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リアクション
続々と準備が進むパーティ会場から離れて、百合園女学院の寮でルーノ・アレエは朝野 未沙(あさの・みさ)にメンテナンスをしてもらっていた。
先ほどまでは友人達が挨拶にならんでいたのだが、それを全部追い出してから、ルーノ・アレエは服を脱いでベッドに腰掛けていた。
「いつもありがとうございます」
「いいの。メモリープロジェクターの調子も見たかったし」
にっこりと微笑む赤毛の少女は、今日もメイド服姿だったがところどころにクリスマスらしいアクセサリーをつけていた。
一部パーツとしての磨耗や、汚れはもともと朝野 未沙でも簡単に直すことが出来たのだが、あまり難しいところはむずかしかった。それが最近、エレアノールから教えを受けて以前よりも細かくメンテナンスで切るようになっていた。
「……ねぇ、ルーノさん」
「はい?」
「あたしは、ルーノさんの友達だからね。もう一人で抱え込まないでね」
いつもの明るい彼女らしからぬ、小さな呟きにルーノ・アレエは胸を締め付けられるような思いに駆られた。
「すみません。たくさんの人に、心配をかけた」
「いいの。心配するくらいなら、全然苦しくないよ。でも、隠されるのは哀しいよ。辛いときに、辛いって相談してもらえなかったのは……」
「朝野 未沙……ありがとう……」
「まだ、整理つかないと思うんだ。あんなことになって、ニーフェちゃんも盛り上げようとしてくれてるけど……ルーノさんの気持ちが追いついてないってことは、見ててわかるもの」
「気持ちが、追いついていない?」
「うん。あ、機晶姫にだって気持ちがあるんだよ? だって、エメさんのこと、好きなんでしょう?」
「…………この、一緒にいて暖かくなるものが気持ちなら、私は朝野 未沙といてもそうなりますよ」
「でも、エメさんとは違うでしょう?」
問いかけると、今度は黙ってしまった。それが、まだ理解できないなりの彼女の答えだと察した朝野 未沙は最終チェックを終えると背中を閉じる。
「さ、おしまい」
「ありがとうございます、朝野 未沙」
「それじゃ、着替えよっか」
にっこりと笑った朝野 未沙に言われて、脱いだ百合園の制服を探すが、見当たらない。先ほど、ベッドの上に脱いでたたんでおいたはずなのだが、と、幾度も幾度も探す。
「あの、朝野 未沙、私の制服を知りませんか? 先ほどこちらにおいたのですが……」
「ええ? これからクリスマスパーティなんだよ! 今日はこれを着ようね♪」
そういって取り出したのは、真っ赤なミニドレス。白いボアがところどころにあしらわれていた。明らかに短い。屈んでしまえば、恐らく確実にパンツが見えてしまいそうなデザインだった。
「手作りなの! ルーノさんのサイズはばっちり知ってるから、勿論ぴったりフィットするはずだよ♪」
「……朝野 未沙……あの、み、短い……その、そんなに短いスカートはちょ、ちょっと……」
「あたしからの、プレゼントなのに?」
蒼い瞳をわずかに潤ませて見つめると、赤い瞳が困ったように閉じられる。うーん、と唸り声を上げているのを無視してベッドに押し倒す。
「大丈夫、あたしが着させてあ・げ・る☆」
「や、だ、ダメです! あの、そ、そんなミニスカートは私は似合いませんからっ」
「ルーノさん足綺麗だから大丈夫だよ☆ ちゃんとガーターベルトも用意してあるから、安心してっ!」
「で、で、ですが! 肌が黒いですからきっと似合いませんっ」
「んもー、こんなにお肌すべすべで気持ちいいんだから大丈夫だってば〜」
きゃっきゃと大はしゃぎで朝野 未沙にドレスを着させられてしまう。真っ白なガーターベルトに白いオーバーニーソックスなので、太ももは丸出しの状態。サンタさん帽子にはヤドリギのアクセサリー。首には赤いチョーカーでベルまでつけられていた。腕にはドレスと同じデザインのアームウォーマー。
胸元がガバーッとあいており、谷間もばっちり伺えた。そこを必死に隠しながら、後から来たニーフェ・アレエに弁明している。
パーティだから、あまり扇情的な格好になり過ぎないようにスカート丈もきわどいところまでしか見えないし、胸元だって普通の女性が来ても恥ずかしくない程度にしてあるつもりだ。
だが、ふだんから長いすその制服を好んできている彼女からしてみれば、恥ずかしすぎる格好なのだろう。
気持ちがないなんて嘘だ。そう、改めて思った。そうじゃなかったら、あんなに恥ずかしいとか言わないはず。
プログラムは素直だ。だから『恥ずかしい』なんてことは理由にならない。似合わないと気にかかるのは、見て欲しい相手がいるから。
それで、少しの間だけでも悲しいことを忘れることが出来ればいいのに、と朝野 未沙は思っていた。