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【金鷲党事件 一】 ~『絆』を結ぶ晩餐会~ (第2回/全2回)

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【金鷲党事件 一】 ~『絆』を結ぶ晩餐会~ (第2回/全2回)

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序章 プロローグ

「まさに“壮観”ってヤツだな…!」
小型飛空艇ヘリファルテに腰掛けたまま、椿 椎名(つばき・しいな)はぐるりと周りを見渡して感嘆の声をあげた。

今彼女がいるのは、五十鈴宮円華(いすずのみやまどか)救出のために編成された、二子島攻略艦隊の旗艦、『東郷(とうごう)』の甲板である。

『東郷』の名は、とかく日本かぶれで有名な葦原明倫館総奉行{SNM9998935#ハイナ・ウィルソン}が、旧帝国海軍の提督、東郷平八郎にあやかって付けたものだと、椎名は聞いていた。
東郷は、日露戦争の帰趨を決定付けた日本海海戦で、いわゆる“丁字戦法”と“トウゴウ・ターン”を採用し、大勝利を挙げた人物として知られている。

その東郷の甲板には今、見渡す限り一面に飛空艇が敷き詰められ、その間を無数の整備士やら兵士やらが、せわしなく動き回っている。

「ホント!こうして見ると、ちょっとスゴイよね!」
椎名のパートナー、ソーマ・クォックス(そーま・くぉっくす)は、パンパンに膨れ上がったバックパックにもたれ掛かりながら、そう応えた。

「コレ見てるとさ、絶対に勝てそうな気がしてこない?」
「ウン、するする!味方がこんなにいるんだもん、もしかしたら楽勝かもよ?」

2人とも、作戦に志願する時やその後のブリーフィングにおいて、今回の作戦の困難さについてさんざん聞かされていた。その為、内心不安に思う所も無いではなかったのだが、こうしてズラリと並んだ飛空艇を見ている内、そんな思いもドコかに吹き飛んでしまっていた。

「ねぇ、ソーマ?」
「ん?」
「ところでさ、さっきから気になってるんだけど…その袋の中、ナニが入ってるんだ?」
「え、これ?エヘヘ〜、よくぞ聞いてくれました!」

訝し気な椎名の問いに、ソーマはイソイソと袋の口を開ける。

「じゃ〜ん!これ見て、コレー!!」
「コレ見て…って、ナニコレ、全部爆弾!?」
「そう!この船スゴイんだよー!弾薬庫にね、“これでもか”って位タマとか爆弾とか積んであんの!でね、ジーッと見てたら、そこの係の人が、ニコって笑いながら、“幾つかお使いになりますか?”って!いい人だよねー!!」
「いや、“幾つか”って量じゃないでしょ、ソレ…」
「だって、どんだけ敵がいるかワカンナイんだよ、いっぱいあるに越した事ないじゃん?」

「いや、まぁそうかもしんないけどさ…」
と言いつつも、椎名的には内心空いた口が塞がらない。
何しろ、ソーマの背丈の半分位はありそうなバックパック一杯に爆弾が詰まっているのだ。
「頼むから、オレを誘爆に巻き込まないでくれ…」
という椎名のつぶやきも聞こえていないようで、ソーマはさも楽しそうに、

「でねー、これが普通のグレネードでしょ、でこっちが相手を行動不能にさせるスタングレネード、こっちは煙幕用のスモークグレネード、それと、忘れちゃいけないC−4プラスチック爆弾!まだまだあるんだよ…」
と爆弾の解説を続けている。

「そういや、アドラーのヤツはどこいったんだ?」
取りあえず話題を爆弾から移そうと、椎名はさっきから姿の見えないアドラー・アウィス(あどらー・あうぃす)の名前を挙げた。
「んー、どうせまた、ナンパでしょ?」
うっかり出し過ぎて、バックパックに入らなくなってしまった爆弾と格闘しながら、ソーマが興味なさそうに言う。
「はー、懲りないねー、アイツもー。成果なんて出た試しないのに」
さも感心したように椎名が答えた。

「フッフッフ、ナニを言う!」
「わぁっ!!」
突然後ろから声に振り返ると、満面の笑みを浮かべたアドラーが、自慢げに立っていた。手には、走り書きのようなメモを持っている。
「見ろ!整備の女の子の住所と電話番号だ!!“無事帰ってきたら連絡下さい”だってよ〜!」
メモを抱きしめながら、女の子のマネをしてシナを作るアドラー。正直言ってちょっとキモい。
「それ、気使ってくれたんじゃない?出撃前にテンション下げるような事言えないっしょ、整備の人としちゃ」
「いや、どっちかってゆーと、『死亡フラグ!』ってヤツじゃ…」
「あ゛〜、アリガチアリガチ!」
「な、ナニ言いやがる!人が折角ナンパに成功したのに!少しは“祝ってやろう”とかゆー気はナイのか!友達甲斐のない奴らめ!!」
「だって…」
「なぁ…」
思わず顔を見合わせる2人。

「そこっ!静かにしろ!これから司令官の訓示が始まるぞ!!」

不意に、高いところにいる葦原人っポイ軍人から叱責の声が飛んだ。気付けば、ついさっきまでやかましい位の騒音に包まれていたが、すっかり静まり返っている。
「す、スミマセンっ!!」
3人が飛び上がって直立不動の姿勢を取ると同時に、甲板にハイナ・ウィルソンの特徴のある声が響き渡った。

「みなさん、今回は我が葦原藩と五十鈴宮円華さんの為に、こうしてお集まり頂きました事、心より御礼申し上げんす。此度の戦、“共に手を取り合ってシャンバラを繁栄させていこう”というわっちたちの『思い』が正しい物である事を、広く天下に知らしめるためにも、なんとしても勝たねばなりんせん。どうか葦原と円華さんのため、ひいてはシャンバラのために、お気張りおくんなまし!」
ハイナの演説に、その場に集った一同が“おぉーっ!”という鬨の声で応える。

猛り切った士気を鎮めるように、ハイナに変わって壇上に立った軍人、宅美浩靖(たくみひろやす)の低く重々しい声が響く。
甲斐は、陸上自衛官を皮切りにアメリカ海兵隊や各国の外人部隊を渡り歩き、つい最近までシャンバラ教導団に在籍していたという異色の経歴の持ち主だ。その30年以上に及ぶ経験を買ったハイナが、今回の作戦のために特に司令官に招聘した人物である。
「まもなく本艦隊は予定ポイントに到達。雲海に紛れて部隊を展開後、日の出と共に作戦を開始する!なお、作戦は適宜変更される、司令部からの指示には常に細心の注意を払え!以上だ!各員の奮励を期待する!」
簡潔な言葉のあと、その場にいる全員が一斉に敬礼を交わす。この瞬間、五十鈴宮円華救出を誓う皆の『思い』は一つになった。