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【GWSP】星の華たちのお買い物

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【GWSP】星の華たちのお買い物

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いらっしゃいませ
 ぴんぽんぱんぽ〜ん♪
「本日は〜、空京堂に〜、ご来店くださいまして〜、まことに〜、ありがとうございます〜」
 特徴的な、語尾が間延びする店内放送。
 ここは、空京の巨大デパート『空京堂』。
 地下一階、地上六階のビルに、あらゆる商品、グルメ、娯楽が詰め込まれている。
 「例の4人」は、ちょうどエレベーターホールで今後の予定を話し合っているところだった。
「それじゃ、ここからは別行動ってことでいいね」
 セイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)が、アキレス腱を伸ばしながら宣言した。臨戦態勢のように見えなくもないが、ここは戦場ではなく、デパートである。
「お昼にレストランフロアに集まるのを忘れないように。食事を食いっぱずれるよ」
 パッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)も、軽くストレッチをしながら言った。しつこいようだが、ここは戦場ではなくデパートだ。
「はははは早く買い物……買い物おぉぉぉ!」
 エメネア・ゴアドー(えめねあ・ごあどー)は、既に顔を上気させて暴れ始めている。パッフェルとセイニィが掴んでいる腕を放したとたん、きっと光の速さで駆けていってしまうだろう。
「少し落ち着いてくださいな」
 ふわりと髪をかき上げて、ティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)がふぅとため息をついた。
「じゃ、そういうことで!」
 ぱっ、と。
 エメネアを捕まえていたセイニィとパッフェルの手が離れた。
 どどどどどどどどど!
 エレベーターが来るのを待つのも惜しいのか、エメネアはエレベーター横の階段を駆け上がっていった。
 気が付くと、セイニィとパッフェルの姿もない。
「……さて、と」
 一人残されたティセラは、ゆったりと優雅な動きで歩き出した。
 空京堂、夏のビッグイベント『夏物先取りスペシャルフェア』。
 毎年恒例のフェアなのだが、今年のフェアは「伝説」として長く語り継がれる、歴史的な出来事になるのである……。


一階 化粧品とふれあいのフロア
 ティセラがまっすぐ向かったのは、一階の軽食コーナー。
 どのデパートでも、たいてい一階に見られる、たこ焼き屋やアイス屋、ラーメン屋などが並ぶ一角だ。
 普段は、親子連れや学校帰りの学生などで賑わっているのだが……。

「えっ!」
「あ、あれはまさか……」
「おかあさーーーん! うわーーーん!」

 ティセラがやって来たとたん、ほとんどのお客さんが引けて、空席だらけになってしまった。
「あら、すいてるわね」
 ティセラは、堂々とど真ん中のテーブルを陣取って、着席した。
「いらっしゃい! お茶でよろしいですかネ?」
 カチャカチャと運ばれてくるティーセット。
 持ってきたのは、ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)
 実はウィルネスト、客としてここ空京堂に来店していたのだが、ティセラの来店に驚いて固まっている店員たちにかわって、たった今、臨時店員になったのだ。
 ちなみにそのお店とは、焼きそばとお好み焼きの店『ぴーこっく』。飲食したお客様に、麦茶を無料で提供するサービスが人気の店だ。
「いただくわ。茶葉は何かしら?」
「地球産の紅茶は? やっとこパラミタにも、地上のお茶が届いたんだよ」
「あら、珍しい。ぜひいただいてみたいわね」
「お任せでよければ、農園から直接買い付けた紅茶にするケド?」
 言いながら、手早く準備をして。お茶を注ぐウィルネスト。
「ウィル、こいつわるいやつじゃないのか?」
 給仕をするウィルネストの脇からひょっこりと、パートナーのエネット・クイン(えねっと・くいん)が顔を出した。
「あら、かわいらしいのが出ましたわね」
 ティセラは、エネットの頭をなでなでした。
「……わるいやつ……じゃないみたいだ」
 少し警戒を解いたエネットは、ワンピースのポケットから飴を取り出した。
「あげる」
「うふふ、ありがとう。いただきますわ」
 ティセラはそれを、両手で大事に受け取った。
「……隣で一緒にココア飲んでいいか?」
「隣と言わず、ここにいらっしゃい」
 ティセラは、軽いエネットをひょいと持ち上げ、膝の上に座らせた。
 意外と居心地がいいのか、エネットはすっかりおとなしくなった。
 そうこうしているうちに、あたりには紅茶の香りがただよっていた。
「入ったよ、と」
 ウィルネストがカップを差し出すと、ティセラは嬉々として受け取った。
 そしてひとくち。
「……おいしい!」
「お褒めにあずかり光栄、っと」
 デパート一階の軽食エリアを利用したことがある者にとっては常識なのだが、このコーナーは完全セルフサービスである。
 自ら店に行って注文し、番号札を受け取って、呼ばれたら取りに行く。
 飲み物はせいぜい紙コップの冷水くらい。
 それが、当たり前のこと。
 ところが、ティセラの前に置かれたそれは、高級食器メーカー『ニョリタケ』のティーセット。
 そして、琥珀色の紅茶は、インドのダージリン地方にある農園から買い付けた高級品。
 もちろん、それらはどちらも、焼きそばとお好み焼きのお店『ぴーこっく』で扱っているはずがなく、ウィルネストが個人で買っておいたものだった。
 ティセラは、破格の待遇を受けていることに、全く気が付いていないのだが。
 これが、どのデパートでも当たり前に受けられるサービスだと覚えられてしまうと、少し困ったことになるのではないだろうか。

「こんにちはっ。お茶請けでもいかが?」
 お茶を愉しんでいたティセラに、声をかける者がいた。
 他の客たちが逃げ出した後でのこの行動は、勇気あるものといえる。
 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は、にっこりと笑ってお菓子の包みをティセラに差し出した。
「嬉しいですわ。お時間があるなら、あなたもお茶をご一緒にいかが?」
「……いただきます!」
 ティセラに席をすすめられ、祥子は隣に座った。
「あら? これはどういうお菓子なのかしら」
「金平糖よ。珍しい、ブランデーの金平糖」
 祥子が広げた包みには、琥珀色をした宝石のような金平糖がたくさん入っていた。
「へぇ。かわいらしいですわね」
 ティセラは、ブランデーの金平糖をひとつつまみ上げ、まじまじと見つめている。金平糖はきらきらと輝き、食べるのがもったいなく思えてしまう。
「私もご一緒させていただくわけにはいきませか?」
「お邪魔にならないようにしますので、私もできれば同席させていただきたいのですが」
 冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)東園寺 雄軒(とうえんじ・ゆうけん)が、ティセラたちに声をかけた。
「くす。楽しいお茶会になってまいりましたわね。どうぞ、お座りになって」
 ティセラは、小夜子と雄軒にも席をすすめた。
 ウィルネストが気を利かせ、全員分の飲み物を運んできた。
「これは……かわいい金平糖ですわね!」
「食べて食べて! おいしいから」
 祥子にすすめられ、小夜子も金平糖を口に放り込んだ。
「……おいしい!」
 砂糖のやさしい甘さと、ブランデーの芳醇な香りが、口の中に広がった。
「お茶にぴったりですわね」
「でしょ〜。金平糖専門店のなんだよ」
「こういう召し上がり方もよろしくってよ」
 ティセラが、小夜子の紅茶に金平糖をぽちゃぽちゃと落とした。
 ふわりと、ブランデーの香りが立つ。
「うわぁ、これはおいしい! さすがティセラさんですわ」
「金平糖はいろいろな楽しみ方ができますわね」
 女性たちが甘いお菓子で盛り上がっている間、雄軒は黙々と読書をしていた。
「本を読まれるのでしたら、ここは少々うるさいのではありませんこと?」
 ティセラが、気を利かせたつもりで雄軒に声をかけた。
「少し賑やかな方がいいくらいです。私は本を読みながら、会話も楽しめますので」
 皆が紅茶を飲む中、雄軒は一人ブラックコーヒーをすすった。
「ずいぶんと、難しそうな本を読んでいらっしゃるのね」
 ティセラが、雄軒が持っている本の表紙を覗き込む。
 赤い布地の表紙に、金色の文字でタイトルが書かれている、立派な古書のようだ。
「これは歴史の本です。地球に中国という国があるのですが、その中国が大昔、三つの国にわかれて内乱をした時の記録です」
「まあ。地球に、そのような歴史があるのですね」
 ティセラの目が輝いた!
 それからしばらく、その歴史本についての会話が盛り上がった。
 ちなみにだが、雄軒が読んでいる本は、もちろん三国志である。
「甘いものを食べた方が、読書もはかどるよ」
 祥子が雄軒にも甘いお菓子をすすめた。
「確かに、脳に糖分は重要ですね。……おや、これはおいしい」
 ティセラ、小夜子、そして雄軒までもが次々と手を伸ばし、祥子が持ってきたお菓子は早くもなくなりそうだった。
「ああ、甘いものってお茶に合いますわ。もっと甘いものが食べたくなってしまいます」
 うっとりとする小夜子。
「お茶と甘味は、黄金コンビですわね」
 ティセラも紅茶がすすむ。
「では、ティセラさん。アイスなどをお召し上がりになってはいかがですか?」
「……アイス?」
「ええ。幸いにもここには、様々なお店が並んでいます。ほら、見て下さい! あそこに、ちょうどアイスクリーム屋さんがありますわ」
 小夜子が指した店。
 そこには……。

「ね、君達アイス食べたくない? 買ってくれたら一曲歌っちゃうよ〜!」
 アイス屋の前で、ブランカ・エレミール(ぶらんか・えれみーる)が、リュートを弾いて客引きをしていた。
 楽しい気分にさせる軽快な音楽が、客の足を止めさせ、アイスがどんどん売れている。
〜〜〜♪
「はいっ! ブランカ・エレミール作詞作曲、アイスクリームの歌でした!」
 周辺の客から拍手と歓声が起こる。
「聴いてくれてありがとう! ついでにアイスも食べていってくれると嬉しいな!」
 ブランカの演奏のレベルは、アイス屋の客引きにしておくのにはもったいないくらい高い。
 それは素人の耳にもわかり、道行く人はほぼ必ず足を止めて聴き入っている。
 アイス屋の前は、ちょっとした人だかりになっていた。
「そこのカップルさん、アイス食べてかない?」
 ブランカと一緒に、このアイス屋で臨時バイトをしている五月葉 終夏(さつきば・おりが)も、パートナーに負けてはいない。
 二人のコンビネーションで、売り上げはどんどん伸びていた。
「いやぁ。君たちが臨時バイトに来てくれてからずっと、このエリアの飲食店でダントツの売り上げだよ」
 アイス屋の店長が、満面の笑顔で終夏の背中をバシバシと叩いた。
「やるからには、売り上げナンバーワンを目指さなくちゃ!」
「ははは! 頼もしいな!」
 そんなことを言っている間にも、またお客さんがやって来た。
 すぐに終夏が、注文カウンターで応対した。
「ご注文をどうぞ」
「ジャンボパフェ! ジャンボパフェを……ふたつ!」
 ジャンボパフェ。
 時々メディアの取材も受ける、このアイス屋の名物メニューだ。
 アイス2リットル、リンゴ3個、イチゴ1パック、バナナ3本、コーンフレークをまるごと1箱、隙間は全て生クリーム。上から豪快にチョコレートソースをぶっかけて。
 ……まあとにかく、デカイのだ。
 そんなジャンボパフェをふたつも頼んだ強者は、赤城 長門(あかぎ・ながと)
 長門の身長が高すぎて、注文カウンターからはピンクのタンクトップを着た胸元しか見えないのだが。
「えーっとお客様。ジャンボパフェを……ふたつ……ですか?」
 オーダーの聞き間違いかと思い、終夏は注文カウンターから身を乗り出して、長門に聞き直した。
「ふたつ! 間違いなくふたつじゃけん!」
 にっと白い歯を見せて笑う長門。
「ひとつはオレ、もうひとつは……あそこの席への差し入れじゃ!」
「て、店長……」
「ああ。こいつは……大変だ!」
 アイス屋のキッチンは、突如として地獄のような忙しさとなった。