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秋野 向日葵誘拐事件・ダークサイズ登場の巻

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秋野 向日葵誘拐事件・ダークサイズ登場の巻

リアクション


#5





 時間は少しだけ巻戻る。

「あんのダイソウトウめっ。絶対コテンパンにしてやるもんっ」

 今回のヒロインであり、ようやくの登場となった、ダークサイズに囚われの身となっている秋野 向日葵(あきの・ひまわり)
 ダイソウによる犯行声明では、圧倒的に彼女の優勢に思われていたが、気づいてみれば彼女は縄で縛られ、使用されていない地下スタジオの一室に閉じ込められていた。

「つーかずるいのよ、あいつ。うー、紐ほどけないっ」

 向日葵はダイソウの文句を言いながら、どうにか縄をほどこうと格闘中である。
 そこへ、部屋のドアががちゃり、と開く。

「誰っ?」
「ふう。ようやく見つけましたわ。秋野向日葵さん……」
「まさか、こんな全然関係ねえところにいたとはな」

 立っているのは、ジュリエット・デスリンク(じゅりえっと・ですりんく)弥涼 総司(いすず・そうじ)南 鮪(みなみ・まぐろ)の三人。

「は、もしかして救助隊っ?」

 向日葵はジュリエットを見て、胸をなでおろす。
 しかしジュリエットは、

「救助? ふふふふ……ほーっほっほっほ! 甘いっ! 甘いですわ秋野向日葵。わたくしは、ダークサイズの女大幹部(を目標にしている)ジュリエット・デスリンクと申します。この二人は忠実な下僕の総司さんと鮪さん」
「こらこらこら! おまえ何勝手に俺らを下僕にしてんだよ!」
「たまたまさっき、カチあっただけだろうが!」

 総司と鮪は、全力で否定する。
 ジュリエットはやれやれ、という顔をして、

「お二人とも様式美というものをお分かりいただきたいですわ。女性一人、男性二人とくれば、この図式になるのが黄金方程式ですわよ」

 向日葵は、はっと思いついた顔をして、

「もしかして、ありがちな例のドロボー一味!」
「違えよ! 下っ端扱いすんな!」

 総司と鮪は、向日葵に叫ぶ。

「そんなことより、秋野向日葵さん。わたくし、あの放送を聴かせていただきましたけど、あたなは今回のヒロイン。もう少し麗しく、たおやかにしていただかないと」
「だってあいつ、隙だらけだったんだもん」

 向日葵はきょとんとした顔で、、ジュリエットを見上げる。

「まあ、わたくしたちは、別にあなたを叱りに来たわけではありません。わたくしたちダークサイズは、人質の扱い方も美しくなくては」

 ジュリエットは、向日葵を後ろ手に縛ってあるロープを見て、

「あらあら、乱暴な縛り方ですわね。特に乙女の人質は優しく扱って差し上げなければ」

と、向日葵の腕に跡がつかず、かつ脱出不可能に縛りなおす。

「ふん、ジュリエットさん、オレもその辺は同意するぜ。人質ってのは体力勝負だ。向日葵さん、喉渇いてねえか?」

 総司は向日葵の目の前にしゃがみこんで、笑顔を作って話しかける。

「うんっ!」
「ヒャッハー! 俺が用意したおいしいお茶を飲ましてやろうじゃねえか。苦くねえぜ」
「わぁ、ありがとう、モヒカンさん! なかなかイイトコあるじゃん」

 鮪は水筒を取り出し、お茶をカップに注ぐ。
 カップを向日葵に差し出すが、彼女は手を縛られているから、当然カップを受け取れない。
 向日葵は眉をひそめて、

「これじゃ飲めないよぉ」

と、口を尖らせる。

「おおっと、縛られてるんだったな。仕方ねえ、俺が飲ませてやるぜ」

と、鮪はカップのお茶をぐいと口に含み、目を閉じて口をすぼめ、向日葵の顔に迫る。

「うおっ、鮪さんやるな。そいつはおいしいぜ……」

 総司はうらやましそうな顔で、物欲しそうに喉を鳴らす。

「ん〜……」

 鮪のモヒカン頭が向日葵に迫る。

「……」

 向日葵はすうっと頭を後ろに反らし、


どがっ!


と、鮪に強烈な頭突きを一発。

「ぶはあぁっ!」

 鮪はお茶を噴き出しながら、後ろに吹っ飛ぶ。

「な、何しやがるっ!」

 鮪は額を押さえて起き上がるが、向日葵は無言のまま、感情空っぽの目で鮪を見下ろす。

(こ、怖えぇー……)

 直後、向日葵はコロッと可愛い笑顔に変わり、

「フツーに飲ませて欲しいなっ」
「分かってるぜ。今のは鮪さんなりの冗談さ。ほら、オレが飲ませてやる」

 総司は改めてカップにお茶を注ぎ、向日葵の口元に当てる。

「んくっ、んっ……こくん」

 向日葵はひざまずいて総司の差し出すお茶を飲む。
 目をつぶって喉を鳴らし、コップの脇から向日葵の首をつたって、お茶が一筋こぼれる。

(お、おおっ……エロい!)
(何というお宝映像……! ラッキー!)

 総司と鮪は、心の中でガッツポーズ。

「ん、こくっ……ぷは……もう、ひどいよ。苦くないって言ったじゃん……」

 向日葵にとっては、少し苦く感じるお茶だったらしい。潤ませた瞳で総司たちを見上げ、弱々しく文句を言う。

(くはぁっ! その顔、サイコーだ!)
(ダークサイズ万歳!)

 二人のテンションは、マックス直前だ。
 しかしその直後、向日葵は体の変化に気づく。

「う……な、何っ?」

 お茶を飲んだ直後、体の芯から突き上げてくる衝動。向日葵の心拍数が上がり、下腹部が熱を持ち、目がうるみ、頬は赤く染まる。

「う、うぅ……」

 ジュリエットが向日葵の異常に気付く。

「向日葵さん? どうなさったの?」
「早速効いてきたようだぜ……」

 ククク、と総司と鮪が暗黒の笑みを浮かべる。

「まあ。お二人とも、向日葵さんに何を飲ませたのです?」

 ジュリエットが向日葵の様子を見るため、肩を支える。向日葵はビクッとそれに反応し、

「ふあぅっ!……さ、触らないで……」

と、両足を閉じてもじもじさせる。

「え?」
「と、トイレ……」
「何です?」
「トイレ行きたい……」
「ヒャアッハァァァー! 効果抜群だぜ! このために用意した、特製カフェイン入り『苦そうで苦くない、ちょっと苦いお茶』!」

 鮪と総司はバチンとハイタッチ。

「さあ向日葵さん。トイレ行きたいか? 行きたいだろ?」
「くはぁぅ……」

 総司はここぞとばかりにカメラを回し、向日葵の艶めかしい様をビデオに収めようとする。


ばんっ!


と、そこにまた部屋のドアが開き、三人の女性の影。

「あんたたちばっかり、おいしい思いはさせないわ!」
「誰だ!」

 総司と鮪が振り返る。
 やってきたのは、葛葉 明(くずのは・めい)佐倉 留美(さくら・るみ)。おまけに翡翠のパートナーのフォルトゥーナ。

「あたし抜きでそんなお色気シーンなんて許さないわよ?」

 フォルトゥーナは向日葵のおびえる仔猫のような顔を見て、

「ふふ、すっかりできあがってるのね。今日はサービスだと思って、覚悟なさい」

と、服を一着取り出し、一体どういう技術なのか、一瞬で向日葵の服を着替えさせる。
 ニーハイに超ミニのメイド服、おまけにネコ耳をつけられて、ふるえる向日葵。

「おおおっ! キュンと来たぁーっ!」

 明は辛抱たまらん勢いで、

「あたしはおっぱいハンター葛葉明! 向日葵ちゃん、あなたもあたしのコレクションに加わってもらうわよー!」

と、後ろから向日葵の胸を揉みしだく。

「きゃふっ! やぁ……やめ、はぅ……」

 すっかり全身性感帯と化した向日葵は、とことんもだえる。

「ふっふっふ。ダークサイズをなめんじゃないわよ。あたしたちは悪の組織! 人質は徹底的に弄んでやるんだもんね!」

 明は悪の組織の金看板を盾に、向日葵にやりたい放題だ。
 それには留美も負けていない。

「ふふふ。ダークサイズさまさまですわね。あこがれの向日葵さんを、こんな風にしてくれるなんて」

 留美は向日葵を前から責める。
 向日葵の頬を手の甲で撫であげ、首筋を爪で伝いながら豊かな胸を押し当て、髪に顔をうずめて香りを楽しむ。

「やめ、やめてぇ……」
「大丈夫ですわ。たくさん刺激を与えることで、女性の体はオンナになってゆくのですから」

 何が大丈夫なのか全く分からないが、留美の中では何か正当性があるらしい。
 留美の手は、さらに向日葵の太ももに及ぶ。

「こ、これは! とんでもなくすさまじい映像だぜ!」

 総司はカメラを覗きながら、むしろ感嘆の声を上げる。

「くぁっ! そ、そこはぁ……ダメ……」
「うふふ。大丈夫だいじょ……」

 留美の手が太ももの奥に到達しようとしたとき、


ブチッ……


と何かが切れる音がした。

「?」

 向日葵の思考回路と同時に、彼女を縛っていたロープがはじけ飛ぶ。

「と、トイレ……」
「あれ? ロープが……」
「もー限界じゃー!!」

 向日葵はうおおと立ち上がり、理性を失った目で、ドアを見る。

「えええ! 何その腕力!」
「うおおー! 限界じゃー!」

 向日葵らしからぬ怒声をあげ、出口にダッシュしようとする。

「ヒャッハー! いよいよやばそうだぜ!」

と、見物していた鮪と総司はすかさず仰向けに寝そべって口を開ける。

「よし来いっ!」

 変態行為の極致を要求する二人。

「うおおー!」
「ぐはうっ!」

 向日葵は二人の顔を思いっきり踏みつけ、地下室を走り去った。

「あれ……人質に逃げられちった……」
「えっと……」
「し、知―らないっと……」

 ジュリエット、明、留美、フォルトゥーナは、燃え尽きた鮪と総司を残して、散開した。



★☆★☆★



 放送局地下一階を、ごそごそと不自然に廊下を進む段ボールが3個。

「あ、あのさ。この段ボールって意味あるのかよ?」

 段ボールの内の一個、本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)が尋ねる。

「しっ。段ボールがしゃべるなんて不自然だよ、涼介」

 湯島 茜(ゆしま・あかね)が、小声で涼介を諌める。

「いや、段ボールが動いてんのも不自然だろ……」
「大丈夫であります! こういう手が、結果的に敵にばれないものであります」

 茜のパートナー、エミリー・グラフトン(えみりー・ぐらふとん)が、涼介の方を向いてくぐもった声を出す。

「そういうもんかぁ?」
「そういうもんであります」
「ほらほら、早く行くよ。向日葵ちゃんを見つけなきゃ」

 二人を促す茜。
 彼ら三人は放送局裏で待機していた、向日葵救出組。防犯シャッターが閉じてまんじりともしない時間を過ごしていたが、なぜか突然裏口のシャッターのみが開き、陽太達との連携の末、三人の隠密行動が決定したのだ。

「どうでもいいけど、これ時間かかるんじゃないの?」

 涼介は、この段ボール作戦にまだ不満のようだ。
 と、そこに、


ギュンッ!


と何かの人影が、猛ダッシュで三人をすり抜け、通り過ぎていく。

「おわっ!」
「な、何でありますか、今のは?」
「向日葵ちゃん……?」

 茜は段ボールの隙間から、目の端にそう見えたようだ。

「ええっ? そんなわけないだろ。向日葵さん捕まってるんだぜ?」
「だよね。気のせいかなぁ」
「あ、静かに! 人が来るであります」

 その後続いて小走りにやってきたのは、明と留美。

「あーあ。向日葵ちゃんのおっぱい、揉み足りなかったなー」
「わたくしも、惜しいところでしたわ」

 留美は舌打ちをして、向日葵の手触りを思い出そうとする。

「あれ、何、この段ボール?」

 明は茜達の入った段ボールに目をやる。

「おかしいですわね。さっきはこんなのは……」

(や、やばい! どうすんだよ。こいつらきっとダークサイズだぜ)

 涼介は冷や汗をかく。

「ひ、控えるでありますっ!」

 エメリーが一か八かで叫ぶ。

「びっくりしたっ。誰っ?」

 明が驚くが、留美がエミリーの声を聞いて、ピンとくる。

「あら? この声はもしかして」
「それがし、あ、わたしは、ダークサイズの名誉幹部の」
「貴方様でございましたのね」
「左様であります」
「段ボールで何してるの?」

 明が当然の疑問を投げる。
 エミリーは少し慌て、

「あ、ええと。ダイソウトウ様からの特別任務であります」
「段ボールってどんな任務……」

 明が突っ込みそうになるのを、

「ご、極秘任務であります。それより、秋野向日葵はどこですか?」

 向日葵について聞かれると、今度は明と留美がどきりとする。

「あ、えっと、あ、あはは……」
「そ、それは、おほほほ……」

(お! 一転してラッキー! 向日葵さんの居場所を聞き出せるぜ)

 涼介は拳を握る。

「ふー! 危なかったぁー」

 そこに、ギリギリで用をたせた向日葵が、なぜか逃げずに戻ってきた。

「あっ、向日葵ちゃん!」

 明と留美が、声をあげて向日葵を指さす。

「何だと! 向日葵さんっ!?」

 涼介が思わず段ボールを取っ払って、周りを見渡す。

「どわ! え、誰?」

 明たちが驚くのも気に留めず、涼介は向日葵を見つける。

「向日葵さん! うお、メイド服かわいいな!」

 思わず向日葵の服装に反応する涼介。向日葵はそれに驚く。

「わ! 段ボールから人!」

 同時に茜とエミリーも段ボールを捨てる。

「向日葵ちゃん、あたしたちは」
「きゃあ! ダークサイズだねっ!」
「ち、違う向日葵さん、俺たちは」
「あ、そっかぁ! 逃げればよかったんだ! 逃っげろー」

 向日葵は話も聞かずに踵を返してダッシュする。

「あ、待って!」
「向日葵ちゃん、もう少しおっぱい揉ましてー」

 茜達三人に合わさって、どさくさで明と留美も向日葵を追う。



 向日葵が脱走し、階段を駆け上がって一階に到着しようというとき、

「おおっと待った! ストーップ!」

と、向日葵を制止する人影。

「まったく驚いたな! でもラッキーだぜ。こんなところで向日葵ちゃんと会えるなんて」
「あなたたちは?」
「へへへ。俺たちは、悪の秘密結社ダイアーク! 俺は強盗 ヘル(ごうとう・へる)。こいつはザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)ってんだ」

 ヘルはまず、警戒を解こうと自己紹介。

「へえー。じゃ!」

 聞いといてスルーしようとする向日葵。

「待て待て、待ってくれって! おい、ザカコ、説明してくれよ」

 ヘルの促しで、ようやく前に進み出るザカコ。

「自分らは、悪の秘密結社ダイアーク。あなたを助けに来た者です」
「そうなの? でも悪の秘密結社でしょ?」
「それはそうですが、しかしあのダークサイズとは違うのです。我々は彼らと違い、研修体制、労災、能力主義、体験入社など、ばっちり組織体系を整えた秘密結社。安全安心の悪なのです」
「というわけで向日葵ちゃん、おまえを助ける代わりに、俺たちダイアークの名前を売るため、ちょっと攫われたフリしてくんねえか?」

と、取引を提案する二人。

「助けてくれるんならいいよ」
「ヒュウ! さすが話が早いぜ」
「ついでにダイソウトウぶっとばしたいから、上まで連れてってほしいな」
「なるほど。自分らがダイソウトウを倒せば、ダイアークの知名度も確固たるものになりますね」
「よっしゃ! 決まりだ!」
「こっちだよー」

 向日葵を筆頭に、走り出す三人。
 その様子を踊り場から隠れて見ていたのは、ニコ・オールドワンド(にこ・おーるどわんど)ナイン・ブラック(ないん・ぶらっく)

「おおっとォ、思わぬ伏兵ってやつかァ? 面白くなってきたぜェ。なァ、ニコォ」

 ナインは薄気味悪い笑みを浮かべて、へらへらしたしゃべり方でニコを見る。

「いよいよクライマックスってやつだね。ようやく僕らにも楽しめそうな遊びになってきたよ。先に裏のシャッターだけ開くっていうのが功を奏したね」

 ナインの提案で裏のシャッターだけを開き、茜や涼介を誘い込んだのはニコである。

「はっはっはァ。こういう黒幕的なやつも、面白れェだろォ?」
「僕らの活躍の時間だ。これで正義ぶってる人たちをやっつけて、ダークサイズにはもっと輝ける悪になってもらう。そうしたら、ダイソウトウも僕のことを気に入ってくれるかな」
「楽しい悪戯ターイムだなァ」
「早々から悪の芽を摘もうなんて、ロマンの分からない人には悪の礎になってもらおうね」
「よォし、いくぜェ」

と、ナインがビルの操作室から探し出したリモコンのボタンを押す。


ガガガガガ!


 けたたましい音を立てて、ビルのシャッターが開く……