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獣人の集落ナイトパーティ

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獣人の集落ナイトパーティ

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第1章 それぞれの恋愛事情と怒りの狼 2

「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャン! バニー☆スリーはるホワイト参上! どんなピンチも即解決! 告白、発掘、冒険、大工! ピンチのときにはバニー☆スリーにお任せ!」
 キラン! とどこかから効果音でも聞こえてきそうな決めポーズをとって、うさ耳をぴょこぴょこと動かす少女は高らかに唱えた。
 とは言え――
「……って、言ってみたはいいけど……敵は? ピンチは? 正義を呼ぶ声は? 一体どこにあるの〜! せっかくフル装備で来たのに、無駄足ですか〜!」
 少女が嘆くのも無理はない。ピンチをかぎつけてやってきたのはいいものの、正義の味方を待ち受けていたのは実に楽しげなナイトパーティだ。そんな会場に体にフィットした白のスーツとゴーグル姿の少女がいれば、それは頭のおかしい人か、もしくはコスプレだろう。
 生憎と、先ほどの決め台詞から、周りの人には頭のおかしい人だと思われたようだ。「ママー、あれなーに?」「しっ、見ちゃいけません!」といった声が聞こえるのはきっと幻ではない。
「……いやいや、まてまて」
 周囲の視線もなんのその。少女――霧島 春美(きりしま・はるみ)はうつむけていた顔を持ち上げた。澄んだ鳶色の瞳には、決意が込められている。
「小さいことからコツコツと。正義の道も一歩から。私はヒーローであり、探偵でもあるんだ。……ピンチを無理矢理にでも探してみよう!」
 それを人はお節介と呼び、ピンチとは呼ばない。
 そんなことも露知らず、少女はまるでエジソン並みの発明でも思いついたかのよう、得意げな顔で頷いた。
「よーし、マジカルホームズいくぞー!」
 バニー☆スリーから探偵マジカルホームズへと変身した春美は、ピンチを求めてパーティ会場を練り歩き出した。

「えへへ、これすっごく美味しい〜」
「日本じゃあ馴染み深いけど、こっちじゃ珍しいのかな」
 七尾 正光(ななお・まさみつ)は、笑顔で林檎飴を食べるアリア・シュクレール(ありあ・しゅくれーる)と林檎飴の出店を見比べて、興味深そうに言った。
 林檎飴の出店は画期的な料理法だと驚く参加者たちで人気を獲得し、行列を成していた。正光の感覚から言えばお祭りでは定番の出店菓子だが、隣にいるアリアが喜んでくれるのであればそれに越したことはない。
 お互いに腕を組み合って出店を巡る二人は、目的もなく色々と見て回っているだけだが、それだけでも二人にとってはとても幸せで楽しい時間である。にこにこと笑顔を浮かべてぎゅっと腕を組んでくるアリアを見ていると、正光も気持ちが浮き立つのだった。
 辛いものだけはアリアが苦手なので避けているが、必然的に出店となると菓子系か軽い料理、マジックショーなどの催し物だけとなる。そのためか、やがて二人は自然と立食会の会場へと足を向けていた。
「す、すごい〜! おにいちゃん、アレ見て、サーカスみたいっ!」
「ホントだ。何かのイベントかな?」
 ボーイから皿を受け取った二人が見つけたのは、やはりと言うべきか……中央で肉塊を削ぎ落とす料理人だった。見事な手腕で次々と参加者に肉を配る彼の姿は、曲芸師さながらである。
 新たに自分を見つめる視線に気づいたのか、料理人は剣線を描いた。すると、正光たちの皿の上にも華麗に肉が飛びこんできた。
「ほら、おにいちゃん、すっごく美味しそう!」
「ほんと、香ばしい匂いがすごいな」
「はい、おにいちゃんアーン」
 自分の肉を食べようと思っていた正光に、アリアがフォークに刺さった肉を口もとへ差し出した。ナイフで切り分けられたそれは一口サイズになっており、つまりこれがいわゆるカップルの定番たるアレであることは容易に理解できた。
 アリアのにこにこと差し出す「アーン」に素直に応えて、正光はぱくりとそれを食べる。
「アリアに食べさせてもらうと、より美味しくなるな」
「あ、おにいちゃん」
 恥ずかしい台詞を口に出して、正光はアリアを抱き寄せた。続けて、自分の皿の肉を彼女に向けて差し出す。
「はい、お返し。ほらアリア、あーんして」
「あーん」
 アリアも正光に応えて、口をあーんと開けて肉を食べた。お互いに抱き寄せ合ってイチャつきながら、食べたり食べさしたり……もはや二人の空間に入れる者などいるはずもない。
 澄み切った綺麗な夜空を見上げて、アリアは感慨深く呟いた。
「きれいだねー」
「アリアの方が素敵だよ」
 聞く人が聞けば歯の浮くような台詞であるが、むしろそれは二人にとって当たり前のものであり、アリアにとっても心を掴まれる素晴らしい台詞なのだった。
 正光はそっと、アリアを優しく抱きしめた。
(あれは……! 奥手な少年のピンチねっ!)
 その傍を通った怪しい白い影は、二人の動向を見逃さなかった。
 二人にばれないようにそそくさと近づき、素早く少年の手の位置を変えてしまう。
「あんっ!」
 お尻を触られたアリアは、甲高い声をあげた。とは言え、そこには不快ではなく嬉しそうな響きが含まれている。
「もう、おにーちゃんのエッチ〜♪」
「ゴ、ゴメン」
「そういうのは家に帰ってから。今はキスで我慢してね?」
 慌てて謝った正光に嬉しそうな笑顔を浮かべて、アリアは彼の唇を奪った。柔らかい唇と唇が重なり合い、まるでお互いが一緒になったような感覚に陥る。甘く、そして溶けるような時間が過ぎてゆく。いつまでもこうしていたいと願いながら、二人は濃厚なキスをしばらく続けていた。
 そんな二人を見ていた霧島春美は、予想外の展開に目を見張った。
「うわぁ……なんか、すごい急展開。マジカルホームズ大活躍かも」
 二人が付き合ってるとは思っていなかったのかもしれない。こっちまで熱くなりそうなほど、ラブラブなキスをする二人。この手の光景に慣れていないのか、春美は顔を少し朱に染めたまま逃げるようにその場を退散した。