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ミリアのお料理教室、はじまりますわ~。

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ミリアのお料理教室、はじまりますわ~。

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●4:これだけいて、何がしかの問題が起きないはずがありません

 テーブルの一角で、男と少女の押し問答が繰り広げられていた。
「あなた邪魔しないでくださぁい。エリザベートちゃんにふーふーしてあーんって食べさせるのは私の役目なんですぅ」
「うっせぇガキ、さっきからテメェずっとひっついてばっかじゃねーか。エリザベートだって迷惑してるぜぇ〜?」
「そんなことありませんよ〜。ね〜、ありませんよね〜?」
「あむあむ……ちょっとうっとおしいですけどぉ、アスカは美味しいもの食べさせてくれるですぅ。あなたの持っているお酒は見るからに不味そうですぅ」
「きゃ〜、エリザベートちゃんが私のこと名前で呼んでくれました〜! い〜っぱいありますから、どんどん食べてくださいです〜」
 神代 明日香(かみしろ・あすか)に頭をわしゃわしゃと撫でられて、エリザベートがちょっとやりにくそうにしながら、圧力鍋で柔らかく煮込まれたドラゴンの皮を、ハチミツを使ったとろみのあるタレで美味しそうに食していた。
「そういうわけですから〜、お引き取りくださぁい。……あまりしつこいと、手段を選びませんよぉ?」
「ぐ……ち、しゃあねえなぁ! 今回は引き下がってやんよ!」
 明日香が一瞬だけ見せた鋭い眼光に気圧されて、南 鮪(みなみ・まぐろ)が捨て台詞を吐いてその場から立ち去る。
「ふぅ、邪魔者はいなくなりましたね〜。さ〜エリザベートちゃん、今度は何のタレがいいですか? 辛いもの、さっぱりしたもの、塩もありますよ〜」
「アスカ、私一人で食べられるですぅ」
「ダメです〜! エリザベートちゃんには私が食べさせるんです〜!」
「やりにくいですねぇ……」
 そう呟きつつも、優しくしてくれる明日香を無下には出来ず、エリザベートが明日香のなすがままにされる。
「エリザベートもああしとる内は、可愛らしいんじゃがのう。……で、おまえは何をしとるのじゃ?」
「? あんえふか? ……!」
 アーデルハイトに呼ばれて振り向いたノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)が、口いっぱいに頬張っていたドラゴンの皮をもにゅもにゅ、とよく噛んで飲み込み、ふぅ、と一息ついてようやく口を開く。
「私はここで、明日香さんとエリザベート様の仲睦まじいのを見ていました」
「見方によってはそう言うのかもしれぬが……。ま、エリザベートもあれで嫌っておるわけではないじゃろうし、相手をしてくれる者がおることは私も楽になってよい。こうして遠巻きに眺めながら酒を楽しむことも出来る。……どれ、私にも一杯くれぬか」
「あ、はい。どうぞ」
 向かいに腰を下ろしたアーデルハイトに、盃を用意して『運命の書』が日本酒の酒瓶を傾ける。その光景を遠巻きに見ていた鮪が、料理酒を煽って臭い息を吐く。
「ちくしょぉ〜、あいつらがいる限りエリザベートを拉致って料理できやしねぇ〜。皿に載せて、あるいは料理を載せて……ヒャッハァ、今から涎が止まらねぇぜぇ〜」
 しばらく頭の中で桃色妄想を繰り広げた後、鮪が次なる作戦のためその場を後にする。
「信長さん、でしたかー? よくお見かけしますよねー。イルミンスールが気に入りましたかー?」
 鮪の動向を傍目に見ながら、織田 信長(おだ・のぶなが)が豊美ちゃんの話し相手になっていた。鮪から足止めをしてくれと頼まれたものの、知った事ではないといった様子で豊美ちゃんの質問に答える。
「わしは豊美殿にお目通り賜りたく足を運んでおるのだ。時に、本日は一つ豊美殿の手料理を頂く栄光を預かりますかな」
「私のですかー? そう言ってくれるのは嬉しいんですけど、私料理がとんと駄目でして……いつもウマヤドに作ってもらってるんですー。ウマヤドは料理上手ですよー、ここに来ていたらきっと嬉々として作ったでしょうねー」
 あはは、とどこか恥じるような笑みを見せながら、豊美ちゃんが答える。ちなみにウマヤドこと飛鳥 馬宿がこの場にいないのは、諸々あるが一番の原因は、どこぞのマスターがガイドに登場させるのをうっかり忘れたからである。彼は後で馬宿から、呪いの言葉を全方向から呟かれるであろう。
「フム……てっきり厩戸皇子の名の如く、馬の餌程度のものしか作れぬと思ったが」
「あー、それはヒドイですよー。ダメですよー、ウマヤドの悪口言ったら私が許しませんからねー?」
 豊美ちゃんが『ヒノ』を呼び出して先端を信長へ向ける。
「これは失礼、豊美殿の気を悪くさせるつもりは毛頭ない」
「……分かればいいですー。うーん、期待されてるのに何もしないのは失礼ですよねー。分かりました、誰かに頼んで料理をさせてもらいます。待っててくださいねー」
 信長に手料理を振舞うことを約束して、豊美ちゃんがたた、と駆け出していく。

「とは言いましたけど、私に何が作れるんでしょう……」
 色々な食材を見ては来たものの、一度もそれらを調理したことがない豊美ちゃんが悩みながらカフェテリアを歩いていると、秋月 葵(あきづき・あおい)に声を掛けられる。
「あっ、豊美ちゃん! 今豊美ちゃんを誘おうとしてたんだ。ねえ、あたしと一緒に料理作ろっ?」
 そう言って、エリザベートからもらってきたドラゴンの皮をぴらぴらさせて、葵が豊美ちゃんを誘う。
「ありがとうですー。あ、最初に言っておきますけど、私料理初心者ですよー?」
「大丈夫! あたしも料理のことはよく分かんない! エレンが全部決めてくれるから!」
「葵ちゃん、そんな自信たっぷりに言わなくても……」
 全権を任されてしまったエレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)が、しばらく考えた後に料理の案を口にする。
「それでは、ドラゴンの皮とキノコを煮込んでシチューを作るのはどうでしょう?」
「美味しそう〜! じゃあ豊美ちゃん、早速やってみよう〜!」
「はい、よろしくですー」
 エレンディラに一通りの手順を教えられた葵と豊美ちゃんが、準備に取り掛かる。
(さて、と。私も……)
 葵と豊美ちゃんが楽しく会話をしている間、もし二人が料理に失敗した時に困らないようにと、エレンディラも料理の準備を始める。
「あっ、そうだ豊美ちゃん。ひな祭りの時に言われた魔法少女な二つ名、考えてきたよ〜。コホン……興味を持ったら一直線! 突撃魔法少女リリカルあおい……ってのはどうかな?」
 フリルとリボンの付いた衣装をひらひらさせ、杖の代わりにお玉を構えて、葵が魔法少女な名乗りを挙げる。
「葵さんはホント可愛いですねー。はいいいですよー、認定しちゃいまーす」
「やった♪ これで今日からあたしも魔法少女だねっ! よ〜し、これで料理もぱぱーっと作っちゃうよ〜!」
「……わわ、葵さん、お鍋がお鍋がっ」
「えっ? うわわ!」
 火が強すぎたのか、吹きこぼれそうになるところを慌てて火を止めて事なきを得る。
「ふぅ〜、危なかったね〜」
「気をつけていきましょうー」
 安全に行こうと再確認して、葵と豊美ちゃんが料理を進めていく。その後も、包丁を使おうとする葵をエレンディラが引き止めたり、包丁の扱いに慣れない豊美ちゃんが『ヒノ』の先端でぶった斬ろうとするのを二人掛かりで止めたりしつつ、何とかシチューが形になって二人の目の前に出来上がった。
「で……出来たよ豊美ちゃん! まさか出来るなんて思わなかったよ!」
「よかったですー。これで恥をかかなくて済みそうですー」
「早速試食してみよっ!」
 取り皿に取り分け、二人同時にシチューを口にする。
「…………!!」
「…………!!」
 直後、二人の顔がカヤノの氷術を受けたかのように凍り付く。口の中のものをどうしようかという動きの後、何とか飲み込んだ二人が、荒い息をついて感想を口にする。
「……とっても、甘かったよね?」
「甘かったですー。どうしてこうなったんでしょう……?」
 その答えは、瓶を手にしたエレンディラが出してくれた。
「どうも、砂糖と塩を間違えて入れてしまったみたいです。砂糖の減りが激しいですから」
「うわ、それって料理を失敗した時のお決まりのパターン、って言うんだよね!?」
「ごめんなさいですー、全然気付きませんでしたー……」
 悔しがる葵に、豊美ちゃんがぺこりと頭を下げて謝る。
「あああ、豊美ちゃんが謝ることなんて無いよ。また作り直せばいいんだし、ねっ?」
「そうです、料理は少しずつ上達していくものですから」
 葵とエレンディラの慰めを受けて、はい、と豊美ちゃんが頷いた。