First Previous |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
Next Last
リアクション
レストランではなく、ルームサービスを使い、部屋で食事をとる人達も多い。
1301号室スイートルーム。
沢渡 隆寛(さわたり・りゅうかん)が沢渡 真言(さわたり・まこと)にとった部屋だ。
ユーリエンテ・レヴィ(ゆーりえんて・れう゛ぃ)も一緒だ。
執事側だけの気持ちだけではなく使える主人側に気持ちを味わってみたら何かわかるかもしれませんよ、というのは建前で実際は気疲れしていそうな真言が少しでも息抜き出来るようにとの配慮かららしい。
高いホテルに泊まるのが始めてで落ち着かないでいる真言、そんなときドアのノック音が聞こえてきた。
真言がすぐに扉を開けると、そこには料理を持ってきたホイップの姿があった。
「お疲れ様です。どうぞ入って下さい」
「はい! 失礼します」
「あのホイップさんですか! どうぞです!」
(あの……って、なんだろ?)
にっこりと笑顔でホイップは中へと入っていく。
(なるほど、やはり笑顔は癒されますね。私も常に笑顔でいられるようにしないといけませんね)
そんなホイップを見て、真言はそんな事を考えていた。
冷製豚しゃぶパスタと水菜のサラダをサービスワゴンから取り、テーブルの上へと並べていく。
「わー! 料理おいしそー! ねえ、ねぇ、ホイップおねーちゃん、ユーリのデザートは?」
「デザートはこちらになります」
ユーリエンテはホイップが出してくれた『ホテル特製桃のコンポートと濃厚ミルクアイス』に夢中になっている。
「あ、ワインを注がせていただきます」
「お願いします。忙しいかとは思いますが、客人とは一期一会ですからね。いつも最高の笑顔を見せていてくださいね。元々あなたは笑顔がお似合いのようですから」
ホイップが隆寛にシャンバラワインの白を笑顔で注いだ。
まったりとした時間の中、3人のまるで親子のような夕食は進んでいったのだった。
■□■□■□■□■
1302号室スイートルーム。
「葵ちゃん、夜景が凄く綺麗ですよ。ライトアップされか観覧車も」
エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)が窓側で秋月 葵(あきづき・あおい)を手招きする。
「ほんとうだ〜! ロイヤルスイートは駄目だったけど、この部屋も素敵だよね〜」
葵はにこりとエレンディラに笑いかける。
それを見て、エレンディラは顔をほんのり赤くして固まった。
「大丈夫? もしかして……熱!?」
「い、いえ、なんでもないです! 大丈夫です!」
エレンディラは両手を顔の前で振って否定する。
「そう?」
「はい!」
そんな時、ドアを叩く音が聞こえてきた。
この部屋にもホイップが食事を運んできたのだ。
「ホイップちゃん、ここでスタッフしてるんだ!?」
「はい。今日はお世話させていただきますね!」
運んできたホイップを見て、葵が驚いた顔をした。
サービスワゴンから出てくる料理は葵の注文通り豪華ディナーとなっている。
『パラミタエスカルゴのシャンバラ風』を筆頭に、『シャンバラ牛のステーキ』、『ルッコラのあっさりサラダ』、デザートは『タノベホテル特製アップルパイ』となっている。
2人とも未成年ということで、葡萄ジュースで乾杯となった。
「ありがとう〜ホイップちゃん。バッチリ大満足って言っておくよー!」
葵がお礼を言うと、ホイップはお辞儀をして、退室した。
「エレン、どうしたの? 何だか、そわそわしてるけど?」
さきほどからもじもじしていたエレンディラを気遣う。
「いえ、あの、普段やっていることをやらないの……ちょっと落ち着かなくて」
エレンディラはそれに苦笑いで答える。
「今日は食べ終わっても片付けとかしちゃダメだからね?」
「あ、そうですよね! はい」
何も言わなければ普通に片付けに入っていたかもしれない。
■□■□■□■□■
1320号室スイートルーム。
ホイップがサービスワゴンを押して部屋へと入ると料理を待っていたのはメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)、フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)の3人だ。
「ホイップさん、待っていましたのですぅ」
メイベルが最初に出迎えてくれた。
「今、料理を並べさせていただきますね」
流石にホイップも慣れてきたのか、手際よくテーブルの上へと並べていく。
「このパスタのソース……ジュレになってるんだね! なるほど……こっちのサラダは見たことない食材が入ってる!!」
並べていく側からセシリアは料理を食い入るように見ている。
自分で今度、作ってみようと思っているのだろう。
「あらあら、もう少し落ち着きましょうね」
「はーい」
そんなセシリアをフィリッパがたしなめた。
全てが揃うと、ホイップはまたね、と言い残し退室した。
「それじゃあ……」
「いただきます!」
フィリッパの掛け声で3人は同時に言った。
「う〜ん! 冷たくて美味しい〜! この味覚えて今度作るね!」
「楽しみにしてるですぅ〜」
セシリアは目が輝いている。
メイベルも楽しそうだ。
「ホテルに来てよかったわ」
フィリッパはその様子を本当に姉のような眼差しで見守っているのだった。
■□■□■□■□■
1422号室スイートルーム。
「まったく……どのへんがスイートルームなんだ? 俺にぴったりなサイズのベッド! テーブル! イス! がないじゃないかっ!」
文句を言っているのはボビン・セイ(ぼびん・せい)だ。
「まあ、まあ。きっと頼めば持ってきてくれるんじゃない? ねぇ! 凄いよ! お風呂にぼこぼこする泡が出るやつが付いてる!!」
おのぼりさん全開ではしゃいでいるのはカッチン 和子(かっちん・かずこ)だ。
しばらく部屋を堪能したあと、ルームサービスで夕飯を頼み、ついでにボビンの家具も持ってきてもらうことにした。
「御待たせしました。ルームサービスでございます」
そう言いながら、部屋の中へと入ってきたのはローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)。
「待ってました〜!」
「やっと来たか!」
和子とボビンはいそいそとテーブルに着く。
ボビンはローザマリアが持ってきたテーブルの上に置いたテーブルとイスに、だ。
「こちら前菜の野菜のテリーヌになります」
ローザマリアが置いてくれた料理は色鮮やかで食欲をそそられる。
「えーと……」
「……」
しかし、カレンとボビンは固まってしまった。
「部屋で食べていますし、そう畏まらなくても大丈夫だと思いますよ?」
「え、あ、えっ? 普通に食べちゃって良いの?」
「美味しく食べるのが一番だと思います」
カレンの質問に笑顔で答える。
すると、どうやって食べて良いか分からずにいた2人は顔を見合わせ、フォークを取った。
「いただきます!」
声が重なり、テリーヌを食べ始めた。
「美味しいっ!」
「なかなかじゃないかっ!」
ボビンの言葉はひねくれていたが、皿の上の料理のなくなるスピードがかなり早いことが、言葉以上に語っていた。
次々と料理が平らげられていく。
(スイートルームの間取りはもう完璧ね。セキュリティもかなりしっかりしてるし……これなら要人が宿泊するのに問題なし。これで……少しは今月の生活費が)
料理を並べながら、ローザマリアはもう1つのバイト、教導団へ報告書を提出するというものを遂行していく。
和子とボビンがお腹いっぱいになると、ローザマリアは部屋を出た。
ローザマリアのパートナーであるグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)とエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)は2人しか募集枠がなかった窓ふきの仕事に専念していた。
エリシュカは最初、自身の飛行能力を使って窓ふきをしようとしていたのだが、ホテルは意外に高く、危険であることから断念したようだ。
2人はリフトを使い最上階のロイヤルスイートルームから窓ふきを開始した。
「うゅ……ロイヤルスイートルーム。いつかは行ってみたいかも、なの」
「そうだな、生活に余裕が出来たら行ってみたいものだな」
窓を拭きながら中を覗いていた2人がぽつりともらす。
窓ふきに気がついた菫がこちらを見る。
それにエリシュカは笑顔で手を振った。
菫も手を振り返す。
「うっ……」
「うゅ? どうしたの?」
「見ない方が良い」
グロリアーナが拭いていた窓の向こうでは、まだ凄惨な戦いが続いていたのだった。
First Previous |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
Next Last