こうとしたところで、バランスを崩して転びかける。
「きゃっ!」
「ファーシー!」
 慌ててその身体を、プレナとサクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)が支える。
「あれ……? うまく歩けない……」
「……エネルギーは通ってるよね?」
 モーナが訊くと、ファーシーは頷いた。足首を動かしてみる。
「ちゃんと動くよ」
「……魂が不完全であることで起こる、不具合だね。機体の重量に耐えられないんだ。大丈夫。これから生活していろんな経験をしていけば新しいデータが、魂が補完されていくから。そうすれば、歩けるようになるよ。実はね、こんな事態を想定して、車椅子を造っておいたんだ。最低限の機能しかない、小さなやつだけど……これは、司君が持ってきた簡易電池を利用して造ったんだよ」
「それで、動けるの……?」
 車椅子というものがどういうものか知らないファーシーは、首を傾げた。
「座って、だけどね」
「良かった……ありがとう!」
 ファーシーは、白砂 司(しらすな・つかさ)にとびきりの笑顔を向けた。
「いや……大したことはしていない」
 その司をおかしそうに見てから、サクラコは言った。
「私達といっぱい、新しい物語を紡いでいきましょうね。これからも、よろしくお願いします」
「うん……よろしく!」

 祭りの後。
 礼拝堂にも住宅地にも、図書館にも役所にも。
 何処を歩いても誰も居ない。持ち込まれた備品も全て撤去され、在るのは5000年前の遺物だけ。
 ――嘗て、活発に活動していた製造所所員達の墓地。そこに、アーキス・ツヴァインゼファー(あーきす・つゔぁいんぜふぁー)は立っていた。2日前に供えた梔子の花は、風に流されて其処此処に転がっていた。
 墓の前で、今回の事件の顛末について考える。
 何故、ファーシーは銅板に宿れたのだろうか。科学的な考察もするが、専門ではないので無駄だと感じ、止める。
 それとは別に精神的な考察もする。正直な所、そうまで出来る心の在り方にはそういうこともあるのだろう、と納得はするものの理解は出来なかった。
 考えれば考える程に、自分には人間というには、足りないものがあまりにも多すぎる。
 感情など、様々なものが欠損しているのだということを実感してしまう。
 魔神の刻印がひどく疼く……ような気がした。
 考えるのは時間の無駄だと考え、この事件に関わった所為で滞った授業の埋め合わせ方法を、考えることにした。




(END)

担当マスターより

▼担当マスター

沢樹一海

▼マスターコメント

マスターの沢樹一海です。ご参加&拝読、ありがとうございます!
一 週 間 遅 れ ということで……本当に申し訳ありませんでした。

「魂の欠片の行方」シリーズ、これにて完結でございます。
皆様のおかげで、ファーシーは新しい身体を得て、新しい人生を歩むことになりました。当初は昇天させる気満々だったなんてどうして言えましょうか。

ホレグスリまでの自己イメージをぶっこわして内心びくびくものでしたが……やって良かったな、と心から思えます。こんなにやさしい物語になるとは、全然考えていなくて、ファーシーだけではなく、私自身もたくさんの「心」をもらった思いです。
2回目以降からは、アクションで爆泣きという経験もさせていただきました。プロット書きながら泣くという経験もさせていただきました。
<1日目>最後の、ファーシーが「もう、みんな……〜」という台詞は、私の本心でもあります。

また、今作ではシリーズ物(ストーリー物)の難しさ、想像以上のクリエイティブっぷりにびっくりいたしました。クリエイティブなめてました。特に、遺跡関係の細かい設定は、殆どアクションを元に、そこから想像して作ったものです。ここまで細かく、また大きな話になるとは思ってませんでした。にも関わらず、何だこのネタバレシーンのNPC台詞率…………!(いや、どこまで喋らせていいのかと迷ってしまい開き直……いえなんでもありません)

本当に、私にとって感慨深い、思い出深い作品になりました。

ファーシー達の物語は、まだ続きます。再開を約束した人達もいるしね!
巨大機晶姫の物語は、続くんだかどうなんだか知りませんが、続くとしたら、また私の予想外の方向にどんどんと進んでいくのでしょう。そしてその時はガイドで、ネタバレシーン登場希望の方を募集するのでしょう(←本当かよ

それでは、色々と書きたいことがありすぎて何書いてんだかだんだん分からなくなってきたのでこの辺りで締めたいと思います。

精一杯の感謝を。また、別のシナリオでお会いしましょう。

冷静になった時に何か書くかもしれません→ブログ「とりノベdiary!」