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第6章 全てを騙すミッション

「もうそろそろ、ここも騒動に巻き込まれそうですね」
 沢渡 真言(さわたり・まこと)は西の塔にいる魔女たちが、無線機で東の塔の者たちと連絡を取り合っているのを見て呟く。
「今、何を作っているんですの?」
 黒い結晶を作っている魔女たちの傍へ行き、ティティナ・アリセ(てぃてぃな・ありせ)が傍らから覗き込む。
「ある協力者のために刀を作ってと十天君の2人に頼まれたのよ」
「刀・・・ですか」
 作っている様子を真言も観察する。
「砕いた鉄と生き物の血を混ぜるのよ♪」
 それを型の中へぱらぱらと撒いて敷き詰め、魔力を含んだ液体をかけてドロドロに溶かす。
 数分後、冷えて固まった刀を型から取り出す。
 まるで生き物の血を啜り、刀身が真っ黒になってしまったのかのような不気味な形状で、その刃はノコギリのように細かくギザギザしている。
「特別な効果とかはないけど。数日間はどうやっても破壊されない丈夫さくらいかしら?後は、この刃に油でも塗れば摩擦で発火する程度ね」
「なんだかそれだけで危険そうな気がしますね」
「まぁ、使う相手のセンス次第ね。私はその人に届けに行って来るわ」
「ついでに太極器を十天君に届けてくれないか?」
 仕掛けを施したそれを紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が手渡す。
「見つけたら渡しておくわ」
 そう言うと彼女は開発室から出て行く。
 塔の傍では睡蓮たちが侵入する機会をじっと窺っている。
「造園がある暗いところ進みましょう」
 ダークビジョンで視界を確保出来る睡蓮が2人の前を進む。
「扉が閉まっているな。私が囮となって騒ぎを起こせば、唯斗が気づくはずだ」
 エクスはガサッと造園の陰から出て、魔女たちの足元に凍てつく炎を放ち、引きつけ訳をする。
「きゃぁあ!?誰か忍び込んで来たわ。皆、捕らえるわよっ」
 彼女の姿を見つけた魔女がエクスを追いかける。
「外が騒がしいな。あれは・・・・・・エクスか!?」
 ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる声を聞き、窓の向こう側を見るとパートナーが魔女たちに追いかけられている。
 慌てて外へ出ると中へ睡蓮とプラチナムが飛び込んできた。
「言いたいことは沢山ありますけど唯斗さん、塔を破壊するのを手伝ってください!」
「何だって!?そんなことをしたらアルファが・・・」
「アルファって誰ですか?」
「その・・・ドッペルゲンガーのオメガに名前をつけたんだ。ずっとそんな呼ばれ方は可哀想だからな」
 聞き返す睡蓮にその魔女に名づけたのだと答える。
「そうなんですか。って、のんびり話している暇はありません!エクスさんが捕まってしまう前にここを壊しましょう。たぶんチムチムさんが西の塔の近くに待機していたらしいんですけど。東の塔にも行かないといけないようなので、代わりに頼まれたんです」
「なるほど、そういうことか。アルファにはすまないが、危険な武器を作らせるわけにはいかないからな」
 唯斗たちは階段を駆け上がり、開発室に入るなり魔道具を破壊し始める。
「あんた、何するのよ!?作るのがどれだけ大変だったか分かってるわけ!」
「こっちにも病む終えない事情が出来てしまったんでな。破壊させてもらう」
「だったらあんたが作った五行炉で倒してやるわ。あ、あれ。使えない!?どうしてっ」
「悪いな、それは使用回数をオーバーさせてあるんだ」
「よくもやってくれたわね!」
 激怒した魔女が嵐のフラワシを唯斗に向かって放つ。
「―・・・くっ」
 2人の身体を抱えて唯斗はとっさに床へ伏せる。
「ごめんなさい・・・。この技術はとても素晴らしいです。でも、必要以上の力はとっても危険なんです!」
 真言は魔科学で強化したナラカの蜘蛛糸を鞭のように振るい、魔道具に括りつけて引っ張り、斬り離すのと同時に刃から吹き出る炎で爆発させる。
 粉々になった破片が床へ飛び散る。
「お願いです。その力をイルミンスールのために使っていただけないですか?」
「何ですって!?壊しといてよくも図々しいことが言えたものね」
「魔女の皆さんのここで実験を続ける理由は自分が認められたいからでしょう。しかし、今のままでは悪用される危険なものを作ったとして、皆さんの気持ちを理解されず処罰されるかもしれません。イルミンスールでも同じ事を研究できないのでしょうか?そしてそれをイルミンスールのために使っていただきたいのです」
「分かってないようね。争いが絶えないからこそ、私たちが力を持って他の種族が騒動を起こさないようにしてあげるだけよ」
「でも、裏を返せばただの支配じゃないですか。かえって争いの元になるだけですよ」
「もう遅いわ。地球人たちが東の塔で不死の実験をしていた魔女たちを殺そうとしてきたのよ。どうやって仲良くなれっていうの!?」
「中には過激な方もいますが、皆が力を持って否定しようとするわけじゃないんです・・・」
「皆さんに甘いことを言って裏で操る方がいるのであらばそれは許されない方です。そして、責任は皆さんに降りかかるようにするはず・・・それであれば、可能であればイルミンスールの力に変えていただきたいんですわ」
 ティティナも魔法学校へ戻ってきて欲しいと説得しようとする。
「そんなものただの想定じゃない?簡単に裏切るようには見えなかったわ」
「(このままでは説得が失敗してしまいますわ。皆さんの心を落ち着かせなければ・・・)」
 可愛らしい声音で、透き通るような歌声で幸せの歌を歌う。
「―・・・歌?フッ・・・それくらいで止められると思ってるわけ?」
「(それなら別の歌をっ)」
 子守歌を歌い魔女たちを眠らせようとする。
 こっくりと数人だけ眠ったが、まだ起きている者がいる。
 マインドシールドでガードされて眠らないようだ。
「根本を断ち切らない限り、説得は難しいぞ。早くここから離れるんだ」
「―・・・私は、諦めませんからねっ。今は退きますが、皆さんを魔法学校へ連れ戻してみせます」
 唯斗に言われ病む終えなく真言はティティナの手を引き塔の外へ出て行く。



 時は少し戻り、パレードが始まる5分前。
 城のカフェで佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)はパンナコッタを作っている途中、ゼラチンを見て昔の六本木辺りで流行ったカクテル“テキーラボール”を思い出した。
「腕も、魔法も中途半端だし、僕には料理しかないからなぁ」
 それを思い出した彼はアルコールの瓶を取り出して、状況的に不利だと見て仕方なく使うことにした。
「何かお酒の匂いがするんだけど?」
「いやぁ、今日のパレードに間に合わせたいんだけど・・・」
 調理場を覗かれ仁科 響(にしな・ひびき)が弥十郎の変わりに答える。
「ふぅ。ばれてないみたいだね」
 魔女がそこから離れたのを見届け、ゼリー状のお菓子を氷術で冷やし固める手伝いをする。
「謎料理・・・どうしようかな。お腹壊したりしちゃったら・・・どうしよう・・・」
 さすがに身体に害のあるもを作りたくない弥十郎は、その知識をエッセンスに加えようか料理人として考え込んでしまう。
「うぅ・・・アルコールの度数がきついからそれだけで、大丈夫だと思いたいね」
 やはり作り手としての魂を曲げることは出来ず、謎料理は含めないことにした。
「君が作っているのは何と言うか、魔料理だね」
「えー?人聞き悪いね。ただの料理だよ」
「へぇ・・・じゃあそういうことにしておくね」
 確信犯の彼の態度に、響はクスッと笑ってしまう。
 30分後、白い苺のような形のパンナコッタ、デリシャスビューティを完成させる。
「じゃあ持っていくね」
 皿に盛りつけたお菓子を響が魔女たちのところへ運ぶ。
「パレード、おめでとう♪」
「パンナコッタ?こんなの注文してないけど」
「お祝いにサーヤが作ってくれたんだ。デリシャスビューティっていうお菓子だよ。お代はいらないから食べてみて」
「ただでくれるの?じゃあ食べてみようかしら♪」
 嬉しそうにスプーンを手に取り口へ運ぶ。
「いっぱいあるから、おかわり欲しい子は言ってね」
 食べてくれた様子を見て他の者にも勧めて食べてもらう。
「3階だけじゃちょっと不安だね。ダンスホールにいる人たちにもあげてきてよ」
「そうだね」
 弥十郎に2階も通れるようにしようと提案され、響はトレイにお菓子を乗せて2階へ行く。
 階段を下りようとするとクマラが魔女たちを引き連れてカフェへ来てくれた。
「いっぱい呼んできたよ♪」
「ありがとう。サーヤが厨房にいるからもらってきてあげて」
「サーヤ?あ、うん分かったよ」
 ネーミングですぐ誰のことか分かり、厨房にいる彼のところへ行き魔女たちにお菓子を渡す。
「ちょっと外の子たちにもおすそ分けしてくるね」
 そう言うと響は城の外にいる見張りの者たちに配りに行く。
 カフェにいる魔女たちがお菓子を食べた数分後、突然パタパタと倒れて眠ってしまった。
 実はそれには1個当たり60ccほどのアルコールが混ざっている。
 口当たりは滑らか味は爽やかで食べやすいため、知らずに食べてしまったのだ。
 中毒症状を起こさないよう眠る程度の数を勧めた。
 魔女たちが眠ったその後、ルカルカたちが簡単にカフェへ潜入することが出来た。



 その頃、エリシアは魔女に警備室へ案内され、孫天君の元へたどりついた。
「さっき言ってた侵入者の対策についてのこと話すんでしょ?」
「対策・・・?あぁ、そのことですの。そんなものありませんわ」
 クスッと笑ったエリシアは学園の仲間に根回しをしようと、携帯のメールで情報伝達する。
「私を騙したわけ!?」
「騙されついでにもうすぐそこまで来てますわよ。皆さん・・・」
「どれも悪そうな面しているんやね」
「うんうん。なんだかいかにも詐欺とかやってそうだよ」
 連絡をもらった陣とリーズが警備室へ入り込んできた。
「あんたらどうやって入ってきたのさ!?」
「俺がピッキングで開けてやった」
 鍵破りの小道具を手に淵が孫天君に見せつける。
「ありゃー、さすがにここにも魔女がいたわね」
 傷つけるわけにもいかず、どうしたものかとルカルカが頬を掻く。
「1人いないようだが?」
「あぁ、もうハツネたちと東の塔にいる侵入者を退治しにいったよ」
「(まぁいい。そっちは他の者がいっているからな。まとめて倒そうなどと欲張るとろくなことにならない)」
 秦天君はそこにいないが、確実に倒すにはその方がいいだろうと心の中で呟く。
「ふぅん。こそこそと、通ろうとするやつをとりあえず潰しておこうかな!」
 唯斗たちに気づいた孫天君がトランプカードを投げつける。
「そんなもので妾たちが止められると思っているのか」
 ディテクトエビルで彼の危険を察知したエクスは、凍てつく炎でカードを焼き払う。
「そこにもいるわ」
「簡単には通してくれないか」
 魔女たちの殺気を感じ、紫音は柱の陰へ隠れ雷の雨を避ける。
「さっきの話からすると唯斗、ドッペルゲンガーに会いに行くのだろう?妾たちに任せて行くのだ!」
「すまない・・・エクス」
 唯斗はパートナーたちを残して階段を上る。
「魔女たち、オメガを連れてここから出て!!」
 大切な協力者を奪われると思った孫天君が大声を上げて命令する。
「おぬしたちもそうなのだろうな。魔女たちが連れ去ってしまう前に行った方がいい」
「あぁ、ありがとう」
 魔女たちよりも先にアルファのところへ行こうと紫音も5階へ向かう。
「オメガちゃんのドッペルゲンガーが、この先にいるんですか?ボクも行くですっ」
 牢から出たヴァーナーは彼女の心を温めてあげようと彼らの後を追いかける。
「守る者がだいぶ減ったみたいね?」
 フロアにいる魔女の数が減り、ルカルカは孫天君を逃がさないように睨んだ。