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ぶーとれぐ 愚者の花嫁

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ぶーとれぐ 愚者の花嫁
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第十三章 号泣する準備はできた?

この舞台と言う名の戦場で、先陣を切り、貴族と戦えるのは貴方一人です。

当たり前じゃないか。俺のこと誰だと思ってるの? クリストファー・モーガン(オペラハウス)


セリーヌと一緒に男爵の屋敷に行った後、今度はニトロに会いにダウンタウンにきたんだ。
俺らがくる少し前まで、ニトロで桃太郎がストリートライブをしてたんだって。人気ミュージシャンの飛び入りもあったりして、盛り上がったみたいだね。
歌なら俺もちょっとした自信があるし、なんなら、参加してもよかったな。
ニトロが騒いでるっていう高級婦館「後宮」に俺たちもお邪魔してみた。
「後宮」の新女将が豪気な人で、今日は自分の就任祝いってことで、タダでご馳走をふるまってくれてるんだ。
ようするに立食形式のパーティだね。
誰でも参加OKの大宴会の真最中さ。
その、新女将っていうのが、

「あらー。あんたたちともなにかと縁があるわね。
今日から女将になった雷霆リナリエッタよ。
男爵に任されちゃってね。
なんなら、ママって呼んでもいいわ。はっははは」

ド派手な着物で、化粧も濃かったけど、間違いなくリナリエッタだった。
何度か一緒に冒険したことのある子なんで、びっくりしたよ。
彼女のパートナーとは、俺は、ちょっとだけ遊んだ経験があるんだ。

「おう。セリーヌ。
今日は、こんな感じだから、晩飯いらねぇぞ。
ルディもここに呼んでこいよ」

「はあーい。
ニトロの二番目の弟のネクター山田桃太郎だよ。
よろしくう。
ピース」

「ニトロさんに気に入られちゃった。新人の九条ジェライザ・ローズでぇーす。
まだ、お客はとってないのよ。
オホホホホ」

長い黒髪の娼婦を引き連れて、パンツ一丁でニトロと山田は盛り上がってる。
会場には、たぶん数百人は人がいるから、そこかしこで小さな集まりができて、それぞれ騒いでる感じ。

「なにか飲み物でももらおうか?
昼から、さっき、俺があげたシガレットチョコくらいしか食べてないよね」

「ありがと。
こんなにお料理があると持って明日のおかずにしたくなるよね。
タッパくれないかな」

「リナなら頼めばくれる気もするね。
別料金かな」

会場についたら、クドが他の女の子のところへ行っちゃったんで、フリーになったセリーヌと話でもしようと思ったのに、タッパを求めてどこかへ消えたよ。
彼女は、あの年でほとんど主婦だよね。
クリスティーも適当に歩いてるみたいだし、俺も誰か知り合いでもいるかな。

「こんなところいちゃダメだ」

誰かが怒鳴ってる。
パーティには、ふさわしくない声だね。
ふうーん。
ちょっと、のぞいてみるか。
男の子とドラゴニュートと、ウェデイングドレスの女の子と片メガネの少年と、あと、すごく殺気をたぎらせてる少年。

「なにみてるにゃー。
御影と遊ばないかにゃ」

「うわっ」

いきなり俺に、女の子が抱きついてきた。
黒のネコ耳の和服の女の子だ。

「ちょっと、いきなりはやめてよ。
きみは、あの子たちの仲間かい」

「御影はセルマを大好きだけど、セルマはいまは機嫌悪いにゃ。遊んでくれないにゃー」

「セルマって誰?」

「あっちの男の子がセルマ・アリスで、竜のウィルメルド・リシュリーにゃ。
こっちが、御影のご主人のオルフェリア・クインレイナーと、サーのミリオン・アインカノックと、おかんの『ブラックボックス』 アンノーンにゃー」

「すごいな」

「なにがすごいにゃ」

「きみがちゃんと、たくさの人のフルネームをおぼえていること」

「御影をバカにしたにゃー」

俺が黒猫少女にぽかぽか叩かれている間も、セルマとオルフェリアの痴話喧嘩は続いていた。

「オルフェがここにいるのは、男爵のところへ愛について聞きにいったら、リナリエッタさんにそれなら私が教えてあげる、と言われて、それでついてきたんです。
男爵も、リナさんと一緒に働けば、わかるかもと言ってましたよ」

「ダメだよ。それは。
俺が男爵のところへ行ったら、もう、彼は留守だったけど、使用人の人たちから、リナリエッタとオルフェが男爵の娼館で働くことになったってきいて、それで。
俺は、オルフェを」

女の方はぼーっとしてて、自分のしてることがよくわかってないみたいだね。
男の方は、かなり真剣に悩みこむタイプだ。

「まだ、ここにきてパーティをしているだけで売り出し前なのです。
リナさんから、オルフェにはこれが似合うと言われて、ウェデイングドレスを着せられちゃいました。
似合いますか?
セルマさんは、オルフェを買いたくなりましたか」

「違うよ。オルフェは、わかってない。
なんで、ミリオンはとめないんだ。こういう時は、強引にでもとめてあげるべきじゃないのか。
オルフェは、こんなことして、愛の意味はみえたのかい」

「リナさんからのアドバイスで、同じ人と何度もだと体はしょせんあきられるから、テクニックよりも、オルフェはこのキャラを生かして愛されろと言われました。
やはり、人間は心が大事ということでしょうか」

あながち間違ったことは言ってないよね。
行為だけじゃ動物と同じだし。

「オルフェが愛の意味をきくと男爵はこう言いました。
たしかに私は、ことがすんだらセリーヌを娼館に送るかもしれない。
でも、それは私にとっては愛の形だ。
きみにはわかるまい。
オルフェには男爵の言葉の意味がわかりませんでした。ですので」

「きみは、ここがどんなところか、わかっているのかい」

「ええ。けれども、男爵とテレーズさんの愛は、オルフェの知らない形かもしれません。
やっぱり、経験してみないとわかりませんから」

しかし、ここでの経験に反対する彼氏の気持ちも俺はわかるな。
オルフェのまわりの人の表情をみてると、パートナーもみんな、彼女の行動に賛成はしていないようだし、俺は、セルマの助太刀をするとしようかな。

「にゃー。御影をおんぶしたまま急に動くな。危ないにゃー」

「俺は、きみのご主人を買うよ」

「ほんとかにゃー。サーに殺されるにゃ」

俺はセルマとオルフェに間にわりこんで、オルフェの肩に手をまわした。

「ごめん。
話は聞かせてもらった。
俺は、薔薇の学舎のクリストファー・モーガン。
いきなりで悪いんだけど、俺、オルフェを買うよ。
こんなかわいい花嫁さんの一番になれるだなんて、幸運だな」

「買ってくださるんですか」

「一度めで相性がよければ、身請けしてもいいな。
オルフェは、一生、俺のものになるんだ」

「それは、クリストファーさんの愛なんですか」

オルフェは、ふわふわしてるんだけど、セルマも、ミリオンも、アンノーンも、竜くんまで、視線で俺を殺さんばかりににらんでる。
とんだ悪役だよね。

「きみの値段は、いくらなの」
「オルフェは、おぼこなので、最初は、お客様の言い値で売っていいとリナさんに言われました」

「きみ、それ、意味わかってる」

「よくわかりません。
どうしたらいいですか」

「まあ、いいや。
じゃ、そういうことで。セルマ。こいつは、俺のオルフェだから、もう、話しかけないでね。頼んだよ」

と、俺が言い終わらないうちに、

「ふざけるなっ。そんなの許さないぞ。だったら、だったら、俺が買う。
オルフェも、ミリオンも、アンノーンも、御影もみんな俺のところへこい。
俺は、目の前にいる大切な人を守れないのは、いやなんだ」

会場中に響く大声でセルマに怒鳴られちゃった。
セルマは、耳まで赤くなってるよ。

「しょうがないな。
オルフェは、俺とセルマのどっちがいいの」

「オルフェは・・・」

「御影はセルマだにゃ。決まり、きーまり、きーまりにゃ」

御影は今度はセルマの背中に抱きついた。
どーぞ。どーぞ。

「クリストファーさん、ごめんなさい。
せっかく買うと言っていただけたのに、オルフェは、どちらかと言われればセルマさんに買われたいです」

俺がみてきた中で、はじめてオルフェが照れた感じになった。

「じゃ、きみら、相思相愛なんだし、手に手をとってこっから、逃げた方がいいんじゃないかな。
オルフェが正式にデビューさせられる前に、いますぐにでも」

俺の言葉を確認するように、二人は、見つめあい、頷きあって、手をつないで駆けだした。

「クリストファー様。ありがとうございます」

「花嫁強奪か。古い映画のラストのようだな。
とにかく、助かったのだ」

ミリオンとアンノーンは、俺に短く礼を言って、そして、連中は全員、会場から走り去っていった。

「汝の隣人を愛せよ。ってね。これが、愛じゃないの」

俺のつぶやきは、誰の耳にも届かない。



「みなさーん。
こっちをむいてくれる。
たったいま、百合園女学院推理研究会のブリジット・パウエルから招待状が届いたわ。
男爵とテレーズの結婚式が行われるそうよ。
日時は今夜これから、廃墟のロンドン塔のホワイトタワー跡地で。
どなたでも参加OKですって。
よろしかったら二次会代わりにみんなで雪崩れこまなあい?」

マイクを通したリナリェッタの言葉に、会場から拍手と歓声と罵声が飛んだ。



当然ですが今夜、午前零時に、私の旧友のテレーズと彼女の婚約者のアンベール男爵の結婚式を行うことになりました。
場所は、マジェスティックの深夜の結婚式と言えばここ。
ロンドン塔のホワイトタワーです。
なお、現在、タワーには屋根がありませんので、雨天の傘、コートの用意は各自お願いいたします。
雨天決行です。
なにがあっても中止はありません。
必ずやります。
基本的には、内輪だけの小さな式ですが、二人をお祝いしてあげたいという方は、どなたでも大歓迎です。
みんなで二人の門出をお祝いしましょう。
なお、式を司るのは、地球から招いたP・ブラック司祭です。(メロンとは関係ありません)
それでは、会場でお待ちしております。

百合園女学院推理研究会 代表 ブリジット・パウエル)


もうすぐ、式がはじまる。