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第2章 人の不幸はなんとやら

「今のところ女神のペンダントを奪われた人はいないみたいねぇ」
 ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)はモニターでゲームに参加している生徒を見ながら、人の不幸を見るような現場に来ているなんて学校などには言えないと呟く。
 スーツを着て変装をし、メガネのテンプルを指でつまむ。
「みのりさんの言うこと全然信じてもらえてないね。賞金目当ての人が何人かいるっぽいから、いくら説明しても嘘かもしれないって疑われちゃうのかな?」
 真尋たちにみのりと真が追われていた様子を神和 綺人(かんなぎ・あやと)も、ゆっくりと観戦室で眺めている。
「(参戦じゃなくて観戦なんですね。騙し合いは苦手というか、私は・・・嘘をついてもすぐにバレてしまいますし)」
 ゲームに参加するのかと思った彼が見ているだけの側になってくれたことに、クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)はほっと息をつく。
「―・・・このゲーム、運営側にとって何か利益があるのか?」
 ユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)はどこで見ているのか分からない運営に向かって質問する。
 “残念ですが企業秘密です”と、どこからともなくアナウンスが聞こえてきた。
「ビル1つ使ってするほどのものか?スキルの使用を禁止すれば、部屋1つでできそうなものだが・・・」
 “ご覧になっていれば、いずれ分かるでしょう”と、一言だけ返ってきた。
「今のところここで確実に分かったのは、みのりさんと真さんのどちらかが女神を持っていることだね」
「(観戦室で騙し合いの様子見ている方がよっぽど悪質に思えるんですけね)」
 言葉には出さないものの神和 瀬織(かんなぎ・せお)は、横目で綺人をちらりと見る。
「ねぇ5階に誰かいるよ」
 ミルディアが指差すモニターを見ると、七枷 陣(ななかせ・じん)が1人でウロウロとフロア内を歩いている。
「女神が多けりゃ騙し合いしても良かったけど、オレはパスやな。このゲームには必勝法はない。だが・・・このゲームには不敗法がある。絶対負けは無い不敗法がな」
 ブツブツと呟きながらディテクトエビルを発動させて周囲を警戒をしている。
「何て言ってるのかな。もうちょっと音声のボリュームをあげてもいい?」
「あぁ・・・、構わない」
「ねぇー、ボリュームを上げてくれないかな」
 さっきユーリが話しかけていたから聞こえているだろうと、別室にいる運営に向かってミルディアが声をかける。
 観戦室のどこかにこっそり取り付けているカメラで要望を把握した彼らは、モニターのボリュームを上げる。
「なぁんてな。奪い合いをせずに1時間経過すれば良いだけや!」
 女神のペンダントをポケットにしまい込み余裕綽々な態度の彼の声を、観戦室にいる生徒たちが聞き取る。
「あたしのパパなら自ら子羊フラグは立てないね」
「子羊って・・・陣さんのこと?」
「あのフロ内で他に誰かいるの?」
 首を傾げて聞く綺人にミルディアがさらっと言い放つ。
「それを言うならエレベーターで上の階に行ったみのりさんたちも危ない気がするなぁと思ってね」
「んー、それもそうね」
 口元に人差し指を当てた彼女がニヤッと笑う。
「アヤたちに悪気はないんでしょうけど・・・」
「えぇ・・・それだけに、より黒く感じます」
 クリスと瀬織が2人に聞こえないよう、小さな声音でボソッと話す。
「3階はどうかな?誰かいる!」
 ミルディアは面白いシーンが見れないかと、夢中でモニターを覗き込む。
「騙し合いなんていけませんよね。話し合いで解決出来るはずなのです♪」
 オフィス内をオルフェリアは御影と共に、女神を狙って奪おうとしている生徒を探し歩く。
「あ、オルフェのロケットは女神のロケットでしたー。夕夜ちゃんは何でしたか?」
「にゃーも女神のロケットだよー♪」
「同じロケットですねー♪おそろいなのです♪素敵なのです♪」
「ご主人とおそろいおそろい♪」
 1階での恐ろしい状況を忘れたのか、2人はぽわぽわと浮かれている。
「じゃあ2人で協力して他の人にお願いして、ロケットをどうするか相談しにいきましょうか!」
「んにゃ?お願いしに行くにゃー!」
「くんくん。近くに誰かいるですっ」
 白猫の耳と尾を生やしたオルフェリアが超感覚の嗅覚で生徒の匂いを察知した。
「そこに隠れていないで出てきてください。オルフェたちはペンダントを奪ったり危害を加えませんですよ!」
「―・・・オルフェりん?」
 柱の後ろに隠れている風華がひょこっと顔を出す。
「良かった、風の知っている人で・・・。皆殺気立ってて怖いよー・・・」
「オルフェたちと一緒に行動しませんか」
「一緒に?」
「はい♪協力してロケットを狙う人たちを何とか説得してやめさせましょう!」
「うぅっ・・・」
「ど、どうしたのにゃ!?」
 突然泣き出した風華に、黒猫の御影が驚きおろおろとする。
「風ね風ね、体が弱いお母さんの病気代稼ぎの為にここに来たの・・・お願いっ風を助けて!」
「それってまさかにゃーたちのロケットを!?」
「うん・・・」
「えっ、それは・・・。ご主人どうするにゃ・・・ってーっ!!?」
 風華の話しを聞いてぼろぼろと泣いているオルフェリアの姿に、彼女は驚愕の声を上げる。
 自分が訝しんでいるのにも関わらず、パートナーはすっかり信じ込んでいる。
「びぇえーんっ、可哀想ですー!夕夜ちゃん、オルフェたちのロケットをあげましょう!」
「は・・・ぇっ・・・えぇえ!?」
「さぁ早く、ロケットをあげるのです」
「ま、待ってご主人。冷静になって考えるにゃ!」
 御影はロケットを取ろうとするオルフェリアの手から必死に逃れようとする。
「余った分は返すし、借りたお金は働いてちゃんと返すよ。2人には迷惑かけないから願い。早く資金を集めないと風のお母さんが・・・っ」
「せめてオルフェの分だけでもあげるですっ」
「いけないご主人っ」
「これでお母さんを助けるのです♪」
 パートナーが止めるのも聞かず、オルフェリアはめそめそと泣く少女に手渡してしまう。
「ありがとうオルフェりん。―・・・」
 彼女から受け取った風華は、涙目で御影をじっと見つめる。
「き、きっと何かのトラップにゃ。にゃーは絶対・・・信じないにゃー!」
「夕夜ちゃんの人でなしっ。いえ、猫でなしぃいい!」
 風華の話しを信じきれらず、叫びながら走っていく御影の後をオルフェリアが怒りながら追いかける。
「ぐすっ・・・」
「また泣いてしまったな・・・」
 モニターから1人ぽつんと残されて床に座り込む風華を、ユーリが哀れむように見る。
「―・・・はぁ1つだけかぁ。両方奪えると思ったのにー」
 隠れて彼女たちの話しを聞いていた風華は、2人が誰とも交換していないことに気づき、奪おうと芝居したのだ。
「まぁいっか。他の人から取っちゃえばいいし♪」
 奪ったロケットを手の中で遊び、風華は廊下を進みながら黒い笑みを零す。
「(演技・・・だったのか・・・)」
 乙女とはこんなにも恐ろしいものなのかと、誤解したユーリがクリスたち女子をちらりと見る。
「あ、じんじんみっけ!」
 風華は階段を上る陣を見つけて声をかける。
「もしかして風華ちゃん?」
「そうだよー、風だよ♪」
「どうしてこんなヤバイゲームに参加しているんや」
「んー・・・なんとなくかな。(本当はいっちばんになりたいからだけどね)」
 少女は本心を隠して陣に近寄ろうとする。
「風ね、借金って何か分からないの」
「運営から最初に渡されたのが女神やと、一生働いても払えるか分からん額やね」
「えー、風そんなのいやー!だって持っているのが女神だもん。ねぇじんじん、風と一緒にいてくれない?」
「うーん・・・」
「一緒にいようよー」
 可愛らしく見上げて考え込む彼の傍による。
「だが断る!」
「そんなぁあっ」
 陣に拒否された風華は、ずびーんと青ざめる。



「くぅーっ、ウチとしたことが見失ってしまいました」
 みのりたちを逃がしてしまった真尋が悔しそうに、床をドスドスと踏み鳴らす。
「むっ、三次元男に女の子が泣かされているですよ。きっとペンダントを奪われたに違いないねぇです!泣かしてでも勝とうなんて下の下ですっ」
 めそめそと陣を追いかける風華の姿を見て、彼が少女を泣かしたと勘違いをしてカッとなった真尋がターゲットに銃口を向ける。
「このペンダントを狙ってきたようやな!」
 自分に害をなそうという気配を察知した陣が真尋の方へ振り向き、容赦なくファイアストームを放ち光の銃弾を消し炭にする。
「危ねぇじゃないですかっ」
 オフィスにある机をサイコキネシスの念力で彼に向かって投げ飛ばし炎の嵐を防ぐ。
「去れ、このマネー亡者がっ」
「しっつれいな。ウチは三次元男が勝つのが許せへんから狙っているだけです!」
「オレは誰のも奪ってないっつーの」
「だってその女の子が泣いてるじゃねぇですか」
「それは・・・一緒に行動しようって言われて、オレが断ったら泣いてしまったんや」
「三次元男の言うことなんて信じねぇですっ」
 信じられるものかと真尋が、オフィスの念力で椅子を投げつける。
「あの子は持ってないのかな?」
 ペンダントを首にかけず手にすら持っていない風華を、秋日子がじっと見つめる。
「あの三次元男に取れたから持ってねぇんですよきっと」
「だから取ってないっつのに、何度言ったら分かるんや!」
 念力で投げつけられる引き出しを避けながら陣が怒鳴る。
「女神を持ってそうな人、みーつけた♪」
 陣たちを見つけた透乃がにこっと笑う。
「風のペンダントはあげないもーん」
 ポケットから風華がちらっと見せる。
「あれ?取られてねぇんですか」
 少女の声にそれを見た真尋はきょっと目を丸くする。
「たとえ小さな女の子でも容赦しないわ、いただくわね」
 芽美は陣よりも先に風華の方が奪いやすいと、神速の速さで少女の持っているペンダントを奪いかかる。
「やだもんっ」
 借金苦なんてイヤッと風華が、サイコキネシスで転がっている机を芽美にぶん投げる。
「そんなので私は止められないわよ」
 慈悲なき荒々しい等活地獄の体術であっさり蹴り飛ばす。
「うわぁん来ないでぇえーっ」
「おわっ、何でこっちに!?」
 ズリリリィ。
 風華が陣に突撃し、2人とも床に転がり滑ってしまう。
「動いたらもっと痛い目に遭わせますよ」
 アボミネーションのおぞましい気配を発し、ターゲットが動けなくなった隙に陽子がサンダーブラストの落雷を落とす。
「これただくわね。悪く思わないでちょうたい」
 床に転がったペンダントを1つ拾い上げた芽美は、風華に見せつけて透乃に渡す。
「やったぁ♪女神だよ!」
 透乃は蓋を開けて中を確認し、嬉しそうに握り締める。
「んー・・・女の子相手じゃ、手を出す理由がねぇです」
 相手が三次元男でないと真尋は妨害しないのだ。
「そっちのも取っちゃって」
「分かったわ」
 透乃に軽く頷き芽美は、陣がポケットに入れている女神を奪おうとする。
「それもいただくわ。透乃ちゃんが秋の味覚を食べたがっているのよ」
「はぁあ!?透乃さんの食欲の満たすために、借金なんて背負ってたまるかっーつの!」
 ブチキレた陣が炎の嵐を芽美たちに放ち階段を駆け下りる。
「―・・・っ!」
 行く手を塞がれ一瞬のうちに逃げられてしまった。
「逃げられたたね。まぁいいわ、1つ確保出来たもの」
「そうだね。陽子ちゃん、これ持ってて」
 芽美が奪ったペンダントを透乃は陽子に渡し、パートナーたちと次なるターゲットを探しにいく。
 またもやぽつんと1人になった風華は、生徒たちの姿が見えなくなるまで泣き続けた。
「取られちゃったね・・・。しかも他の人からとったやつじゃなくて自分のやつみたい。あんな幼い子がもし借金なんて背負ったらどうなるんだろうね」
 観戦室で見ている綺人が心配そうに見つめる。
 少女は俯いたままニヤリと笑う。
 その姿はモニターからしっかり確認出来た。
 窮地のはずなのに笑顔を浮かべた意味を、生徒たちには後ほど知ることになる。