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リアクション
47. 二日目 エーテル館 大ホール 午後四時五十一分
くるととあまねは、大ホールにいた。
ホールには捜査陣、容疑者、負傷者がすべていて、さながら戦時の大本営のような様相を呈している。
早起きしたくるとは、いま頃になって、うとうとしだし、絨毯に座り壁に寄りかかった、あまねの膝枕で、遅い昼寝をしていた。
あまねの携帯が鳴る。
レキ・フォートアウフからだ。
「やっぱり、船にはワイヤーの罠が仕掛けてあったよ。全部、処理するからね。ボク、犯人探しは、しなくていいのかな」
「今日も負傷者がでてるから、危険なことはしないでね。困ったら、ミアさんにフォローしてもらってください」
「うん。ボク、今夜は、この船に泊まるよ。あまねちゃん。明日のパーティで会おうね」
美沙、京子の提案で、明日は船上パーティとレングリシャム島へのクルージングが予定されている。
捜査陣のほとんどが、それに参加するはずだ。
「あまね姉さん。芋ケンピでも食べますか?」
芋ケンピの袋と、好物の抹茶入り玄米茶の茶碗を持った、セオボルト・フィッツジェラルドが、あまねの横にきた。
「セオボルトさん。その、くるとくんのお母さんみたいな呼び方は、なんなんですか」
「お気にめさないですか」
「いいえ。別にいいですよ。くるとくんのおばさんに、姉さんって呼ばれると、あの人、あたしより全然、年上なのに、麻美さん並みにぼーっとしてるんで、周囲から、あたしが、あの人のお姉さんだと思われることがあって、非常に、ショックだったりするだけです」
「それは失礼しました。あーちゃんは、捜査はしなくていいのですか」
「今度は、あーちゃん、ですか、まあいいです。ええ。くるとくんも寝てるし、ナガンさんが、カメラ持って、あちこちにお邪魔してまわってるんで、あたしは休憩です。セオボルトさんの方は」
「えつ子さんをマークしていましたが、決着しましたし、こうして芋ケンピを四袋ぐらい食べると推理がまとまるので、いまは、その作業中ですな」
「それもまた、大変ですね」
「芋ケンピは三度の飯より好きですから、苦はありません」
セオボルトの返事に、あまねは楽しそうに笑った。
「なにか、おかしいですか」
「事件は、大変ですけど、こうしてたくさんの探偵さんや悪者さんが、わいわいしてる中にいると、自然に顔がにやけちゃいますね。あたし、名探偵実在論者なんで、どんなこじれた問題にも、最後には探偵さんが答えをだす、って信じてるんです。
芋ケンピ探偵さんも、がんばってくださいね。
あ、ブリジットさんがまた、張り切ってますよ。歌を歌ってるのかな」
V:百合園女学院推理研究会の朝倉千歳だ。大ホールにいて、推理研の他のメンバーからの情報をまとめている。
春美たちがエーテル館の正体を解明して、誘拐された麻美を発見した。
おやつ休憩の後、いまは、鬼崎朔らがなぜ、そんなことをしたのかの取調べに、立ち会ってるところだ。
蒼也とペルディータからも、みのるの日記を見つけたという連絡があった。くわしい話は、ブリジットが聞いていたな。
みらびたちは、えつ子と事件とは関係なくお茶を飲んでるらしい。それは、それでいいとするか。
私にとって問題なのは、ペルディータからの電話の後、一人で陽気に歌っているブリジットだ。探偵が厄介なものなのは、経験でわかってはいるが、舞はよく毎回、この集団ヒステリー状態に耐えられるな。
「Let it be〜」
「お嬢様。さっきから、繰り返しなにを歌っておられるのです。どうかされましたか」
伝説のバンドの世界的ヒット曲を歌うブリジットに、イルマが尋ねた。
「ペルディータから話を聞いたの。これでわかったわ。同じお金持ちの子供が、運命のいたずらで、一人はその家の子、一人は使用人として育てられるなんて、小説みたいな話が本当にあるのね。いまさらながら、びっくりするわ」
「・・・・・・それは、そういったことも、世の中には、あるかと思いますわ。それと、その歌とどんな関係があるのです」
「舞の実家で見せてもらった日本の古いミステリ映画で、この曲が使われていたの。同じ日に生まれた少し普通と違う兄弟が、悲劇を呼ぶ物語よ。って、ちょっと、こんなこと言ってると、くるとみたいじゃない。あまねもこっち見て笑ってるし。とにかく、麻美の秘密もわかったわ。明日、レングリシャム島で、なにが起こるか、楽しみね」