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ハートキャッチ大作戦!

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ハートキャッチ大作戦!

リアクション

 
蒼空学園の廊下では悪魔でセイバーのオルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)と精霊でドルイドのノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が窓辺に寄り添うように立ち、校庭で繰り広げられる生徒達のトライ&エラーを楽しそうに眺めていた。

「あ、またジャンケンしてる! オルベールちゃん、どっちが勝つと思う?」

「白い方が勝つわ」

「……うわー!? 本当だ! 凄いね、さっきから連続で正解しているよ」

「当然よ! こう見えて男女間の恋愛は800年見てきているんだもの」

「凄いねー、ワタシも……えーと、結構いい歳してたハズなんだけど」

「ノーンちゃん? どこからどう見ても二桁も生きてないじゃない?」

「違うもん」

 楽しそうに会話する二人だが、その頭にはイベントの参加者である事を示すヘルメットがあった。

 ノーンは片手に持っていたペロペロキャンディーの最後を口に入れ、じっくりと味わい、それを見ていたオルベールが言う。

「いい、知らない人から物を貰ったら駄目なのよ? 特に可愛い女の子は」

「でもさっきのピンク髪のおにーさんは、いい人だったよ? 物を貰ったら礼を言いなさいっておにーちゃんから言われたんだもん」

 数刻前、ピンクモヒカンの男に声をかけられたノーンをオルベールが救出した事が二人の出会いであった。ちなみにそのモヒカンの男は、「もうちっとデカくなったら相手してやるぜ、がはは!」と言い、ノーンにペロペロキャンディーを与えて去っていった。

「あの風貌でいい人か……というか、お兄さんがいるの?」

「うん、今ね、環菜おねーちゃんを救うためにおでかけしているの。いつ戻ってくるかわからないんだ」

 急にシュンとなるノーンに慌てるオルベール。

「ご、ごめんなさい。聞いちゃいけない事だった?」

「ううん。だからワタシ、このイベントに参加してお友達を作ろうと思ったの。ほら、いつまでもおにーちゃんに甘えていちゃ駄目でしょ?」

「まぁ……歳の割にしっかりした子! オルベールの妹にも見習って欲しいものだわ」

「オルベールちゃんも姉妹なの?」

 ノーンに聞かれたオルベールは遠い目をする。

「どうしたの? オルベールちゃん?」

「いえ、何でもないわ、今どこで何をしているのかと、ふと思っただけ。オルベールがいないと何も出来ない子だから……」

 頬に手を当てたオルベールが悩ましげに溜息をつく。

「アスカ、落ち着け! アレも愛情表現の一つだ!!」

 ふと、背後から何か声が聞こえた気がしてノーンが振り返る。
しかし廊下には誰も居らず、曲がり角のところで何かが暴れたような気配だけが残っていた。

「それで、ノーンちゃんのお兄さんは一体どこにいるの? こんな可愛い子を放っておくなんて。オルベールが一回ビシっと言ってあげるわよ?」

「えーとね、じゃあ……」

 ノーンがポケットから携帯電話を取り出す。

「電波が入るとこにいればいいんだけど」

ーートゥゥルルル……ルルル……ガチャ

「あ、もしもしおにーちゃん!」

「ノーン? どうかしました?」

「えっとね、何かビシっと言いたい事があるって……」

 ノーンの電話口にノイズのような音が鳴り、思わず彼女は携帯電話を遠ざける。

「くっ……今、少し立て込んでいるんです。後では駄目でしょうか……何っ、こいつぅっ!!」

 何かを銃撃するパンパンッと乾いた音が携帯から響く。

「デスプルーフリングを付けているんだ、そう簡単に殺られてたまるか!」

 携帯から聞こえる緊迫した様子にオルベールがノーンを見て、

「どうも相当マズい時に電話をかけてしまったようね……貴方、聞こえる? 私はオルベールよ」

「……どうも、俺は影野 陽太(かげの・ようた)です。ノーンがお世話になってます」

「ええ、何か大変そうなんだけれど、大丈夫?」

「あまり大丈夫とも言えませんね……チィ、こっちに来るのか!?」

 電話から聞こえる陽太の声に焦りがこもる。

「忙しいみたいだからもう切るけど……ちゃんと帰ってきなさいよ。陽太の帰りを待つ人、いるんだからね!?」

「おにーちゃん、待ってるよー!」

 オルベールとノーンが電話の受話器に向かってそれぞれ声をかける。

「……ええ、必ず戻ります。それまで、オルベールさん、ノーンをよろし……ガガッ……ツー、ツー」

「……切れちゃった」

「そうね。オルベールもノーンちゃんを任されるとは思わなかったけど」

「任されてくれるの?」

「勿論! もうイベントなんてどうでもいいわ。こうして友達を見つけられたんだもの!」

 にっこりと笑って互いの手を取るオルベールとノーンの様子を廊下の曲がり角から顔を出して観察していたマホロバ人でビーストマスターの蒼灯 鴉(そうひ・からす)が安堵の表情を見せる。

「ふぅ、よくわからんが何か上手く収まったな」

「……ちょっと?」

「アスカも見つけたと思ったら何一人でぶつぶつ独り言言ってんだ……? 変な奴だな」

「……あのね?」

「全く、今回のイベントはオルベールの付き添いとしての参加だったんだろう? 俺はてっきりどこかでまた絵を描いているものと思ってたが、よもや乱入しかかるとは……止めてやった事を感謝されたいものだぜ?」

「いつまでドコ触ってるかわかる? 鴉?」

「ん?」

 鴉を頬を赤く染めたモンクの師王 アスカ(しおう・あすか)が涙目で見る。

 背後からアスカを止めていた鴉の回した腕が丁度、アスカの胸を鷲掴みしていた。

「……ふ、俺としたことが……」

 まるでエスコートしてきた女性から腕を離すように軽やかに離れる鴉。

「び、びっくりしたじゃなーい! このぉ……」

 腕を振り上げるアスカだが、ふと自分のすぐ近くにある鴉の整った顔が視界一杯に広がっている事に気が付き、腕を止める。

「どうした? 罰なら受けるぜ?」

「あ……うぅ……」

 アスカが言葉を紡ごうにも何を伝えればいいか分からず混乱していると、鴉がその頬に手を添える。

「焦んな、急がなくていい。それに、言っただろ? 全力で落とすって……」

 その言葉に更に赤くなるアスカの顔を見て、笑いながら残った手で鴉がアスカを抱き込む。

「嫌なら殴れよ?」

 そう言い、軽く触れる程度のキスをする。
「(何やってんだろ、鴉だって本当は知りたい筈なのに……)」
 
いつもは粗暴な鴉の大人の一面に、なすがままになってしまうアスカ。そっと閉じた目は彼女の少女っぽさを表しているのだろうか?


「ねー、オルベールちゃん、この人達は何やっているのかなぁ?」

「「はっ!?」」

 アスカと鴉が見ると、オルベールとノーンが二人をじっと見ていた。

「あ……いや、これは……」

「アスカ……お姉ちゃんに黙って何やっているのかしら?」

 ニコリと笑うオルベールだが、その目は笑っていない。

「どこから、見てた?」

「「全部」」

 即答した二人に、真っ赤な顔から湯気を出したアスカが全力で逃走し階段を駆け下りていく。

「もしかして私達が邪魔した?」

「いや……俺は、アスカに拒まれなかった事が純粋に嬉しかっただけだ」

 そう二人に笑った鴉がゆっくりとした足取りでアスカの後を追い始める。

 そして遠くで様子を見つめていたエミンは、楽しそうに会話しながら廊下を歩いて行くノーンとオルベールを見送りながら、審判の腕章をポケットから出して腕に装着するのであった。





 蒼空学園のとある教室内ではニンジャの如月 正悟(きさらぎ・しょうご)と剣の花嫁でメイガスのベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が二人っきりで散らかった教室の掃除をしていた。

 ゴミ箱にゴミを入れ、落ちたハリセンを持ち上げた正悟がベアトリーチェに笑いかける。

「何か大変だったな、ベアトリーチェさん」

「そうですね。皆さん大ハッスルされてましたから」

「そんな中、勝ち残った君は凄いよ」

 ベアトリーチェが正悟の言葉に顔を曇らす。

「ええ……その、どうしても私が恥ずかしがり屋ですから……ちゃんとお答えできなくて、結局数名の方を退場に追い込んでしまいまして」

「俺は今回、自分からは手を出さないって決めていたから……もし、手を出してたら危なかったのかもな」

「……それは、私に?」

「そのドレス、凄く似合ってるもの。群がられたのもわかるよ」

 ベアトリーチェは美羽に見立ててもらった自身のドレスを見る。

「似あってますでしょうか? その、よくわからないもので」

「ああ、とっても。清楚な姿とメガネっ子ってのは効果絶大だよ」

「正悟さんは、今回どうして?」

「俺? いや、最初は「リア充シネー」ってハリセン振り回そうと思ったけど……なんかこういうイベントは楽しんだもの勝ちだしなーってね」

「楽しんだ者……そうですね」

 ベアトリーチェはにっこりと正悟に笑う。

「どうだい? せっかくなんでよかったら後でどっか遊びにいかないか?」

「え? 私と……?」

「いや、良ければでいいんだ。ああ、別にカップルになってくれなんて言ってないからな! 友達だよ、友達として」

 黒いショートの髪を揺らした優しそうな目つきの正悟に微笑まれて、頬がサッと赤くなり
思わず咄嗟に顔を背けるベアトリーチェ。

 そもそも真面目な性格のベアトリーチェは今回のような軽いノリの企画に気乗りはしなかったのだが、自身の友達の少なさは少々気にしていた。

 原因は彼女のパートナーでセイバーの小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)にもある。美羽はベアトリーチェとは正反対の活発な性格であったため、彼女に今回のイベントの参加を促されたのであった。

 引っ込み思案な性格が災いして、彼氏どころか男性の友達がほとんどいないベアトリーチェの交友関係の狭さを心配するパートナーというのも、ある意味ではプレッシャーになるのだが、その予想通りやさしくて真面目でスタイル抜群で同性の美羽から見ても魅力的だと思う程のベアトリーチェは、教室での生徒達の小さなパーティーでも一番人気であった。

 しかし、誰に対しても丁寧に応答するため、妙な勘違いをする男子生徒が続出、次々と彼女に突撃……撃沈を繰り返し、誰が呼んだか『鉄の女』という陰口の完成まで左程の時間はかからなかった。

 そして肝心の美羽は「しっかり頑張ってね、ベアトリーチェ!」という言葉を残し、どこかへと立ち去っていた。

 いつも背中を押してくれた美羽はいない……ベアトリーチェは17年程の人生の中で最大の勇気を振り絞る時を迎えていた。

「よ……」

「え?」

「あ、あの……よろしくお願いします」

 言葉を言い終えた後、ベアトリーチェはギュッと目を瞑り、正悟の答えを待った。
二人だけの教室に外から風が吹き込み、窓のカーテンが大きく膨らむ。

「うん、どこかでお茶でもしようよ、俺、喉乾いちゃってさ」

「え……は、はい!」

 顔を上げてパッと笑うベアトリーチェに正悟も顔に赤みがさすのを感じた。

 二人は照れ隠しのように、ほんの少しだけ距離を開けて、教室を出て行くのであった。

 二人が出て行った教室では、奥の掃除用具のロッカーがギィィとゆっくり開いていく。
中にいたのは美羽であった。

「うふふふ、大成功だよ、ベアトリーチェ!! こうして私もちょっと臭いロッカーに隠れて見守っていたかいがあったよ! まぁ、まずは友達からだよね! うん! 基本基本!」

 腰に手を当てて満足そうに頷く美羽。

「あとは……後夜祭でダンスミュージックをかけて、参加者が男女ペアで踊るようにして、ついでにベアトリーチェが逃げ出さないように後ろから背中を押して……と、うん! 完璧よ!」

「……アレ? でもベアトリーチェが彼氏作ったとして、私には今恋人がいない……ひょっとしてマズい?」

 美羽だけ残った教室を再び風が吹きぬけた。