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ネコミミ師匠とお弟子さん(第3回/全3回)

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ネコミミ師匠とお弟子さん(第3回/全3回)

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1章:マジパネェ、真夏の仏恥義理なネコミミ


 2019年、夏。波羅蜜多タイタンズがその名をシャンバラ全土に轟かせる名勝負があった。あまりに激しい戦いだったため、彼らと戦えるチームなど存在しないのではというのがもっぱらの評判。タイタンズは最強無敵の名誉と引き換えに、好敵手というなくてはならない存在をいまだ得られずにいる。

「せっかくなら試合がしたいですよね」

 少女の何気ない一言が、瞑須暴瑠の歴史に新しい可能性を生んだ。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 チャイナ服にスパッツといういでたちで相変わらず元気にやっている笹塚 並木(ささづか・なみき)は、師匠から受け取ったバットがきっかけで波羅蜜多タイタンズに所属することにした。このチーム、あまりに無茶苦茶な強さが災いしてシャンバラ内で対戦相手を見つけられない事で有名なのだ。もうポータラカを目指すしかないとまで言われているが、選手は真面目に練習に取り組んでいる。並木も諸先輩に負けないよう、気合いを入れて素振りをしていた。目に入りそうになった汗をぬぐおうとして、彼女は目をぱちくりとさせる。シャンバラ大荒野の砂嵐の向こうに、見慣れたシルエットが野球道具を持った人々をひきつれて親しげに手を振っているのだ。
 あ、あのシルエットは……。
「師匠、いらしたんですか!? その格好はまさか!!」
「ファンクラブの皆さんにお願いして、即席の野球チームを作ったですにゃ」
 彼女が弟子入りを熱望している獣人格闘家、大江戸 ゴビニャー(おおえど・ごびにゃー)には肉球愚連隊というファンクラブがあった。自分が贈ったバットを大事にしてくれて嬉しいが、対戦相手がいないのに練習を続けるのはあまりに不憫……。それならと、ファンクラブの人々に頼んで即席の野球チームを作ったのであった。
 練習量・経験は波羅蜜多タイタンズに分があるものの、肉球愚連隊も即席とは思えぬほど選手の層がある。コントラクター同士が全力でぶつかった場合、この大荒野にどれほどの負荷がかかるかは誰にも予想がつかなかった。

 これは野球ではない、瞑須暴瑠だ。

 先輩を呼びに行こうと振り向いた並木の背後には、すでに歯茎をむき出しにして凶悪な笑みを浮かべる面々がいた。もう1度言う。これは野球ではない、瞑須暴瑠だ。


「スポーツマンシップとは何か! 手加減しないことだ!」
 肉球愚連隊の人垣が小柄な少女を中心に左右に広がった。彼女の名前は桐生 円(きりゅう・まどか)。2019年、伝説の試合の生き残りである。死屍累々のマウンドで流したあの涙を彼女は忘れない、今こそ復讐の時!!
「手加減しないとはなにか! 手段を選ばないということだ!」
 それを聞いた姫宮 和希(ひめみや・かずき)はそっと背中にミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)を庇い、彼女の安全を最優先しながらも久方ぶりの挑戦者の登場に胸を熱くさせていた。
 ……どうやら、血で血を洗う戦いになりそうだぜ。
 騒ぎに気付いた蛮族と遊牧民が何事かと集まりはじめ、円を囲む輪は少しずつ大きくなっている。
「手段を選ばないということは何か! 絶対に勝つというマインドができるということだ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! あーっはっはっはっはっはっは!!!!!!!」
 生き神ドージェが地上からもたらした文化は畏敬の対象であり、この聖なる儀式の元になった野球の目的は『勝つこと』である。公認野球規則にも明示されているこの単純な目的こそが、瞑須暴瑠の本質を最も分かりやすく伝えているだろう。
「お嬢様とか殴りたくないしなァ」
「ちぃ、ナガンめ。いつまでも昔の事をぐじぐじと!!」
 睨みつけた円の視線を気持ちよさそうに受けながら、うやうやしくお辞儀をする道化が1人。その名はナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)……和希、国頭 武尊(くにがみ・たける)ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)達とともに昨年、チームを栄光に導いた人物だった。
「御機嫌よう。私も混ぜてくださいな」
「あ、あなたは藤原先輩!!」
 動揺する並木に優雅な笑顔を浮かべる藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)。血の匂いがこびりついた白く華奢な肢体は乗馬服に包まれている。これから起こるであろう惨劇には本当に不似合いな人物に見えた。一方、夢野 久(ゆめの・ひさし)は怯える蛮族に儀式の開始を告げ、野獣の骨を焼いて作った粉で魔法陣を描くように指示を出している。
 ……鍛え直し覚悟を決めた俺の本気って奴を、今度こそ見せてやるぜ。
 久はそれを口に出さない。背中で語れば十分だ。


 伝説を見届けたものは語った。
 その日は雲ひとつない、よく晴れた日だった。と。