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空京暴走疾風録

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空京暴走疾風録

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幕間 環七中央の繁華街/夜23時頃

「ほぅ?」
 矢白が携帯の液晶を見て、ニヤリと笑った。
「人が悪いな、“ロイガ“の兄ちゃん」
「何の話だ?」
「今、身内から知らせが来たんだがな。『東』の方で派手な取り締まりがあったってんだよ。何だか、お嬢ちゃんだがお姉ちゃんだかの“ロイガ“が動いたって話だぜ」
「それが?」
「『これ以上やるなら本気で動かなきゃ』みたいな事あんた言ってたけど、いきなり“ロイガ“が動き出してるじゃないか?」
「……ロイヤルガードって言っても、始終連絡を取り合っているわけでもない。めいめいが勝手に動くことだってじゅうぶんありうるさ……うわ」
 話している正悟の肩に、誰かの肘が乗っかってきた。
「正悟さぁん? ちょっとぉ、聞いてますぅ?」
 セルマ・アリスがすわった眼で顔を寄せ、話しかけてきた。
「……なぁ、『西』のリーダー。アルコール頼んだのはどこの誰だ?」
「頼んじゃいないし、頼んでも未成年相手じゃ店の方が持ってこない」
 カラオケ屋のパーティールームは、盛況だった。矢白が呼んだレディースと、書き置き(文面は「家出します。探さないでください。夕飯までには帰ります」)を残して突然姿を消した夕夜御影を探していた者達が集まって、結局徹夜でカラオケをする事になったのだ。
 現在は「西」をホームグラウンドにするレディースのひとりが、マイクを持ってバラードを歌っているが、変な力が入って何故か演歌に聞こえている。
 ウンザリしている正悟の顔をまったく気にせず、セルマは絡み続けた。
「大体ですねぇ、“環七“一周なんてのが“ワル“のトップの証明だっていうのなら、俺はとっくに“ワル““皇帝“ですよぉ。
 お歳暮シーズンって事でぇ、“環七“なんて何十周したか知れませぇん。いやぁ、仕事が大変なのは仕方ありませぇん? 仕事が回らないからってんでぇ、しばらく空京の『ゆるねこパラミタ』の荷物置かせて貰ってるところに寝泊まりしたのも俺が選んだ事ですよぉ? でもねぇ、夜が暴走族のぱらりらであんなにうるさくなるとは思いませんでしたねぇ。
 正悟さぁん? ちょっと社長に言ってぇ、次の俺のお給料ぅにぃ、ちょぉっとぅ、ちょぉっとだけでいいですからぁ、ボーナスつけて貰うよぅにぃ、言っておいてくれませんかぁ?
 カネ寄越せってんじゃなくてぇ、人が頑張ったのにぃ、こぅ、誰にも認めて貰えないってのはぁ、やっぱりこぅ、寂しいんですよぅ。褒められる為にぃ、仕事してるってわけじゃあないですしぃ、一生懸命やって当然っっっっっってのは分かってるんですけどねぇ?
 正悟さぁん、ねぇ、聞いてますぅ?」
 さんざん名前を呼ばれている正悟は、ウンザリした顔で(どうにかならないか?)と眼でオルフェリアに訴えた。オルフェリアは(どうにもなりません)と気まずそうに首を振った。
「セルマ。お前まさか酒飲んだりしちゃいないだろうな?」
さぁけぇ!? しょぅおおおおおごさぁん、俺は“プロ“のライダーですよぉ? 自分の“バイク“に、責任を持って乗る“プロフェッッッッッッショナル“ですよぉ? お酒なんて飲むわけないでしょぉう? 飲酒運転はぁ、“パツイチ“で免許取り消しですよぉ? みっっっそこなわないで欲しいなぁ、正悟さぁん。俺は“プロ“ですよぉ? ふつ〜〜〜〜のバイク乗りとは、違うんですよぉ。例えば、遊びでバイク乗り回しているぅ、ぼーそーぞ……うぶっ」
 問題発言の気配を察し、正悟はセルマの口を手でふさいで頭をソファに押しつけた。
「あー、分かった分かった! 今度社長に言っておくから! お前今日はもうここで寝ていいからな? な?」
 ――しばらく後、セルマがここ最近寝不足気味だった事を正悟は聞いた。
(いろいろ溜まってたんだな、こいつも)
 オルフェリアの膝枕でボロ雑巾のように眠っているセルマに対し、正悟は少し同情した。
 インターホンを取った。
「はい。フロントです」
「あ、パーティールームですけど。すみませんけど、毛布の貸し出しってやってます?」