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モンスターの婚活!?

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モンスターの婚活!?
モンスターの婚活!? モンスターの婚活!?

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第6章 戦闘・防衛・そして……?

 ハルピュイアたちへの説得、および捕まっていた者たちの状態確認も終わりそうという頃だった。
 広場から遠く離れた場所から特徴的な掛け声が聞こえてきた。パラ実生ならおなじみの「ヒャッハー」である。
「いよいよお出まし、か……」
 左之助と別れた真は、パラ実生とハルピュイアを引き離す手段を考える。ハルピュイアを守るために戦おうとする学生は多い。だが万が一その防衛線を突破されパラ実生がハルピュイアたちに肉薄でもすれば、守りきれるかどうか分からなくなる。
 学生たちが安心して戦えるようにするには、まずハルピュイアたちにうまく避難してもらう必要があった。幸いにして左之助とその近くにいたハルピュイアには襲撃に備えるよう言ってある。後は自分がどうやって誘導するか。
「後は魅了の歌の流れ弾にも気をつけないとね……」
 ハルピュイアたちとてむやみやたらと魅了の歌を使うことはないだろうが、状況とは決して100%完璧に行くとは限らないものである。何かの弾みで魅了の歌が聞こえてきてしまったら……。
 そこで真はまず携帯電話にイヤホンを接続し、それを耳に入れハンズフリー通話ができるようにする。その上から蜜蝋の耳栓でふたをする。こうすれば通常の会話は聞こえなくなるが、魅了の歌が聞こえることも無くなる。
(問題は、携帯越しで魅了の歌が効果を発揮するかどうかだけど……)
 真のその考えは、結果として杞憂に終わる。魅了の歌は「肉声」が直接鼓膜を振動させない限り効果が無いのだ。
(よし、後は指示を出してくれる人を探すだけ……)
 服の内ポケットに携帯電話をしまいつつ適当な人物を探す。するとそれはすぐに見つかった。いかにもハルピュイアを守ろうと動く者が2人。グレン・アディールとソニア・アディールである。
 真は彼らに近づくと携帯電話の画面を見せながら話しかけた。
「そこの君、良かったら俺に指示をくれないかな? ハルピュイアをパラ実生から引き離すために、彼女たちを誘導したいんだ。俺の耳は耳栓で塞いじゃってるから、携帯を使って俺に指示を出してくれ。その通りに動くから」
 果たしてそれは受け入れられた。真と番号を交換したグレンは早速ハンズフリーで電話をかけ、通話を始める。
「わかった。……では俺が下に降りてパラ実生の動向を探る。真は上で動いてくれ……。一応、通話状態は保っておこう……」
「ありがとう。それと、巻き込んじゃってごめんね……」
「……気にするな。守りたいという気持ちは同じだ」
 それから、とグレンは続ける。
「そもそも守ることに理由など無い。今回あるとすれば……、一度、落ち着いた時にハルピュイアの歌を聞きたい。……それだけだ」
「守ることに理由はいらない、か……。そうだよね。じゃ、頼んだよ!」
 そう言い残し、真は再び枝に上っていく。後は指示を待って動くだけだ!
「ソニア……、しばらく忙しくなりそうだな……」
「ええ、グレン。お互い頑張りましょう」
 言い合うと、2人はいつでも戦えるように装備を確認する。前方ではパラ実生を迎え撃つべく、20人ほどの学生が陣取っている。彼らの防衛戦を抜けてきたパラ実生どもは、自分たちが何としてでも叩き伏せる。そう決意し、グレンは気合を入れた……。
 結論から言えば、彼らのこうした行動のおかげで、ハルピュイアたちに被害が出ることは無かった。パラ実生たちはそもそも防衛線を破ることができず、全く戦果を挙げられなかったのである。仮に彼らが殺到してきたとしても、グレンとソニアのコンビネーションを破ることは到底叶わなかったであろう。

(それにしても、今からやってくる連中といいあの瑛菜といい、いい加減にして欲しいです。金儲け? 歌勝負? そんなくだらない理由でウチのシマを荒らさないでくれますかねぇ……)
 そんなことを考えながら志方 綾乃(しかた・あやの)は可能な限り殺気を抑えていた。今ここで感づかれたら、自分の作戦は全て無駄になってしまう。
 彼女は他の学生に教えてもらった「パラ実生の侵攻ルート」付近、そこにある1本の木にその身を置き、連中が通り過ぎるのを待っていた。
 綾乃の見立てでは、パラ実生は魅了の歌対策で蜜蝋の耳栓をしているはずであり、もしそうであれば確かに歌は聞こえないが、それ以外の物音や会話も聞こえないはずである。そこが狙い目だった。かの山羊座の十二星華が使っていたというマントを被り、そこに迷彩塗装を施して余計に見つかりにくくする。それから連中が通り過ぎるのを待ち、後ろからこっそり躍り出て、持っている弓矢で狙い撃つ。これが作戦だ。
(殺しはしません。イルミンスールの森で味わった恐怖を彼らが伝え広めることで、私たちの庭が、神聖にして不可侵であることを示します)
 人の領域に土足で踏み込んだことを後悔させる。自他共に認めるイルミンスール至上主義者の、それが目的だった――本当は瑛菜もそのターゲットに含まれていたのだが、生憎と彼女はハルピュイアのそばにいるため、狙いたくても狙えなかった。
「ま、そこはさすがに志方ないですね……。いなければ狙い撃てません」
 誰にも聞こえないように彼女はつぶやいた。ちなみに彼女の名誉のために書くのだが、「志方ない」というのは、このような文章系ゲームでのみ使える「同音異字」を利用した彼女のギャグである。
 そうこうしている内にパラ実生が大声で会話しながらやって来た。
「ねえリーダー!」
「…………」
「ちょっと、リーダーってば!!」
「ん!? ああ!? なんだ!?」
「あのですね!」
「ああ!?」
「そろそろなんですか!?」
「あん、なんだって!?」
「ですからねえ!! そろそろつくんですか!? ハルピュイアのテリトリーに!!?」
「ああ!? 聞こえねえよこの野郎!!」
「!」の文字を大量に使っているにもかかわらず――要するに非常にでかい声で話しているにもかかわらず、彼らの会話は成り立っていなかった。それもそのはず、彼らは蜜蝋の耳栓をしながらここまで歩いてきたのだ。当然ながら声は聞こえない。耳栓を外せば会話ができるのだが、彼らにその発想はできなかった。多少知恵が回るはずのリーダーでさえこの調子なのだ。やはりどこか「抜けている」としか思えない。
 だがこの状況は綾乃にとって非常に魅力的だった。彼女の移動音、矢を放つ音、矢が風を切る音、それら全てが聞こえないということなのだ。
「……やっぱり馬鹿ですね、連中は」
 呆れる彼女だが、仕事は忘れていない。気配を殺し、連中が通り過ぎるのを待つ……。
 連中が近づく。一応、自分の場所は侵攻ルートからは外れているため、連中が横を確認しない限りは見つからない。
 連中が近づいた。まだ出るべきではない。
 連中が通り過ぎる。まだだ、もう少し待つ。
 そしてパラ実生が離れた隙を見計らい、彼女は動いた。パラ実生たちの真後ろのポイントを確保し、木陰から顔をのぞかせ、そして持っていた妖精の弓を引き絞り……、放った。
 矢の速度は、一般人の素人が撃っても時速200キロは超えるという話がある。だが綾乃は契約者、つまり常人の何倍もの力を持っているということであり、当然矢の速度もそれに比例して高まっている。大抵は相手も契約者であるため、戦闘力自体はほぼ同等になるのだが、それでもその矢のスピードには普通では対処しきれない。
 1本の矢がパラ実生の背中に命中した。そのまま彼は地面に倒れるが、誰もそれに気づかない。矢が当たったパラ実生はそのまま悶絶するだけで、異常を知らせることはできなかった。
(まず1人……)
 続けて矢を放つ。また命中した。だが今度はただ倒れるだけではなかった。痛さのあまり地面に転がり、その体が別のパラ実生に当たってしまったのである。
 ここでようやく彼らは異常に気がついた。
「ん? おい、なんだこりゃあ!? いつの間にか2人もやられてやがる!」
「ま、まさか、襲撃か!?」
 いい加減邪魔になったのか、会話ができるように全員が耳栓を外し、攻撃に警戒しだした。
「2人……。ま、いいでしょう。他にも戦う人はいるんですし」
 そのまま綾乃はパラ実生に見つからぬよう、姿を消した。
「ちくしょう、どこのどいつか知らねえが、こいつはマジにやべえぜ。ここは一気に抜けるぞ!」
「おおっす!!」
 リーダーの号令に全員が応じる。一刻も早くこの森を抜け、ハルピュイアどもを攫うのだ!
 そしてパラ実生たちは一気に森を走り抜けた。

 だが走り抜けて安全になったかというと、そうではなかった。
 森の出口付近にはすでに臨戦態勢を整えた和原 樹(なぎはら・いつき)ヨルム・モリオン(よるむ・もりおん)の2人がそこに陣取っていたのだ。
「な、待ち伏せだと!?」
「聞こえてるかどうか分からないけど、ここは大人しく帰ってくれないかな?」
 言いながら樹はフェイスフルメイスを構える。パラ実生が耳栓をしていたら今の発言は無意味になってしまうが、幸いにして連中は耳栓を外しているようだった。
「へっ、たった2人で何ができるってんだ! おい野郎ども、こいつらぶっちぎって先行くぜ!」
 それが戦闘開始の合図だった。
 突撃してくるパラ実生に対しヨルムがディフェンスシフトの構えを取る。盾は持っていないが、代わりに乾坤一擲の剣でまずやって来たパラ実生の血煙爪をはじき返す。
「残念、ここから先は通すわけにはいかん」
「だったらてめえを張り倒して突破してやんよコラァ!」
 再び血煙爪を振り上げるが、そこに樹のメイスが飛んできた。
「おっと甘い。横方向不注意って奴だよ」
「ぶぁぐぉ!」
 メイスがパラ実生の顔面を直撃し、2〜3メートルほど吹っ飛んだ後、そのまま彼は沈黙した。樹のこのパワーは、事前にパートナーのセーフェル・ラジエール(せーふぇる・らじえーる)から貰っていたパワーブレスの恩恵によるものだ。
「2人だからって甘く見てたが、こいつら、できる……!」
 単純に突撃するのは無謀に等しいと判断したリーダーは、まず樹らを集中的に狙うことに決める。さすがに7人がかりなら捌けないだろう。
 そう思い、突撃した直後だった。まず樹が光術を放ちパラ実生の動きを止めると、そこに左右から光と炎の奔流が襲い掛かる。あらかじめ出口付近に隠れていたセーフェルのバニッシュと、フォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)のファイアストームによるクロスファイヤー攻撃だ。
「加減はしてやる。だがモヒカンは無事ではないと思え!」
「ついでにそのまま浄化されたらいかがです?」
 邪気を滅する光と、対象物を火葬にするための炎。この同時攻撃にはさすがのパラ実生も、ひるまざるをえなかった。
「くそったれ! そもそもなんで俺たちの居場所が分かったんだ!?」
 その答えはフォルクスのディテクトエビルにあった。パラ実生はハルピュイアを捕らえ、金儲けしようという邪念を抱いている。それを感知することができれば、迎撃はたやすいということだ。
 そしてそれは見事に成功した。他に感じられる邪念といえば、むしろハルピュイアや捕まった男たちに向けられる「救出隊」のものであり、それを除外すれば、おのずと敵が見えてくるのだ。
「ええい、くそ! ひるむな! どうせこのまま突っ切れば、お宝は目の前だ!」
 リーダーの檄に呼応したパラ実生たちが全力で突破を図る。左右からの魔法攻撃さえ抜ければ、こちらは7対2になり、容易に突破は可能だと判断したからである。
「うわ、さすがにこれはきついな。ヨルムさん、防げる?」
 メイスを構えたまま樹がヨルムに問う。
「……全員は無理だが数人ならいけるだろう」
「それで十分だ。少し足止めできれば後は……!」
 ヨルムが前衛、樹が後衛となり、パラ実生の突撃に備える。ハンドアックスや野球のバットを手にしたパラ実生が向かってくる。ヨルムの防御と樹の光術によるカウンターで防ぐが、やたらと武器を振り回してくる相手に攻撃の隙が見出せない。
「ふん、我の樹に手を出させるか!」
 再びフォルクスがファイアストームを放ち、そんなパラ実生の侵攻を阻止しようとする。だが煩悩と金に目がくらんでいるパラ実生は、炎の本流を抜けてしまう。
「フォルクス、かっこいいこと言いますが、抜けられたら意味が無いんじゃ……」
「う、うるさい! 向こうがちょっと上手だっただけだ!」
 セーフェルにツッコミを入れられてしまうが、フォルクスはそれなりの実力者だ。そんな彼のファイアストームを抜けられるということは、相手もそれなりにやる、ということである。
 だが彼らの健闘むなしく、その防衛戦は突破されてしまった、かに見えた。
「げっ! 他にもいたのか!」
 驚き、その足を止めるパラ実生たちの前に、桜葉 忍(さくらば・しのぶ)東峰院 香奈(とうほういん・かな)織田 信長(おだ・のぶなが)の3人が立ち塞がった。
「香奈、剣を!」
 声と共に忍は右手を伸ばす。傍に控えていた香奈がその体から白銀に輝く大剣を取り出し、パートナーに手渡した。
「頑張ってね、しーちゃん、信長さん」
 言いながら香奈は、2人にパワーブレスの恩恵を与える。
「任せておけい」
 声に応えたのは信長の方である。忍と香奈はハルピュイアの魅了の歌を防ぐために、いまだ蜜蝋の耳栓をつけており、ろくに会話ができない状態にある。ちなみに信長は「自分に魅了は効かない」と言い張り、耳栓をつけていなかった。
「さて、おまえら、覚悟はできてるか?」
「ここから先は通行止めじゃ! 他をあたれい!」
 忍が2メートルもある巨大剣を構え、信長が炎のごとき威圧感を発する。
 場の空気が急変したのを感じ取ったパラ実生が恐怖におののくが、それでも対抗意識は残っているのか、1人が前に進み出た。
「へっ、たかが光条兵器と威圧のオーラじゃねえか……」
 ウォーハンマーを構えたパラ実生が、両腕に力を込める。
「その通行止め、無理に通らせてもらうぜ!」
 気合を入れたかと思うと、パラ実生はハンマーを大振りしながら忍たちに襲い掛かる、はずであった。
「なぁっ!?」
 彼が気づいた時には、すでに忍が懐に飛び込んでいた。
「我が剣、閃空の如く!」
 その言葉が聞こえる頃には、白銀の大剣によってウォーハンマーが粉々に粉砕されていた。
「殺すつもりは無い。だから、降参するか帰れ」
 忍は言い放つが、それで帰るほどにパラ実生の根性は軟弱ではなかった。
「帰るくらいなら、最初からこんなことしてねえよ、チクショウッ!」
「ま、その根性だけは認めてやらんでもないがな」
 武器を無くした両手を振り回すが、今度はそこに信長の剣が迫っていた。だが向かってきたのは刃の部分ではなく、刀で言うところの「峰」にあたる部分だった。両手持ちの大剣である乾坤一擲の剣で「殴られる」ということは、分厚い鉄板で殴打されるのに等しいダメージを与えることである。
「ぼべしっ!」
 そんな鉄板で殴られた威勢のいいパラ実生は、鼻と口から血を吹き出しながら仰向けに倒れた。
「さて、まだやるのか?」
 忍が剣の切っ先を向け、パラ実生の威嚇にかかる。その結果、2人が恐怖し、その場から逃げ出してしまった。
「む、無理だあああ! いくらなんでもこれは無理だあ!」
「すみませんリーダー! お先に失礼します!」
「お、おいこら、お前ら逃げるな!」
 リーダーの制止の声も聞かず、2人のパラ実生は今来た道を戻ろうとするが、彼らはさらに恐怖を味わうことになる。
 彼らの目の前に1組の男女が立ち塞がったのだ。十字架の首飾りがトレードマークの闇咲 阿童(やみさき・あどう)と、そのパートナーの後光 葉月(ごこう・はづき)である。ちなみに葉月の方はスナイパーライフルを構えていた。
「おっと、おあつらえ向きに『的』がやってきたな」
 阿童のその言葉の意味をパラ実生たちは理解できなかった。今回の戦いにおける「標的」という意味だろうか?
「葉月、修行の開始だ。相手はパラ実生、遠慮なくぶっ放していいぜ」
「了解だよお兄ぃ! 今度こそ誤射率0%を目指してガンガン撃ちまくっちゃうもんね!」
 前で葉月がライフルを構え、パートナーの阿童が彼女と背中合わせの形で立つ。この時点でパラ実生の方もようやく理解できた。要するに阿童は、葉月の銃の腕前を上げるための練習台として、このパラ実生たちをターゲットにしたのだ。
「ちょ、ま、的ってそういう意味!?」
「俺ら練習台!?」
 当然ながら慌てるパラ実生2人。いくらなんでもスナイパーライフルの実験台になんてされたくない!
「さあ〜パラ実共〜、神に代わってワタシの正義の鉄槌を受けるがいい〜!」
 言いながら葉月はそのスナイパーライフルを「乱射」した。
「ひょえええええ!?」
「わひゃああああ!?」
 1発ごとに弾丸を装填する必要のあるはずのライフルだが、彼女は撃った次の瞬間にはすでに装填を終えており、すぐさま次弾を撃っていたのである。ただし、ろくに狙いを定めていないので、目の前のパラ実生に当たる気配が無かったが。
 そしてその流れ弾は、なんとその奥――位置関係の都合上、そこにいたのは樹とそのパートナーたち、そして忍とそのパートナーたちである――にいた味方を狙って飛んでいったのだ。
「うわ、危ない!」
「ぐっ!?」
「うおっ、流れ弾か!」
「な、なんで味方から攻撃が!?」
「きゃあっ!」
「香奈!? って、わっ!」
「こら、どこを狙っておるか!」
 幸いにして命中した者はいなかったが、誤射率0%には程遠い結果を残していた……。
「…………」
 これにはパラ実生もびっくりである。目の前にいる女がこれほどまでに銃が下手くそだったとは誰が思うだろうか。ましてほとんど「近距離」といってもいい程度の間隔である。
「あ、あれ……?」
 ただひたすら乱射していた葉月に異変が起きた。厳密には葉月にではなく、彼女が持っているスナイパーライフルである。
「……弾が無くなっちゃった……。あ、あはは〜……」
「……葉月、なんでこの近距離で外すんだよ……」
「わ、ワタシのせいじゃないもん! このライフルが不良品なんだもん!」
「おまえ、この前もそう言って店員さんに新しいのと換えさせただろ! でその結果がこれか!?」
「う〜、つ、次は当てるもん! 数撃てば絶対に当たるもん!」
「できればその『数』をとことん減らしてほしいんだけどな……」
 ケンカを始めた2人だが、パラ実生が戦闘不能になっていないという事実は変わらない。この隙に2人は逃げ出そうとした。
「ド下手くそで助かったといったところか……」
「そんじゃまあ、さっさと逃げるか……」
 女のライフルは弾切れになった。男の戦闘力が不明なのは怖いが、逃げることができればどうということはない。2人が駆け出そうとしたその瞬間だった。
 突然上の方からメキメキという何かが折れる音が聞こえてきた。
「ん、何だ?」
 パラ実生2人が見上げると、目の前に木の枝が迫っていた。それもかなり大きい。
「ぶべらっ!?」
「はべらっ!?」
 2人同時に奇妙な悲鳴を上げる。彼らの顔面には成人男性の太ももほどもある木の枝がめり込んでいた。
 なぜそのような枝が落ちてきたのか。理由は単純だ。葉月のライフルの流れ弾がどういうわけかほぼ真上の枝を撃ち抜いていたからである。
「……一応、パラ実生を倒すことは、できたってとこかな……?」
 呆れた顔をしつつ、阿童はため息をついた。