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学生たちの休日6

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学生たちの休日6
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リアクション

 

7.ヒラニプラの闇

 
 
「シャンバラン、ダイナミィィィック!! 悪は滅びろッ!!」(V)
 人も通わぬヒラニプラの山中に、神代 正義(かみしろ・まさよし)の声が響き渡った。
 同時に、巨木が野球のバットに粉砕されて倒れていく。だが、敵はどこにいるのだろう。彼は何と戦っているのだろう。
「俺の修行の日々に、クリスマスなどはない。ましてや、リア充などこの世に存在しないのだ!!」
 怒りの歌を口ずさみつつ、神代正義は周囲に心を広げていった。
 この世にあってはならない物を感じる。
「砕け散れ!」
 神代正義は、轟雷閃の輝きを野球のバットから虚空にむけて放った。
 その輝きは、葦原島の住宅、空京公園、空京美術館、空京デパート、タシガンの別荘、ツァンダの市街地、月の泉、海京の住宅、ヴァイシャリーのリストランテ、はばたき広場の方向へと広がっていった。
「もう一度言おう、爆発しろぉ!!」
 神代正義の声は、夜の山中に響いていった。
 
 
8.海京の華

 
 
「いらっしゃい、ちーちゃん」
 自宅の玄関を出たとたん、不束 奏戯(ふつつか・かなぎ)は、呼び鈴の前に立っていたちっちゃなおまけ小冊子 『デローンの秘密』(おまけしょうさっし・でろーんのひみつ)をだきしめた。
「お、お、お、おじゃ、おじゃ……」
「ささ、どうぞ中へ♪」
「おじゃあ! お邪魔しまーす!!」
 やっとのことで言葉を捻り出して叫ぶと、おまけ小冊子『デローンの秘密』は不束奏戯の家に入っていった。
「今日は二人だけだから、いつもみたいに邪魔が入らない! だから、おいで、ちーちゃん」
 もう最初から不束奏戯はラブラブオーラ全開であった。部屋の中を歩くのにも、零れ落ちたハートを蹴散らさないといけないといった状態である。
「料理用意して待っていてくれたんだ」
 テーブルの上に綺麗に用意された料理を見て、おまけ小冊子『デローンの秘密』が言った。
「うん。割とどれも自信作なんだ。特にローストビーフは、焼き方に凝ったんだよ」
 背後からおまけ小冊子『デローンの秘密』をだきしめたまま、不束奏戯が自慢げに言った。
「奏ちゃん上手だね……。あ、あのね。奏ちゃん。その……プレゼントあるんだ……。だから、ちょっと放して、えっと……、しゃがんでくれるかな? ちゃんと目、見て渡したいから」
「何かなあ?」
 言われたままに、不束奏戯が膝を突いた。この状態で、やっと二人の背の釣り合いがとれる。
「私、お料理とか苦手だし、こんな見た目だから、周りにも誤解されたりして奏ちゃんに迷惑かけてるだろうけど……。私、奏ちゃんのこと大好きだから。それは、本当だよ。本当に大好きだよ」
 そう言って、おまけ小冊子『デローンの秘密』が不束奏戯の額にキスした。
「わあ、これがプレゼント?」
 不束奏戯が極限に喜んで、おまけ小冊子『デローンの秘密』をだきしめ返す。
「えっと、プレゼントはこれじゃなくて! ちゃんと手袋を用意してあって……。あのあの、その!!」
 真っ赤になって叫びながら、おまけ小冊子『デローンの秘密』はそのまま不束奏戯にだきしめられ続けた。
 
    ★    ★    ★
 
「少し買いすぎちゃったかねぇ」
 両手にたくさんの荷物をかかえながら、クド・ストレイフ(くど・すとれいふ)は帰りを急いでいた。今ごろ、パーティー会場となった天御柱学院東エリア学生寮では、仲間たちが食材が届くのを待ちわびているはずだ。
「それにしても、もう少し荷物を持って手伝ってくれるとかしてくれてもいいのになぁ」
 お目付役でついてきたアイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)にむかって、ちょっとつまらなそうにクド・ストレイフが言った。
「もう、これじゃあ道行くお姉さんお嬢さん方に、今日の下着の色を聞けないじゃないですか。いや、お目付役がいようと普通に聞きますけどね。日課ですもの」
「それを排除するように、皆様から仰せつかっておりますので」
 アイビス・エメラルドが言った。
「だったら、あんたに聞いちゃうぞぉ。今日の下着の色はぁ?」
「腰部装甲の彩色のことでしょうか? それでしたら、第一装甲は……」
「悪かったよぉ。聞いた俺が悪かったよぉ」
 淡々と答えるアイビス・エメラルドに、クド・ストレイフが降参した。
 そうこうしているうちに、無事に帰り着く。
「お帰りなさい。アイビスさん、クドに何か変なことされなかった?」
 出迎えたルルーゼ・ルファインド(るるーぜ・るふぁいんど)が、開口一番アイビス・エメラルドに訊ねた。
「下着の色を聞かれました」
 さっくりとアイビス・エメラルドが答える。
「おい」
 さすがに、クド・ストレイフが焦ったが、もう遅い。
「朝斗さん、これ食材です。さあ、クド、そこにお座りなさい」
 榊 朝斗(さかき・あさと)に食材をすべて渡すと、ルルーゼ・ルファインドがクド・ストレイフをその場に正座させた。じっくりとお説教タイムが始まる。
「ルルーゼさんも苦労してますね」
 少し哀れみながら、エプロン姿の榊朝斗は先に調理を開始した。ほどなくして、クド・ストレイフを開放したルルーゼ・ルファインドも戻ってきた。
「お待たせしました」
「大変ですね」
「まあ、いつものことですから」
 クド・ストレイフを肴に世間話をしながら、二人はてきぱきとパーティーの料理を作っていった。
 一方、会場の方は、ハンニバル・バルカ(はんにばる・ばるか)ルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)が飾りつけをしていた。
「あっ、このモール、お願いできるかな?」
 ハンニバル・バルカが、金色のモールの端をルシェン・グライシスにさし出して言った。彼と彼女とでは、身長が頭二つ分ほども違うので、高い所の飾りつけはハンニバル・バルカには無理だったのだ。
「分かりました」
 言うなり、ルシェン・グライシスがモールを受け取るのではなく、モールを持ったハンニバル・バルカをだきしめてそのまま持ちあげた。
「いや、その、ちょっとお!?」
「この方が早いですよ」
 ニコニコにしながら、ルシェン・グライシスが戸惑うハンニバル・バルカをだきしめた。
「何をしてるんだぁ」
 その状況に、やつれ果てたクド・ストレイフが呆れる。
「だって、可愛いんですもの」
「ちょ、や、やめるのだ。いつの間にかピンチなのだ」(V)
 思わず、本音を出してルシェン・グライシスがハンニバル・バルカにスリスリした。
「料理できましたよ。運ぶの手伝ってくださいな」
 何をやっているのかと呆れながら、ルルーゼ・ルファインドが皆を呼んだ。
 ハンニバル・バルカとルシェン・グライシスが飾りつけして食器をならべたテーブルの上に、どんどん料理と飲み物が運ばれてくる。なかなかに豪華だ。
「みんないいかな。じゃあ、クリスマスと、みんなの今後の交流を祈って、かんぱーい!」
「かんぱーい」
 榊朝斗の音頭で、みんなが乾杯する。パーティーは始まったばかりだ。