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【十二の星の華】双拳の誓い(第4回/全6回) 虜囚

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【十二の星の華】双拳の誓い(第4回/全6回) 虜囚
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「えーと、なんだか、もうしっちゃかめっちゃかになってるみたいなんだけど」
 あちこちから聞こえてくる爆発音などに、高村朗は頭をかかえた。ちゃんとした訪問者として潜入するつもりが、少しで遅れたせいでこのざまだ。
「大丈夫ですよ。先に行った人たちがきっと露払いしてくれています」
 少し離れて後をついてきていた安芸宮和輝が、高村朗に呼びかけた。
「そう、うまくいくはずないだろ。後ろを見た方がいいよ」
「えっ?」
 高村朗に注意されて、安芸宮和輝は後ろを振り返った。
 霧の中から、むくむくとスケルトンや炎の魔獣が姿を現しつつある。
「聖なる輝きよ、眠りを妨げられし者に再び安息を与えよ……」
 クレア・シルフィアミッドが、即座にバニッシュを放つ。集団を作りかけていたスケルトンたちが、いったん元の霧に戻った。
「攻撃はいいから、先に行け!」
 殿(しんがり)に立った安芸宮稔が叫んだ。
「こっちです、クレア」
 大階段を駆けあがりながら、安芸宮和輝がクレア・シルフィアミッドを呼んだ。すぐ後から、敵を牽制しつつ、安芸宮稔も逃げてくる。
 二階の廊下を走りつつ逃げて行くと、前方からも別の一団がモンスターに追われて走ってくるのが見えた。
「下が騒がしいと思っていたのに、いきなり敵が現れるなんて反則だよね」
 走りながら、秋月葵が悪態をつく。
「私たちだって、別にモンスターを連れ回してたわけじゃないんですよ。くっついてきただけです」
 ナナ・ノルデンが、する必要もないいいわけをする。
「よく確かめないで突入するからあ」
「だって、お屋敷の中が、すでにこんな状況だと誰に分かりますかあ」
 ズィーベン・ズューデンにナナ・ノルデンが言い返した。
「こうなったら、この煙幕ファンデーションで……」
「この霧では無意味なんだもん」
 敵を牽制しようとするズィーベン・ズューデンを追い抜き様に、小鳥遊美羽が突っ込んだ。
「ああ、前からも来るよ!」
 安芸宮和輝たちに気づいて、秋月葵が叫んだ。
「無理なんだもん。この部屋に逃げ込んで、外に逃げようよね」
 そう叫ぶと、小鳥遊美羽が手近な部屋に飛び込んだ。意図せず合流してしまった他の者も後に続く。
「えっ、ここは……」
 中の風景に、高村朗が驚いた。
 客間のはずのそこは、なぜか洞窟のような場所になっていた。
「何かあるみたいだよ」
 小鳥遊美羽が、奥の方に光を見つけて言った。
「しっ、静かに。気づかれないようにそっと近づきましょう」
 安芸宮和輝が、一同に注意すると、静かに光の方へ近づいていった。
「へへっ、またきちゃったぁ」
 青白い光を発する円筒に背中をつけながら、幼い少女が誰かに話しかけていた。
 どこかで見たことがあるような顔だとズィーベン・ズューデンが言いかけて、静かにするようにナナ・ノルデンに怒られた。
『また怪我をしているようだね。あまり感心しないよ』
 若い男の声が聞こえた。けれども、その姿は見えない。
「平気だよ、これくらい。だって、大人のくせに、子供をいじめる奴が悪いんだ。今日だって、むこうの怪我の方が酷かったんだから」
 ちょっと自慢そうに、少女が言った。
『でも、それでは、その子は守れない。ココがその大人たちにやられてしまったら、今度はその子たちが、ココの分の復讐もされて、もっと酷い目に遭うかもしれないんだよ』
「私はやられたりしないもん。もっと強くなるんだもん。だから、みんなに怖がられたって平気だよ」
 膝の間に頭を埋めて、幼いココ・カンパーニュが少しくぐもった声で言った。
『怖がられたりしたら、平気じゃないだろう。友達は大事にしなくては』
「平気だってば。だって、私にはアラザルクがいるもん。それに、じきにこの子も目を覚ますんでしょ。私、楽しみにしてるんだ」
 立ちあがって光のシリンダーの中に横たわる少女を見つめ、うっとりしたようにココ・カンパーニュが言った。
『まだ少し時間をかけた方がいいから、もう少し待ってもらおうかな。間にあわせの機械を作り替えて再生したので、ちょうどココと同じぐらいの歳に戻ってしまったからね』
「えーっ、同い年の方がいいなあ。そしたら、私の妹にするんだあ。名前どうしようかな。ねえ、どうして教えてくれないの?」
『彼女には、別の生き方をしてほしいからね。前の名前は捨てた方がいい』
「じゃあ、まったく新しい名前、シェリルっていうのはどうかなあ。ファミリーネームはねえ、アルカヤなんてどう? なんとなく、思いついたんだけど」
『意味など持たせない名前の方が、彼女にはいいのかもしれない。いい名前だね』
「へへっ」
 褒められて、ちょっと照れたようにココ・カンパーニュが笑った。
「ねえ、でも、なんでアラザルクは自分を直さなかったの? それとも、最初から機械だったの?」
『この機械は一つしかなかったからね。それに、私は確かに機械みたいなものだったから。ちょっと性能が悪かったから……。シェリルのために、この機械を動かし続ける人が必要だったから、これでよかったんだよ』
「じゃあ、今はこの機械がアラザルクの身体なの?」
『正確には、全部が私ではないけれどもね。大切な物は二つだけ……。おや、ココ、誰か友達をここに連れてきたのかい?』
 何者かの気配を感じて、アラザルク・ミトゥナがココ・カンパーニュに訊ねた。
「ううん、ここは秘密の場所だもの。ああっ、きっと、悪い大人が後をつけてきたんだ。どうしよう。シェリルが見つかっちゃう……」
『時は、突然に訪れる。それは、今も昔も……。ココ、シェリルと契約を結んでくれるかい?』
「契約?」
 ココ・カンパーニュは聞き返した。
『そう。お互いを、最も大切なものとして、ずっと守るという誓いさ』
「だったら、いつもしているじゃない。それに、昔のお話、アラザルクにいっぱいしてもらったもん。シェリルは、あんなお話の中に絶対戻さないんだから」
『そうだったね。じゃあ、そこのボタンを押して、機械を止めて。そして、私をココの両手に……』
 何が起きるのかと固唾を呑んで見守っていたナナ・ノルデンたちの後ろで、扉の壊れる音がした。そこから、ゴブリンたちが数人洞窟に入ってくる。
『さあ早く』
 うながされて、ココ・カンパーニュはボタンを押した。光が消え、光の円筒の上底と下底の部分にあった金色のリングが外れてココ・カンパーニュの足下に転がってきた。
『さあ、私を……』
 ココ・カンパーニュがそれを拾い上げて手を通すと、それは両手首にぴったりの大きさに縮んでブレスレットになった。
「何かいるぞ」
「お宝なら、俺のもんだ」
 ゴブリンたちが近づいてくる。
 だが、まだシェリルは目覚めてはいなかった。
「ねえ、起きてよ、起きてよ」
 ココがその身体をゆさぶったが、白金色の髪の少女は、目を閉じたまま微動だにしなかった。
「絶対守るって言ったんだから」
 なんとかシェリルをだきかかえて動かそうとするも、それもかなわないと分かると、ココ・カンパーニュは両手を広げてゴブリンたちの前に立ち塞がった。
「いい的だぜ」
 唯一弓を持っていたゴブリンが、矢をつがえて弦を引き絞った。
「危ない!」
 思わず飛び出そうとした小鳥遊美羽の前に、氷の魔獣が立ち塞がった。幼いココたちに気をとられすぎていて、ゴブリンたちの後から他の敵が侵入してきたことに気づかなかったらしい。
 こちらはこちらで、他のことには構っていられなくなった。
 そして、まさにゴブリンの矢が放たれようとしたとき、そのゴブリンが吹き飛ばされて霧に戻った。
 ココ・カンパーニュの後ろに、シェリル・アルカヤが立っていた。その両手には、今光条を発射したばかりの双星拳スター・ブレーカーが輝いていた。
「なんでえ、やっちまえ」
 言いつつも、怖くて近づけないゴブリンたちが石を拾って投げつけ始めた。
 まだ目覚めたばかりでうまく動けないシェリル・アルカヤが、ココ・カンパーニュに支えられつつ双星拳の打撃で、飛んでくる石を叩き落としていった。だが、やはりすべての石を叩く落とせるほどに、身体が回復していない。
「シェリルは私が守るって約束したんだから……」
 ココ・カンパーニュが、シェリル・アルカヤがカバーしきれない石を手で叩き落とすか、身体を盾にして必死に防いだ。
「だめ、あなたが傷ついては……」
「それは、シェリルだって、同じじゃない。私に、もっと力があれば……」
 言い返されて、シェリル・アルカヤはココ・カンパーニュをぎゅっとだきしめた。その二人の身体に、容赦なく石つぶてが降りかかる。お互いをかばうだけでは、人を守ることなどできはしなかった。
「契約を、ココカンパーニュ。そして、私の魂の半分を受け取って。アラザルク、兄様、できますでしょ」
『ああ、私のすべてを使えば。何、心配することはない。少し眠り癖がつくだけだ。たまには目覚めることもあるだろう』
 ココ・カンパーニュの手首から、アラザルク・ミトゥナの声が聞こえた。
「ココ・カンパーニュ、私、アルディミアク・ミトゥナと永久の契約を。私たちは二人で一人。そして、双星拳は、二つの魂で支えられんことを……」
「うん、シェリルは私。絶対に守るから……」
 しっかりと両手を握り締めながら、二人が誓約を口にした。光が満ちて、二人の身体をつつみ込む。
「こけおどしだ、やっちまえ」
 ゴブリンが、後からやってきた氷の魔獣を、二人にむかってけしかけた。
 勢いをつけて、氷の魔獣が二人に飛びかかっていく。
「はっ!」
 気合い一閃、氷の魔獣が粉々に砕け散った。突き出された二つの拳に、星拳エレメント・ブレーカーと星拳ジュエル・ブレーカーが輝いている。
「おお」
 事の次第をすべて見届けた、安芸宮和輝たちが歓声をあげる。
「次行け、次!」
 ゴブリンたちが、今度は炎の魔獣を二人にけしかけた。高温の炎が、二人にむかって吐きかけられる。
「あれは、自殺行為よね」
 ナナ・ノルデンがつぶやいた。彼女の予想通り、星拳に吸収された炎が、カウンターでゴブリンたちにむかって放たれる。一撃で、ゴブリンたちがあっけなく吹き飛んだ。
「おおー」
 敵が一掃されて、高村朗たちが、パチパチと拍手した。
「まだ、そこにいたのか」
 ココ・カンパーニュとシェリル・アルカヤが、秋月葵たちの方をきっと睨んだ。
「えっ、ええーっ!」
 星拳の次の攻撃目標にされて、ズィーベン・ズューデンたちが悲鳴をあげた。だが、もう逃げる暇がない。誰もがやられると思ったとき、突然の閃光が洞窟その物を真っ二つに切り裂いた。光がさし、霧がいったん吹き飛ばされるとともに、高出力レーザーで無残にも削り取られた部屋が顕わになった。
「た、助かったあ」
 クレア・シルフィアミッドたちは、ぺったんとその場に座り込んだ。