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大決戦! 超能力バトルロイヤル「いくさ1」!!

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大決戦! 超能力バトルロイヤル「いくさ1」!!
大決戦! 超能力バトルロイヤル「いくさ1」!! 大決戦! 超能力バトルロイヤル「いくさ1」!!

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第1章 カノンの苦悩

「あっ、あああああああああああ!」
 今日も、天御柱学院の強化人間管理棟に、すさまじい悲鳴が鳴り響く。
 超能力バトルロイヤル「いくさ1」開催前日。
 バトルロイヤルへの強制参加が決まった設楽カノン(したら・かのん)はいま、管理棟の施錠された部屋の中で、苦悩に顔を歪ませ、ベッドの上で何度も寝返りを打っていた。
(頭が、痛い! 何なの、これは……。私は、強化人間。それはわかっているわ。だからどうしたっていうの? 私は、私は……ああ! ただ生きることがどれだけ苦しいことか! わかるわ……近い将来、私は、崩れる……)
 どんな攻撃にもびくともしないはずの部屋の壁は、一部は破壊されて深くえぐられており、一部は粘土のようにぐにゃりと歪められている。
 いずれも、カノンの超能力の暴走によるものだった。
 しかし、そんなカノンに呼びかける「声」があった。
(カノン。自分を見失ってはいけない。どんなに苦しくても、きみは、一人の人間だ。人間の心を失うようなことがあってはならない)
(ああ、もう! うるさいわね! あなたは、優しいわ。でも、誰に対しても優しいような人では、「私の涼司くん」にはなれないのよ! いつもいつも、わかったような口を聞かないで! もううんざりだわ。今後、あなたからの感応は全て拒否させてもらうわ!)
 カノンは、毎晩話しかけてくるその「声」の主に苛立ちを隠せない。
(カノン、やめろ! 「崩壊」は……する……な……)
 カノンに感応を仕掛けていたその「声」は、カノンの意志に強い拒否を示され、次第に聞こえなくなっていった。
 設楽カノン。
 その精神は、いま、「崩壊」の一歩手前にあったのである。

 そして、夜更けの校長室では、天御柱学院校長コリマ・ユカギール(こりま・ゆかぎーる)が、深い思索にふけっていた。
 何千もの霊体と契約しているコリマの脳裏には、常に複数の霊体が語りあう声が響いているのである。
(思うに、「強化人間」と呼ばれる人工的存在の錯乱の原因は、「研究」と称して彼らを学院に迎え入れながら、超能力の訓練もさせず、ただ遊ばせているだけの学院の体制にもあるといえる)
(きたるべき闘いに備え、戦力を早急に揃えておくことは重要だ。よって、強化人間の存在を否定はしない)
(ただし、無策もいいところの教官たちには、彼らの指導をこれまで以上に徹底してもらうぞ)

 さらに、コリマは、何者かと感応を行っていた。
(おぬし、わかっているのか? おぬしのやろうとしていることは、私、いや、我々には筒抜けなのだぞ)
(おぬしが、我々の「干渉」をはねつけるだけの力を持つことは賞賛に値するが、そのうち限界を迎えることだろう)
(おぬしが、あの女に呼びかけることも我々は許した。どうせ失敗するとわかっていたからな!)
(いっておくが、殺し合いをやめさせようなどと、本気で考えないことだ。我々の計画の邪魔を本気でするなら、覚悟してもらうぞ)

 コリマの感応に、何者かは答えている。
(黙れ! お前は、あの子が「崩壊」すればどうなるか知っている。知っていて、バトルロイヤルに参加させたんだ! お前はあまりに長い人生のどこかで良心をなくしてしまった! だから、僕はお前には協力しない!)

 何者かとの感応が切れてから、コリマはため息をつく。
(まったく、面白いサンプルだが、戦士には向いていないな)
(強い力を持っているのは事実だ。覚醒の経緯が経緯だからな)
(確かに、現状で唯一のXナンバーズだが、果たして使えるか?)
(使いようはあるさ。しょせん、我々の力には勝てない)
(しかし、奴の資料をみたが、シャンバラ大荒野に行かせるのは危険ではないか?)
(舞台は既に決まっていた。仕方あるまい)
(うむ。何らかの宿命が作用しているか)
(そう考えるしかあるまい。我々の予想を越える不確定要素がなければよいのだが)
 最強の超能力者といえるコリマでさえも、「宿命」という、この世の大きな流れを変えることはできないのだ。

 そして、夜が明けた。
 いよいよバトルロイヤル開催の日である。
 バリバリバリバリ
 シャンバラ大荒野上空で、軍用ヘリコプターのメインローターが耳を聾せんばかりの唸り声をあげている。
 ヘリの輸送する頑丈な鋼のコンテナに、設楽カノンは収容されているようだ。
 その朝、カノンはいつになく精神が不調をきたしており、半狂乱になって暴れ出しかねない様子だったため、学院の強化人間処理班は鎖で彼女を拘束し、鋼の箱に入れて、たいそうな運び方をするしかなくなったのである。
 そもそもカノンは、バトルロイヤルのことは全く知らない状態でいて、その朝に説明が行われるはずだった。
 だが、まともに説明などできるはずもなく、半狂乱の彼女を動物のように縛りあげて、バトルロイヤルの舞台である、シャンバラ大荒野、アトラスの傷跡のガガ山周辺に、放り投げるように置いていこうと決まったのだ。
 冷酷なイメージを持たれる処理班でさえ、今回のカノンの扱いには首をかしげたが、全てはコリマの思惑である。
 カノンを落ち着かせることができる可能性を持った人間のいうことなのだから、処理班とて従わない理由はないのだ。
「よし、ガガ山周辺に到着した。コンテナを投下するぞ」
 ヘリのパイロットが、操作を行おうとしたとき。
 ドゴーン、ドゴーン!
 ヘリの輸送するコンテナから、異様な破壊音が何度も轟いた。
 何かが、何かに打ちつけられるような異様な音である。
「なに!? コンテナの鋼を打ち破るか!!」
 何が起きたかだいたい想像がついたパイロットは、背筋が凍る想いだった。
 そして。
 ドゴーン!
 内部からの力に抗しきれず、ついにコンテナはバラバラに解体され、中に閉じ込められていた少女を解き放ってしまう。
 思わずヘリの下の空間を確認したパイロットの目に、目を血走らせ、歯をむき出しながら落下していく、すさまじい形相の少女の姿がうつった。
「に、任務完了。これから帰投します!」
 とりあえず落ち着かなければと必死に努めながら、パイロットは司令部に報告を行い、ヘリを旋回させる。
 2度と、その場を訪れたくないと感じながら。
 そして、あの少女にも2度と会いたくはなかった。

 ひゅるるるるるるるる
 どさっ
 1000メートルの高空から飛び降りたにも関わらず、設楽カノンは極めて静かに、ガガ山周辺の森の中に着地した。
 着地直前にサイコキネシスで落下速度の調節を行ったと思われるが、普段の彼女には到底できない芸当である。
「はあはあ、はあはあ」
 着地後、しばらくカノンはうずくまって、激しい息づかいをする。
「許せない、許せないわ、私を動物のように扱った! あの連中、殺してやりたいわ! 殺す。そう、殺すわ! 殺す殺す殺す!」
 高空からの着地で消耗したというより、自分を拘束した者たちへの激しい怒りが込み上げているようだった。
 やがて。
 カノンは起き上がって、辺りをみまわす。
「ここは、どこなの?」
 どうやら、深い森の中のようだ。
 普段なら途方に暮れるところだが、いまのカノンはさして戸惑った風もなく、目をギラギラさせながら、本能の赴くままに足を進めていく。
 無意識に、ガガ山の方角に向かっていたのはさすがというほかない。
 だが、カノンはすぐに足を止める。
 何者かの気配を感じたからだ。
「おっと、俺に気づいたか。これでも元軍人だから、気配を消すのには自信があったんだけどな」
 心底驚いたといった口調で、グンツ・カルバニリアン(ぐんつ・かるばにりあん)が森の木々の陰から姿を現す。
「誰なの? 殺して欲しいのかしら?」
 カノンの目があまりにも殺気に満ちているために、さすがのグンツも戦慄を禁じえない。
(まいったな。これでも俺は、特殊部隊で訓練受けて、軍曹だったんだけどな)
「俺はグンツ・カルバニリアン。おまえと同じ学院の生徒だ。仲間からは、『不死身のグンツ』と呼ばれている。まったく、いまのおまえときたら、戦場でみたどの兵士よりもギラギラしていやがるぜ」
 グンツは形式的に片手を差し出すが、もちろんカノンは握らない。
 グンツも、いまのカノンと握手をしたいわけではなかった。
「いっとくけど、わたしも兵士ですからね! 殺されないうちに用件を……ああっ!」
 言葉の途中で激しい頭痛に襲われ、カノンは悲鳴をあげた。
(これじゃ、兵士というより、本物のバーサーカーだな)
 内心の嘆息を隠しながら、グンツはカノンを介抱しようとする。
「大丈夫かい?」
「触らないで! 昨日の夜から頭痛が激しくて……」
 グンツを追い払うような仕草をしながら、カノンは両手で頭を覆う。
 カノンの精神がいっそう不安定になったのは、昨日まで毎晩カノンに語りかけ、なだめてくれていたあの「声」の主との感応を断ち切ったからだったが、カノンはそのことに気づかない。
「しっかりしろよ。おまえは、確かに兵士だが、ずいぶんとデリケートだ。ほら、これを飲みな。頭がすっきりすると評判のジュースだぜ。おまえにやるよ」
 グンツは、自称小麦粉入りのジュースの入った冷えた缶をカノンに握らせる。
「何、これ? 冷たくて、気持ちいいわ」
 カノンはジュースが気に入ったようだ。
「だろう? 飲んでみな」
 グンツにいわれる前に、カノンは缶を開けてジュースを飲み干していた。
「ぷはー! すごいわ。私の好きなストロベリー味ね。ハイになってきた! 頭痛がおさまったわ」
 缶を投げ捨てて、カノンは陽気な笑顔を浮かべる。
「よかった。そんなにきくとは思わなかったぜ」
 グンツは笑いながら、若干身をひいている。
 ジュースがカノンにもたらす効果には、真の恐怖につながりかねないものがあった。
「はあ、すごいわ。すごいすごいすごい! アハハハハハハハ!」
 カノンの変化は極端だった。
 さっきまでのギラギラした表情はどこかに消え失せ、顔を真っ赤にして狂ったように笑っている。
「うーん、暑いわね。こんなの脱いじゃおうかな。アハハハハハハハ」
 グンツが驚いたことに、カノンは自分の衣服を無造作に脱ぎ捨て、やせた身体を露出させながら、森の奥へと裸足で駆け出し始めたのだ。
「元気すぎだな。気をつけろよ」
 グンツの声は、もうカノンに届かない。
 最後にみえたのは、森の中をひらひらと舞う、カノンのブラジャーだった。
「第一段階は、うまくいったようだな」
 プルクシュタール・ハイブリット(ぷるくしゅたーる・はいぶりっと)がグンツの背後に現れて、いった。
「ああ。だが、これからだな。ところで、おまえはあの女に気づかれなかったのか?」
「いや。ジュースを飲むまでは、私に気づいていたようだ。だから、気を許さなかったのだな。まったく、2人とも殺されるのではないかと冷や冷やしたね」
「なら、隠れてないで出てくればいいのに。それにしても、ご苦労だったな。あの男に会って、ジュースの好みも聞いてきたんだな」
 グンツの言葉に、プルクシュタールはうなずく。
山葉涼司(やまは・りょうじ)というのは、あの女に比べればつまらない人間だったな。だが、あの女のジュースの好みを聞くことはできた。もちろん、このバトルロイヤルのことも教えておいてやったさ。しかし、私以外にも情報を与えた者がいる様子だったな。おそらく、あの男はここに来るだろう」
 グンツは、満足そうな様子で、
「さて、後は、追跡して、ひたすらチャンスを待つか。しかしあの女は、扱いを間違えれば、本当に俺たちを殺すし、殺せるだけの力も持ってるぜ。命がけだな、こりゃ」
「何をいうかと思えば。『命がけ』には慣れているだろう?」
 プルクシュタールの問いに、グンツは笑ってうなずいた。
「まあ、な」
 グンツは、仲間からは「不死身のグンツ」と呼ばれていた。

「アハハハハハハハ!」
 森の中を、笑みを浮かべながら、全裸に近い姿で走り続けるカノン。
 その美しい姿をみれば、ニンフが現れたとさえ思える。
「あら? カノンさんだわ」
 森の中をガガ山に向かって歩いていたアル・ルヴィエッタ(ある・るう゛ぃえった)は、こんなところでみかけるとは、という驚きも込めて声をあげる。
 カノンがバトルロイヤルに参加すると知って、心配になって様子をみにきたアルだったが、まさか森の中で全裸に近い姿で現れるとは思いもしなかった。
「あんな姿で走ってるなんて! 精神がかなり不安定になっているようだわ。男子にみつかる前に何とかしないと! カノンさーん!」
 アルはカノンに呼びかけながら、森の中を駆けていく。
「あの……僕も…………男子……だよ…………」
 グラヴィン・ガイン(ぐらう゛ぃん・がいん)も、何か呟きながらアルと一緒にカノンを追い駆け始める。
 深い森の中ではドラゴニュートの方が動きやすいのか、グラヴィンが先にカノンに追いつき、その丸みをおびた肩をがしっと捕まえてしまう。
 おとなしそうな外見ではあるが、グラヴィンはなかなか力がある。
「あれ? あなたたちは?」
 動きを止められたカノンは、不思議そうにグラヴィンとアルをみつめた。
「グラヴィンさん、視線をそらせて!」
「うん…………」
 アルの指示で、グラヴィンはカノンの美しい裸をみないように注意する。
「カノンさん、ほら、これを着て! 貞操帯がみえちゃってるわ!」
 カノンが唯一身につけていた黒の貞操帯にどこか不吉なものを感じながら、アルは自分の着替え用の服をカノンに着せた。
「ええっ? 裸の方が気持ちいいのに!」
 カノンは不満そうだ。
「こんな姿をパラ実生にみつかったら、狩られてしまうわ。カノンさん、バトルロイヤルの間、私たちと一緒に行動しましょう。できるだけ戦闘を避けて、あちこち隠れてまわった方がいいわ。でないと……」
 精神が崩壊してしまうかもしれない、という言葉をアルは飲み込んだ。
 アルにとって、いまのカノンの状態、そして、全裸に近い状態で走っていた、衝撃的な光景は、あまりにも痛いものだった。
「バトルロイヤル? なに、それ? 楽しそう! アハハハハハハ」
 アルの心配をよそに、カノンは調子外れな笑い声をあげる。
「カノン…………さん……元気…………」
「そうかしら? かなりまずい状態だわ。最初にみつけたのが私たちで、本当によかったわ。それにしても、どうしてこんなに陽気になってしまったのかしら?」
 アルは、自分たちより先にグンツがカノンに出会っていたことはもちろん、自称小麦粉入りのジュースがカノンに与えられたなどとは、想像することさえできなかった。
「森の中の…………精霊が……とりついた……のかな………」
 グラヴィンが彼にとってもっとも自然な解釈を述べる。
「そうかもしれないわね。とにかく、カノンさんの大変な姿をみていると、私はなぜだかすごく胸が痛むのよ。ああっ!」
 過去のことを思い出したのか、急に頭痛がしたアルは、頭をおさえる。
「大丈夫…………?」
「だ、大丈夫よ。カノンさん、知らないみたいだから、バトルロイヤルのことを教えましょう。グラヴィンさん、私たちでカノンさんを守るのよ」
「うん…………守る………」
 グラヴィンはうなずく。
「アハハハハハハ! みんな、行こう! アハハハハハハハ」
 カノンはふらふらとした足取りで、歩き始める。
「カノンさん、聞いて! コリマ校長は……」
 アルはカノンの側を歩きながら、バトルロイヤルの説明を始めた。