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 第5章 大樹に住む妖精

「確か、あの樹はこっちだったよね」
 ケイラの先導で、一行は大樹へと向かっていた。これ以上悪さをされてたまるか、と一媛はトライブを引っ張って帰っていき、8人での道程である。
(入れ替わりの大樹に宿る妖精、か……俺達のような精霊とは違うんだろうか)
「どんな奴なんだろうな」
「え? 誰のこと?」
 マラッタの不意の台詞に、ケイラはきょとんとした顔をした。
「……いや、何でも」
 その後ろでは、皐月がファーシーに話し掛けていた。
「お久しぶりです……身体、良く似合ってますよ」
「えへへ……そうかな」
 皐月は照れ笑いを浮かべるファーシーの胸と、少し離れた所を歩く七日の胸を見比べて凄い良い笑顔になった。
「ええ、とっても」
「…………」
 何か、凄く吃驚したような顔をされて皐月は首を傾げた。
「どうかしました?」
「……ううん、ただ、そんな風に笑ったところって初めて見たなー、と思って」
「「…………」」
「いひゃひゃ! そりゃそーだ! いつもつまんねー顔してるもんな少年!」
「……うるせー」
 七日はそっぽを向くと、歩幅を広げてさっさと先頭に行こうとする。それを見て慌てたのは皐月だ。
「……っ! そんな歩き方しないで下さい! スカートの中が見えるじゃないですか!」
 思わず拳を握り……ぴたりと止まってまた歩き出す。身構えていた七日は、拍子抜けしたような顔をしてから半眼になった。
「……なぁ七日、お前今躊躇っただろ? 自分の身体だからって殴るの躊躇っただろ、おい」
「そんなことありません! 貴方は今女の子なんですから気を付けて下さい!」
 4人の隣を、ピノは完全なる仏頂面で歩いていた。夜空に掴まれた胸が、まだ何か変な感じだ。
「なんで俺まで……あいつ、本当に部屋に帰ったのか……?」
「うん。電話したら、『夕飯買って待ってるからね』って」
 ファーシーがしらっとした口調で言う。
「そんな殊勝な事言うか……? またパンじゃないだろうな」
「あ、そうだラスさん。そんなに菓子パンが好きなら、今度いいパン屋を紹介するよ?」
「いや、別に好きじゃないから……そりゃ、手焼きとかなら別だけど、いつも1個98円の特売品だからな」
 それまで話を聞いていた七日が素朴な疑問、というな調子で言った。
「さっきから思ってたんだけど……偉く口汚い子供だよな、お前」
「そっちだって似たようなもんじゃねーか。女の身体なのに言葉遣い直す気ないだろ。……俺は一応努力したぞ。最初だけ」
「ラスさんは入れ替わってるんだよ? 確か面識あったよね」
 ケイラが言うと、七日は本気で判らないという顔をした。
「ラス? ……って、誰だっけ」
「…………」
 ピノは暫く七日を見つめていたが、やがて溜め息を吐いた。
「……どーせそんなもんだよな、俺の存在感なんて」
「皐月、幾らなんでも失礼ですよ。……ラスさん、ですか。その節はどうも。あの時は失礼致しました」
「あの時?」
 今度は、ピノがどの時? という問いを表情に載せた。
「……? オトス村の村長の方、でしたよね?」
「……もういい」
「でも、どうしてこんなことになったんでしょうね。あの果実の意図が判りません」
「他の誰かの立場になってこそ理解出来る事も有る……ってことじゃねーのか? 擬似的であれ、他人として生きる訳だ。それは、その他人を考える一助になる。もしかしたら、その果実はそういう意図の下に造られたのかもしれない……なんてな」
「……また戯言を」
 そんなやりとりを、ファーシーは少し驚いたように聞いて、小さく笑った。そして、七日に話し掛ける。
「それにしても、皐月さんとこんなに早く一緒に歩けるとは思わなかったわ。ねえ、護ってくれるつもりなんでしょ?」
 明けの明星を指差され、七日は素早くそれを隠した。どう対応したら良いのかわからなく、目を逸らす。
「…………別に、偶々、目的が合致しただけだからな」
「そうなの?」
「全く、しょーねんはツンデレさんなんだから」
 夜空が言う。その時、彼等の後ろから軍用バイクが近付いてきた。これまた爆走していて、通過と同時に土が左右に撒き散らされる。
「今なら、望の魔術を使えますわ!」
「暴走するのが関の山じゃのぅ。やめておくべきじゃな」
「……望さん!」
「……ん? もしやファーシーか? ノート、知り合いじゃ、停めてくれんかの」
 バイクは、数メートル先まで進んで急停車した。
「何ですの? この忙しい時に!」
「……あれ? 望さん、何か話し方が……?」
 追いついてきたファーシーは不思議そうだ。
「こやつはノートじゃ。主と入れ替わっておる」
 やはりそうか、と思いながら山海経は言った。何せ、ファーシーの姿は幻めいたものを一瞬見ただけで、機体を得てから会うのは初めてなのだ。
「お〜ほっほっほ! 覚えておくといいですわ! ……って、だからそんな場合では……!」
「どうしたの? 望さんは?」
 ファーシーに問われ、山海経は望が朝から姿を消していること、何か企んでいるであろうということを説明した。

 ツァンダの森。大樹へと向かう道中、170センチ近い身長の和美人坂上 田村麻呂(さかのうえの・たむらまろ)は、グラマラスな自分の胸を羨ましそうに見下ろしていた。
「これが大きい胸か〜……」
 本来の身体が到達する日は来るのか来ないのか。初めての巨乳を体験して、色々と複雑な気持ちになる。自然と、その両手が胸にあてがわれる。
 じっくりもみもみと胸を触る田村麻呂に、入れ替わった相手――ラム・タラ(らむ・たら)は叫んだ。
「やめんか、ラムー!」
 ぷんすこと怒るラムに、田村麻呂は子供っぽく口を尖らせた。
「だってぇ〜」
「だっても何もないでござる!」
 自分の身体である以上、力づくというのはやはり躊躇してしまう。他人に弄られる自分を見るのは居てもたってもいられないが、こうして制止の言葉を吐き続けるしかない。
「やかましいぞ、お前ら……」
 若干辟易した様子で、坂下 小川麻呂(さかのしたの・おがわまろ)は言った。彼は、2人の入れ替わり現象があまりにも煩いので、その根本を断ちに――大樹を斬るためにやってきていた。
「もう少しで大樹だ。ん……?」
 木々の間から、大樹の姿が垣間見える。全容を確認出来る所まで来た時――小川麻呂はその下の光景に目を疑った。

「ああ、やっぱり美味いであります……! 沁み渡るであります……!」
 大樹の下で、草薙 莫邪(くさなぎ・ばくや)は茶碗に大盛りにした白米の上に果実を乗せ、バクバクと食事をしていた。レジャーシートの上には、カットされた果実と丸ごと果実、それにおひつが置いてある。
「バクヤ! おかわりであります!」
 茶碗を突き出され、鉄草 朱曉(くろくさ・あかつき)は複雑な顔でごはんをよそった。フルーツとごはんの組み合わせに対してではない。それはいつものことだ。以前にも、苺をおかずに米を食べていたことがある。朱曉の中身である莫邪は、莫邪の中身である草刈 子幸(くさかり・さねたか)を密かに想っていた。その子幸が自分の身体を動かすのを見ていると、焦るような恥ずかしいような気持ちになるのだ。
「……にしても、バクヤの髪は長くて食べるのには邪魔であります。ほどけてきたでありますよ……」
「わしが編んでやるけん、まかせんしゃい」
「こんのバカツキ! 子幸に触るんじゃねえ!!」
 子幸を押し退け、朱曉は自分で髪を編み直そうとする莫邪の後ろに立った。
「子幸、ぐちゃぐちゃに編むな! 俺がやる!」「ばくやん、もちぃと笑ったらどうかのぉー?」
「うるせえ! 誰のせいだと思ってんだ!」
 子幸は先程のやりとりを気にする素振りも見せず、大樹をのんびりと眺めていた。それをなるべく見ないようにしながら、朱曉は叫ぶ。よりにもよって、何故子幸の中に大嫌いな朱曉が入ってしまったのか。そして、その大嫌いな奴の身体に自分が入ってしまったのかと忌々しく思う。鬱陶しい長髪を三つ編みにすると、髪の色こそ違うものの何だかあまり変わらないような気もしてそれがまた苛々する。鏡を見れば、無論全然似てなどいないのだが。
「ばくやんは煩いのぉ、じゃけぇ、わしの顔に皺を増やさんでくれんかのー?」
 朱曉を軽く笑って受け流し、子幸は楽しそうに大樹の周囲を歩き始めた。普段、子幸の頭を見下ろしている身としては、この背丈で見る世界というものは新鮮だった。莫邪の食癖は気持ち悪いと思うので食事に参加はしないが、それを眺めるのもまた面白い。割と傍観派の『朱曉』は面白ければ大抵のことは笑って済ませてしまう。
 全容が見える所まで離れて大樹を見上げると、その天辺近くで実を?いでいる人物が見えた。空飛ぶ箒に跨って果実を次々と収穫しては、袋に放り込んでいる。
「くぅ! 無駄に胸が大きいのが邪魔な上に、腹立ちます! なんで私がこんな目に……!」
 ノート(望)は、騒動に自分自身が巻き込まれた事を悔しがっていた。人死にの恐れがなさそうな騒ぎだし、こうなったら、実を流通経路に乗せて大混乱を引き起こすしかあるまい。
「とことんまで引っ掻き回しますよ……! ファーシー様が事件を解決する前に、他の都市で売り捌くのです!」
 袋が一杯になった所で大樹から離れる。そのまま箒で街まで行こうと飛び始めた時、地上から軍用バイクのエンジン音が聞こえてくる。望の腰に手を回して、ファーシーも一緒についてきていた。
「みーつーけーまーしーたーわーよーっ!? さぁ、大人しくするのですわ!」
「望さん! その袋……どうするつもり!?」
 そうは言うものの、2人と山海経は攻撃をせずについてくるだけだ。それもその筈、望は、まともな攻撃スキルとして雷術しか持ち合わせていなかった。彼女がどのスキルを持っているのかは、自分が1番良く知っている。
「……ふふふ……この混乱を、もっともっと拡大させてやりましょう!」
 勝利を確信すると、この身体に合う高飛車な口調でおどけて言う。
「実が欲しいのでしたら、捕まえてごらんなさぁ〜い♪」
 果実が重く、来る時のような速さは出ないが、まあ問題無いだろう。