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■ 探索開始から二十五分



「この部屋も随分と埃が溜まっているな」
「そうですね」
 朝霧 垂(あさぎり・しづり)火村 加夜(ひむら・かや)の二人が開けた扉の先は食堂になっていた。一人暮らしどころか、大家族でも余りそうな長机が置かれ、椅子も十二個並んでいる。奥には暖炉が一つあり、窓の無い側の壁には騎士のヨロイが一つ飾られていた。
「お城の食堂みたいだね」
「ひっろーい、こんなところで豪華なお料理を食べてみたいな」
 続いて入ってきたライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)ミント・ノアール(みんと・のあーる)がそれぞれ感想を口にする。
「でも一人暮らしだと、広すぎるよね」
 ミントが部屋全体を見回しながら言う。
 これだけ広い食堂で、一人で食事を取るのは少し寂しい感じがする。まして、これだけ罠だらけの屋敷だと、満足に従者も雇えないだろうし。
「このヨロイ本物かな?」
 ライゼがさっそくヨロイに近づいていく。全身を金属板で覆うプレートメイルだ。随分と埃は積もっているが、戦争に使われたものではなく観賞用に作られたものだろう。一体は鎧の二倍ぐらいの長さの槍を持ち、もう一体は小さな盾と剣を持っている。
「おいおい、あんまり勝手に動き回ってまた罠にかかっても……」
 垂が注意した時にはもうライゼは鎧に触っていた。
 ライゼが触れたのは盾を持っている方だった。ライゼが触れた途端、ポロっと盾が床に落ちた。幸い誰にも当らなかったが、金属が落ちる重苦しい音が食堂に響く。もし当っていたら、痛いじゃな済まなかったかもしれない。
「落ちてきたのが剣ではなくてよかったです」
 危なそうだから、という理由で加夜は鎧から剣と槍を外した。どちらも、刃の部分は潰れているようだ。
「さて、どの辺りから見ていくか」
「暖炉なんかがいいんじゃないかな?」
 ミントがそう提案する。
「暖炉ですか。そうですね、他に調べられそうなところはありませんし」
 暖炉には一枚の絵がかけられているが、今まで見てきた部屋と同じく風景画だ。夕日によって朱く染まった草原の絵がかけられている。
「こういうお屋敷なら、肖像画があると思ったんですけど、中々みつかりませんね」
「家族の写真とかも一枚も見当たらないんだよな」
 最初の考えでは、垂はここの掃除をするつもりで居た。何年も放置されていたのである、それは掃除のやりがいがあるだろう、なんて考えていたのだが今回の探索のあとに屋敷は取り壊してしまうというのだ。かなり残念な話である。
 まぁ、確かに罠だらけの屋敷を放置しとくと危ないからなと渋々納得することにした。しかし、せっかくここまでやってきたので、中には入ってみようと考え、ついでにお宝扱いはされないであろう思い出の品なんかを回収しておこうと考えたのだ。
 加夜も同じく、報酬が目的ではなくこの屋敷の持ち主に興味を持ってやってきた。取り壊れてしまうのならば、せめて思い出の詰まっていそうなものは避難させてあげようと彼女も考えており、目的が一緒ならと協力して探索をしているのである。
「とりあえず絵を外してみるか」
 垂が絵を取り外してみるものの、絵の裏にも何もないし、外した暖炉にも何も無い。
「ねー、この暖炉使われてないみたいだよ」
 暖炉の中を見ていたミントが報告する。灰は確かに詰まっているが、中は綺麗なままで煤が全くついていない。未使用の暖炉なのは間違いないだろう。
「ここ、本当にフランクリンさんは住んでいたんですかね?」
「ちょっと怪しく思えてきたな」
 腕を組んで難しい顔をする垂。
 人が生活していれば、それなりのあとが残るものだ。もちろん、手を加えればあとを消すことはできるだろうが、結婚式に出て帰れなくなった人物がそんな事できるわけがない。
「フランクリンさんの話は嘘だったんでしょうか?」
「さーな、もう少し調べてみないと何もわからないぜ。離れもあるし、実は離れが生活スペースでこっちは丸々ブラフってのもあるだろうし」
「いっぱい罠を仕掛けてあるから、こっちじゃ大変だもんね」
 それじゃあ次の部屋に行ってみるか、と垂が辺りを見回すと一人足りない。
 ライゼの姿が見当たらないのだ。
「あれ?」
 首を傾げていると、きゅいいーん、なんてモーターが回るような音が聞こえてくる。
 音のした方を見てみると、檻に入ったライゼが檻ごと吊り上げられているところだった。
「出してー!」
 そのままゆっくりと上昇すると、天井の一歩手前で止まる。さすがに手が届きそうではない高さである。
「大丈夫ですかー!」
 加夜が声をかけると、
「大丈夫だけど、出られないよー。助けてー!」
 と、返事があった。
「おーい、そんなところに居るとパンツが丸見えだぞー!」
「そんなこといいから、とにかく助けてよー!」
「つーか、おまえなんでそんなところに居るんだよ」
「その鎧の裏にスイッチがあったからー」
「スイッチ押すなよ!」
 至極真っ当な突っ込みである。
「だってー、絶対押すなって書かれてたんだもん!」
 押すなよ、とはつまり押してくれという意味である。
「それなら仕方ないか」
「仕方なくないですよ、助けないと」
「でも結構遠いよ。どうやって助けるの?」
「私、光る箒を持ってますよ」
「俺も同じの持ってるぜ。じゃあ、問題は鉄格子だな。おーい、ライゼー、その鉄格子の間をすり抜けられるかー?」
「無理ー!」
「そうか、なら仕方ない。痩せろー」
「そんなの無理ー!」
「垂さんもしかして、遊んでません?」
「いやいや、まさかー、全然っ、そんな事ないぜ?」
 なんて言いながら、垂はにやにやと笑っていて全く説得力が無かった。

 結局ライゼが助け出されたのは、それから十分ぐらい経ってからだった。



「本当に、本当にそんなの気に入ったの?」
「当たり前だろ。これ、ルベールシリーズの短刀だぜ? 暗殺用武器として幻のシリーズと言われた代物で、デザインも切れ味も一級品なんだぞ」
「そ、そう……なら、別にいいけどね」
 偶然手に入れた短刀を持って蒼灯 鴉(そうひ・からす)はだいぶテンションがあがっていた。彼曰く、その短刀はとても貴重な品なのだそうだ。
 一方、オルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)は何度もその短刀について茶々を入れていた。彼女には思うところがあるようなのだが、鴉は全くその辺りには気づいていないようだった。
「あんまり余所見してると、危ないよー」
 一歩前を進む師王 アスカ(しおう・あすか)がそう注意を入れる。
 既に大半の探索チームは中に足を踏み入れている状態なので、まだ入り口近くに居る彼女達は新規の罠はほとんど作動済みである程度は安全と言える状態になっていた。
 そのぶん、目ぼしいものは持っていかれているだろうが、偶然でレアものの短刀を見つけたし、アスカの興味があるものは絵画で勢いよく乗り込んでいった人たちにとっては運びづらくて二の次になっていたのでまだだいぶ残っていた。
「それにしても、びっくりするぐらい人物画がないのよねぇ」
 見つかる絵は風景画ばかり。そういう趣味だった、という話なのかもしれないが、趣味とすると稚拙な絵が多い。案外、飾ってある絵はフランクリンが自ら描いたもので、絵を買ってはいなかったのかもしれない。
「怖かったんじゃない? これだけ罠を仕掛ける人だもの」
「つまりどういう事だよ?」
「人が怖いから、人の絵を置かなかったんじゃないって言ってるのよ」
「ああ、そういう事か」
「でも、結婚してお孫さんもいて、結婚式に参加するような人なのよねぇ」
 そこまで徹底して人嫌いなら、孫の結婚式になんて参加しようとしないだろう。やはりただの趣味で、自ら筆を握っていたのだろうか。しかし、決して下手ではないが、風景画にあるはずの躍動感というか情緒というか、そいうものが感じられない。単に解像度の低い写真といった感じだ。
 絵の技法は確かにあるらしいが、描きたくて描いたというわけではないのだろうか。
「あ、そこの部屋開いてるわよ」
 扉が開けっ放しの部屋を見付けて、三人は入ってみることにした。
「書斎か、随分と難しい本が好きだったんだな」
 並んでいる本を手に取りながら、鴉がぼやく。随分と古い文字の本や、みみずが這い蹲ったような文字で書かれた本もある。後者は下手なのではなく、速記用の文字を用いているようだが、解き方がわからないと暗号と大差は無い。
「でも、取り留めない感じよ。魔法の本もあれば法律の本もあるし、詩の本もあるし」
 オルベールは見た目の年齢よりもずっと長く生きているため、古い文字を見ても全く苦にしていないようだ。
「単に本好きだったんじゃないか」
「どうだろ?」
「あ、二人ともちょっといーい? この下の引き出し、まだ開けてないみたいなんだけど」
 アスカに声をかけられて、二人は机の引き出しを調べてみた。簡単な鍵がかかっているだけだったので、開錠は難しいものではなかった。
「あらー、今度はパズルね」
「面白そうじゃない、ちょっとやらせてよ」
 オルベールが率先してパズルに挑戦してみた。スライドパズルだが、一切絵がかかれおらず、白い紙のような状態のものだが触ってみると僅かに凹凸があるのが確認できる。
「これ、このでこぼこで絵が書いてあるってことか」
「完成図がわからないわねぇ」
「ふふん、その挑戦受けてあげるわよ」
 ヒントはほぼゼロ。見えない線がどう繋がるかわからないパズルなので、さすがに大苦戦する羽目になってしまったが、それでもなんとかつなぎ目を見付けていって一つずつ組み合わせを作っていった。
 かれこれ三十分以上はかかったものの、オルベールはそのパズルを完成してみせた。
「ふふん♪ なかなかの強敵だったけど、ベルの敵ではなかったわね」
 敵ではなかった、なんて言ってはいるが彼女の表情は満足そうである。
 パズルが完成すると、蓋の役割をしていたパズルがはずれて引き出しの中身が姿を現した。
「これって、ブローチと、手帳?」
 アスカは中にあった二つだけのアイテムを取り出して机の上に置いた。
「こんなに大事に入れてるんだし、日記かなにかじゃないか。ブローチもいいもんだろ、たぶん」
「この赤い宝石は、ルビーかしら?」
「え、青よね?」
「いや、緑だろ」
 三人が三人とも違う色を言う。どうやら、角度によって見える色が全然違っているようだ。
「なんか不思議な宝石ね〜」
「これは本当に価値があるかもな。こっちの手帳の中に何か書いてあるかもしれないぞ」
「あんまり人の日記を読むのは気がすすまないけど、少しだけ、ね」
 ぱらぱらと手帳をめくってみる。
 どうやら、日記ではなくメモ帳として使われていたようだ。人と会う約束だったり、メモ書きだったりがされている。ほとんどは予定を覚えておくために使われており、他人が読んでもあまり意味のないもののようだ。
「お、ここだけちょっと文章が書いてあるぞ」
 最後の方のページに、三行ぐらいの文章が書いてあった。
「なになに………生を明確に定義できない限り、これ以上意味はない。だってさ」
「なにこれ? 哲学?」
「さぁ〜、でもわざわざ書いてあるんだから、フランクリンさんにはすごく大事な事なんじゃない?」
 結局意味はわからないが、とりあえず手帳とブローチは回収していくことにした。
「まだまだ荷物に余裕はあるし、もう少し探索してみるか」