First Previous |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
Next Last
リアクション
狙撃されるより前に、朔は地に手榴弾を投げつけた。破裂の後には煙だけが発生する仕組みの物だが、同時に『煙幕ファンデーション』も混ぜていたために、煙は爆ぜると同時に一瞬で辺りに広がっていった。
「ティセラはここで待ってて」
芦原 郁乃(あはら・いくの)は『はりせん』を手に、
「ダメだからね! もう、その剣でズバンはダメだからね!」
とだけ言い残して、煙幕に包まれた戦場に飛び込んでいった。ティセラが戦場を見下ろして見れば、既に多点でサバゲーが再開されていた。
「ってオイ、ちょっと待て自分等」
七刀 切(しちとう・きり)が『アンデッド』を殴りつけるを再開させた直後に、パッフェルコスの宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)と郁乃が襲い掛かかった。
「2対1って。わいでも流石に……」
2人に加えて『アンデッド』も居る。「てぇ〜いっ!!」と郁乃の『はりせん』がヒットした所で切の戦意は滅して消えた。
切がギブアップと言うまで郁乃は『はりせん』を打ち続けるという鬼ぶりを見せたが、彼女曰くこれはツッコミだったようで。さんざん叩かれた後に彼はようやく『脱退』したのだった。
「ようし、それじゃあ」
切が倒れたのを見て、葉月 エリィ(はづき・えりぃ)は視線をパッフェルへと向けた。
「ゾンビを操ってるだけじゃあ、訓練にならないからなっ」
『黒檀の砂時計』を逆さにして、『琴音の耳』と『琴音のしっぽ』を身につける。2丁の『量産型パワーランチャー』を装して準備完了。
「さぁ、あたしとも遊んでおくれ、よっ!」
飛び出してすぐに銃口をパッフェルに向けた。少しに距離はあるのに彼女はそれに気付いて、即座にモデルガンで撃ってきた。
「待ってましたっ!!」
膝を折って身を縮め、2丁の『量産型パワーランチャー』を並べて盾にした。パッフェルがモデルガンの銃身で弾を防ぐのを見て学んだ方法だったが、パワーランチャーの大きな銃身が見事に彼女の弾を防いでくれた。
「よぉし大成功! イケるね」
その様にパッフェルが気を取られた一瞬に、朔は彼女の右半身側に飛び出した。
眼帯をしている分、反応が遅れた。それでも察して銃を向けようとしたが、朔はそれより先に手榴弾を投げつけた。
パッフェルは後方へ跳び退きながらに手榴弾を撃ち抜くと、超人的な速度で銃口を朔へと向けた。
「1ショット1キル」
この一瞬を待っていた。天司 御空(あまつかさ・みそら)は眼を鷹の如くに鋭けると、『シャープシューター』でパッフェルの銃身を狙い撃った。
銃向が逸れて弾が宙を過ぎる。パッフェルが次銃を生かすより前に、彼女の喉元に『木刀』が突きつけられた。
「詰みだ、パッフェル」
朔が口端を上げて言った。パッフェルは肩から力を抜いて、静かに両手を上げてみせた。
唯斗と牙竜が詩穂を地面に組み押さえている。
七緒とローダリアも、一とクドに銃口を突き付けられている。パッフェルを含めた乙陣営の面々は揃って『脱退』直前の状態に追い込まれていた。
「どうやら、全滅、のようですわね」
「……ティセラ」
歩み寄るティセラを、パッフェルはキッと睨みつけた。このゲーム、たしかに乙陣営の敗北、パッフェルは敗れた、しかし。
―――ティセラが邪魔した。
ティセラや、彼女と共に参加した生徒たちはサバゲーのルールに則って戦っていた。敗れた事は仕方がない、しかし、ティセラが現れて力を振るった事で戦場が壊れた事は間違いない。
明らかな見た目だけではなく、サバゲーが持つ独特の戦場感を台無しにされたことが何よりも悔しく、また恨めしかった。
「あれ? もしかして、終わっちまったのか?」
呂布 奉先(りょふ・ほうせん)が戦場を見回して現れた。遅れに遅れての合流となったが、彼女はその理由をティセラに話した。
「うちのが今、王国の代王に根回ししてる。ザンスカール家にはフレデリカってのが交渉してる。どちらも上手くいきそうなんで、伝えにきてやったんだ」
「代王? 理子様の事ですの?」
「あぁ、そうだ」
「えっ、でも理子には、あたしが連絡しといたよ」
セイニィが言ったが、奉先は溜息混じりに返した。
「外出許可を取っただけだろ? それじゃあ足りないんだよ、いろいろとな」
「えぇっ! そうなのっ?」
『パッフェルが保管するモデルガンコレクションの中に、明日の要人警護で携帯する予定の実銃が紛れているようで、彼女が一人で取りに向かってしまった。夜の森は危険なのでティセラとセイニィが迎えに行く』というものだった。学園と森を往復するのに何時間かかっている! と言われただけで崩落してしまうほどに穴だらけな言い訳だった。
「やっと見つけた」
霧雪 六花(きりゆき・りっか)は軽々と木々間を跳びて、宙でくるりと回転してから着地した。場所的に奉先に跪くような形になった事に気付いて六花は慌てて立ち上がると、ティセラに向き直って『理子とザンスカール家への根回しが成功した』事を伝えた。
「そうですか。ありがとうございます。根回しに当たってくださった方には、ぜひお礼を申し上げたいですわ」
「シャーロットもフレデリカという方も、こちらに向かっているわ。それよりも、報告内容に追加があるの」
「追加?」
理子とザンスカール家には、フレデリカが属する『ミルティルテイン騎士団』の夜間軍事演習を行うと申請していた。実銃を取りに来たパッフェルたちとは偶然に出会い、訓練の質を上げる為にも参加して欲しいと申し出た、とした。演習後には東西間での交流も兼ねた「立食パーティ」を行う事も予定していた為、多くの学校の生徒にも参加を呼びかけていたのだとも。
「そういう事だから全員、立食パーティにも参加して欲しいの」
「そういう事なら」
ここで言ったのは館山 文治(たてやま・ぶんじ)だった。どこから取り出したのか、彼はスポーツドリンクやら温かいお茶やらを紙コップに注いで皆に配り始めた。
「移動する前に、まずは水分補給だ。サバゲーはかなり水分を消費するからな」
実戦さながらのゲームの直後に立食パーティとは、とんでもない落差だったが、文治の茶やドリンクが張りつめた緊張感をゆっくりと無理なく解いていった。
パッフェルは最後まで表情を殺したままに、サバゲーの終了の合図である花火と狼煙をあげた。
ティセラの乱入という予定外の出来事はあったものの、甲陣営の勝利という結果と共に参加者たちは『モデルガンツリー』を目指して移動を開始した。
ツリーには『脱退』した者たちが集まっているはずだ。東西間での交流も兼ねた「立食パーティ」はもうすぐに始まろうとしていた。
パッフェルを含む面々を『殲滅』させた事により、今回のサバゲーは甲陣営の勝利。これが結果のはずだった。
15分前の出来事がなかったならば…………。
First Previous |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
Next Last