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闇世界…村人が鬼へ変貌する日早田村 2

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闇世界…村人が鬼へ変貌する日早田村 2

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第2章 命を狩る者

 一方、まだ闇世界化した村にいる遠野 歌菜(とおの・かな)たちは、寺子屋の近くにある倉庫の中で拘束されている鎌鼬を良い子にしようとする。
「生きた証が欲しいって言ってたよね、鎌鼬ちゃん」
「そうだよぉ。だからねぇいろんなやつを、いーっぱい困らせるんだー」
「(人を困らせることが生きた証にするのが本能・・・でも私の歌を聴いて楽しそうにしてくれてたよね)」
 歌で少女の心に生きた証を、僅かでも残せるんじゃないかと思った歌菜はリリカルソングを歌い始める。
「で・・・?」
 拘束されたままになっている鎌鼬は眉一つ動かさない。
「こーんなにキツく縛られた状態で、ぼっくんを改心させることなんで出来ると思ってるの?」
「うぅ・・・そんなぁ」
 少女にプイッとそっぽを向かれた彼女はしょんぼりとする。
「アレンくん、ちょっと頼みたいことがあるんですけどいいです?」
 咲夜 由宇(さくや・ゆう)は鎌鼬に聞こえないよう、アレン・フェリクス(あれん・ふぇりくす)に小声で話しかける。
「やだよ」
 しかし彼は内容を聞く間もなく、彼女の頼みを即拒否する。
「ま、まだ何も言ってないですよ!?」
「じゃあ言ってみて」
「ちょっと耳を貸してください」
 屈んでくれないアレンに由宇は爪先立ちし、彼の傍でヒソヒソと話す。
「聞こえました・・・?」
「なんとなくね、耳元じゃないから微妙だけど」
「それじゃあ作戦通りにお願いしますね」
「うん」
「ありがとうございますっ」
「やだね」
「アレンくん今うんって言ったじゃないですか!」
 頷いたはずだと由宇が抗議の声を上げる。
「うんって言っただけで、やるなんて一言も言ってないよ」
「くぅう〜っ」
 ニヤニヤと笑うアレンに対して、眉をハの字にして少女は悔しそうな顔をする。
「うわぁん、お願いするです!このとおーりっ」
 由宇は両手を合わせ必死に頼む。
「しょうがないなぁ」
 何度もしつこく頼んでくる彼女にしぶしぶ了承してやる。
「それじゃあ演奏の音で鬼が寄ってこないか外で見張ってるよ」
 アレンは仕方ないなとため息をつき、倉庫の外へ出ていく。
 パタンと扉を閉め、由宇の作戦を実行しようと鬼に変装する。
「ギターでも弾きましょうか」
 床に座り込むと由宇はエレキギターを弾き始める。
「歌があるといいですね」
 彼女は歌菜の方を見て歌ってというふうに目配せする。
「じゃあ・・・元気になるような歌がいいかな?」
「私も歌うです♪」
 演奏に合わせて歌菜と、由宇が優しい声音で幸せの歌を歌う。
「一緒に演奏しませんですか?」
 じーっと見つめる鎌鼬を誘おうと由宇は銀のハーモニカを差し出す。
「このままじゃ吹けないもん」
「そうですよね・・・。(気まずくなってしまったです。後は鬼に変装したアレンくんを撃退するふりをする作戦でなんとかするしかないです!)」
 ムスッとする鎌鼬を見て彼女は、頼みの綱である彼に演技を任せることにした。
「もうそろそろ倉庫の中に入ってもいいのかな?」
「甘いわね」
 倉庫に入ろうとする彼を、高台の上にいる月美 芽美(つきみ・めいみ)が見下ろす。
「悪戯して生きてる証が欲しい鎌鼬が、そう簡単に改心するかしら?」
 砂利道へ降りてツカツカとアレンに詰め寄る。
「由宇たちが頑張ってるんだから、きっとなんとかなるよ」
「別の生き方・・・ね。それって改心なんて言い方がいいだけで、させる側の正しさを強要しているだけよ?風の少女の自由を奪っているだけじゃないの」
「そうだとしてもオレは彼女たちのやり方、嫌いじゃないけどね」
「どうかしらね?中途半端な方法じゃその妖怪に死を招くだけよ」
 フンッと笑い飛ばし、アレンから視線を外す。
「(はぁ・・・生き方を変えようだなんてイラつくわ)」
「何を話していたんですか芽美ちゃん」
 舌打ちをして高台に登ろうとする彼女の傍に緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が寄る。
「たいした話じゃないわ」
 芽美はそっけなく言うと軽身功の体術で高台の上へ戻り、集会場の周辺を見下ろす。
 彼女の言葉を気にせずアレンは作戦通り、倉庫の扉を乱暴に開けて中へ侵入する。
「はーっははは、こんなところに隠れていたんだねーっ。そこの美味しそうな少女たち全員、このオレが喰らってやるー。まずはそのちっちゃい子からいただくとするかなー!」
「鬼が侵入してきてしまいました!私がやっつけるですっ」
 由宇は則天去私の光を纏う拳で彼に殴りかかる。
「え!?ちょっと待ってよ、その攻撃はやばいって!!」
「問答無用です!たぁああっ」
「んぎゃぁあーーっ!!」
 彼女の拳の前にアレンはベシャッと床に倒れ込んでしまう。
「もう大丈夫ですよ鎌鼬さん」
 由宇は少女の頭を撫でつつ、倒れているアレンの方へ視線を移して“ごめんなさいです”というふうにペコリと頭を下げて謝る。
「ありがとぉ、ギター弾きのお姉ちゃん」
「かわいいですね、なんていうかもうかわいいですねーっ」
 まん丸の瞳で見上げる少女を、由宇がぎゅーっと抱き締める。
「ぼっくんもう悪いことしないよ?だからこれ解いてよぉー」
「はぁーい♪解いてあげるです」
 鎌鼬を拘束しているロープや登山用ザイルなどを解いてやる。
「わーい、自由になれたー。ばぁいばぁーい♪(ごめんねお姉ちゃんたち・・・。やっぱりぼっくんには他の生き方なんて分からないよ)」
「えぇっ!?ちょっと、鎌鼬さぁ〜んっ。うわぁん逃げられちゃったですー!」
 可愛らしく言う妖怪の少女の言葉に騙された由宇が、わんわんと泣く。
 その声は集会場の高台にいる芽美にも聞こえ、その彼女は“やっぱり無理だったようね”と呟いた。
「急いで追いかけなきゃ!」
 歌菜は倉庫から出ると風になって飛んでいく少女の後を追う。
「アレンくん大丈夫ですかー!?」
 まだ床にへばっているアレンを由宇が慌てて助け起こす。
「イッたた・・・。ていうかオレだったから軽い怪我で済んだけど、他の人だったら大怪我してるかもしれないよ」
「あわわっ、ごめんなさいです〜」
「悪いと思っているなら、さっさと妖怪のあの子を捕まえような」
「は、はいです!」
「何だろうこれ、昨日はなかったはずだけど?暗くてよく見えないけど、何か掘ってあるね。えーっと・・・十天君の他に旅人を殺そうとしたり、村人を殺した襲撃者が村の中にいるみたいだよ」
 カガチが置いた板を見つけたアレンは、文字を指で撫でて読む。
「先に鎌鼬さんを見つけられたら、悪いことをするように言われてしまうかもです!そんなのいやですっ」
 由宇は血相を変えて彼の手を引っ張り少女の後を追いかける。



「(こんな方法で本当に上手くいくんでしょうか・・・)」
 林の中に隠れていた天神山 葛葉(てんじんやま・くずは)たちは、こっそり外へ出て元に戻った村の中にある倉庫に潜伏していた。
「お願いです!あの旅人を早く引き渡してください!じゃないと、この村は滅んでしまう!」
 鬼から人の姿に戻り、集会場に集まっている村人たちに葛葉が、旅人から弥十郎たちを引き離すように頼み込む。
 彼女の優しい部分を大石 鍬次郎(おおいし・くわじろう)に利用されているとも気づかず説得しようとする。
「なして引きはなさいけねぇだ。ていうかどっから聞こえるんだぁ?」
「オラたちに姿を見せねぇなんて怪しいっぺよ」
「んだ!そんなやつの話し、信じられねぇだっ」
 村人たちは隠れ身で姿を隠している葛葉に対して訝しげに言い、姿の見えない相手の説得なんて信用出来ないと拒否する。
「ハツネちゃんたちによって皆殺しにされてしまう!ハツネちゃんたちの目的は恐ろしい魔女を復活させる旅人を殺すだけなんだ!だから、はやく!」
「そったらこと言って、その後でオラたちを殺す気じゃねぇっぺか!?」
「これ以上・・・この村に迷惑掛けたくないんだ・・・。だから・・・頼むよ・・・」
 だがしかし協力すればハツネたちが村人に害を与えないのはまったくの嘘だ。
 そうとも知らずに葛葉は必死に協力させようとする。
「お願い・・・、人が殺されるところなんてもう見たくないんだよ」
「―・・・葛葉ちゃんが言ってることはホントだよ?ハツネたちはあの旅人だけを“壊せば”よかったのに。・・・・・・それをお兄ちゃん、お姉ちゃんたちが邪魔をするから・・・この村を“壊す”ことになったんだよ?」
 拒む村人をハツネはじっと見上げ、仕方なかったという風に話す。
「・・・けど、旅人さんを“壊させて”くれたら・・・村を“壊す”のやめようかな」
 小石をつま先でコツンと蹴り、辺りを見回す。
「だからって人殺しの手伝いのまねなんて出来ねぇだよ!」
「・・・・・・協力してくれたら、村は助けるよ?・・・じゃなかったら、村、“壊し”ちゃうかな・・・」
 ハツネは振り返り様、不気味にニタァと笑い鬼眼で怯ませる。
 命を奪うことに何の躊躇いもない小さな少女に恐れをなした彼らは黙ってしまう。
「何も言わないのね。壊していいの?」
 リターニングダガーの切っ先を村人へ向けて脅す。
「何であんなところに旅人がいるんだ?」
 民家の近くを歩く旅人の姿を見つけた鍬次郎は、宿泊所にいるはずの彼がなぜいるのかと驚き小さく呟く。
「え・・・どうしてあんなところにいるの」
 超感覚で鍬次郎の声音を聞き取ったハツネは、旅人を見て不思議そうに首を傾げる。
 しかしそれは真に携帯電話で呼ばれてやってきたカガチだ。
「(こっち見てるね、陣くんが言っていた女の子かな?ばれないように演技しなきゃねぇ)」
 少女に襲われた旅人と同じ格好をし、変装しているカガチは彼女の視線に気づきゆっくりと振り返る。
「あぁっあの子は昨日のー!」
「なんか・・・変。言葉遣いが違うよ」
「えー、あれー?そうだったかな。昨日と同じだよ」
 訝しげに見つめる少女に、カガチはへらっと笑って誤魔化そうとする。
「(まずいな口調をカンペで教えるか)」
 葵は民家と民家の間からハツネたちに気づかれないように様子を見ている。
「(葵ちゃん・・・あんなところに。ん?紙を持っているみたいだけど・・・。何か書いてあるね、何々・・・田舎口調で話せ・・・なるほどね)」
 カンペで教えてもらった通りに話そうと、カガチは田舎の喋り方を脳内でイメージする。
「んー・・・傷のせいでなんか体調悪いせいだっぺかなぁー?」
「―・・・あの旅人なのね」
「んだっ。襲われた時の恐ろしさ、忘れてねぇーだよ。ぁあーおっかねぇだぁー」
 わざとらしいほどカガチはオーバーリアクションで演技する。
「変ですね、旅人が1人で出歩くなんて・・・」
「ふむ・・・、例の獣人か?姿を隠しても声で位置がばればれだな」
 高台の傍に隠れている葛葉に葵が声をかける。
「ひぃっ!?」
「そんな怯えた声を出すな。こっちに危害を加えようとしなければ何もしやしない」
「誰かそこにいるの・・・じゃなかった、誰かそこにいるんだっぺか?葵ちゃん」
 カガチが葛葉に話しかける葵の傍に寄る。
「ひえぇえっ。村人たちが死なないためにやっているんです、許してください!」
 2人に囲まれ逃げ場を失った彼女はガタガタと震える。
「許すも何も彼らをろくでもないことに協力させるわけにはいかないな」
 声が聞こえる方へ葵がじりじりと詰め寄る。
「―・・・クッ、ククク・・・」
「何がおかしい?」
「ギャハハ♪死ねよバーカ」
 追い詰められた葛葉は玉藻の人格になり、碧血のカーマインのトリガーを引き、葵に向かって銃弾を放つ。
 先の先を読んだ葵は間髪避ける。
「はーっははは!死ね、死ねぇえっ!ぶちまけろぉお!!」
 葛葉は笑いながら逃げ回る村人を撃ち殺す。
「旅人が葛葉とハツネに気をとられている隙に、さぁて俺たちは一仕事するか。のこのこと出てきてくれたおかげで、早く片付きそうだ。やるぞ新兵衛」
「適当な材料が見つからなかった・・・ライターでなんとかするか・・・・・・」
 鍬次郎の事は大嫌いだが、東郷 新兵衛(とうごう・しんべえ)はハツネのために我慢し、集会場周辺の小屋に火をつけて破壊工作をする。
「生徒が出て来ないな?」
 元に戻った村で小屋が燃えているのを生徒たちが発見したとしても、闇世界側にいる者たちには遭遇出来ないのだ。
「いないのか?妙だな・・・とりあえず中に入ってみようぜ」
 倉庫の中を覗き見ても、人の気配はまったくない。
 不要になったダンボール箱などが投げ入れられているだけで誰もいないようだ。
「―・・・いないな」
 生徒たちが捕らえた鎌鼬を隠しているのではと、新兵衛が探してみるが見つからない。
「本当にここか・・・?」
「ちっ場所を間違えたか」
 鍬次郎は別の倉庫と間違え、苛立ち紛れにダンボール箱を床に投げつける。
「夕暮れか・・・」
「くそっ。また村が変わっちまうじゃねえか。急いで探さねぇと!」
「何か飛んでいる・・・」
「あれは鎌鼬じゃねぇか!?」
 新兵衛の声に鍬次郎が空を見上げる。
「―・・・倉庫の中じゃないのか・・・・・・?」
 顔を顰めて新兵衛は彼を睨むように見る。
「そのはずだぜっ。何だってあんなところにいやがるんだ!」
 ちくしょうと鍬次郎は砂利道を踏みつける。
「エリ!どこにいるのぉ、エリーッ!!」
 寺子屋の近くにある倉庫から逃げ出した鎌鼬は、エリの名前を呼びながら村の外へ飛んでいく。
「子供たちが・・・」
 日が沈み子鬼へ変貌していく村の子供を見下ろし、新兵衛は目を丸くする。
「遊ぼうー遊ぼうよぉー、捕まえたら食べる遊びしよー」
 きゃっきゃとはしゃぎながら子鬼が新兵衛に迫る。
「遊んでいる暇はない・・・」
 子供に手荒なことをしたくない彼は民家の中にある縄を掴み、子鬼たちの手足を縛った。
「ここは危険だ・・・・・・。走るぞ・・・お嬢」
 新兵衛はハツネの手を掴み村の外へ向かって走っていく。
「鎌鼬が村の外へ向かって飛んでるな。ちょうどいい、あの旅人を殺させよう」
 旅人のふりをしているカガチを殺させようと、鍬次郎は妖怪の少女を追いかける。