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学生たちの休日6

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学生たちの休日6
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    ★    ★    ★
 
「なんだこりゃ。やれやれ、ここもすっかりクリスマスだぜ」
 世界樹の中程にある小型飛空艇置き場に小型飛空艇アルバトロスをつけながら雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)がつぶやいた。
 そういえば、アドバイスをしてやった知り合いは、今ごろうまくやっているだろうか。まあ、あのプレゼントならばっちりだとは思うが。
 かかえている大きな包みを落とさないようにと、気をつけて荷台から下ろしながら、雪国ベアが上を見あげる。
 上の方からは、様々な光のオーナメントが降ってくる。まるで、輝く雪のようだ。
 それはいいのだが、世界樹を飾るモールの形は去年とは違って少し歪なようだ。
「わあ、さすがはクリスマス。綺麗なのです。ご覧なさい、日堂真宵。どこもかしこも聖書の偉大な方を称えるムードであふれてますよ! ふふふん。このパラミタ大陸がテスタメントで満ちる日も近いのです!」
 枝の上に出る扉を開けて、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントが自慢げに叫んだ。
「なになになに、何か見えるんですの?」
 その声を聞きつけて、世界樹の中をふらついていたエイム・ブラッドベリー(えいむ・ぶらっどべりー)が通路の奧からバタバタと駆けてくる。
「あーん、待ってください。そんなに走ると、迷子になってしまいますよ。ちゃんと、私のそばにいてください」
 その後ろを、ノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)が小さな足でトコトコと追いかけてきていた。
「ええい、そんな物に見とれている暇なんてないのよ。あなたの本体でしょ。早くしないと、カレーまみれにされるわよ!」
 日堂真宵が、外の景色に見とれるベリート・エロヒム・ザ・テスタメントの耳を引っぱった。
「いたたたた。分かったわよ。反対側の方にも行ってみましょう。何かもっといろいろ見られるかもしれないですし」
 軽い悲鳴をあげながら、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントが日堂真宵に連れられて扉から離れた。
「えっ、他の場所からは、別の物が見られるんですの? わーい」
 好奇心全開のエイム・ブラッドベリーが、バタンと扉を閉めて駆けだしていく。
「あーん、エイムさん、どこ行っちゃったんですー。エイムさーん」
 遅れてやってきたノルニル『運命の書』が扉を開けると、もう誰もいない枝にむかって叫んだ。
 
    ★    ★    ★
 
「あっ、なんだかカレーの匂いがする……」
 イルミンスール魔法学校にサンタを探しに来ていた立川 るる(たちかわ・るる)が、立ち止まって鼻をクンクンさせた。毎年、世界樹はクリスマスツリーになるらしい。だとしたら、本物のサンタの一人ぐらい立ち寄ることもあるだろう。
「誰が、カレーですって……」
 日堂真宵が、軽く立川るるを下ろして言った。自分よりも立川るるの方が若干背が低いのだが、なぜか胸だけは大きい。
 許すまじ。
「手伝いなさい」
 いきなり立川るるの手を引っぱって日堂真宵が言った。
「何を?」
 状況がよく呑み込めずに、立川るるが聞き返した。
「もちろん、赤い服を着て、銀だか白だかの長い髪をして、大きな荷物の入った袋かなんかを持っている悠久ノカナタを見つけだすのよ」
「それって、もしかして……。カナタさんって、ジャパニーズサンタガール?」
 何か、とんでもない勘違いをして、立川るるが叫んだ。
 一応、去年もサンタのバイトをした学生たちもいるようだし、悠久ノカナタが臨時サンタをしていたとしてもおかしくはないのかもしれない。
「これは、プレゼントをもらえるチャンスだわ。よぉーし、がんばるよっ。一緒に探そ」(V)
「そうこなくっちゃ。で、テスタメント、テスタメントはどこ?」
 立川るるの手を握りしめてから、日堂真宵がベリート・エロヒム・ザ・テスタメントを探して叫んだ。
 
    ★    ★    ★
 
「あの展望台も、綺麗に飾りましょう」
 三笠のぞみが、西の展望台に近づいていきながら言った。
 東西南北にあるその展望台の一つでは、アルディミアク・ミトゥナ(あるでぃみあく・みとぅな)が、一人テーブルに座ってお茶を飲んでいた。彼女がいるテーブルの上には、紅茶のカップと、一組のブレスレットがおかれている。
「私が見ているのは、ただの過去なのかしらね。傍観できるほど、私は別の者になれたのかしら。ねえ、あなたはどう思うかしら」
 西に広がるシャンバラ大荒野と、そこに浮かぶ物を遥かに見やりながら、アルディミアク・ミトゥナが独り言としかとれないつぶやきを口にしていた。
「おや、アルディミアクじゃないか。ちょうどいい」
 アルディミアク・ミトゥナを見つけたトライブ・ロックスターが、魔女の大釜を展望台に着陸させた。
 それに気づいたアルディミアク・ミトゥナが、あわててブレスレットを自分の手首に填めて隠した。
「メリー・クリスマス!」
 サンタよろしく、トライブ・ロックスターがケーキを取り出して叫んだ。
「こばー!!」
「うっ、小ババ様、まだ食べたいのか!?」
 現れたケーキにむかって両手をのばす小ババ様を見て、ちょっとトライブ・ロックスターが唖然とする。
「こばー」
 うんと、躊躇なく小ババ様がうなずいた。
「どうぞ。席なら開いていますよ」
 アルディミアク・ミトゥナに勧められて、トライブロックスターが、持ってきた紙皿の上にケーキを切り分けた。
 三笠のぞみの方は、ミカ・ヴォルテールと共に、展望台の手摺りなどを光のオーナメントなどで飾っていっている。
「小ババ様とデートですか?」
「もちろん。クリスマスは、大切な人と一緒にいるものだろう?」
 アルディミアク・ミトゥナの問いに、トライブ・ロックスターが即答した。
「ええ。そうですね」
 ちょっと寂しそうに、アルディミアク・ミトゥナは答えた。
 
    ★    ★    ★
 
「こ、こんにちは……」
 そーっとスタジオの扉を押し開けると、頭だけ中に入れた悠久ノカナタが、オクターブ高い小さな声で言った。
「土方先生はいらっしゃいますか?」
 スタジオの中を見回すも、人気はまったくない。
「留守であったか……」
 ちょっと残念そうに、悠久ノカナタがいつもの口調に戻って言った。
 せっかく、漫画本の中に混じっていたベリート・エロヒム・ザ・テスタメントの本体を返しに来た……というのを口実にして、土方歳三の仕事場に押しかけよう計画が、これでは失敗ではないか。
 とはいえ、戸締まりもされていなかったというのは、幸運であったというか、不用心というか。
「ここが、土方先生の仕事場……周囲に力を感じる。これならば……」(V)
 思わず、悠久ノカナタは子細に部屋の中を見回した。
 何のことはない、イルミンスール学生寮にある日堂真宵の隣の部屋を改造しただけの狭い場所であるのだが。中には、本棚と資料棚がならび、ボックスには大量の紙とインクがストックされていた。
 書きかけの原稿でもないのかと、ちょっと魔がさした悠久ノカナタが、机の周りを物色した。
「おや、メモかな?」
 分厚い重箱を重ねた弁当箱のようなベリート・エロヒム・ザ・テスタメントの本体を、よいしょっと机の上に載せると、悠久ノカナタはそのメモを拾いあげた。
「七不思議、憧憬、昔日降り積む霧の森……。これは……」
 まさか、また新しい七不思議の噂でも手に入れて、土方歳三はそれを取材にむかったのであろうか。
「これは、追わねばなるまい!」
 悠久ノカナタは、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントの本体を机の上に残して、スタジオを出ていった。